オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
王国と帝国は首脳会談の結果、不可侵の同盟を結んだ。隣接しているからこそ敵視している仲だったが、双方戦争になれば無駄に国力を落とすだけだと理解しており、勝算が確実にあるとはどちらも言えなかった。帝国はフールーダを含む魔法詠唱者の部隊を使えば、王国では魔法は手品と思われているために奇襲できると考えていたが、その認識が改められる教育が今の王国ではなされている。
それに謎の戦力である『
そして王国側もモモンを含む『
双方の利害が合致し、戦争は避けられる。そして友好の証としてザナックは帝国の貴族の娘を妻に迎え入れる。
アルシェ・イーブ・リィル・フルト。帝国の没落貴族の娘で、ジルクニフからすればどうでもいい貴族だった。魔法の才能があろうが、特異なタレントがあろうが、王国に攻め滅ぼされないためには必要な犠牲だった。王国の王配になった家とはいえ、フルト家を優遇することもなく、無能な両親とまだ幼い双子の妹を生き残らせるためにアルシェを脅し、王国へのスパイに仕立て上げた。
ザナックもその事情は把握していたが、彼は受け入れる。少し貧相な体ではあったものの、境遇には同情し、国の行末を考えた結果、悪い選択ではなかったからだ。ラナーはモモンを繋ぎ止めるために必要なので他国に出すことはない。そうしたら切れるカードはザナック本人が一番わかりやすい。
アルシェに与えられたのは、王族の目線から見える王国の姿。そしてそのタレントを持ってモモンや『
だが、これからは同じタレントを持つ女性が王妃として君臨する。モモンとの顔合わせをする機会も多いために、恒常的な対策が必要になった。
そのため、その魔法を永続的に発揮する指輪をつけることで日常生活でも発覚しないようにしていた。この指輪はモモンの母親であるラナの実家からの贈り物だ。エリアスを通して実家に顔を出して、両親のことを伝えた際に授かったもので、それを踏まえて南方とも国交が復活。
これに喜んだのはブレインだ。彼の戦い方的に刀が合うんじゃないかとモモンが進言したところ、まさに理想の武器だったようでこれまで以上に活躍することとなった。モモンとラナ、デイビットのことがあって南方との国交が断絶していたが、モモンの生存から徐々に交流が増えていった。
法国は人類国家として安定しているのならノータッチ気味になっていき、評議国とは国境が近いだけのほぼ干渉しない隣国扱いなために周辺諸国の問題は解決されたと見ていい。竜王国への支援も増えていき、かの国も息を吹き返し始めた。
残る問題は、亜人達との争いに巨大な防衛砦を築いている聖王国くらいとなった。彼らの国でも政変があり、カルカ聖王女が王位に就いたものの、南部との軋轢や亜人との戦いに疲弊していた。
そこで彼女はなりふり構わず、他国へ救援を求めた。これにはプライドの高く、危機意識がない南部の貴族が猛反発したが、国民の幸せこそを願っていた彼女は他国に助けを求めることを恥とは思わず、全ての周辺国へ救援を通達。
法国が真っ先に是と返事をして、時を同じくして竜王国がまだ復興の途中なので戦力は割けないが冒険者に依頼は出してみると返事。王国は騎士団と冒険者の派遣を決めて、帝国もここで日和見をしたら軟弱と思われるために騎士団と冒険者、それにワーカーの派遣を決めた。
結果として、人類圏の大連合が完成する。それがカリンシャの人類防衛圏と名高い防壁に集合していた。
アダマンタイト級冒険者チームが複数。各国の固有戦力が揃い踏み。そして法国からは特殊聖典が複数に、漆黒聖典からもエース級の隊員が派遣されてきた。
その中には顔見知りも多い。
「やっほー、ガゼフ、ブレイン!やっぱりアンタ達も来てたんだ」
「クレマンティーヌ殿。ビーストマン対峙以来か?」
「よっ、クレマンティーヌ。トブの大森林で大活躍だったらしいじゃねえか?」
「それ、どちらかっていうと微妙でさー。漆黒聖典が全員出動の大問題よ。あたしがやってたのは露払いが精々」
「あの森に馬鹿でかいオブジェを作っておいてか?」
「あれ生きてるわよ。しかも竜王の一体」
「はあ?あれが?マジ?」
少し前、トブの大森林で城をも超える大きな木の魔物が現れたものの、法国がその事態を予見していたのか即座に無力化。彼らの至宝を用いて今ではトブの大森林を守護する存在になっているとか。
