オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
モモンはエ・ランテルの先にある王国と帝国の国境地帯に当たるカッツェ平野の中を進む王国の使節団の様子をアンデッド達に見守らせていた。カッツェ平野は常時霧が発生しているため、アンデッド発生地帯ということもありモモンの召喚モンスターを隠しておくくらいはなんてことなかった。
そして帝国へ宣戦布告するための使者達だが、モモンが手を出すまでもないほどにカッツェ平野を混乱しながら進んでいた。一応護衛に王国の極小戦力である貴族騎士がついているが、その彼らの実力はかなり低い。称号が欲しいために騎士になっている人間が訓練をまともにすることもなく。レベル10にも満たない、冒険者で言っても精々銀級くらいの実力しかない存在だ。
そんな人物達を護衛にしたところで、第三位階魔法を使ってくる
モモンの予測通り、スケルトン・ウォーリアーに囲まれて帝国とは違う方向へ逃げ出す使節団。モモンが手を出すまでもなさそうだったが、下手に死なれても帝国に暗殺されたとなって結局戦争が止められなさそうなので、危なくなったらアンデッドに介入させるつもりだ。
最近のモモンはやることが多すぎて、アンデッドの体が欲しいと思っていた。睡眠と疲労無効化。それが欲しくなるほどに激務をこの数年続けている。それか
麻薬畑を焼き、『
リアルの頃のブラック企業の頃と変わらず、やるべきタスクがずっと重なっていく始末。これをエリアスとザナックとラナーだけでどうにかしようとするのは無理だろう。王国には圧倒的に武力が足りない。となると戦争をしない国にするしかないのだが、それとは真逆の行為をランポッサは選択したわけだ。
それがたとえ国を二分化しないための、苦渋の選択だとしても。泥沼にしないように泥舟を作成していては一向に国が良くなるわけがない。
だからモモンは産まれてしまった。
だから、彼の両親は殺されてしまった。
両親を殺すように動いてしまうほど、姉達の心を壊してしまった。そうして大小様々な悲劇を何度も何度も繰り返し、どんどん王国という大樹は痩せ細っていく。過分に収穫できる農作物を輸出し、得ていた外貨をそのまま支出として消費していき。国庫もどんどんすり減っていって、財政の面でも人材の面でも王国は減ったものの拡充ができていない。
モモンのアンデッドだって、死体の確保先がなくなれば戦力として得る方法もなくなる。モモンとしてアンデッド作成に頼るのも、中々将来性がない状況だ。今なら『八本指』がいるので悪人の死体も回収できるが、それだってもうすぐ実施する『八本指』の殲滅作戦が終われば回収手段がない。犯罪者の全員の身柄をアンデッドに変えるわけにはいかず、見せしめの処刑も必要になる。
そもそもの構成員をどうにかするにも、今の法では結局全員に対処するにはかなり時間がかかる。それに捕らえた人間を全部モモンのアンデッドにするわけにもいかないだろう。たとえ功労者がモモンであったとしても、死体の使い方なんて公表できるわけもない。
つまり、モモンの能力を最大限に活かすのなら人間ではなく魔物の死体でも使うしかなくなる。政変が終わった後にそんな余裕があるかと言われたら、おそらくないだろう。
(そもそもなぁ。俺もレエブン侯に帝王学を学んでいるけど、リアルの頃の現代知識があんまり役に立っていないからなぁ。ラナーとかザナックとか、それが役目とはいえ幼い時から勉強してるなんて凄すぎるぞ。そうやって頑張ってる下の子達に比べて上の兄と父親は……。止めろよ、戦争)
そろそろ危なくなってきた布告書を持った貴族の人間が下級アンデッド達に追いかけ回されていて、護衛の人間が何人か死んだところでモモンの召喚したモンスターにカッツェ平野の野良アンデッドを倒させる。結果として使節団は三人を残してエ・ランテルへと引き返していった。
