オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
王国は粛清からの立ち直りの一環として、竜王国でのビーストマン掃討作戦を大々的に支援した。騎士団の遠征も増え、『
モモンも竜王国に入り、最終的な殲滅作戦に参加した。ビーストマンを残しておくといつまでも人間を襲ってくる。そのため、もう人間を襲う気が起こらないほど徹底的に竜王国から遠ざかるように殲滅作戦に乗り出した。人類国家の存続のためという理由もあり、法国も作戦に参戦。エルフの国との戦争も続いているため、送られてきたのは六色聖典である陽光聖典と漆黒聖典の一人、クレマンティーヌだった。
作戦前の顔合わせで、クレマンティーヌは王国の三剣豪とまで呼ばれるガゼフ、ブレイン、モモンを見て陽光聖典の隊長であるニグンに内緒話をする。
「ニグン。あの三人はやばい。至宝がなければ、互角くらいかも。今の、王国の至宝を装備したガゼフとは勝率は五分を切りそう」
「そんなにか?やはりあれだけ広大な土地なら英雄級も出てくるか……」
「これでも神人なんですけど?自信無くすわー」
「他の二人はどうだ?」
「ブレインの方は余裕。あいつは凄い武具を持ってるわけでもないからね。モモンの方も無理。何あの漆黒の大剣と鎧。腕も武具も一級品だよ。『
それがクレマンティーヌの感想だった。確実に人類圏では最強格の戦士であり、漆黒聖典として与えられた武具やアイテムは一級品だ。血統も六大神の血を引くという、法国でも真なる血統として持て囃される人間だ。レベル換算をしても40はあり、人類国家最強の特殊部隊の一角というのは誇張でもなんでもない。
そんなクレマンティーヌが勝てないと話す存在が王国に二人もいるのだ。
数年前まで治安が崩壊していたはずの国家に、これだけの才能が埋まっていたというのは、人類国家を見守っていた法国としては感慨深くもある。
「もし後戻りができなければ強引に帝国を焚き付けるという考えが神官長達にはあったようだが、そうしなくて良かったな。あの逸材達がくだらないことで死んでいたかもしれない」
「風花の報告だと、その王国を建て直したのってあのモモンが率いる『
「モモンを抱えていたレエブン侯が担ぎ上げたのだから、真の功労者はかの貴族かもしれん。竜王国も救われるのなら、大きな問題が二つも解消されることになる」
「三つだったでしょ。ちょっと前は帝国もやばかったんだし。後の大きな問題はエルフの国だけかなー?」
「あの愚王をどうにかしない限り、戦争は終わらないだろう。力だけならあの王は強すぎる」
「八欲王の血筋で受け継いだ才能とエルフという寿命の長さ。マジで迷惑だよね。上もどう考えてるんだか」
「そう簡単に終われば、百年以上戦争なんてしていないだろう」
「ごもっとも」
自国の状況を嘆きつつも、まずは竜王国の惨状を解決するための長期任務に当たる。ただの雑兵であれば王国の騎士団に竜王国の兵士と雇われた冒険者達でもどうにでもなるのだが、名ありの戦士ともなるとガゼフやクレマンティーヌが出張ることとなった。
亜人なだけあり、肉体能力が人間よりもよっぽど高く、その上で彼らも生き残るために必死に抵抗をしてくる。蓄えていたアイテムをふんだんに使い込み、生きるための活路を見出そうとしてきた。人間側は今までやられてきたことをやり返しているだけなのに、仕掛けてきたのはビーストマンなのに、追い詰められたらまるで自分達が被害者だとでも言うように喚き出すビーストマン達へ竜王国出身の者達はブチギレて確実に頭を切り離していく。
斬首戦術で確実に数を減らしていき、集団戦に強い陽光聖典も各々の魔法と召喚した天使によって少しずつ確実に数を減らしていく。
殲滅作戦が始まって三ヶ月。ビーストマンの集落まで攻め込み、兵士達を相当数倒したところで、彼らの王を名乗る者が戦線を崩していった。有名な冒険者やアダマンタイト級でも敵わず、いたずらに数を減らすだけだからとガゼフとブレイン、それにクレマンティーヌとニグンだけで戦った。モモンは別の戦線を維持しており、彼も彼で多数の屈強な兵士に囲まれて戦っている。