すわ世界の終わりかと思われたが、法国が無力化したことを発表したために今では遠くの村から確認する目印のようなオブジェに変わっていた。
それがバカ強い魔物なら今回の作戦に投入すれば良かったのに、という話も出たが、移動だけで生態系を壊しまくるので下手に移動をさせられないという。もしもう少し早く捕まえることができれば、エルフの国との戦争に用いられたかもしれなかったが、過ぎた話だ。
今回は亜人の殲滅。とはいえ、無力だったり無害な亜人もいるため、あくまで好戦的な種族のみの討伐に破滅の竜王を用いることはできなかったというのが連れてこなかった理由だ。それと同盟国の人間を誤って殺してしまったら国際問題になるので、大雑把にしか指示を出せないかの竜王を大々的な各国連合の作戦には使用できなかった。中々運用が難しい戦力だった。
クレマンティーヌは改めて周辺の戦力を見る。竜王国の『クリスタルティア』、帝国の『漣八連』や有名なワーカーが何チームも。騎士団もかなりの人数が揃っている。王国の『蒼の薔薇』にかの有名な国墜としがいるのは知っていたが、冒険者として活動しているのであれば法国も手を出せない。冒険者チームも高位のチームばかりで、更にガゼフ達騎士団もほとんど半分くらいいた。
聖王国は聖騎士に、有名なカストディオ姉妹。九色も戦闘ができる者は全員揃っていた。
これに法国からも聖典がかなりの数揃っているのだ。負けるはずのない大連合だった。
各国の最上位の戦力が揃い踏み。だというのに、クレマンティーヌが気にする人物がいなかった。
「あれ?モモンは?『
「モモン殿は来ているが、『
(ま、『
クレマンティーヌは王国の手腕について評価していた。戦力としてはトップ層を送り込んでいるために、『
数年前とは見間違えるほど真っ当になったというのが法国の評価だ。
そしてそのきっかけはザナック陛下の大革命。そこに関わったラナー、レエブン侯、モモンもキーマンだ。この中でアンデッド作成をしているのは実力的にモモンだというのが法国の調べた結果だ。ザナック・ラナー・レエブン侯は戦場に出るタイプではなく、モモンが凄腕の剣士でありつつ、第五位階魔法が使えることから、彼のアンデッド作成は魔法かタレントによるものだろうと当たりをつけていた。
八割くらい事実なので、法国の調査は間違っていない。彼という戦力を人類のために欲しがった法国だが、彼が現在の王国の戦力の要だということも承知しているため、引き抜くことを諦めた。今回のような事案には積極的に参加してくれるため、それでよしとしている。
様々な交流が終わった後、お立ち台に聖王女、カルカが前線に立つ装いで立つ。両脇にはカストディオ姉妹を置き、完全な臨戦態勢だった。彼女達が並んだ瞬間、集まった人間はしん、と静かになる。彼女のカリスマがなすものか、それとも彼らが弁えているからか。
マジックアイテムで増幅された王の声が、伝播する。
「お集まりの皆様。我が国の精鋭も、他国の義勇兵として集ってくださった皆様も。まずは謝礼を。──我が国の国難に立ち上がってくださり、誠にありがとうございます。我が聖王国も最初は徴兵令を出し、国民の力だけで頑張りました。ですが時が立てど、民が傷付き、悲しみが増えても、この戦いは
──ですが。その悲しみの連鎖もここまでです。ここには民のために立ち上がる騎士がいる。兵がいる。神官がいる。そして、他国の危機に馳せ参じる勇者がいる。ここに集いしは吟遊詩人に歌われし万夫不当の英雄達。皆様なら長きに渡る亜人の襲撃を終わらせることができると、信じています。
私にできることはこんな声掛けと、魔法をかけることくらいです。
《
彼女の王冠が輝き、この場に集まった戦士達全員にバフとリジェネ効果が乗った魔法が浸透する。
効果範囲に乗るバフとリジェネの強力さ。王冠という専用のアイテムが必要なものの、とてつもなく強力な儀式魔法。彼女だけの力で使用されたわけではないが、その力の核にいるのはもちろん彼女だ。
漆黒聖典を含む、この場にいる戦士全員に畏敬の念をもたらせた。それだけの規模、効力だったのだ。彼らの戦意が一気に上がる。
一人の男を除いて。
「今日を、全ての決別の日とするために!進め、英雄達よ!長き戦いに終止符を打ちましょう!」
