オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
『八本指』の本拠。そこで今、七部門の頭が顔を突き合わせて会議を行なっていた。ここに奴隷売買部門の長だけ不在だったのは、代替わりが激しいこともそうだが、あの部門が娼館や奴隷商会を立ち上げようとする度に即座に『
彼らの商売は『
警備は純粋に貴族の護衛などで要請されるので普通にシノギがあり。賭博も大損した人間を奴隷部門に売り飛ばしたりしない限りは介入されなかった。このことから『
麻薬は畑も実物も徹底的に燃やされて売り上げがない。それでも今までの売り上げと、『八本指』としても大貴族や王族を脅すための材料になる命令書を握っているために会議に参加できていた。王国をひっくり返すための材料がなければ奴隷部門のように会議の存在を教えられることもなかっただろう。ただし発言力は相応に失っているために意見を出すことはできなくなっていた。
そして組織全体を見ると、かなり痩せ細っていた。バカな王国貴族から金や権利を毟りとっているとはいえ、王国自体が潰れたり、収入がなくなれば未来がない。麻薬や奴隷で外貨を稼ぐつもりだったのに、そんなことも出来なさそうだったために、彼らの資金繰りがかなり危うくなっていた。
この辺りで目障りな『
「暗殺部門、奴らを消せないのか?」
「無理だ。奴らは全員が推定アダマンタイト級。もちろんウチからも何度も暗殺を仕掛けたが、全部返り討ちだ。不意打ちもマジックアイテムも効かん。王国のどこにあんな戦力が隠されていた?」
「では、警備部門は?『六腕』がいるだろう、ゼロよ」
「確かに俺たち『六腕』は全員がアダマンタイト級。だが、奴らの規模は?俺たちの調査の結果、『
「二十人というのは、本当かね?」
「麻薬部門のヒルマよ。発言許可いただける?」
「ああ、聞こうじゃないか」
「麻薬畑の作成と、密輸部門との連携で帝国への麻薬販売。それに奴隷部門を囮にして同じ日に王国の各所で行動をしたの。いくら『
「つまり二十人以上が確定か。貴族の馬鹿どもからまだ金は絞れるだろうが、潮時かね?」
「意義なし。他国での下部組織が被害にあったとは聞かん。噂通りの王家の懐刀、ではないだろうが、王国貴族の戦力なのは間違いあるまい。王国に見切りをつけて、聖王国でも行くかね?あそこの南部も中々愚かしいとのことだ」
「それはいい。して奴隷部門は?」
「我らが脱出するための陽動にする。適当に金払いの悪い、借金のある貴族も一緒に捨て駒にして何か事件を起こさせろ」
これからの行動、そして王国脱出について反対意見は出なかった。どうやって情報を把握しているのか不明で、悪事を企めば王国の法律で捕まえられる条件が整った段階で『
そんな相手と真正面から戦っても負けるだけ。なら旨みも無くなってきたのだから王国から離れて新天地を目指そうということになった。別の国の情報もそれなりに手に入っているので、活動は続けられそうだったからだ。
そう意見が纏まったところで、会議室に入ってくる人間が。その人物が慌てた様子で非常事態を伝える。
「王国貴族の一斉摘発です!犯罪を犯した者を捉えると、ザナック第二王子の勅命で逮捕者が続出しています!」
「何⁉︎あの自堕落王子が動いただと……?まさか『
「《伝言》の魔法によると、王国全土です!白い仮面を被った集団が全土で貴族を捕らえていると!」
「この騒ぎに便乗するしかあるまい。各々、王国から脱出したまえ。合流場所は聖王国だ。辿り着いたらいつもの方法で連絡を取り合おう」
「ゼロ!お前達を雇わせておくれ!報酬は高くつけるよ!」
「承った、ヒルマ。他の部門のお歴々は必要ないか?王国の警備兵を蹴散らす戦力くらい、いくらでも貸し出せるぞ」
「では私も」
「わしもじゃ」
脱出する前に警備部門に護衛を頼み出す部門長達。まずは無事に王国を脱出することが大事だ。そのための少しの出費は仕方がないと割り切る。どうせ聖王国につけばいくらでも今回の損失分くらいは取り返せると踏んでのこと。