そこまで確認して、モモンは転移魔法で王都のレエブン家の別邸へ帰る。
できたら帝国にも足を伸ばして状況を直に確認したかったが、アンデッドから送られてくる情報だけでもまだ貴族の粛清が続いているという話を聞く。そこに一応王国の貴族であるモモンがいることがバレたら、何を言われるか分からない。それこそ帝国に捕まる可能性もある。
モモンが帝国に捕まり、フールーダに見られると彼のタレントによってモモンが隠している真の実力がバレる。彼のタレントは対象者がどれだけの魔力系の位階魔法が使えるかを看破するという能力であり、今のモモンに使える魔法の位階を見られたら幽閉されかねない。
一応魔法でステータス偽装は実施しているし、実力差を考えればモモンが捕まることは早々ない。だがユグドラシル時代と比べると装備もアイテムも実力も格段に劣っている。だから油断していればモモンの知らないマジックアイテムによって逆手を取られるかもしれない。だからこそ実力が近しい帝国の本拠地に飛び込むことはせず、アンデッドを忍び込ませるだけにしている。
エリアスに使節団のことを伝え、代表の貴族に上位死霊をつけたことから行動は筒抜け。今のところはこのまま王都へ蜻蛉返りになり、王家へもっと優秀な護衛をつけるように要請するつもりのようだ。とはいえ王族・王国が保有するこれ以上の戦力などなく、他の戦力となるとルールを捻じ曲げて冒険者に護衛を頼むしかないだろう。それか、大貴族が隠し持っている騎士団に護衛を頼むか。
もしもう一度使節団を送るとなれば、またモモンがエ・ランテルに赴いて同じようなことをすればいい。ひとまずは直近でやることはなくなったために、状況整理をすることにする。このまま今年戦争が起こらなければ猶予ができる。その間にモモンがやるべきことをエリアスと確認した。
麻薬畑と違法娼館の対処は今のところなし。冒険者もエリアスの護衛に集中するために辞めた。冒険者組合からは折角の実力があるために辞めてしまうのは勿体無いとして、扱い的には休止。いつでも復帰していいと言われたがそれは特例ということでこの取り決めは秘密にされている。
レエブン領の治安は問題なし。今もモモンのアンデッド達が巡回をし、もし悪徳組織が何かをしようとした瞬間に
王都で行われている連日連夜の、意味のない会議がずっと続いており、誰も詳細情報は知らないのに帝都で貴族が粛清されていく状況に新しい陛下はバカだと、国を支える貴族がいなくなれば国が先細るだけだと、そんな内容がない会話ばかりしていた。戦争になったら誰が先陣を切るだの、相手の戦力は手品師ばかりで戦力としてまともな人間はいないから余裕で勝てるだの。
モモンも上位死霊を通してその会議の内容を聞いていたが、王国の戦力では帝国と戦ったら百回負ける。モモンも戦場で目立つつもりもなく、最終手段こそ用意しているものの、まともに戦ったら負けるのでまずは戦争にならないように手回しをする予定だ。
王国の戦争告知については全部潰せる。となると、帝国が攻めてこない今年の内に『八本指』を殲滅しなければならない。
王宮での意味のない会議から帰ってきたレエブンは、その判断を下した。彼は子供が産まれて若干丸くなり、当初の予定よりは変わったが大筋は変わらない。
現政権の打倒。新しい王の擁立だ。
「モモン、私はザナック王子を擁立する。君は、良いのか?」
「自分に王は務まりませんよ。こうしてエリアス様に命じられて動く方が楽です。もちろんエリアス様がおかしなことをしようとしたらすぐに止めますが。……
「婚外子だからな。では当初通りザナック王子を新王とする。賛成の貴族を三割集めた。無派閥と貴族派閥も『八本指』関係者を除けばこの三割に満たない。数の勝利は確定だ」
