オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
モモンが竜王国のビーストマンの集落を二つほど殲滅して、一日に使えるアンデッド作成スキルを目一杯使って上位死霊を大量生産して、他のアンデッドも作って戦力増強しつつ、『八本指』の殲滅のために情報収集を続けていく。それとついでに自分の住んでいた村を襲撃するように指示を出した自分の義姉達の証拠は既に掴んである。だがそれを何でもないタイミングで出しても偽証だなんだと騒がれてなかったことにされかねない。
だから出すとしたら決定的な瞬間。それまではレエブンの家で大事に保管していた。
今ではモモンの上位死霊は王国中に放たれている。『八本指』もそうだが、彼らに関わらない悪党というのも存外多く、それらの対処を考えるとアンデッドの数がまるで足りなかった。
貴族は腐敗三昧、それによって警備や管理が雑なことを良いことに悪党が好き勝手して善良な国民が被害を受けるという終わった悪循環が王国を覆っていた。上位死霊で集めた情報を渡した時のエリアスの、血の気の抜け切った姿は家族でも見たことがなかったもの。
レエブン領ではそこまで多くなかったものの、隣接する派閥貴族の領で腐敗が多かったので自領に悪党が流れ込んでこないように対処をした。
まずは周辺を良くしなければ王国の改革なんて成し得ない。足元から崩れるわけにはいかなかったので自領周辺を優先し、その後に王都が崩れたらおしまいだろうとモモンを連れていき、王都中に上位死霊を解き放ったら王都が崩壊していないことがおかしいくらいに腐敗が進んでいた。
モモンの予測もあったが、おそらく元王女達が事件に関わっているということで一番最初に調べさせて黒だった時点で覚悟していたエリアスだが、出てきたものはそれ以上のもの。彼女達が嫁いだ家には証拠があった時点で色々と終わっているなと思っていたものの、それと同じような、もしくは凌駕する癒着が出るわ出るわ。王都に根差すほとんどの貴族が『八本指』と癒着しており、金銭を渡して様々な利権を貪っていた。
利権と言っても、ほとんどが娼婦や奴隷を買うことと、あとは貴重品を流してもらうことばかり。そういう愉しみのために大量のお金を支払ってしまう、もしくは『八本指』が活動しやすくなるように差配してしまう王国貴族の脳を確認してみたくなった。その脳が麻薬でやられていると知って、レエブンは手に入れようとしていた王国という芳醇だった林檎畑が、実は土壌も実もグズグズに害虫によって腐っていて、寄生虫が儲けるためだけに生かされているという事実を知って、顔色を土色にまでしていた。
モモンも人が人を食い物にする、獣以下の畜生になっていたために、最初の頃は戻していた。そして即座に行動を開始。違法奴隷商会や違法娼館を徹底的に潰して救出し、レエブン領で匿った。それこそモモンの村があった場所を再開拓し、彼らの住む場所にすべくエリアスが手を回したのだ。
なんと王国では、奴隷売買が一般的に行われているという終わっている国でもある。ほとんどの場合は寒村で食べていくためにあえて奴隷として子供を手放して、肉体労働の奴隷として働く、いわゆる貧困層救済のための制度だった。だがこれを悪用され続けて、肉体労働奴隷以外にも用いられて、奴隷は簡単に死んでいく。
特に奴隷商人が『八本指』関連だとまともに金銭も受け取れず、奴隷は貴族の悪趣味な拷問という名の嗜好によって殺されていく。奴隷になら何をしても良いという考えが蔓延っており、本来の用途で用いられていることはない。
まずはそこからだとモモンとレエブンが切り込み、『八本指』関連の違法な奴隷や娼婦はほぼ救出できた。王都に放った上位死霊が違法娼館や奴隷商会ができた途端モモンに連絡し、即座に白い仮面を被ったモモンと人に扮した人型のアンデッドが制圧をし続けて、何度逮捕者が出たことか。
ただ、逮捕されてもすぐに『八本指』の息のかかった貴族によって無罪にされて釈放されるという司法にまで手を伸ばしている『八本指』の強すぎる影響力によって最終的には解放されるのだが、それでも営業を始めようとして即座に何度も潰されれば内通者がいるのではないかと身内を疑い、今では内部分裂が起きている。元々別の犯罪組織が合併して利益を出そうとしているという成り立ち上、不信感が出れば分裂が起きるのも当然の動きだった。
その日もモモンはアンデッド達が集めた情報を纏めている時に、『八本指』の本拠地を監視している上位死霊から重要な連絡が来ている。
「はあ?俺達が『