彼らは少々、遅かった。
本拠に突如として鳴り響く轟音。構成員達の悲鳴と断末魔が響き、彼らが会議をしていた場所に、黒い外套をすっぽりと着た白い仮面の面々がやってきていた。
その数、二十人。全員が『
「おいおい、本拠が割れていただと?やはり奴隷部門か?」
「あんな役立たずども、さっさと切り捨てておけば良かったんだ!」
「ゼロ、やれぇ!」
「うおおおおおお!」
ゼロは得意の体に刻み込んだ動物の紋章を出す余裕もないと判断して、先頭の大柄の存在に殴りかかる。真っ先に数を減らせばなんとかなると思い込みたかったからだ。だが、彼の拳が届く前に彼に第三位階魔法の《火球》が三連続でぶつかる。
それは並の人間では燃え滓になっているような火力だった。ゼロが全身を焼かれても意識が残っていたのは彼のモンクとしての実力が高かったことが理由だ。とはいえ虫の息であり、トドメを刺すのは容易だった。
『やれやれ。逃げられると思っているのかね?害虫諸君』
「デイバーノック……⁉︎貴様、裏切ったのか⁉︎」
『私は元々『
デイバーノックとゼロに名付けられた
この日、『八本指』は壊滅した。
・
その日の王都はおかしな雰囲気だった。代わる代わるやってくる馬車。貴族のものだろうとはわかるものの、それらが一斉に王宮へ向かっている。そして普段庶民が見ることはない『
だが『
馬車がとにかく王宮の近くに停まり始める。その台数は100台近い。
そして王宮の中でも異変が起きていた。廊下にも庭にも離宮にも、数々の『
そこの真ん中には手錠をかけられた貴族達が立膝で座らされて、その両脇に整列するように手錠をつけていない貴族達が立ったり椅子に座ったりしている。その貴族達は真ん中に集められた貴族達へ軽蔑するような目線を向けていた。真ん中には逃げ出さないように『
逃げ出そうとした者もいたのだが、その者は丁寧に足の骨を折られて寝かされている。その心のない、手慣れた行動に青ざめる者も多かった。
暴れるような人間はそもそも王宮に連れてこられる前に痛めつけられている。既に気絶したまま寝かされている人間も多い。
真ん中に集められた人間は『八本指』に関わった者達。何かしらの犯罪を犯した者だ。それがわかっているからこそ、真っ当な貴族は屑を見る目で見下していた。そして真ん中には元王族の第一・第二王女の姿もある。
「おい、なんだこの扱いは⁉︎俺は第一王子だぞ⁉︎」
喚きながら入ってきたのはバルブロ。腕を後ろに回されて手錠をかけられた上で、両脇を『
続いてランポッサも『
そのまま歩いて玉座に座るのかと思われたが、『
第二王子が玉座に座る。正式な通達も儀礼もこなさずそんなことをすれば王位の簒奪でしかないが、それをするような納得感もあった。そんな彼に続くようにラナーもやってきて、玉座より一段下がった場所に用意された椅子へ座り、彼の前はモモンが陣取り、抜き身の漆黒の剣を床に刺す形で牽制をしていた。ラナーの近くにも『
こんな醜態を晒された、そして自分が王だとでも言う態度をしているザナックが許せず、座ったままバルブロが騒ぐ。
「おい、ザナック!貴様、誰の許しを得て玉座に座っている⁉︎どういう了見だ⁉︎」
「黙れ、バルブロ。隣の国に倣っただけだ。父上ではこの国を変えられん。なら俺が変えるしかないだろう。王国を穢す悪魔ども。貴様らの罪状を告げる。レエブン侯」
「はい、ザナック
レエブンが恭しく礼をしてからラナーと同じ段に上がり、隣の台に山として用意された羊皮紙を一枚掴む。それら全て、この場にいる貴族の罪状が書かれたもの。まず最初に『八本指』を壊滅させたことが告げられて、その拠点から押収した契約書を参考にして作られた罪状だとも告げられる。
集められた時点で察していたが、『八本指』が摘発されたのなら関わった者全員が悪だ。まずは五月蝿いバルブロから内容が発表された。
