オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
王国での大粛清の後、王都では迅速に民への娯楽の提供と周辺諸国に王国は生まれ変わり、問題ないと知らしめるために武闘大会が開かれた。腕に自信がある料理店などは屋台を出したり、商人はこれが良い機会だとバザーのように床に置いたシートに商品を並べて商売を。武器武具を扱う者は特に、参加者や観覧者へ売り込むために自分達の品をアピールしていた。
参加者はもちろん、帝国まで足を伸ばさなければ見られない戦士達の戦いが見られるということで裕福な人は観に来る。王都自体がかなり活気付いていく。
参加受付をしている護衛は『
ザナックとラナーが残った貴族達に周辺諸国との戦争になった際に動員する固有戦力、それの引き抜きのためだから協賛しろと言って費用を捻出させた。もちろん一番出費したのは王家であるし、これからの騎士団の育成費は税金で賄われる。
「優秀な者は冒険者になってばかりだ。だが戦争になったら冒険者は動員できん。となると王国は王国でいざという時のために固有の戦力を持っていなければ、きちんと育成された騎士や第六位階魔法に吹っ飛ばされるだけだ。魔法への不理解も問題だが、まずは対帝国を想定して戦力を整える。『八本指』のような組織の摘発にも使えるからな」
「ザナック陛下。『
「あいつらの力があれば当座は大丈夫だが、俺は百年後の国を見ている。
そんな会議の下、舞闘大会の開催が満場一致で賛成。騎士団を作った後には貴族の護衛などを任せて冒険者へ支払っていたお金を減らせるなどの騎士団の利用方法を聞けば、利用価値がある上に戦争に勝ちやすくなると言われれば出資もする。
参加者の募集を国内で行い、基本参加は年齢だけで区切って参加の許可を出した。冒険者になっていなくても才能がある人物が農村にたくさん埋まっているかもしれない。というわけで十三歳以上で募集をかけて、参加者を各領地で纏めたのだが、農村では識字率の問題で字が書けない人間が多かった。そのため戸籍との照合が一番時間がかかった部分だろう。
その受付で名前の確認をしているが、ぶっちゃけ本人かどうかまで確認はできなかった。容姿はある程度伝えられているので確認しているが、替え玉とかだったとしてもわからない。リアルのように顔写真付きの本人証明書があるわけではないので、ある程度の照合しかできなかった。
それでも強い人間なら犯罪歴がなければいいとして、尋問にも使う犯罪歴を確認するマジックアイテムを用いて犯罪者は隔離していた。優勝商品に高価なマジックアイテムがあるため、それ目当ての犯罪者が何人か紛れ込んでいた。
『
そこで、他の問題が起こったようでモモンにアンデッドから念話が届く。その場所に向かうと、何やら子供が受付で騒いでいた。十五歳になったモモンより五つは小さい、本当に子供にしか見えないような金髪の少年。平民の子のようで、栄養状態も良くなく、骨と皮で繋がっているような肉体だった。
「何があった?」
『モモン様。この少年が大会に参加させろと強請ってきまして……。推定十歳の孤児院の子でして、もちろん参加名簿にはいません』
「はぁ?」
勘違い少年かと思って、一応魔法を使ってHPを見てみるが、それを見てもレベル1のただの少年にしか見えなかった。MPもほぼなく、魔法の才能も感じない。そもそも魔法で戦うような大会でもなく、タレントがあるのかもしれないがレベル差を覆せるタレントだとしても、資格がないのであれば参加させられない。
アンデッド達では特殊な判断もできないだろうから、そのままモモンが対応をする。
「あー、少年?どうして大会に出場したいんだ?上位に入っても商品や金銭が貰えるわけでもなく、名誉だってそこまで与えられない。そもそも参加資格がないだろう?正直、大会運営の邪魔だ」
「俺は、騎士になりたいんだ!この大会で認められれば騎士になれるんだろう⁉︎騎士になれば孤児院にお金を貯められる!『八本指』に誰かを殺されることもなくなる!俺が、この国を守るんだ!」
「あー、『八本指』の被害者か……。孤児院への寄付額もかなり増やしたはずだが、それでも足りないってどんな経営状況なんだ?少年、君の名前と孤児院の名前を教えてくれ」
「……クライム。ローンド通りのキグナス孤児院」