「で、今度はどこに娼館を作ろうとしてるんだ?あ、畑の方?場所は……知らない村の名前だな。エリアス様に確認を取るからもっと情報を集めてくれ。そこの会議で話している内容が嘘かもしれないしな」
「資金集めに新しく貴族を顧客にしようとしている?相手だけ確認して放置だ。『八本指』の手を取ったらそこまでの奴ってこと。騙されてる可能性もあるからしばらくはその貴族を監視しておけ。はぁ、また数が足りなくなるな……」
召喚者と眷属の念話なのでこんな感じで独り言のように会話していることが多いモモン。これが与えられた個室での会話でなければ、速攻不審者として通報されているか、神殿送りになっていただろう。まだ子供なこともあって確実に頭の心配をされる。
とはいえ、このアンデッドからの連絡もまだマシになった方で、上位死霊から送られてくる膨大な連絡を受け止める役はモモンではなくレエブン家の地下にいる複数の
特に今回のように『八本指』の幹部達が勢揃いになって会議をする時には直通で来るようになっていた。そこの判断が遅れると被害がかなり出る可能性があったため、会議の内容だけは即座に確認できるスキームにしていた。
そして得た情報をエリアスに報告して、モモンが出撃する形だ。第七位階魔法が使えるということは転移魔法も使えるということ。冒険者として王国の各地に遠征で向かって転移のワープ地点登録をこなしていて、大体の場所に行ったために今では冒険者稼業は休止中だ。
あまりにも王国の腐敗がどうしようもないところまで来ているため、モモンが動いて悪事を何もかも消し飛ばすしかなかった。王国周辺に冒険者では敵わないような強敵がいないわけではないがトブの大森林から出てくることもないため放置していても問題なく、それ以外に脅威になる魔物が出れば緊急招集が冒険者組合に入る。
それが出るまでは本業の人たちに任せた。そっちにまで拘っている余裕がないとも言える。
最近ではようやくエリアスの婚約の話が纏まり、王国の革命に賛成してくれる家の令嬢と婚約を結べたというのだから、エリアスはよくやったと言える。
モモンが上がってきた情報をエリアスへ報告すると、畑が作られそうな村の名前からその場所の特定ができて、その村へワープ地点登録をするように指示を出された。大半の村長は少し学がある程度で、王国の命令で新しく畑を作ると言われたら基本信じてしまう。彼らに王印の区別など付くはずがなく、その上使われている印が本物の王族であるバルブロのものだったり、元王族の第一・第二王女の物を使われているのだから一応本物と言えなくもない。
それらを証拠として回収する必要もあり、麻薬畑や違法娼館などが作られるたびに回収するべき物や気にすべきことが多すぎて、司令塔たるモモンが現場に行く必要があった。
そして追加の指示も来る。
「モモン。追加の監視役が必要だ。この数の貴族を監視するなら全然数が足りん……。またビーストマンを狩ってきてくれ」
「わかりました。……とうとう半分近くの貴族が堕ちましたか。これでよく国家が運営できていますね?」
「『八本指』も金蔓を消し去るまで愚かではないということだ。売国奴どもが……!ノブレスオブリージュを忘れた貴族など貴族ではないとなぜわからん!民草あっての貴族、国家だというのに!王も王だ!違法娼館の逮捕者が多いというのに、娼館や奴隷商会の発足には許可がいるという法令の変更を貴族からの反対が多いからと保留しおって……!営業規定を守っていない店を許可して犯罪の温床になると、なぜわからん!そんな法律一つで国が割れるというのなら、割れてしまえ!」
「ちなみに、反対派の言い分は?」
「娼館や奴隷商会があるからこそ治安が保たれているという、言い訳にもなっていない言い分だ。違法だと、基準に満ちていない店を摘発することに反対するということは、恩恵を受けている者の自白だよ。事実、君が集めた情報の中にあった利用者諸君だ」
ランポッサは何をするにしても王派閥と貴族派閥の両方の顔色を伺いすぎて、何も決断できない。そうした停滞が腐敗を産み、取り返しのつかないことになっている。
違反をした者の逮捕者が多いからこそ出された改善案。表立って反対したら利用していることがバレてしまうと考えることができるクズが消極的な賛成をして、利用していない善良な貴族も賛成し、縛りが厳しすぎて反発を招くと喚くバカが反対をしていることで、比率的には賛成が六割くらいあるのだが、それでも今のままの変更は受け付けられないとランポッサの保留でまた王への信頼度が下がったのが目に見えたという。
