オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん   作:モモンガ・アインズ

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迫る決断

 ラナーは何度かの貴族の子女とのお茶会を通して、自分が付き合うべき人間を選定していた。媚び諂うように親に言われただけの子女は早々に切る。大抵が『八本指』と関わっている貴族派閥であり、バルブロや姉達が利用しているからお前も使えと脅してくる親の尖兵でしかないからだ。

 そもそも貴族派閥はラナーを王女として見ているかどうか。王に対する人質としてしか見ていない可能性がある。末の娘であり、その美貌もあってラナーはランポッサに愛情らしきものを向けられている自覚がある。ただそれも、これ以上の派閥争いを防ぐために子供を作ることをやめた代替行為としても見える。その愛情を後継にしようとしているザナックに向けるか、せめてバルブロに向けていれば彼が道を踏み外すこともなかったのではないかと考えてしまう。

 では王派閥はどうかと言うと、彼らの子供もただ盲信的に王に付き従っているか、やはり貴族派閥と同じように王を操るための手駒にしようとする連中ばかり。

 

 王位を継承することはほぼなく、道具として干渉されるのはゴメン被る。となるとほぼいないが、無所属の子供と付き合うのが得策だった。貴族は必ず王派閥か貴族派閥に加入しているわけではなく、自領を優先して一応王に忠誠を誓っているだけの無所属派閥もいる。

 ビョルケンヘイム家だったり、アインドラ家だったりがそれに当たる。

 この日はアインドラ家の年齢の近い少女、ラキュースとお茶会をしていた。彼女は信仰系魔法の才能を見出されて最近では神殿で教えを受けたり魔法の手解きを受けているために会うのは久しぶりだった。教会でどんなことをしているのかという話を聞いて情報収集をしながらお茶をゆっくりと飲んでいる。

 彼女、ラキュースはラナーが頼んだことで貴族としての最低限の面子だけ保たせて、結構ざっくばらんに語ってくれる。その中で唐突に話の内容が変わって、次の話題は冒険者のことだった。

 

「そうそう、私冒険者を目指そうと思っていて!叔父様も冒険者だし、やっぱり冒険者に憧れているの!でもこの話をお父様にしたら怒られたの。酷いと思わない?」

 

「ラキュースにいくら才能があっても、反対するのが世の父親というものです。それに信仰系魔法の使い手なら神殿での需要がたくさんあって、冒険者のような危険なことをしなくても良いのでは?」

 

「私は冒険がしたいのよ!神殿じゃできないことがたくさんあるわ!それにラナー、知ってる?最近巷で有名な義賊の『仮面の軍勢(ヴァイザード)』!あの人達のようになるには冒険者で仲間を集めるのが手っ取り早いと思うの!知ってる?『仮面の軍勢(ヴァイザード)』。王都の違法組織を潰して回る正義の味方!でもその正体も所属も不明、ただ『八本指』とかの悪い奴らを倒すだけの義賊!私も『仮面の軍勢(ヴァイザード)』に入りたいのよ!」

 

「冒険者になりたいのが本命では?」

 

 話が変な方向に行きそうだったが、ラナーも知っている話題だったので話せそうだった。

 『仮面の軍勢(ヴァイザード)』。全員が白い仮面に漆黒の外套を纏った謎の武装集団。人数も規模も不明で背丈も大小まちまち。会話もほぼせず、罪人を捕らえて被害者は丁重に警備屯所へ送られてきて、違法娼館の住所を書かれた紙を渡されて家宅捜索は一任されている間に彼らは去っている。引き留めてもすぐに帰ってしまうので彼らが冒険者なのかどうかすらわからない。

 それで救われた人間が多かったからか、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の評価は鰻登りだ。治安を良くしてくれる、金銭などを要求せずに颯爽と帰っていく謎の集団。活動範囲が違法組織の摘発だけなために。王国の秘密結社か特命を受けた王家の特務部隊なのではないかという噂もある。

 ラナーは王家の人間としてそんな悪徳組織と戦える戦力がないことを知っている。そもそもそんな部隊があればランポッサがさっさと投入している。『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の正体をモモンから聞いているラナーからすれば勘違いも甚だしい。