「「「「「おおおおおおおおおっっっ!」」」」」
カルカの宣誓に、戦士達は戦場へ降り立った。アベリオン丘陵へ部隊ごとに飛び込み、国境沿いにいた亜人達と戦闘に入り込んだ。
全ての戦士が同時に攻めるわけではない。モモンは『
特に警戒しないまま戦場を見守っていると、モモンのように待機組だったのかクレマンティーヌに声を掛けられた。
「やっほー、モモン。あ、モモン様って呼んだ方が良かったですね。申し訳ありません」
「この場にいる私は貴族ではなく、一戦士として立っています。ここでは取り繕わなくていいですよ、クレマンティーヌさん。人類を守るための最後の砦、漆黒聖典が一人。その中でもエースと呼ばれるクレマンティーヌさんに敬語で話されるとむず痒いです」
「そう?じゃあ気兼ねなく。モモンはさ、この戦いどう思う?聖王国は勝てるかな?」
「この戦力を集めた時点で勝ちでしょう。どの程度とは正確に言えずとも、聖王国近辺の亜人の集落は壊滅、もしくは撤退させられる。民の被害も少なく、善意で参加した者への医療費などを聖王国は払う必要がない。報酬は成功時の金銭。聖騎士や兵士、それに神官は疲弊するものの、自国だけで解決しようとした場合よりよっぽど損害はないでしょう。国庫に影響は出るかもしれませんが、逆に言えばお金で解決できてしまう。この絵図を描けた時点で、聖王国は勝ちですよ」
「さすが貴族。そう、出費はあるかもしれないけど、聖王女様が得るものは多いんだよねえ」
まず各国とのパイプができたこと。そして優秀な戦士達とも渡りをつけられたこと。前例ができたために、これ以上の国難が起きた場合に救援要請を同じ要領で出すことができる。国や冒険者からしても利益があれば十分に受ける可能性がある。
そして自国の民の数が減ることを防げたことは国の運営上、本当に大きい。国が残っても民がいなくなっては意味がない。お金はいつか取り戻せるが、失った命はそう簡単には取り戻せない。この国境に安全をもたらせられるのであれば、安い買い物だというのが王族・貴族目線だ。
足を引っ張ることが多い南部の者達に強権を発揮できる強い王だと示せたことも大きい。このアベリオン丘陵は北部にしかなく、被害が出ているのは北部だけ。そのため南部では他人事として無関心になり、貴族の腐敗が「始まっている。事態を解決できない無能な王としてカルカを降ろそうという動きもあったほどだ。これはどちらかというと建国してから初の女性の王という理由も大きい。
南部の人間からしたら北部の問題のせいで税金が増えているという理由で対立や批判が増えていたのだ。だがこれで当分の間は平穏に過ごせるとなったら北部の人間には感謝され、南部が何を言おうと王はカルカしかいないと圧倒的な支持を得られるだろう。国の難事に率先して前線に立ち、強大な魔法を使って支援をし、おまけに美人だ。強くて頼れて美しい王となれば、南部の人間の支持も増えるだろう。
この戦力が集まっていれば、たとえビーストマンのように強者が隠れていても数の暴力でどうとでもできるだろう。竜王クラスが出てこない限り、漆黒聖典とモモンでどうとでもできる。となった時点で負けはない。
宗教的に対立していた法国ともパイプを結べたことで国交を結べるというのも大きいだろう。宗教戦争を未然に防いだとも言える。法国にその気がなくても、聖王国から仕掛ける可能性があった。特に南部からの皺寄せでそうなる可能性もあった。これを防いだとなれば、王としての基盤もそう崩れないだろう。
この大連合ができた時点で、カルカは勝利していた。
「じゃあ実力的な話。ビーストマンのようなイレギュラーはいると思う?」
「まあ、ほぼいないでしょう。いたとして、その怠惰な強者は前線に出てくるとは思えません。戦うことが好きな強者ならまず前線に出てきて十傑のように名前が知られているはずですし、長年争って彼らも知らないような強者がいたとしても、敵わないのなら撤退すればいいだけです。そしてこっちまで来たのなら私やガゼフ隊長とブレイン副隊長、そしてあなた方漆黒聖典で倒せばいい。人類守護の妨げになる火種ならあなた方も積極的に倒すでしょう?あのトブの大森林の竜王のように」
「なるほど道理。じゃあそんな奴が複数、もしくは竜王クラスがいたら?」