ただ、この茶番劇は『八本指』の指示を受けた貴族派閥の工作だとわかった。
目的は王の信頼度を下げて、結果としてこんな王に隷属していられるかと王派閥の貴族に思わさせて、貴族派閥への鞍替えを促す作戦だったようだ。それは若干の成功を見せて、声を大にして言いはしなかったが貴族派閥が若干増えていた。
少数でも『八本指』に関わっている貴族派閥が増えれば、収入源が増える。資金を増やすために『八本指』も必死というわけだ。
国を割る行為を王が自ら行なっているという現状に、嫌気が差してエリアスのように自分の力で国を変えようとする真面目な貴族も出てしまう。今の王を擁護する王派閥はむしろ害悪になりかねないというように、パワーバランスが崩れる一手だった。
王派閥は王の蒙昧さに気付かない愚鈍な連中か、王派閥にいることで甘い汁を吸おうとする人間か、腹に一物を抱えたスパイか。そんな評価をされるような出来事になってしまった。
それに後から気付いたエリアスは早急に違法娼館があることで起こる経済負債の資料を纏めて、違法娼館を潰さなければどんな影響が出るのかということ細やかな資料を出して王国の分断を止めるファインプレーをする。
『八本指』に狙われるような行為だったが、そもそもレエブン領では法令を潔癖なほど守っている領であり、『八本指』と真っ向から対立している地域だ。理由が一つ増えた程度では全く影響はなく、物理的な護衛はモモンがいるので暗殺なども気にしなくて良い。そのためこの行為はエリアスに何ら影響を与えなかった。強いて言えば貴族からありがたがられたり、むしろ敬遠されることが増えたが、彼はあくまで六大貴族として行動しただけだと主張が一貫していたために貴族らしい貴族であるという評価を受けることで収まった。
だが、これで本当に今のままだと王国に未来がないと認識した貴族は多いだろう。エリアスが目立ったことでどうすべきかと相談してくる貴族も増え、いわゆる第三派閥であるレエブン派を形成することとなる。
ランポッサ支持でもバルブロ支持でもなく、ザナック派閥とも言える。まだ幼いながらも理性ある受け答えのできる、バルブロよりはマシな王子。彼を擁立し、周りを貴族で支えて彼を本当の王にしようという派閥だ。
エリアスは最終的に自分が立つか、モモンに立たせるか、表向きのザナックのままで行くか。選択肢は多い方が良いとして野心を王都では隠し、そして切り札の存在も秘匿したまま行動を拡大していく。
最終的にはザナックでも良いのだ。国が良くなるのであれば。
国を変革するには、良きものとするには強い王が必要だ。武勇でも頭脳でもカリスマでもいい。何かしらに優れていればそんな人を支えようと優秀な人物が周りを固めて、相互補助で国を良い方向へ持っていけるだろう。
だがランポッサが誇る武勇は過去のもので、足を怪我してからはただの王となり。
そしてあとは風見鶏となれば、支えようと考える者も減るだろう。
ランポッサへ同情する部分もある。彼が王位を受け継いだ時には既に貴族達に貴族としての能力がなく、利権やプライドのことばかり王の前で語り、愚鈍な人間ばかりになっていた。そして武勇で引っ張ろうとしたものの、それも失敗。それを良いことに玉座を狙う貴族が台頭し、内側から崩壊した。
もしランポッサが怪我をすることがないほど、それこそアダマンタイト級くらいに強ければ。
もしくは、ラナーとは言わずともレエブンほどの視座と頭脳があれば。
帝国の王のようにさっさと帝政へ移行できていて強権が発動できていれば。
物語の題材になる人物のように、臆さぬ心があれば。
王国はここまで腐敗していなかったかもしれない。
そして今も、後継を見出せないという王としての資格放棄。これでは擁護する方が難しい。せめて国内を良くして次の王を決め、勇退していれば。そんなことができる人物であったなら。
エリアスはそこまで考えて、目の前の人物へ問いを投げかける。
「モモン。いや、アインズ殿下。もしあなたが正統な王子として王宮にいらっしゃって。今の力をそのまま振るえたのなら。王国は救われたでしょうか……?」
「無理でしょう。私の魔法はそれこそ様々なことを覆し得る力ではありますが、死霊系魔法はイメージが良くない。王族が持つにはあまりにも不穏な力です。そして今の王国では魔法への理解が浅すぎる。たとえこの力を見せつけたとしても、異端として排斥されるだけですよ。それにこっそり動くということも出来なさそうです。そうすると今のように国中へアンデッドを配置するにも苦労したでしょう。そもそも、死体が入手できません」