「そこまで根回しをしておいて、自分が王を名乗ったら失敗するだけですよ」
「最終確認だよ。時に強い王が必要な時もある。外交上、使えるカードとしてはかなり大きい。君の本来の力を隠すとしたら今のように、裏から手を差し伸べるくらいが一番か」
「そういうことです」
元社会人、それもリアルの中では最下層一歩手前だった身分の者が異世界で産まれ変わったからといきなり王になれるわけもない。ユグドラシル由来の力が使えるだけの、世界的に見ても強いだけの、ただの人間だ。
本人なりに貴族としての勉強をしたが、それ以上に優先すべき爆弾が王国内に多すぎた。母と育ての父が眠る地をそんな酷い有様のまま去ることも人間としての良心が咎め、力があったからこそそれを行使しただけ。
結局モモンの、というより鈴木悟の習性として社会の歯車くらいがちょうど良いということだろう。
王家の血筋だろうが、貴族の勉強をしても。器としては、人間の心根としては鈴木悟のまま固定されている。王になってやりたいことなどなく、むしろ面倒だなと思うのが彼の正直な心情。前世でゲーム内ならギルド長になることは了承できても、仕事では管理職になりたくなかった彼が王になりたいなどと思うことはなかった。
もし王族が全員兄や姉のように終わっている性格で、エリアスに煽て上げられたら渋々王になったかもしれないが、それは選択肢がなかった場合のことだ。
ザナックがまともで、そのザナックのフォローにエリアスとラナーが入る。戦力的にはモモンがいる。レベル100の集団にでも襲われなければ世界でも屈指の実力者が守護者として君臨するなら防衛的にも問題ないだろう。
「では『八本指』の方だ。王都以外の拠点はどうなった?」
「全て制圧済みです。国外に逃げようとした連中も全部《支配》で確保済み。決行日に王都へ移動させるように命令できます」
「では逆に王都の拠点は?」
「セーフハウスも合わせて全部把握済み。各拠点に複数の上位死霊を配置済み。そして警備部門に送った
「まさか『
「警備部門は全ての仕事で『
「完璧だ。この功績があれば私も君も王位に就くくらいできそうなものだが、年月が経ったな」
「私は復讐さえできれば興味ないと最初から申し上げていましたが?」
「子供の気持ちなんて変わりやすい。王になれると思ったら欲を出してしまうのが人間だ。昔の私のようにな」
「そうなれば王の資質なしとして封殺していたでしょう?あなたの権力があれば王国を出られず、子供一人を餓死に追い込むくらい簡単でしょうから」
「もうそのつもりはないとも」
つまりは当初の予定通り、エリアスが王位を狙っている頃にはそういう選択肢もあったということ。とはいえエリアスにとってもそれは最終手段で、これだけ情報収集と戦力的な意味で重要なモモンを手放す選択肢はなかった。もし手放したらモモンの復讐の相手にエリアスが加わっただけだろうから。
子供ができる前までの自分は青かったなと、今更ながら振り返るエリアス。それほどまでに王国の状況が悪かったからトップを挿げ替えるという極端な発案をしようとしていただけのこと。
つまり彼は王国を愛しすぎていた。その愛を向ける先が妻と息子に分配されて心の余裕ができただけのことだ。
「それで、決行日はいつになさいますか?」
「王宮ではまだ戦争推進派が主流だ。大体が儲かるからと『八本指』に唆された愚か者の弁だがな。次の使者を止めてすぐ。そこを決行の合図としよう」
「かしこまりました。ではそのように進めます」
エリアスの指示通りにアンデッド達に通達するモモン。もうすぐ、両親を殺すように依頼を出した姉達へ復讐を果たせる。そこがひとまずのゴールだと、そこに至るまでミスのないようにと自己研鑽を進めていたところで、深夜にラナーに付けていた上位死霊から連絡が来る。すぐに《伝言》の魔法を繋げると、珍しく会いたいと言うので転移で会いに行くことにした。