「複数いたのなら各個撃破か、不意打ちで倒せばいい。竜王クラスが眠っていたのなら、潔く撤退するしかないでしょう。人類の敵う相手ではありませんよ。それこそあの木の竜王をぶつけるしかないでしょう」
「法国に、あの竜王と拮抗する戦力があるとか考えないんだ?」
「あるのは確実でしょう。タレントかマジックアイテムか実力かわかりませんが、無力化するのはただ倒すより難しい。それを為し、エルフの国を併合した法国は確実に周辺諸国最強です。それこそ他国に危険視されるほどに。だから今回のような大規模作戦に参加し、人類のためなら力を貸しますよとアピールする。戦争を起こさせないための外交努力ですね」
「せいか〜い!」
クレマンティーヌは話がわかる奴だとペチペチ拍手をする。この作戦に法国がかなりの戦力、それこそ漆黒聖典まで投入していること。そしてもしイレギュラーがあっても対応できるように準備をしていること。それらを理解しているモモンひいては王国は合格だった。
漆黒聖典は実に半分が導入され、番外席次を除いて最強である隊長が来ている。さらにニグンには魔神さえも打ち倒した最上級天使が封じられたマジックアイテムも下賜されている。破滅の竜王こそ連れてこられていないが、対応できるだけの準備はある。
そしてそんな危険な存在がいるという予言も出ていない。破滅の竜王の出現を予見したタレントだ。お告げがないからクレマンティーヌも法国も安心して任務に挑んでいた。
強くても難度で言えば120程度。それくらいなら漆黒聖典と言わずにガゼフとブレインで対処できる。戦場のことはあまり心配していなかった。それはモモンの余裕からも感じられる。
モモンとしても、先程カルカが行った魔法は初めて見るものだったために効果がわかる前までは興奮していた。だがバフの上昇率が固定だったことと、種類も攻防バフとリジェネだけと知り微妙な気分になっていた。
範囲は確かに驚異だが、第六位階魔法にしては広い程度。そして専用の装備をして、複数人で儀式魔法じみた方法でやらなければならないというのがモモンでは再現できない魔法だとわかって興味をなくした。ガゼフクラスの戦士からしたらバフの上昇量はなんてことない。それこそ力のない民兵などを死なないようにするという意味では優良な魔法かもしれないが、逆転の一手になるような魔法でもない。
この世界では今回のように使い道があるが、魔法詠唱者を何人も使って時間をかけて発動するにしてはしょっぱいものだというのが魔法オタクのモモンの考えだ。第六位階魔法を使えるほどの技量の魔法詠唱者を儀式の中心にして民を守る力と言えばカルカ向きかもしれないが、その能力で他の魔法を覚えて使った方がマシだ。
戦意高揚という意味ではこれ以上ない効果だったが。
クレマンティーヌはモモンのこともそれなりに把握しつつ、本題に入った。
「ここから話すのはまだ秘密の話ね。モモンってまだ結婚してない?」
「?ええ、まだ独身です」
「そっかー。それはまずいよ。法国からも婚約者が送り込まれるかもしれない。めっちゃウチの上層部に目をつけられてるよ、モモン」
「ええっ⁉︎……やっぱり魔法剣士は目立ちますか?『蒼の薔薇』のラキュースも似たような才能だと思うのですが……」
「ウチも宗教国家だからさ、あれだけ堂々と運用してたら『
「……私は、生涯一人の女性しか愛しません」
実力がバレたことよりも、そちらが大事だと宣言するモモン。その強すぎる意志にクレマンティーヌはホウと感心する。身持ちが固いことは女性として評価できる。だが、それだけではないこともクレマンティーヌは知っていた。
(良いじゃん。やっぱり母親が国王の愛人だったこともあって、そういうの嫌いなんだ。傷になってるのかもね。じゃあ法国から女を宛てがうのは悪手。そのことが聞けただけで十分か。モモンはラナー王女にお熱みたいだし)
モモンを神人だと考えた法国はそれまで以上に彼の身辺調査を実施した。その結果モモンが王国の王家の血筋であり、南方の商人の娘の家系だと知った。それを受けて南方へも調査に行ったが、神と混じっているかは不明だった。戸籍がちゃんとしているわけではないので、家系図などをしっかりと遡れなかったのだ。
王国で他の神人がいなかったこともあり、モモンは南方の、法国でも把握していない神の血が覚醒したのだろうという結論が出ていた。