 王国が滅びないように対処をしたら結局として王家の評判を若干良くしてしまったのは、レエブン侯が想定外として悩んでいた。ランポッサも正体がわかっていないので接触はされていないが、接触しようとあの手この手を用いられている。だが王国に彼らを見付け出す能力を持った人間などいなかった。

 

「冒険をするのが最重要なの!『仮面の軍勢(ヴァイザード)』は入れたらいいな、くらいの憧れよ」

 

「ふふ、誰も顔も名前も知らない方々なのよ?どうやって見付けるつもり?」

 

「きっと違法組織を摘発していれば鉢合うわ。そのためにも冒険者としての実績と、仲間がいるのよ。あーあ、モモンさんが仲間になってくれればなぁ」

 

「……モモンさん?」

 

 ラキュースから聞き捨てならない名前が出てきた。

 その人物はレエブン侯に仕える丁稚。ラナーの仮家来。最年少白金ソロ冒険者。第七位階魔法を使える、法国を除く周辺諸国最強の人間。

 そして最愛の兄。

 彼の名前は冒険者として一部で知られているが、冒険者としてちゃんと調べなければ彼の名前はあまり出てこない。

 最年少記録を作ったのも二年以上前。そしてこの二年ほど、冒険者としてはほぼ活動していない。だから今や知る人ぞ知る人のはずなのに、ラキュースはどこからか彼の情報を仕入れていたようだ。

 

「ラナー知らないの?最年少白金冒険者になった将来有望な人よ!魔力系魔法と剣を両立している私の目標なの!」

 

「……よく知ってるわ。わたしの家来ですもの」

 

「家来?どういうこと?」

 

「そういう話になっているの。モ(・)モ(・)ン(・)は将来的にレエブン侯からわたしに仕えることを約束しているのよ」

 

「ええーっ⁉︎なにそれ、初耳!」

 

「それは誕生日パーティーの戯言だろうに。随分我儘になったな、我が妹よ。アインドラ嬢、邪魔するぞ」

 

 淑女らしからぬ声を上げながら立ち上がったラキュースに被せるように、彼女達がいるテラスへやってくるザナック王子。年々丸くなっていく王子が淑女のお茶会に入ってきたことにラキュースは驚くものの、ザナックは付き人に椅子を引かせて二人の間に座る。

 ラナーと同じ紅茶をメイドに頼み、それを一口飲んでから本題に入る。

 

「お茶会を邪魔して悪いが、緊急事態だ。アインドラ嬢も帰った後にお父上に伝えるといい」

 

「どうされたのですか?お兄様」

 

「帝国で政変だ。ジルクニフ王子が上から下まで大虐殺、とのことだ。現陛下も兄弟も全部血祭りらしい。王族のみならず貴族までも粛清しているようだ。まだ初報だからどこまで民に被害が出ているか全然わからん。数年は帝国も混乱するだろうな」

 

「えっと、ザナック王子。それは国交とかそういうことで困るということですか?」

 

「いいや、戦争が起きるということだ」

 

「ええっ⁉︎」

 

 ザナックの言葉に素直に反応してしまうラキュース。

 だがその言葉から状況を推察するラナー。ザナックがそう言ったということは既にそういう話が王宮で出ているのだろう。情報が伝えられて王宮では今頃バカな貴族達によって紛糾しているということだ。

 その内容が予想できた上に、帝国と戦ったらどうなるかも予想できてしまったために王国に崩壊は早そうだと理解した。

 王国の戦力と帝国の戦力。その差はラナーでも知っているくらいに圧倒的だ。

 王国の戦力のほとんどは戦闘訓練も行なっていない農民を集めるだけ。一方帝国は職業騎士が多く、その上魔法詠唱者も相当数育成している。その上、現状人類最高峰の魔法詠唱者であるフールーダを擁している。

 いくら王国貴族の若干数が独自の戦力を持っていたとしても、戦力としては雀の涙。それを正しく把握しているザナックとラナーは、今後について考えるために情報共有をしようとしているのだ。

 

「妹よ。優秀な頭脳で考えてくれ。王国が来年帝国と戦争をすることになったら、どうなる?」

 