戦士職の三人が息を合わせて三方向から切り込む。ブレインが技で攻め、クレマンティーヌが速度で攻め、ガゼフが力で攻める。そこにニグンが召喚した第五位階の天使と様々な魔法で支援をする。まさしく人類圏の英雄達が集う理想的なパーティーだったのに、それでも攻め落とせないビーストマン・リブロ。ライオン型の彼は身の丈ほどある細い長剣とモンスターの皮膚をなめした防具、さらに首から下げているネックレス型のマジックアイテムによって本来の力を増幅させ、レベル換算で言えば55レベルくらいの実力があった。
1対4でギリギリ拮抗するレベル差だ。法国もビーストマンへの本格的な対処なんて何年先になるかわからなかったために詳しく調査をしない内に、いつの間にか漆黒聖典をも凌駕する化け物が君臨していた。彼が本気を出せば竜王国なんて簡単に潰されていたことだろう。
そして攻め込んでしまったがために、ここで始末しなければ人間はその程度と考えて一大勢力となって返り咲く可能性があった。なんとしてもここで倒さなければ、新たな人類圏の脅威になりかねなかった。
クレマンティーヌが突きを放ち、即座に横にズレてブレインが間髪入れず斬りかかって、最後にガゼフの大技を当てつつ後ろに回ったクレマンティーヌが鎧の隙間にスティレットを通して注意を引くという三位一体の突撃を仕掛ける。それを悟ったニグンが召喚した天使を犠牲にして四位一体となり仕掛けた。
天使がリブロの動きを止めて、クレマンティーヌの初撃の礎になる。霧散した天使の影からクレマンティーヌのスティレットが飛び出し、リブロの右腕と左目に突き刺した直後、スティレットを捻って込められた魔法である炎と雷を発動させた。それによって顔の左半分が燃え上がり、右腕も雷によって痺れた。
リブロが痛みに悶絶しながら振るった長剣は既に離脱していたクレマンティーヌには当たらず、続けて身を低くして疾走していたブレインの居合切りによって上半身の鎧の接合部が崩れ落ち、鎧が地面へ落ちる。ブレインは役目を果たしたところで横に転がるように避けて、トドメのガゼフが踏み込む。
「舐めるなぁアアアアア人間どもおおおおっ!」
後ろから接近してカトラスに持ち替えたクレマンティーヌの動きを察してその突撃を避け、ガゼフの武技である<六光連斬>を正面から全て長剣で軌道に合わせて弾き飛ばした。
そして彼の持っていたマジックアイテムが起動し甲高い音を鳴らしながら砕け散り、ガゼフの武技の攻撃がクレマンティーヌに移されて、彼女は縦に六の斬撃が彼女の体を裂いた。致死級の攻撃を一度だけ別の対象に移すというマジックアイテムの効果により、一番近かったクレマンティーヌへと攻撃そのものが移された。
飛び散る鮮血。吹き飛ぶクレマンティーヌ。だが彼女を気に留める余裕もなく、残りの三人は負傷したリブロにトドメを刺すために行動する。
クレマンティーヌはどうにかポーチからポーションを取り出し、傷を治す。だがダメージが大きく、補給した段階では結構月日が経っていたこともあってそこまでの効力がなく、痛みが少し引いたくらいだった。
(こ、こんなところで死ぬのか?崩れかけだった王国の戦士に実力で抜かれて、クソ兄貴のように任務を成功させられなくて、また惨めに罵られるのか……?冗談じゃねえ、あたしはクレマンティーヌ様だ!ビーストマンの英雄だか知らねえが、そんな奴に漆黒聖典に任命されたあたしが負けたと知られれば、蘇生さえしてもらえない……!あたしは、まだ生きていたい‼︎)
喀血しながら宿した強い意志に呼応したのか、彼女の生命力が一気に強化された。痛みも引いて、カトラスとスティレットの二刀流で構えて、苦戦しているガゼフとブレインへ助力する形で突撃した。
その現象がなんなのか、彼女も理解しないまま剣を振るう。重傷のはずなのにその動きは今までで一番鋭く、リブロも避けられないまま肩を切り裂かれた。
「クレマンティーヌ殿⁉︎その傷では無茶だ!」
「馬鹿野郎、死んじまうぞ⁉︎」
「死ねるかぁアアアアア!あたしは、まだ何もやり遂げてないんだよぉおお!」
「まさか、覚醒したのか?彼女は覚醒していたのではないのか⁉︎」
ニグンは思い付く事案があったが、それをこんなにも人が多い場所で口に出すこともできなかった。ニグンの言葉通り、急に強くなったクレマンティーヌがリブロをを圧倒する。速度も力強さもそれまでの比ではなく、全てが必殺の一撃になったことでリブロはクレマンティーヌに集中するしかなく、負傷した彼には他の三人からの妨害まで捌くのは無理なことだった。