違法娼館の利用から始まり、金銭の授受に違法賭博、更には麻薬の使用に加えて王子に与えられた免状印の提供。その他にも多数の犯罪があったが、それらは捏造されたものだと喚く。
なので魔法師組合の組合長に《支配》の魔法を使ってもらい、真実を話すように命令されると全ての罪を認め、他にもこんなことをしていたと自分から言い始める。そして嘘がわかるマジックアイテムも神殿から借り受けて、それが嘘ではないと判断された。
王国が正常化するならと、法国が嬉々として提供してくれた物だ。管理は法国の神官がしている。彼らはザナックの英断を認めつつ、多数いる『
書類に魔法、そしてマジックアイテム。これらの合わせ技に反論は全て封殺され、貴族達は王国の法律に沿ってどんな刑が執行されるかの判決が下されていく。どれもこれも飛び抜けた犯罪だったことと、数を重ね過ぎた結果として最初の十人全員に死刑が通告された。
そもそも犯罪組織と関わって、間接的にだろうと人殺しに関わっているのだ。どう頑張っても無期懲役にさえできなかった。
「ヴァレッサ・ティエール・ライル・ペスペア。エ・レエブン領にあるラスタ村を襲撃するよう『八本指』へ依頼。その依頼通り、ラスタ村は壊滅。襲撃を指示した理由はランポッサ三世お手付きのラナ・モモンガが住んでいたこと。そして彼女の息子であるアインズに王位継承権がないにも関わらず、王位簒奪の危機を感じたため。その後も『八本指』とは懇意にしており、美容に効くと言われた麻薬を摂取。麻薬と知りつつ、エ・ペスペア領での栽培を許可。また、バルブロと同じく王家の印を提供したことで自身の子飼いの貴族が何をしても許される状況を作った。奴隷売買と違法賭博場への入場記録もある。王国民を死に至らしめる指示を出しただけに留まらず、様々な違法行為にも手を出している。死刑が妥当かと思われますが?ザナック陛下」
「当たり前だ。自国民を殺す愚か者など、我が王国には要らん」
「ヴァレッサ、嘘だろう⁉︎レエブン侯、何かの間違いではないのですか⁉︎それでは私の手錠は……!」
「家内を止められなかったことと、知らずとはいえあなたも麻薬の摂取をしている。ヴァレッサが我がラスタ村を襲ったのはあなたとの婚姻後。残念ながら王国法に照らし合わせても共謀罪の適応がされかねない状況だ。そしてあなたは家内に健康になれるからと、提供された何かを飲まなかったかね?」
「数年前から、少量ずつ……。確かに頭がスッキリするような感覚がしましたが、まさかあれが……?」
嘘を付いていたら反応するマジックアイテムが何も反応をしなかった。その事実に、巻き込まれたペスペア侯は絶望する。彼自身に罪の認識がないために、逆に判決は決まっていた。
「ふむ。マジックアイテムにも反応なしか。なら禁固刑三年と言ったところか。だがな、ペスペア侯。俺はお前にこれからも王国を支えてもらいたいと考えている。貴殿はそこの悪魔に唆されて麻薬と知らずに摂取してしまっただけだ。薬師組合が今回の麻薬たる黒粉の解毒薬を生成してくれている。それを飲んでしっかり養生した後、また俺を支えてくれ」
「温情、痛み入ります……!」
ペスペア侯はザナックのその判断に、涙を流しながらお礼を告げる。そして自身を陥れた女の隣には居られないと場所を移してくれるようにお願いをして、ザナックが認めて別室へ。そこで『
既に治験は済ませてある薬ではあるが、治療には時間がかかる。小さくなってしまった脳が元に戻るかは保証できない、あくまで麻薬の中毒性を抜き去る薬でしかないためにどこまで効果があるのか不明だ。
そして姉のように第二王女だったエリザベスもほぼ同じ罪で死刑を告げられる。他の貴族の中には禁錮二十年といったような、ギリギリ死刑を逃れた者もいたが貴族位と領地の没収から、ほぼ死んだも同然だった。
全員分の判決の言い渡しと、マジックアイテムなどの確認をしていた結果、全員分の判決が出た時には真夜中になっていた。判決を言い渡された者は『