それを聞いて『
実情は後で調べるとして、目の前のクライムという少年には事実を伝えなければならない。
「クライム。君がこの大会に参加することは出来ない。参加者名簿に名前がないことも当然だが、君はまだ十歳くらいだろう?この大会に参加できる年齢じゃない」
「それでも!俺は騎士になりたいんだ!騎士になるにはこの大会に出るしかないんだろう⁉︎」
「はぁ……。識字率の問題か、それとも孤児院だからか、情報が正しく伝わっていないな。騎士団の選抜は別に設けている。そもそもこの大会で勝ち上がったとしても士官することは強制ではない。騎士になってもいい、くらいの緩いものだし、参加したからと騎士になれるものでもない。騎士団募集の時にはキグナス孤児院にお知らせを持っていくことを約束するから、文字と数字くらいは読めるように勉強しておくこと。文字が読めずに騎士になれると思わないように」
やるべきタスクとして今言ったことをメモ帳に書いて、あとは目の前の少年がまだ納得しないようなのでどう言い繕うかと考える。
騎士になるには最短経路がこの大会だからか、モモンを説得して大会に参加しようとしている。頑固とは長所でもあり短所だなと思いながら、貴族として教育された話術で説得する。
「不正出場した者は騎士になることなどできないからな?ちゃんと正規に手段で騎士になりなさい。それにはっきり言って、今の君では一回戦も勝ち上がれない。まともに剣も握ったことのない子供に負ける大人がこの大会に参加しているはずもないからな。村でも一番の力自慢とかが参加しているんだ。まず勝てない」
「そんなのやってみなくちゃ……!」
「『
「うっ……⁉︎」
クライムは受付をしている『
それに警備を行っているアンデッドはそこらの大人よりも背が高かったり、がっしりしている。中位アンデッドなのだからレベルも30ほど。そのアンデッドから睨まれれば、クライムも恐怖を覚えたのか後退りしていた。
アンデッド達は主人たるモモンに無礼な態度を取っている子供というだけで殺気を向けようとしているが、それを止めて威圧感だけ与えるようにしている。
「騎士になりたいという意思は尊重しよう。だがルールは守りなさい。ごねて変わる結果なんて碌なことがない。騎士についてはちゃんと募集するため、その知らせを待つように。──それと、目上への言葉遣いも直しなさい。騎士になれば王宮に出入りする。貴族も王族もいる中でそんな粗暴な言葉遣いをしていれば、雇った騎士団の名前を穢すことになる。……良い機会だ。強い人間のことを知りなさい。観戦チケットを用意する。今日の大会を見て足りないものを感じ取りなさい」
観戦チケット自体は銀貨一枚とそこまで高くない。席はそこそこ遠い場所だが、空気だけでも味わえるだろう。そう考えて自分の財布から銀貨を支払ってクライムへチケットを渡した。庶民が入ることのできる、通常の観戦券だ。
「い、いいのですか……?」
「これ以上我儘を言われて職務の邪魔をされたら困る。無償の施しではなく、騎士になったらちゃんと返してもらうからな?こんな銀貨一枚程度返せない人間が騎士になりたいなどと言うなよ?」
「は、はい!」
顔を輝かせながらチケットを見るクライム。だがやはり文字が読めなかったようで、席案内のアンデッドにクライムを預ける。これで受付業務が再開できた。
『よろしかったので?モモン様』
「良いんだよ。銀貨一枚くらいトラブル解決のためなら安いもんだ。いやでもこれ、ごねれば観戦できるっていう特例作ったか?これ以上はなしで、騎士を目指したいならちゃんと後から募集があるって伝えてくれ。金がないとかで暴れたら普通に捕まえてくれれば良いから」
『かしこまりました』
その後モモンはキグナス孤児院の院長をしている者が寄付金を横領していたと連絡があり、特急で王都の孤児院の状況を調べさせる。中には『八本指』へ子供を売り飛ばしていた人間もいたのだが、証書などがなかったので摘発から逃れていたらしい。
モモンは即座にエリアスやザナックに報告。巡回使などの治安維持組織が出動して一斉取り締まりとなった。
そんな指示を出しつつ武闘大会の一回戦に出場したモモンは刃引きされた剣を用いてチャチャっと一発KO。村自慢の剣士とはいえ、冒険者にもなってない人間ならそんなものだ。とはいえ、敗者にもちゃんと騎士団への勧誘はされていく。