最後はガゼフが足を切り、避けられなくなったところでクレマンティーヌのカトラスで首を斬られた。
リブロが最後の抵抗戦力だったようで、彼女が大将首を獲った時には大喝采が沸いた。
倒れ込んだクレマンティーヌへ、共闘していた三人がすぐに駆け寄る。ニグンは持っていたポーションを全部使って飲ませたり、傷口にかける。ガゼフとブレインの物は戦闘中に割れてしまい、使える物がなかった。
「誰か、ポーションを余らせていないか⁉︎彼女のような英傑を死なせるわけにはいかん!」
「ガゼフ団長、こちらバレアレ商店の高品質ポーションです。最後の一つですが」
「かたじけない、モモン殿!他に回復魔法を使える者はいないか⁉︎」
一大決戦だったこともあり、神官の数もポーションの数も足りていなかった。モモンが転移を使ってエ・ランテルのバレアレ商店からポーションを買い占めてことなきを得たが、それでも死者はいた。クレマンティーヌは峠を越えて生還。欠損などもなかったためにそのまま安静にすることで一命を取り留めた。
ビーストマンの文字通りの殲滅に、過去の撃退戦と同じように竜王国を挙げてのパレードが開催される。数々の英雄が紹介され、国民からは称賛を浴びる。
法国は契約に基づく行為だったためにパレードへの参加を拒否。モモンも負傷者が多くてポーションなどの手配に転移の魔法が必須だったためにパレードには参加しないまま負傷者への対応でずっと動いていた。
法国の面々は馬車を使って祖国へ帰る途中、今回の殲滅戦で得た情報をクレマンティーヌとニグンは確認していた。
「ガゼフとブレイン、彼ら二人の実力はもちろんだが、王国の騎士団もかなり練度が高い。ビーストマン対峙で腕を磨いたとのことだが、無視できない戦力になっているな」
「ねー。火滅聖典でも苦労するんじゃない?ガゼフなら漆黒聖典入り間違いないだろうし。魔法の戦力がないだけで、騎士団という単位ならかなり優秀。これなら帝国も王国に戦争をふっかけないんじゃない?」
「ジルクニフはバカではない。あの騎士団の情報を知ったら攻め込む勇気などないだろう。『
「魔法後進国でどうやったらそこまで習得できるんだか。もしかしたらアイツも神人だったり?フールーダ並の魔法に戦士としても優秀なんて、人類としてはイカれてるでしょ」
「可能性はある。風花でも探れていないようだ。レエブン侯に引き取られる前に両親を殺され、血筋を追うのは不可能だったらしい。王国はその辺りの管理がなっていないからな」
「わからずじまいか。法国としては王国を正常化してくれたし、そんな実力者ならありがたいでしょ」
王国の実力を直に見れたのは大きな収穫だった。どこかと戦争をしているわけでもなかったので実力を確かめる手段がなく、冒険者ほど実戦をしているわけでもなかったので、探りを入れるのも難しかった。結果として王国の主戦力を把握できたのは周辺国家の安泰のためには良い結果だった。
そして、クレマンティーヌの覚醒も。
「まさか覚醒がまだだったとはな。てっきり覚醒した後かと思ったが。神の血の覚醒の理由は掴めずじまい。生死を彷徨うことなんて過去にもあっただろう?」
「そりゃもちろん。強敵を倒した時には強くなった実感はあったけど、今回は戦闘中だったし。なんなんだろうね?」
「それも神の与えたもうた福音なのだろう。きっとな」
宗教国家ゆえにそんな結論になってしまう。わからないことはきっと神が助けてくれたのだろうと考えてしまう。
これからクレマンティーヌは漆黒聖典でも屈指の戦士として重宝されていく。集団戦の兄、1対1の妹として区別化され、エルフの戦争にも駆り出された。
王国と帝国、そして竜王国が安定化したこと。このことから全てのリソースを対エルフ国へと投入。世界盟約によって駆り出すことのできない番外席次を秘密裏に運用してエルフの国を占領。王を殺したことでエルフの国が降伏し長年続いた戦争に終止符が打たれた。
エルフの国は法国の属国化し、重なりに重なった戦費と賠償金は宝物庫にあった宝などを渡しても全く足りず、長年の無償労働が決まった瞬間だった。その代わり帝国に売り出される奴隷はいなくなり、エルフも人間種であることから国の再興のために自助を促された。
あと法国の残る大きな問題は、聖王国の亜人との戦争だけとなった。
明日もR18の方を更新予定です。