「お兄様、魔法詠唱者についての理解はどこまで?」

 

「王国では手品と同じものとしか教わらんぞ?ただ隣国のフールーダは系統が違うとはいえ、死者蘇生が可能な第五位階魔法よりも上の第六位階魔法を使えるという話だ。それは一体、どんな規模の攻撃魔法なんだ?一発で王宮は吹っ飛ぶんじゃないか?その辺り、アインドラ嬢なら詳しそうだな?ここでの発言は無礼などと思わん。率直に王宮を破壊できるかどうか、答えてくれ」

 

「ええと……。私は魔力系魔法にはあまり造詣は深くないのですが……。そもそも人類で第四位階魔法を使えれば歴史に名を刻むと言われるほどです。その魔法を使えばアダマンタイト級冒険者を名乗るには十分な実力とされる地点でもあります。ですので、それよりも二段階上の魔法ともなると……。本当に王宮を破壊できる可能性は高いです」

 

「だとよ、ラナー。俺達は斬首刑ではなく、王宮ごと丸焼きかもしれん」

 

「そうなると火を防ぐマジックアイテムが必要かしら?そんなマジックアイテム、宝物庫を探してあると良いのですけれど……」

 

「モモンの奴にその辺りのマジックアイテムがないか確認させてくれ。確かあいつは自領の魔術師組合にも顔を出しているんだろう?」

 

「畏まりました。モモンに確認をしてみますわ」

 

「ラナーったら、モモンさんと文通をしているの⁉︎」

 

「ええ、そうよ。あの方はマメだから、わたしへとても早く返事をくださるの」

 

「姫と丁稚の身分差の文通……!物語の外にも、そんなことあるのね!」

 

 モモンとラナーのやり取りに何か感激をしていたラキュースだが、ことがことなためにラキュースは帰らせた。王宮では実際様々な貴族が集まって議論をしており、その様子を確認してザナックの私室へやってきた。

 メイドも中には入れず、二人だけの空間でさっきの話の続きだ。丸焼けになるから防火のマジックアイテムを用意するなんて与太話だ。なんせ王宮を燃やす魔法を使うかどうかすらわからず、そもそも王宮を燃やしたら王家の物も全てがなくなってしまい、死亡確認も取れない。

 もし王族が残っていて、後々クーデターでも起こされたら面倒だ。だからこそ、国を根絶やしにするためにわかりやすく斬首刑にする。本当に愚かな王でもない限り、戦争中にいきなり王宮を爆破するようなことはしないだろう。

 だからこそ必要なのは、本当の話だ。

 ラナーは隠し持っていた髪留めを出すと、周りで魔法が発動された。流石に目の前で魔法が発動されたことに気付いたのか、ザナックは座りながら眉を顰めた。

 

「今のはモモンのマジックアイテムか?」

 

「いいえ、わたしに付けている護衛の魔法、だそうです。この会話は部屋の中で閉じ込められて、外には漏れません」

 

「護衛?それは透明な奴なのか?……それって、そいつが俺達を暗殺しようとしたら実行できるということじゃないか?」

 

「そうですよ?王家の行く末はレエブン侯に握られているという事実を、今知っているのはわたしとお兄様だけです」

 

「お前は悪魔と契約したのか……?」

 

「嫌ですわ。わたしがあそこでモモンと契約しなかったら、今頃はレエブン侯が王国を総べていましたよ?それこそわたし達は滅ぼされていたでしょう。──あの方の援助が得られて良かったですね、お兄様?今回の帝国での事変を王宮へ伝えたのはレエブン侯でしょう?あの方の情報収集能力、危機管理能力。そして抱えているモモンという懐刀。さあ、レエブン侯をどう使いますか?お兄様」

 

「……それは脅しだろう?最早」

 

「レエブン侯が本当に『王国』を想っていなければ、そうなっていたという話です。短慮な人ならこの情報と力を使って今頃王国は変わっていましたよ」

 

 そう伝えて、ラナーは椅子に座る。

 王国でレエブン侯と同じく危機感を共有している殿下達の会話が始まる。王がしている会議よりもよほど重要度の高い会話だった。

 