観戦席にいたクライムはその試合を見て初めてモモンが貴族だったと知り、更には一瞬で試合を終わらせた強者だと知って恐れ慄いていた。先程の言動がどれだけまずかったか自覚したらしい。
モモンからすれば銀貨が帰ってくることもないとタカを括っているので、トラブル処理のための出費としか思っていないので、クライムが処罰されるのではないかと怯えていることなんて気が付くこともなかった。
諸々の処理をしていたため、王族の観覧席に向かうのが遅くなった。人員をかなり動かすような事態になってしまったため、ザナックに直接説明が必要だと馳せ参じた。そこにはザナックとラナーが豪華な椅子で座りながら試合を見ていて、傍にはエリアスと護衛のアンデッドがいるだけで他には誰もいなかった。秘密の話をするにはちょうどいいメンバーだ。
「陛下、ただいま戻りました」
「一回戦、見事な早技だったな。試合数も多いから助かる。で、だ。孤児院への寄付を横領だと?あの大粛清の後にそんな肝っ玉の座ったバカがいたとはな」
「庶民であり、証拠もないからと発覚することはないと思ったのでしょう。多大な現金が蓄えられている時点で運営に使っていないという証拠なのですが」
「それがわからんバカだと。『八本指』は庶民だろうと刑に処したと言うのにな。バカが多すぎると国が回らんとは本当のことだとは」
「ですが、犯罪者はきちんと裁かれるようになりました。大きな前進ですよ、ザナック陛下」
「そうは言うがなぁ、レエブン侯。法治国家としてそれ以前の王国が終わっていたと言うのと同義だぞ、それは」
「まさしくその通りかと。そのための改革でしょう?」
「そんなもの、改革ですらなく是正活動だろう。だと言うのに俺の名前は歴史に虐殺陛下として後世に伝わるんだろう?ああ、嫌だ嫌だ」
「むしろ治安を改善した賢王と称されるのでは……?」
王国と帝国で同時期に大粛清があったために、後の歴史家は調べていて不思議に思うだろう。隣する二カ国で王子による粛清が行われて、どちらの国も治安なり経済が安定化するなんて、その前はどれだけ酷い国だったのかと。
やるしかなかったために粛清を起こしたということで、むしろ美談として扱われる可能性の方が高い。色々脚色されて、泣く泣く大多数の貴族と兄姉を処刑したとでも伝わりそうな勢いだ。
実際王国民としても子供を連れ去られたり、飢えて死んだりすることが減るのだからザナックを批判する声は上がらないだろう。犯罪組織を一網打尽にした、強い王として認識されている。若いのに凄いことだと、身内であっても悪い人間はちゃんと刑に処せる優れた王だというのが市井でのザナックの評判だ。
急ぎ孤児院の件について動いたところで、第二の粛清が行われたことで不正を絶対に許さない若くして公正広大な王として更に評判が良くなるのは後日の話。
貴族の子女の間でも、もう少し痩せられたらと残念がる声も増えていく。顔付き自体は良い血筋なだけあってイケメンなのだ。贅肉が少々多いだけで。
賢王という単語が出たところに、ザナックが反応する。
「賢王といえば森の賢王はどうなった?新しい開拓村の護衛をしてくれるんだろう?」
「はい、三日に一度ほど。村で食料を渡すことで護衛の依頼を受けてもらっています。村でもその契約を守らせています。今のところはお互い齟齬も出ていないと」
「それはいい。あの魔獣と契約を交わしているだけで森の南部を押さえているに等しい。若干の食料だけでそれができるなら費用対効果は良すぎる」
開拓事業も上振れていて、どうにか資金難にはなっていない状況。このまま国庫を回復させるために様々なことにメスを入れていく。
モモンはギリギリまで問題に対処していたために有望な戦士などの情報がなかった。冒険者が参加していれば何となく実力の予想ができたが、さっきの一回戦で戦ったただの農民だとわからないのだ。全員のHPを確認するのもMPの無駄であることと、特殊なタレント持ちな可能性もあるのでHPだけで測れないのがこの世界だ。
そもそも強者はステータスを見られることを想定した上で虚偽の情報を見せてくるかもしれない。モモンのように。
ここにいる面々は戦闘に詳しくないが、圧倒的だった試合を教えてもらった。
