オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
その変化は突然だった。
その日も家族で夕食を摂っていた。田舎の村に灯りなんてほとんどなく、陽が落ちる前に食事を摂ってしまうことがほとんどだった。食事の場ではなんて事のない、今日あったことを報告しながらの質素な食事だ。硬い黒パンと少しのスープに水があるくらいの、田舎ではありきたりな夕食の光景。
すっかりその食事に慣れてしまったアインズではあったが、前世の食事が食べ物とは言えないようなサプリメントばかりだったために、ちゃんとした食事というだけで彼はとても楽しんで食事をしていた。
この頃になればアインズに魔法の才能があることも理解されていた。村にやってきた冒険者の一人が魔法詠唱者であり、その男がアインズの才能を見抜いて魔法をいくつか教えてくれたという流れだ。魔法詠唱者ならわかるのかと、ユグドラシル時代の隠蔽用アイテムが使えなかったアインズは基本的に能力を隠していなかったのでバレてしまったわけだ。
その人に教わった魔法を試していたと報告していたら突然ラナとデイビットが胸を抑え始める。突然泡を吹き始めたためにアインズもおかしいと思い、状態異常を確認する魔法を使った。すると二人に毒と麻痺のバッドステータスが表示されており、更にはスープと水にも毒が付与されていた。
「まさか、生活水に⁉︎」
アインズはレベルが高かったからか、それともアンデッドの耐性が残っていたのか、状態異常にかかっていなかった。今はこの強い体をありがたいと考えて、すぐに村の薬師の元に向かった。風邪などを引いた時にかかる村医者のような存在だ。
そのお爺さんなら解毒薬も取り扱っていたために、どうにかできるかもしれないと家を飛び出た。
すっかり陽が落ちようとしていた、夜の帷が迫ってきた夕暮れ時。村は明るくなっていた。周りから火の手が上がり、村人達の悲鳴が木霊していた。
そして目的地としていた薬師の家が全焼しているのを見て、希望の芽が摘み取られたことを知る。
「な、なんだこれ……⁉︎狙われたのは、俺たちじゃなくて村丸ごと……⁉︎」
家も柵も、畑も何もかもが燃えていた。今の人間の視力しかないアインズはアンデッドの頃と違って暗闇の中ではっきりと見えることもなく、火の灯りで様子を判断することしかできなかった。
道に大人も子供も関係なく倒れている。武装した人間が村人を斬り殺している。あまりにも速い侵攻速度に、アインズはおかしいと思う。
これだけ被害が出ていたら村は騒がしくなっているはずだ。なのに家の中にこの騒ぎは一切届かなかった。誰かの悲鳴も、燃える匂いも、何もしなかった。これだけの被害が村中で出ていて、それに気付かないほど鈍感なはずがない。
「マジックアイテムか、何かしらの魔法か⁉︎村の様子を感知できなくさせるような認識阻害……!そんなものを魔法後進国で使うなら、村中か俺の家に限定して……!やっぱり狙いは母さんか⁉︎」
村人達の悲鳴を背に、家に走って戻る。そして予想通り、家に火が付けられていた。
アインズは魔法を使って家の扉を吹っ飛ばして中に入る。
村から出れば、もしかしたら近くにいる冒険者が助けてくれるかもしれない。その一縷の望みにかけて二人のことを運び出そうとした。
だが、彼らの首と胴体が綺麗に分かれていた。それを実行したであろう男二人がまだ家に残っており、アインズの姿を見て血の滴る剣を向けてきた。
ラナもデイビットも苦悶の表情を浮かべて、目も見開いたまま喀血していた。体も無造作に放置されており、死んでいることがわかる。
これを実行した男達がニタニタとしながら、剣を見せびらかしてくる。
「おんやぁ?アインズ王子。帰ってきちまったんですか〜?村に行ってれば親の死体なんて見ることはなかったのに」
「まあ、村に行ってれば他の奴に殺されてただろうがな!」
「「ギャハハハハ!」」
そう下品に笑う男達へ、アインズは手を向ける。杖がない今は手を向けることが魔法のコントロールが上手くいく。
アンデッドの頃だったら種族スキルで精神抑制があっただろう。ゲーム内ではその恩恵を受けたことはあまりなかったためにその存在を思い出せないまま、アインズは激情のまま男達へ怒りを向ける。
「お前達、誰の差金だ?俺が王子だって知ってるのは少ないはずだ」