「で?帝国と戦争になったらどうなる?それこそ俺達の今後に関わるだろう」

 

「ジルクニフ殿下には一度会っただけですけれど、それなりに聡明です。だからこそ、革命を起こした直後で攻め入ってくることはないでしょう。だから開戦は早くても来年です。そもそも革命の際に専業騎士も数を減らしていますから。それがクーデターというものですよ」

 

「そうだな。まずは国を纏めないと戦争どころでもないだろう。貴族の締め付けとかで動くことも多いだろうしな。じゃあ来年攻めてくるとして、だ。いつ狙う?」

 

「秋の収穫期でしょう。そして毎年小競り合いを続けて必要最低限の労力で王国を占領しようとするでしょう。王国は広すぎます。帝国の貴族だけでは成り行かないでしょうから、有能な貴族は残されるでしょう。もちろん王族は生き残れません」

 

「王国が帝国に勝つには?」

 

「フールーダ翁を超える魔法詠唱者を見付けて、直接対決をさせる。今から専業騎士に勝てるように騎士団を整える。魔法への理解を深めるために、帝国のように魔法学校を設立して魔法詠唱者の戦力を整える。ジルクニフ陛下を暗殺できる戦力を用意する。これら全てをできる力を手に入れて、ようやく五分だと思いますわ。だってこれ、拮抗するための戦力ですもの」

 

「つまり、今のままだと一方的に負けるだけということだな」

 

 それが王国と帝国の純粋な力の差だ。それだけ王国は戦力に力を割かずに腐敗を続けてきた証拠。

 仮想敵国は現状帝国だけだが、周囲の法国や評議国が戦争を仕掛けてきたらそれだけで沈む。少し遠方だが竜王国にはビーストマンの被害もあって戦争をする余裕はないだろうが、聖王国が攻めてきても負けるだろう。彼らは亜人の被害のために戦力を整えていて、実質国民全員が冒険者のようなものだ。

 王国は戦力のほとんどが戦争に関われない冒険者が占めている。王国固有の戦力で言えば各地の警備兵と王宮で雇っている貴族騎士だけ。それらも戦闘のためにまともに訓練などしておらず、貴族騎士は名誉のためだけにやっているようなもの。

 それで戦闘になったらどうなるか。勝てるわけがないだろう。そういうラナーの冷酷な判断だった。

 

「モモンでもどうにもならんか?」

 

「あの人は丁稚である前に、現在は冒険者です。ルールで戦争に駆り出せませんよ」

 

「冒険者を辞めさせれば、レエブン侯の護衛として駆り出せるわけだ。お前の護衛といい、マジックアイテムといい、只者じゃないんだろう?それこそ逸脱者クラスか?」

 

「帝国が魔法詠唱者を総動員して、苦労して手に入れた死の騎士というアンデッド。その死の騎士をモモンは倒したと言っていました。最も、彼はかのアンデッドの特性を知っていたからこそだとも言っていました。そして、ビーストマンを壊滅に追い込んだ魂食らいの方が強いとも」

 

「おいおい。じゃあ実力はフールーダ以上ってことか?魂食らいのことも詳しいってことは倒したか、最悪でも生きて帰ってきたということだろう?こんな腐った国のどこにそんな英雄様が眠っていたんだ?」

 

「お父様の要らぬ王生活もたまには役に立った、ということですよ」

 

「要らぬと言うな。お前は本当に父上が嫌いだな。名付けの理由が理由なのだから納得ではあるが……。今父上に消えられると自動的にあの兄上が王位に着く。それだけは避けねばなるまい。教養のない王はどんな愚策を法案として提出するかわからん」

 

 現状ネックなことはそこだ。ランポッサが後継を指名していないため、ここでランポッサが死ねば王位継承位の問題でバルブロが自動的に王位に着く。そうなれば目障りな帝国なんて戦争で潰してしまえと言い出し、総攻撃を仕掛けて全滅する。

 そんな未来予想図が簡単に思い描けてしまった。

 ザナックとしてもモモンの実力が想定以上だったようで、そんな戦力を戦争で用いることができれば戦況を一変できるかもしれないと考えていた。帝国が周辺諸国から戦争を仕掛けられない大きな理由に、第六位階魔法が使えるフールーダの存在があるからだ。