できれば子孫を増やして英雄と神の血を残して欲しかったが、無理矢理は嫌われそうだとわかってモモンへ側室の提案は取り止めになる。その代わりモモンより歳上のガゼフとブレインが結婚していないことから、法国の標的はそちらになる。
王国と法国の友好の架け橋やらなんやらと理由をつけて送り込む計画が進もうとしていた。
「OKOK。上層部にはそう伝えておくよ。暴れすぎて怖ーい竜王に目を付けられないように気を付けなよ?モモンってぶっちゃけ規格外だからさ」
「評議国の竜王ですか?仮にも国という秩序を守るための存在が、いきなり全てを反故にして攻めてくると?」
「それこそさっきモモンが言っていた、怠惰で引きこもりの最強だからさ。そもそも竜だし。人間の法だの国としてのメンツとかも一切気にせず、世界の平和のためとか言って襲ってくるだろうね」
「それは……。国である必要がないでしょう。そんな存在が国政に関わってはいけないとわからないんですか?」
「白金の竜王はむしろあの国の最高権力者だよ。法国とも世界盟約とかいう竜王側だけが有利になる取り決めを投げつけて世界の支配者ごっこしてんの。破滅の竜王が暴れて人が死んでも仕方がなし。実力がある存在は秘匿せよって感じの頭の悪い取り決め」
「何で法国はそんな不利な取り決めを受け入れてしまったのですか……?」
「八欲王が暴れすぎて、竜王に頼らないと法国が瓦解してたからだよ。それほどに酷い戦いだったんだって」
モモンはこんなところで世界盟約という紙切れができた理由を知って、力こそが全てとでも言いたいようなこの世界の在り方そのものを聞いているようだった。そもそもこの世界は竜王が支配しており、そこから六大神と呼ばれるおそらくユグドラシルプレイヤーが来て人間種の保護が始まったとされている。
竜王からすれば外の世界の力を借りてようやくまともになった下等生物が権利を主張するな、とでも言っているのだろう。モモンが元いた世界だって人間が支配し、たとえ後から知性のある生物が権利を求めて交渉してきたとしても認めなかっただろう。同じ人間でも権利や文化、領土に主張で戦争を起こすのだ。力も姿も考え方も違う異生物と戦いになっていないだけ、竜王も理性的だと考えるべきか。
それとも八欲王との戦争は竜王も相当やられたという記録が残っているため、彼らもかなり疲弊していたための妥協だったのか。
もしモモンが、プレイヤーがこの世界に転移してくる原因が白金の竜王の父親が使った魔法が原因だと知ったら竜王達を罵るだろう。身から出た錆ではないかと。それで力があるから抑圧するのかと。
モモンとクレマンティーヌの秘密の話も終わって、彼らも各々出撃していく。一ヶ月ほどかかった戦いは亜人の壊滅という形で人類の勝利。どういう終着点にするのかはカルカ達聖王国に委ねられた。
王国に帰ったモモンは早速法国で考えられている計画について話す。人類を守るための戦力を抽出するために英雄の血を残そうとしするのは王国としても納得のいく内容だった。そのためまずガゼフとブレインを呼び出し、さっさと身を固めろとザナックが王令を出す。愛する子が法国に連れ去られるかもしれないと脅したのだ。
ガゼフは平民の女性と結婚したが、ブレインは本人の気質から結婚できないまま法国の子女を紹介されて断ることに苦労することになる。
一方モモンも聖王国の一件が終わった後、そこまで時間をおかずにラナーとの結婚を発表。『
二人の結婚式は、王族といえどもあくまで王女だったために一般的な貴族程度の規模で行われた。二人ともそれで十分であり、ザナックとアルシェのように王都でパレードをやるのは特別な一回だけの方が特別感が出ていいと二人が反対した。
王国はまともな陛下と臣下によって国内は正常化。豊潤な土地と人材から各国の交流の中心に立つようになる。帝国はカッツェ平野の安定を王国と一緒にしつつ、多部族との交流を深めて帝国の力と領土を強化。魔法先進国として各国へ魔法教師を送り込むことで周辺諸国での立ち位置も確保し、ドワーフの国への救援にも手を出して武器の流通も手掛けた。
竜王国は復興を第一に、各国からの支援もあって立ち直ることに成功。ドラウディンの政策も真っ当なものばかりで、順調に各国への借りを返すことができるほどに国を正常化させていった。外敵がいない国ともなれば、長年生きている竜の姫ともなればその知識から国を蘇らせることに時間はかからなかった。