「関係ねーよ!今から死ぬんだからな!」
「《支配》」
剣を振り被ったところで、アインズの魔法が直撃。片方の男の意思を奪ったところで連続して同じ魔法を使ってもう一人の意識も奪った。
モンスターでゲームの頃と効果が同じだと実験済みだ。悪党に使うには良心は痛まなかった。
「答えろ。誰の差金だ?」
「知りません。依頼を受けただけで、多分貴族の誰かです」
「くそ、下っ端か。お前達は何者だ?何に所属している?」
「『八本指』という裏組織です。人身売買と暗殺を主に受けています」
「昔のギャングとかヤクザみたいなものか?十中八九、俺と母さん狙いだ。……お前達、外に出ていろ」
「「はい」」
大人しく出ていく二人。
火の手が回り始めてあちこちから火が大きくなっている。この家もまもなく全焼するだろう。
殺された二人の目を閉じる。これ以上苦しまないように、アインズにできることはそんなことくらいだった。
アインズは回復魔法も蘇生魔法も使えない。インベントリに入れていたアイテムも、ナザリックに保管していたものも、NPCの力も借りられない。
つまりアインズに、二人を蘇生させる手段はなかった。
優しい母だった。アインズのことを最優先に考える母で、農業を一緒にして、文字を教えてもらって、本を読んでくれて料理を作ってくれて。そんな、前世の頃の母と違わず愛情を持って接してくれたラナ。
本物の父ではなかったが、父のように接してくれたデイビット。剣を教えてくれたり、王子だとか関係なく一人の子供として愛してくれた、父と呼びたかった男。
その二人を助ける手段はない。そもそも第五位階なんて使える神官など現状の世界にはいないとされて、蘇生なんて夢物語だとされている。
できることは、埋葬することだけだった。
埋葬する前に、アインズは誰かに憚ることもなく声も枯らして泣き叫ぶ。
彼は再び、家族を失っていた。
・
二人の埋葬を終えて、持ち出す物だけ回収して、アインズは村に戻った。建物の全てが燃え盛り、地面には村人の死体が転がり、生きているのは武装した悪徳組織の人間と、年若い女子供が何人か。人身売買をする組織だということもあって奴隷にしたり、それこそ彼らが楽しむつもりだろう。
実際、楽しんでいる馬鹿もいた。
アインズが昼間まで遊んでいた平和な村の姿は欠片も残っていない。この光景を忘れないために、アインズは瞬きもせずに村へ突き進んだ。
子供が歩いていることに気付いたのか、剣を抜く者が何人か。他は略奪に勤しんでいた。
「あん?あいつ、絵姿にあった……」
「《魔法の矢》」
「「「「「「グアアアアア⁉︎」」」」」」
目標の王子だったことに気付いたものの、即座に六個現れた光の球によって近くにいた者から顔面を撃ち抜かれて即死した。体のバランスを崩し、グロテスクな死体が増えていく。
いきなり複数人殺されたことで『八本指』の面々は略奪をしている状況じゃないと集まり出す。誰もが武装しているが、レベルで言えば10もない程度。
第六位階を修めるアインズの敵ではなかった。
「鏖殺だ、『八本指』っ‼︎貴様らは俺が愛した家族を、村を奪った!この、クズがああああああ!」
覚えている魔法を総動員して、アインズはこの日、五十人余りの悪党を惨殺。生き残っていた数名を連れて都市があるという方向へ向かった。幸いにも『八本指』が移動用に用意していた馬車が近くにあったためにそれを接収したことで食べ物や飲料水はどうにかなった。
護衛も召喚アンデッドにさせて、アインズも起きている時はできるだけ警戒をしながらこの地域を治めるというレエブン候の都市であるリ・レエブンへ向かった。
その途中で冒険者チームと遭遇。アインズが呼び出した死の騎士の強さにビビっていたが、生き残っていた大人と、支配をかけていた二人の言葉から村の事件を把握。
ロックマイヤーと名乗った冒険者はこれが緊急事態だとわかり、冒険者組合に伝えるのではなくコネのあるレエブン侯へ直接話を持って行った。
そしてアインズが持つ、母から託されていた王家のペンダントを見てアインズが王の隠し子であることを把握。『八本指』のことも厄介な裏組織だと知っていたために、これは王家の内部紛争だろうと理解した。自領にいた忌み子の存在は把握しており、だが外部に情報を漏らさないように定期巡回で村にアインズ達がいることを確認する以外の手出しはしなかった。