 人類圏で最も優れた魔法詠唱者というのはそれだけ恐れられる存在だということ。王国では手品と思われているため効力がないが、他国はそれだけで攻め込むのを躊躇するレベル。

 モモンの実力が魔法によるものか、剣によるものか把握はできなかったが、フールーダと戦っても善戦できそうだというのを理解したザナック。ここまでラナーに情報を与えられれば、他のことにも気付く。

 

「帝国の情報を、隣接していないレエブン侯が把握できたのは、モモンの力だな?お前に付けている透明な護衛がいればどこにだって密偵を送れる。それでお前がモモンと連絡を取っている、魔法だかマジックアイテムだかの力があれば即時に状況説明もできる。確か《伝言》という魔法だったか。その魔法を使いすぎて情報戦で敗れてあまり使いたがる魔法ではなくなったとも習ったが、情報源がモモンの制御できる存在なら問題ないと。おいおい、情報収集に戦闘力、護衛までこなせる何かしらの能力を持っているモモンがいれば諸問題が解決するぞ?──だからこそ、レエブン侯をどう使うか、という話になるわけだ」

 

「そうですわ。モモンはレエブン侯の元で力を振るっている。それがあの人の立場ですもの。つまりレエブン侯が疎ましく思いましたら、王国に何も情報を渡さないでしょう。それこそ透明な誰かに暗殺を依頼するかもしれません。さて、ここからが大変ですわよ?」

 

「何故俺達に協力する?レエブン侯の最終目標は何だ?」

 

 そこがはっきりしないとザナックとしても危険すぎて手を取り合えない。だからこそ知っていそうなラナーに聞いてみる。

 最近、子供ができたという話だ。政略結婚の上に、貴族としてはだいぶ遅い第一子。レエブン侯はもう三十半ばだというのにようやくの子供だ。

 それだけ王国のために動いていて、結婚が遅れてしまったということでもある。

 

「あの人は真の貴族ですわ。国の安定しか考えておりません。代々レエブン領の当主はそれしか考えておりませんわ。次代のために、より良い状態で国を、自領を継続する。独立しないのは貴族としての義理と人情から。独立なり、それこそ帝国のようにクーデターをされたら、今の王国は残っていないでしょう」

 

「まあ、だろうな。レエブン領の人間はそういう奴だ。で、何故俺達なんだ?」

 

「今の王国の状況を正しく理解しているため。彼らは既にランポッサ三世に忠誠を誓っておりません。王国へ滅私奉公しているだけですわ。そして王国の次代が愚かであれば、迷いなくその懐刀を抜くでしょう」

 

「お前はその頭脳だ。俺もギリギリ及第点、というところか?」

 

「『もし王国を真に思わない王であれば、その首を取り違えて予想だにしない者を王位へ』、とのことです」

 

「王国史上女性の王はいないからな。レエブン侯も本気なわけだ。まるでかの者が戴冠を担っているようではないか。いや、今も物理的に首を狙われているのだったか?これは失言をできないな」

 

「ちなみに今の会話も護衛さんには聞かれていますよ?室内に防音の魔法を使っただけで、透明なまま室内にいらっしゃいますから」

 

「おいおい。それでは怖くて睡眠もまともに摂れないぞ。これで心労が祟って痩せてしまったらどうする?」

 

「お兄様も顔の造りは悪くないのですから、痩せたら子女に人気になると思いますよ?」

 

「もしかして痩せるのも選考内容に含まれてるのか?……食事の量、減らすかぁ」

 

「適度な運動をすると良いかと。見回りと称して王宮内を歩いて、将来的な味方を作ることで一石二鳥ですわ」

 

「それは急務だな。バカ兄上を担いで言いなりにさせようとする貴族が多い。……そういう貴族が半分以上、なんだよな。王国どうなってるんだ?」

 

「そういう国にしてしまったのはランポッサ三世ですよ。ジル君みたいに革命しますか?目指せ、帝王制!」

 

「やめろ!モモンの力を借りたらできそうなのが洒落になってない!」

 