ラナーはたまにモモンに直接会いたいと呼び出す。転移魔法で直接離宮のラナーの部屋に来られると知ってからは何度か呼び出していた。会ってすることと言えば王都の外の状況を話したり、今の流行りは何なのかという話や、魔法の知識について。
モモンとしてもエリアスとしても知能の高い、王国の危機に気付いているまともな王族であるラナーは味方に引き入れたかったので、モモンが直接会うことは積極的に推奨された。そのおかげで様々なことをざっくばらんに話せるようになったし、関係値として表しても結構良い数字になるのではないかとモモンは思っていた。
歳下の女の子と話す経験なんてほぼなく、しかも半分は血が繋がった妹ということでどうすれば良いのかわからず最初の内はエリアスと話す時のように従者としての態度を保っていたが、ラナーの知性が高かったことと王族というステータスからそのコミニュケーションで問題なかったのか話はスムーズにいく。
《伝言》の魔法で話す内容が他の人には聞こえないこともあって、とてもフランクな関係を保てるようになっていた。無詠唱化させていると声に出す必要がないと知り、ラナーと会話する時は基本これで話していた。
窓のすぐ内側に転移でラナーの部屋に行くと、ラナーは既に寝巻きに着替えていた。メイドが着せたのだろうが、夜遅くなのでこの格好も当然だ。人払いをした後となると就寝すると告げた状態でもなければ不可能。まさか一階でもない部屋に賊が侵入するなんて考えがないのだろう。
第三位階魔法の《飛行》を使ってしまえば簡単に来られる。そして窓を壊してすぐに攫ってしまえば簡単に王女誘拐ができるわけだが、それらに対する策を何も用意していない。モモンや魔法詠唱者から見たら不用心すぎる離宮の警備だった。
上位死霊に補助魔法を使っているので、外にモモン達の声が漏れることはない。
「ラナー、久しぶり。会うのは三ヶ月ぶりかな?」
「お久しぶりです、モモン。もう少し顔を合わせてくれても良いのに……」
「ごめんごめん。色々と忙しかったんだよ。『
「ある程度は改善しましたけど、捕まったほとんどの人は巡回使の権限で釈放されていますよ?」
「そうなんだよね。やっぱり王国の法に不備がありすぎる。……これでよく法治国家を名乗れるよね?」
「本当に。法も議会も絶対王政も、何も機能しておりません。国家のていを為した伽藍堂の箱庭ですわ」
モモンはいわゆるエロゲーマスターだった親友のペロロンチーノの言葉を思い出し、幼い少女に接する歳上は少し砕けた話し方をすると好感度アップ!と力説されたのでその通りに話している。その助言が合っていたのか不明だが、今のところラナーの感触は悪くない。
実のところ、ラナーとしては話し方は何でも良くて、モモンと話すことを優先しているだけである。モモンがあえてそうしていることに気付きつつも、それに乗っかかるノリの良い妹であった。
モモンとしては会話を合わせることに必死で、難しい単語を知ってるなー。くらいの感想を持ちながら会話を続ける。鈴木悟の頃から頭の回転は良かったが、学業などの成績という意味ではそこそこでしかなかったために、頭の良さではラナーにとっくに抜かれていると理解しているため、ある程度話を合わせているだけだったりする。
「今日はどうしたの?やっぱり戦争の話?」
「はい。……帝国と戦争をすれば勝てるわけがありません。それがわからない貴族と王家の人間が、民の犠牲を顧みずに愚直に戦乱への道を歩み続ける。わたし達王族はどこで間違えたのでしょう?」
「ラナーとザナックって何か間違えたっけ?ザナックは最近会議に参加できるようにはなったって聞くけど、発言力はないでしょ?ラナーも同じ。バルブロはむしろ戦争推進派だし、ランポッサも貴族を止められないんだからそう言うのはしょうがないけどさ……。王族で括らない方が良いよ。ラナーはラナーでしょ?」