聖王国は北部南部の正式な併合を完了。分断を防ぎ、文化や規則の違いがなく、きちんと一つの国として運営されることになる。懸念点とすれば、カルカの婿が決まらずに後継者問題が残っていることだけか。
法国はそれまで以上に異形種や亜人の被害に対処し始める。人類圏を広大にすれば管理が大変になることは承知の上だったために、力があったとしてもあくまで保持・管理に勤めることになる。破滅の竜王が出たこともあってトブの大森林を改めて平定したり、その他の魔境と呼ばれる地域の安寧化に邁進する。各国に信仰系魔法の伝授をしたり、人類の手助けをしつつ、百年の揺り戻しで現れるプレイヤーのことを待ち続けた。
評議国、ひいてはツアーはその周辺国の動きについてはノータッチ。モモンも法国も過剰な力を使ったりせず、破滅の竜王も基本はトブの大森林で鎮座するだけだったために、世界盟約を盾に抗議をすることもできなくなっていた。
そうして百年の揺り戻しは、モモンが現地人に転生したことで終息したのかその後の歴史でその現象は起きず、プレイヤーの来訪も無くなった。
各国は法国の監視の元、協力体制を敷き聖王国での連合を理由に争うことはせず、自国で発展すべきことをこなしていき、時に協力して百年の平和を維持。法国も揺り戻しが二回連続で起きなかったか、来たものの完璧に隠匿されて表舞台に出てこなかったか、それとも即座にやられるような弱いプレイヤーが来たのだろうと推測した。
それからもプレイヤーやユグドラシル関連の来訪は起こらず。父の罪滅ぼしという贖罪も終わったと判断したツアーは静かに寿命で眠りにつき。最強の竜王の死を持って世界盟約は破棄された。
それでも理性のある人類圏は強大な力を使って侵略戦争をすることなく、あくまでモンスターの討伐や異形種への対応以外で力を使うことはなかった。
こうして世界を繋ぐ始原の魔法の効力は自然と失われ。強力なアイテムや知識こそ流入しなかったものの、各国が結び付いた結束の力は解けることがないまま平穏な世界が続く。
この最初の動きとなった、各国への同盟と自国の革命に立ち上がったザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフは太平の世の礎を築いた賢王として歴史に名を残し、リ・エスティーゼ王国の王都には彼の銅像が何百年と立ち続けた。歴史家が歴史を紐解く度に王国の革命から各国の情勢が良くなり、本来の歴史とは真逆で帝国が王国の革命を真似たということが真実であるかのように伝えられていく。
そのためザナックこそが法国のように人類圏を嘆き、立ち上がった最初の王として各国でも人気になるほどの知名度を誇った。彼が立ち上がったから我々の今がある、と未来の人間は信じているのだ。
この歴史の真実を知っているザナックの子孫である王族、そしてラナーの血筋である公爵家の者は順序が色々違ったり、モモンという英雄がいたことを知っているのだが、世界的な事実として広まったものを訂正することはできなかった。
「確かにザナック陛下は良き王だったが……。モモン殿とラナー殿下、それにレエブン侯がいらっしゃらなければどうにもできなかったと日記に残しているのに。どこで歴史が狂った?」
「帝国の歴史編纂室の書庫が魔法省の実験で吹き飛んだ時ですね。300年前の第七位階魔法の実験が失敗して帝都の一部が燃失して大惨事になってから、我が国の歴史書で穴開きになった歴史を塞いでいったらズレてしまったと」
「他国の歴史については口を出せんし、他の国も殊更帝国の歴史なんて残していなかっただろうしな。それに今の帝国の魔法伝授の恩恵に授かっていて今更歴史が間違っていたなんて言えんか。どうしてこうなった……?」
それが王国の執務室で交わされたやり取り。このやり取りは当然、どこの媒体にも記録はされていない。
彼らは祖国を建て直した先祖に恥じぬよう、今の王国を維持することを徹底した。『
王家の人間はザナック達が残した言葉を忠実に守り、王国を腐敗させないように日々頑張っていた。腐敗した国家の行き着く先の末路が書かれていた、最悪の時代へ逆行させないように。民も貴族も兄姉も犠牲にしないように。
彼らは平穏な日々を全うするために、今日も執務室で予算表と睨めっこをするのだ。
短い間のお付き合い、ありがとうございました。