『蒼の薔薇』の女戦士ガガーランに、素早い剣術を使うブレイン。それにパワータイプのガゼフ。その三人が注目だという。戦闘については素人の三人でも注目するほどなので、参加者の中でも隔絶した実力なのだろうと予測していた。
その予想は正しく、次の日の準決勝までに残ったのはその三人とモモンだった。モモンは『
新しく設立する騎士団の団長も既に決めている。ガゼフだ。準決勝に残った時点でエリアスが軽く面談をしており、モモンは役職的に不可能。ガガーランは冒険者を続けるために拒否。ブレインも団長という器ではなく、なるなら一団員で良いと拒絶。
一方ガゼフは自分で良いのならと、実直な返事を貰った。素性も問題なさそうだったためにほぼ確定だ。最終面談としてモモンが直接戦って実力を確認する。
モモンの感覚的にガゼフのレベルは25ほど。傭兵として冒険者の真似事をしていたようだが、それにしてもレベル換算でもかなりの上積み。貴族の護衛などもしていたので礼儀作法も案外しっかりしていた。教育の手間も減りそうなのが良いポイントだ。
モモンもユグドラシルの力を極力使わずに自身がこの世界に来てから身に付けた剣技だけで挑んだものの、最後は加算されているステータスのゴリ押しでどうにかなってしまいそうだったため、純粋に技で挑んだが剣が弾き飛ばされた時点で決着を告げられる。
勝てると思っていなかったのか、ガゼフは一度目を白黒にした後に、困惑しながら問いかけた。
「モモン様、まさか対面を気にされて……」
「それこそまさかですよ、ガゼフ殿。貴族の私が負けた方が、昔の王国では問題でしたが、今はそんなことはありません。純粋に剣士として負けただけです。魔法ありでは勝たせていただきますが、武闘大会ですので」
「貴殿は魔法剣士でしたな。まだまだ頂きは遠そうだ」
「私には魔法の才能があっただけですよ。剣士として実直に修練を積めば、いつかは天を割ることもできるようになるでしょう」
「ふっ、ハハ!そんな神話の出来事のようなことを剣で?むしろそういうことは魔法の分野かと思いましたが。モモン殿は冗談が上手でいらっしゃる」
ワールド・チャンピオンという職業を知っているためにモモンとしては極めた戦士の本気をただ伝えただけなのだが、ガゼフには冗談だと捉われてしまった。
握手をした際には会場から万雷の拍手を貰い、ガゼフは決勝へ。もう一つの準決勝のブレインとガガーランも良い試合を見せて、ブレインが勝利。
ガゼフとブレインの決勝は、ここまで隠していたブレインの抜刀術が火を噴いて序盤を制するものの、ガゼフの剛剣が技術に勝り、フィジカルの強さで勝利していた。
こうして武闘大会が終わり、ガゼフやブレインを始め、初代王国騎士団が結成。元アダマンタイト級冒険者のヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファンを指南役として迎え入れて教育を施しつつ護衛を承ったり、モンスター退治をして実力を磨いていく。
ガゼフを団長に、ブレインを副団長に置いて王国の双璧と呼ばれるまで成長し、実際二人はライバルとしてお互いを意識した結果、周辺諸国では相手になる剣士はいないとされた(法国を除く)。
この王国の改革を見て、脆弱な国ではないと認識を改めたジルクニフは勝てるかもわからないと考えて王国に戦争を仕掛けなかった。フールーダを投入すれば負けることはないとわかっているが、帝国側の被害も大きくなるとわかっていた。それにモモンのことも抑止力になっていた。
王国から意図的に、モモンは第五位階魔法が使えるとリークが来たのだ。国民が知らないのに、帝国の上層部だけ知っている情報。フェイクかとも思われたが、『
帝国の諜報網を駆使しても『
帝国が戦争から手を引く判断をしたおかげで、王国の経済や食料自給率も復活し始めた。二年が経つ頃には騎士団も順調に増え始めて、クライムも見習いとして合格して日々鍛錬と勉強を進めている頃。
ラナーが久しぶりにモモンを深夜の自室に呼び出していた。
「ラナー、何か相談事?陛下やエリアス様には話せないことだったりする?」
「はい。あなたのことです。モモン」
「自分のこと?」
「──まるで生きる目標がなくなったかのように、受動的に生きる、あなたについてです」
そう言われてモモンは初めて。
惰性で生きていることを、自覚した。
次回は別の形で投稿します。