「そう言っていただけると、心が軽くなります。……やはり帝国と同じく、血の革命しか道はないのですね」
「ほとんどの貴族が『八本指』と繋がってるからね。それに今のランポッサじゃ息子と娘はどうにか生き延びさせるかもしれない。……それだけは俺が許さない。死は死を持ってして裁かれなければならないんだから」
そのモモンの怒気に、ラナーはゾクリとする。普段は穏やかなモモンではあるが、復讐の時になれば冷酷な恐ろしい一面を見せる。
ラナーはそれがたまらなく好きだった。四歳の誕生日パーティーでも彼を気になった最初のきっかけはそこだった。絶対に復讐するという強い意志と冷ややかな瞳。それが直接見たくて部屋へ呼んだ側面がある。
家族を殺されたのなら、そう思うのが普通の人間なのだろう。ラナーにとって家族はモモン一人のために、本当にそんな激情を浮かべられるかわからない。
第八位階を使える超越者が、ドラゴンなどの超常の存在以外に殺されるイメージが持てなかったからだ。
ザナックは言葉上は兄として扱っているが、どうしても彼は家族というより便利な王位を渡せる人の認識だ。ザナックが死んでも、そうかと思っておしまいになるだろうと考えている。枠組みとしてはレエブン侯と同じ枠組みで、便利な人以上にはなれない。
だがモモンは、そう思えない。冒険者としての力量。魔法詠唱者として隔絶した実力。大人と話しているようなことを考えさせる知性。そして、復讐を胸に秘めた、家族への愛がある人。
ラナー自身、モモンと話していて妹として大事にされている感覚があった。家族を殺された激情を持つ人が、妹だからと優しく接するラナー。数年間のやり取りでこれが愛なのだと彼女は理解した。そして同じ想いを持てない相手には愛していないと認識する。
結果として彼女の愛が向く先は、モモンだけになる。その愛の種類は、果たして。
「自分の番ということを受け入れられない人には、難しいかもしれません。貴族としての矜持も捨ててしまった、子供のような方々には」
「ああ、なるほど。確かに言われて気付いたけど、あの人達は幼稚なんだな。自分ならできると空虚なアピールをして、特権が欲しくて我儘放題。そして自分の罪から目を逸す。子供でもない、幼稚さというのは真を突いているかもしれない。ラナーは物事がよく見えてるなぁ」
「見えすぎることは疲れてしまいます。そのことを教えてくれたのはモモンですよ?」
「ああ、誕生日パーティーでのことだね。あの時は王族なのにすっごい痩せててびっくりしたよ。最近はそんなことなさそうで安心したけど」
「あまりレディの体を採点しないでくださいね?」
「え、あ!そんなつもりなかったんだけど!健康的になったなって思っただけで!」
「そういうことにしておきましょう。それこそあの頃と比べればマシになったことは事実ですから」
二人して座りながら、懐かしい頃の話もする。もちろんそれだけではなく王宮の様子や、誰がどう動こうとしているのかも話す。ラナーとエリアスが直接話す機会もなかったので、お互いの方針の話と、王族がどう動こうとしているのかの確認になった。
齟齬が出ても困るので、報連相はしっかりと行われていく。
ランポッサはやはり大きな声に流されるまま。ランポッサも戦争の経験はあるが、それはあくまで王国併合のための内乱鎮圧の面が強く、帝国のような他国との戦争は初めてのこと。自身が前線指揮をするわけでもない戦争は初めてのことで、準備などは貴族に丸投げのようだ。勇ましいことに戦争になればその前線へ赴くと宣言もしていたということ。
負けることを知らない、常勝将軍のような物言いだったとラナーは話す。負けた時のことはどうするかなど、息子娘に一切話していなかったことから自分が死ぬことを想定していないということ。