「それは、そうか。……ままならんな。君が第二王子だったのなら、私は自分で改革せずに君を推薦していただろうに」
「王宮にいる私は、モモン・ナインズ・ウール・ゴウンになれやしない別人ですよ。それこそバルブロのような性格になっていたかもしれません」
「嫌な想像をさせないでくれ。あんな暴君のような性格で第七位階魔法を癇癪で使う人物だと?それは国が物理的に割れるだろう」
(超位魔法が使えればできたんだろうけど。まあ、使えないからなぁ)
位階魔法とはある意味で異なる種別の超位魔法。それこそモモンが今使える魔法とは全く別種の系統の魔法だったり、こんなの使えて良いんだという効果の魔法まである、一日四回しか使えない超常の力。
このままレベルを上げていけばいつかは使えるようになるのか。それとも。
そのやり取りの後、モモンは竜王国へ転移する。前滅ぼしたビーストマンの集落から近い、別のビーストマンの集落だ。前のビーストマンは猫が二足歩行になったような種族だったが、今回は虎のような顔と体表だった。
上位死霊を偵察として放っており、そこから来る報告では人を狩ることを愉しんでいるような、残虐に殺すことを趣味にするような連中だった。それならまた滅ぼして良いだろうと、モモンは『八本指』を倒す時のように白い仮面と漆黒のロープを身に纏って突撃する。
ビーストマンは過去
ビーストマンは普通の村人の十倍強いと言うが、レベル換算にすれば10台前半。その程度、ユグドラシルから推定50レベルほど引き継いだモモンの相手ではなかった。この世界でも鍛えているために、剣士としてのレベルも20ほどはある。それらを合算した今のモモンは第八位階魔法こそ使えないものの、レベル70という人類の中でも逸脱者と呼ばれる超人を超えた化け物だった。
とはいえ、同レベル帯には勝てないだろうとも考えていた。魔法は本当に一部を除いて第七位階までということで本職のレベル70ならそれ以上の位階魔法を使えるだろうし、20レベル分の剣士としてのレベルはモモン的にもそこまで強くない職業で固められているのだろうと思っていた。格上と戦ったことはなく、ずっと格下としか戦ったことなく、純戦士として鍛えているとはいえ、ステータスのゴリ押しをしているだけでちゃんとした修行をしたのは少しの間だけ。
それで同レベルの純戦士に挑まれたら、半分以上のレベルが魔法詠唱者とアンデッド関係で埋まっているためにステータスの差が酷く、勝てないだろうと考えていた。
だが、目の前のビーストマンは強くてもレベル20にも満たない。その程度ならむしろ手加減をしないと死体が爆ぜる。モモンと同じ格好をさせた
自分達がやっていたことをやり返されただけ。そう理論付けてビーストマンの集落は30分もかからずに壊滅し、あとはこの死体をレエブン家の地下に作った死体安置所に運ぶだけ。スケルトンなどに死体を持たせて、集団転移をすれば死体ごと運べる。
それが終われば、いつの間にか滅んでいる集落の出来上がりだ。どちらかというと集団失踪か。血痕などを隠すつもりもないので襲われたことには気付くだろうが、原因を確認することはできないだろう。
上位死霊達に他の集落のビーストマンが来ないかを上空から監視させ、スケルトン達が死体を集める。モモンは一息ついて休んでいるところに、上空から眺めている存在について上位死霊が報告をしてきた。
白金の全身鎧。それが飛んできたと思ったら浮かんだまま停止しているという。攻撃の意思がないようなので手を出さないように指示を出したが、どうやら姿を隠した上位死霊の存在に気付いているようだった。
モモンもその鎧を見付けて何かしてくるのかと身構えていたが、結局鎧はそのままどこかへ飛び去ってしまった。上位死霊も倒さず、何故かモモンの姿を確認して帰っていった。飛べるということは《飛行》を使えるのか、それともユグドラシルにあったパワードスーツの亜種だったのか。
「なんだったんだ、アイツ……。もしかしてあいつの狩場だった?そうなると今後使えなくなるなぁ」
モモンはそう言って、準備が整ったので転移して王国に戻る。
今日のことはレエブンに伝えるものの、そんな強者の存在は知らないということでモモンも警戒することになった。相手を刺激しないようにステータス確認をしなかったためどの程度強いかわからないが、予想通りにユグドラシルのパワードスーツだった場合、中身が誰であってもモモンの勝ち目は薄い。
何せあれらは初心者救済のために、レベル80相当の力を手に入れられるお手軽全身鎧なのだから。
ツアえもん「リグリットじゃなかった……」