その放置の結果が領民も失うことになった理由の一つであるのならと、レエブン侯は彼らの保護を受け入れる。
王位継承権など持っていないようなものだが、いつ脅威になるかわからない。事実、アインズの魔法詠唱者としての実力は隔絶したもの。今からでも一人でクーデターを起こして王位を簒奪できるほどだ。
保護した村人の生き残りを責任持って引き取って、生活の保障をして、『八本指』の生き残りについては引き出せる情報をとにかく引き出した。
そしてアインズのことは、養子として引き取ることにする。ただしレエブン侯の子としてではなく、丁稚として息子のエリアスの側仕えとしてだ。そろそろ世代交代をしようとしていたところであり、息子の出来も良い。そして野心もある。そこに王家の血筋というのはとてつもないジョーカーとなりえる。
たとえ血筋がなくても第六位階魔法の使い手だ。帝国に一人しかいない人類最高峰の魔法詠唱者と同等の実力を持っているというだけで囲い込む理由になる。
そうしてアインズはモモン・ナインズ・ウール・ゴウンを名乗ることとなる。丁稚とはいえ貴族出なければならず、没落貴族のことをでっちあげ、その名前を名乗らせることとした。
そして黒髪黒目というのは目立つので、髪を染めることとなる。王国の人間として不自然にならないように茶髪に染めて、その上で魔法で幻覚も被せて目の色も変える徹底っぷり。
モモンは家族の復讐を人生の目標として、魔法詠唱者として、貴族として作法や常識を学んでいく。その過程でレベルアップもしたかったために冒険者としても登録し、適当にモンスターの討伐に参加したが、こちらはそこまで大きな成果はなかった。
冒険者のレベルが低いということは、周辺のモンスターのレベルも低いということだ。モモンが苦労したのは周辺ではカッツェ平野のアンデッドの群れくらい。それ以外はギガントバジリスクだろうと相手にならなかった。
出自とその能力からモモンはソロでやるしかなく、最初はロックマイヤー達に冒険者としてのイロハを教わったがその程度。モンスターの脅威度を教わって、冒険者のランクと実際の強さの比較をして、ギガントバジリスクを単独で倒してしまえば最高位のアダマンタイト級だと言われて、モモンは冒険者のレベルにがっかりしたくらいだ。
名前もよろしくない。もっと自由なものだと思っていたが、基本はモンスター討伐の傭兵で、時たま貴族や商人の護衛をする程度。ユグドラシルのように自由気ままにどこへでも行けるようなものではなかったので、冒険者としての活動は緊急時のみということにした。
モモンは王家の血筋とはいえ、王位継承権もないただの村民として生活していた。そのため貴族の常識や作法に疎かったので、こちらの勉強に必要な時間が割かれたというのもある。
あと、魔法詠唱者単品だと大多数と戦った時に距離を詰められて負けるという可能性が高かった。魔法後進国であり、そちらの師も望めないような環境でモモンガが手を伸ばすとしたら魔法剣士のような両刀を目指すこと。中途半端な仕上がりになってしまうかもしれないが、竜王以外に相当強い存在がいないということを知ったのもあり、人間相手ならむしろ剣士としての腕を伸ばした方が良いだろうと考えた。
そう考えて、モモンは一日の終わりにレエブン侯の家の地下で死の騎士と戦っていた。自分で召喚したモンスターでも経験値が入ることを知り、パワーレベリングとしては最適だった。日によって戦うアンデッドは異なるが、今日は死の騎士にした。
まずは厄介なタワーシールドによる防御を崩さなければならない。九歳児が持つには大きすぎる漆黒の両手剣を持ち、全体重を乗せた一撃をお見舞いするものの、見事に防がれて逆の手に持つフランベルジュによって斬り返された。
死の騎士の攻撃力はレベル25相当とそこまで高くない。その分防御力は高く、剣を学んでまだ数年しか経っていないモモンでは中々切り崩せない。裏技を使えばそんなことはないのだが、今は純粋な剣技の習得とレベル上げ。魔法で一撃で倒しても意味がないのだ。
そんな深夜の一人死闘は二時間ほどで終わり、死の騎士の面倒なガッツ効果も二連撃で不発にさせて勝利。
漆黒の大剣を創り出していた魔法も解除して、大きく息を吐くと後ろから拍手が聞こえてきた。いつから見ていたのか、そこには当主を正式に引き継いだエリアスがいた。