バルブロもそれに続こうと直接戦場に向かうつもりのようだ。最近決まったボウロロープ侯の娘との婚姻のこともあって、貴族派閥が彼へおべっかを使って囃し立てているという。王国の五大宝物も用いて戦場で功績を立てようとしているらしい。
ザナックはラナーとエリアスの手を取って、たとえ戦争になっても王都から出るつもりがないと告げていた。それが正常な判断だ。そしてランポッサがいなくなった後の王座に着くことをよしとした。
戦争に用いられるのはやはり、農民。貴族も出陣するが、前線で切った張ったをするわけではない。戦争になるために徴兵の布告をしようと進めているようで、どんな人物が徴兵されるのかの選定に入るだろう。物資などもどこから調達するかなどの会議を今もしている。
その会議の報告は後でアンデッドから資料を纏めてもらってから確認する予定だ。
長く話したからか、ベッドに腰掛けて話していたラナーが頭をモモンの肩に乗せてくる。これまで二人でいた時もボディタッチなんてされたことがなかったのでモモンはいきなりのことに心臓が跳ねた。
この世界がそもそも美形ばかりの世界なのだが、その中でもラナーの容姿は飛び抜けている。他国でも黄金と称されるほどの美少女だ。そんなラナーに寄りかかられたら驚きもする。
「ラナー?」
「少し、不安になってしまって……。ザナックお兄様やレエブン侯、それにモモンが頑張って戦争にならないようにしてくれているのはわかっています。それでも、こんなにも戦争の足音が近い……。それだけじゃなく、『八本指』のことにも対処しなければなりません。計画の通りに行くとしても、どれだけの血が流れるか……」
「そう、だよな。多分たくさん血が流れると思う。でもやらなくちゃ、王国の一般人が犠牲になって、ザナック王子やラナーも危険になるかもしれない……。それは嫌だ。昔、正義の味方を名乗る人がいてさ。その人に俺は救われたんだ。あの人がやったように……。俺も、正義の味方になりたい。あの人なら血生臭い手段を取らなくても済んだかもしれないけど、俺にはアンデッドを使ってこれくらいしかできないから」
「でも、モモンが動いてくれなければ王国は取り返しのつかないことになっていたかもしれません。……ありがとう。そしてごめんなさい。ずっと負担をかけて──」
そう言ってラナーはモモンの左手を両手で包む。女の子に初めて触れて、しかも柔らかい感触に包まれたことでモモンの両肩は物理的に跳ねた。
本当に嬉しそうな、そして悲しそうな混ぜこぜになった表情で自分を見つめる絶世の美少女。その姿を見てモモンはその瞳に吸い込まれそうになるが、理性で思い留まる。
(この子は妹!半分血が繋がった妹だから!ときめいたらやばいだろ!)
(『でもモモンガさん、実の兄妹の禁断の恋なんてエロゲーじゃよくあることですよ!しかも半分だけ血が繋がっているとか逆にニッチ!押し倒せー!』)
(ペロロンチーノさんはそんなこと言わない!……いや、言うかもなぁ)
友人の幻聴が聞こえてきたような気がしたモモンはそれでも、目の前の少女は妹だと思うことでどうにか理性を保った。
一方のラナーはこの状況について、冷静に思考を巡らせている。
(現状モモン側からすれば、モモンが王族だなんて気付いていないと思っている。口にもしていないもの。目の前の人は幼少期の我儘を律儀に守って、冒険者として優秀で、王国を憂う人の一人で、大事な協力者。普通の少女なら惚れてしまってもおかしくない、貴族の子女が欲しがる逸材。そんな人に、国を憂う、救われた少女が何を想うか。──逃しませんよ?お兄様)
あわよくばこのままベッドに引き摺り込みたかったが、モモンは日付が変わる前に帰ってしまった。
それを残念がる少女の顔で見送り、触れていた彼の熱を思い出しながら手を包んで丸まって眠るラナー。
その日の夢見心地は、最高だった。