 ラナーが軽いノリで革命を示唆するが、ザナックはそこまでしなくていいだろうと止める。

 先程帝国が王国に勝ったら土地を治める人間が足りなくなるという話をしたが、それは王国であっても同じこと。問題のある貴族を全て粛清したとしたら王国の運営が滞り、それこそ王国は滅びかねない。国を裏切っているような貴族でも、いなくなられると困るのだ。

 そういう妥協と言い訳の結果が、止まらない腐敗の原因なのだが。ザナックはまだそこまでの覚悟が足りなかった。

 

「貴族の代わりができる文官の育成。粛清をしても他国に攻められない程度の戦力の抽出。そもそも戦争にならないように外交官を帝国へ派遣。やることは山積みですわね」

 

「なあ、ラナー。少しは手伝ってくれないか?こんなの、王になる前にやっていたら痩せるどころの話ではなく、本当に死にかねん」

 

「女は政治に口を出せません。それが現在の王国の不文律です。だからお姉様方も王族ではなく他家へ降嫁という形で王族としての権利を捨てさせられたでしょう?」

 

「いや、そこは俺が特例を認めさせる。お前に手伝ってもらわなければこの泥船は沈む」

 

「もう沈んでいるのではなくて?」

 

「いや、実際はそうなんだろうが、ハッキリ言うなよ。やる気がなくなるだろ……」

 

「ではそんなお兄様に、トドメとなる情報ですわ。モモンから連絡が来ました」

 

「はぁ?今か?」

 

「はい。『帝国は弱体化している。憎っくき帝国は小僧に乗っ取られた。なればこそ、今こそ真なる王国を取り戻そうではありませんか!』これ、王の間での過半数の意見のようですわね。緊急招集だったために王国全土の貴族が集まっているわけではないために、王都にいる貴族の意見が通ってしまっている状況です」

 

「バカか⁉︎こちらから開戦を申し込むと⁉︎戦力も整えていないのに、バカ貴族どもは何を考えているんだ⁉︎」

 

「何も考えていないのでしょう?戦争を行なって、その結果どうなるか考えつかない。本気で勝てると妄想していらっしゃるのか、それとも麻薬でそういう都合の良い夢を見させられているのか。そして優柔不断なランポッサ三世は国を二分しないためにこのまま戦争に突入するでしょう。この状況で戦争に反対すれば、貴族の言葉を蔑ろにするのと同義ですから」

 

「……待て、ラナー。今麻薬と言ったか?お前は、何を知っている?」

 

 ザナックの気付きに、ラナーはにっこりと笑いかける。よくできましたと褒めるような笑みに、ザナックの想定以上にこの国が終わっているという事実に、ザナックは背筋を凍らせた。

 基本ザナックは視察などがなければ王宮から出ない。王族としての役目として各都市に赴いたこともあるが、国内のことも国外のこともあまり知らないと言ってもいい。情報は王宮で制限されているために、不必要な情報は王子には届かないようになっている。

 だから、国を蝕んでいる麻薬なんて存在のことも気付かなかった。

 ラナーはそのまま、レエブン侯とモモンが知っていること。そしてここ数年でやっている対処療法のことを全て話した。『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の正体も知り、それがモモンを中心とするレエブンの特務部隊の別名であること。そして王国を蝕んでいる犯罪組織『八本指』の掃討作戦を近々計画していること。

 それらを全部聞いた上で、ラナーはまだ使える兄へ手を差し伸べた。

 

「お兄様。今なら戦争を止められます。帝国に向かう使者を、カッツェ平野で暗殺してしまえばいいのです。いえ、それも必要ありませんね。護衛が未熟だったことにして、あの砂漠地帯を越えられなかったことにしましょう。帝国に開戦布告が届かなければ、戦争は成立しませんから」

 

「その裏工作に、モモンを、レエブン侯を使えと言うことか……?」

 

「ランポッサ三世にはその決断はできませんわ。王国900万人の民を守れるのは、お兄様しかいません。──さあ、どうしますか?」

 

 その時の妹の笑みは今まで見た中で一番美しく、恐ろしかったと。

 ザナックは後年、ボソリと漏らした。

 

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