「いやはや凄いな、モモン。たまに見る程度だが、あれほどのモンスターを倒してしまうとは。魔法以外でもアダマンタイト級というのも頷ける」
「エリアス様。あれは私が召喚したモンスターですので。能力を把握しているので倒すだけなら問題ありません。同じ難度の、初見のモンスターの方がよっぽど脅威です」
「だがそうなったら君は魔法を使うだろう?周辺諸国最強の、第七位階魔法を。タレントありきとはいえ……。素晴らしい」
生まれながらの異能、タレント。200人に1人という割合で発現するため持っている人間はそこまで珍しくないが、その能力が有能かどうかで価値がだいぶ変わる。『明日の天気がなんとなくわかる』だったり『お湯の温度がわかる』などのなんだそれはと思うようなものから、『武器の耐久度がわかる』や『魔法の才能があるかわかる』などその後の人生に関わるようなものから、戦闘に用いることができるようなものまで様々だ。
そんなだいぶ当たり外れが激しい能力の中でモモンが手にした能力はおそらく『ユグドラシル時代のレベルを自身にある程度加算する』というもの。ある程度というのがミソで、現状では第七位階までの魔法しか使えず、上位アンデッドを呼び出すスキルも使えない。
それ以外にも魔法詠唱者として取得した魔法も大体使えるものの、一部はレベルアップで覚えたような魔法が使えないために、完全な引き継ぎはできていないというのがモモンの所感だ。なのにイベントや課金などで覚えた魔法が使えたりと、割とごちゃごちゃな部分がある。
これは単純にモモンガとしての体とモモンの体が別物だから、ということが考えられる。適性なども異なっているためにユグドラシル時代の全てが使えるわけではないのだろうと考えていた。
この能力もありがたいが、モモン本人としてはユグドラシル時代に使っていたアイテムの使用、もしくはインベントリの使用ができるタレントの方が嬉しかったが、今でも十分に役に立っているのでこれ以上はないものねだりだろう。確実にこの世界で生きることを考えたら大当たりの能力なのだから。
とにかく、そんな力をちゃんと制御していることに喜んだエリアスは本題を話す。
「明日にでも話そうと思ったが、王都で用事ができてな。そろそろ丁稚として王都デビューをしよう」
「王都、ですか。その用事とは?」
「君の異母妹……。ラナー・ティエール・シャルドロウ・ライル・ヴァイセルフ殿下の四歳の誕生日パーティーというのが表向きだ。それを言い分にした各貴族の王家への忠誠心を確認する儀式、と言ったところか」
「もう四歳ですか。私は丁稚として会場で護衛をしつつ、各勢力の確認をすればよろしいでしょうか?」
「そうだ。理解が早くて助かるよ」
そうしてエリアスは自治領の運営を親族に任せて、関係者のみで王都の活動拠点へと移動する。六大貴族ともなれば王都に別邸を構えているもので、そこの維持のために人員を使っている。
モモンは王都に行くまでの間、護衛をしながら馬車に乗り込んでいた。
レエブン領の『八本指』は掃討した。表向きは現存しているが、活動は全て止まっており、構成員はモモンの《支配》で適当な報告をするだけの機械になっている。彼らの監視に
もし《支配》が解けても上位死霊なら簡単に始末できる。そういう意味もあって『八本指』の監視には最適で、殲滅するために今は情報を集めているところだ。
王都に着いたらそこでも上位死霊をたくさん放つつもりだ。死体を用いればアンデッド系のモンスターは永続的に召喚できるとわかり、殺しても問題のない屑が敵にはたくさんいたためにそれらを用いてアンデッド包囲網を作成していた。これは当然エリアスに相談しており、エリアスとしても『八本指』なんて害虫が存続するのは許せないことだとしてむしろ情報収集のために推奨していたほどだ。
ラナーのパーティーの前に、そんな下準備を始めるモモン。結構な数の上位死霊を連れてきたつもりだったが、その数が足りないと報告が来てモモンは頭を抱えた。
そこまで腐っていたのかと。犯罪組織をのさばらせておくほど、今の王政は終わっているのかと。
そもそもそれだけ腐ってなければ、モモンのいた村が襲われることもなかっただろう。モモンは改めて、『八本指』の殲滅を誓った。