モモンが召喚したアンデッドに命乞いや買収が通じるわけがない。
全員の連行も終わったところで、ザナックは玉座から立ち上がって大きく伸びをした。レエブンも肩を回しながら水分を摂っている。見ていただけの貴族も終わったことへの安堵のため息をしていた。それだけの量であるのと同時に、王国の膿がどれだけ多かったのかという話だ。
貴族以外の人間にお礼を言って退出させて、改めてザナックは残った貴族にこれからの運営について明日また話すと伝えて解散させた。そして呆然としてまだ座り込んでいるランポッサへ、非情だろうがザナックは声をかける。
既に彼は王としての威厳は存在しなかった。
「わかったか、父上。これがあなたの放置した王国の姿だ。あなたが放任した結果、俺より上の兄姉は犯罪組織に手を出して、その上父上の愛した女を殺したときた。こんな闇を、怪物を作ったのはあなたなんだよ」
「わ、私はどうすれば良かったんだザナック……!私が継いだ時点で王国は腐っていた!ヴァレッサやエリザベスがラナとアインズを殺したなんて、知らなかったんだ……‼︎」
「ただの野盗がやったと、そう信じたかったわけだ?あの二人はアインズという王族の血を受け継ぐ存在を知っていたんだろう?自分が降嫁させられて、愛人の子が王位に着く可能性があるとなったら、そう判断してもおかしくないだろう。俺だって存在を知っていたら暗殺しかねん。認知されていない王家の血筋なんぞ、クーデターの錦の旗になるだけだろうが。アインズを殺してくれたことだけは姉どもに感謝するよ。やり方が最悪だがな」
「王族だから、そうなってしまうのか……?兄姉を蹴落として、弟すら邪魔だと……」
「俺はラナーを重宝しているぞ?兄姉は最悪の部類だろうが。あんなのを育てた父上の責任だろうな。それに側室にも迎え入れずに、南方の他国の娘を身勝手に孕ませるとか、王として最悪なことをしているじゃないか。むしろ兄姉は貴方そっくりだ。上がダメだったなら俺を選べば良かったのに、それもせず次代について明言せずにのらりくらり。王としての責務も果たさずに、膿ばかり出して。貴方が王位に着いた時より今の方がよっぽど酷く見えるぞ?貴族の数も足らん。帝国とも戦争になりかねん。民も国も放っておいて、泣き言だと?──巫山戯るなよ」
ザナックはランポッサの胸倉を掴む。粛清をしたことでギリギリ踏み止まったが、麻薬の密輸などで国交貿易などの信頼度が落ちて外貨の回収がしづらい。その上、麻薬畑の蔓延で食糧の生産力も落ちている。経済だってバカな貴族が『八本指』に投資しまくったせいで崩壊し、物価なども上がっている。
奴隷として娼婦として無理矢理捕えられた民も多い。それこそザナックがレエブン侯と協力しなければ帝国と戦争になっていた可能性が高く、出費も民の命も浪費することになっていたかもしれない。
この状況で、どうすればなどと言うランポッサが信じられなかった。
「政治の失敗のツケだろうが。これからこの状況を立て直さなければならない俺の苦労がわかるか?いくら『
「こんな過激な方法が嫌で、私だってどうにかしようと……。革命後の国がどれだけ疲弊すると思っている……。政変の混乱を治めるには十年では足りぬぞ……」
「十年の苦労を避けるために二十年後の未来を潰すと?そんな考えだから王族から三人も犯罪者を出して、婚外子を暗殺された。俺もバルブロに邪魔に思われるか、帝国に戦争の敗者として処刑されただろうな。それはラナーもだ。貴方が戦争さえ止めてくれれば、最低限王として認められたが。勝てない戦争に乗り出す王など要らん」
「まさか、帝国への使者が帰ってきたのは……!」
「いや?監視こそつけたが、彼らは本当にカッツェ平野のアンデッドにやられていたぞ。恥も外聞も捨てて冒険者を雇うべきだったな。もう良い歳だろう。引退してもらうぞ、父上。王として、責任は取ってもらう」
ザナックは何かされても面倒だからと、モモンに『
「お疲れ様でした、ザナック陛下」
「レエブン侯もな。国民への通告に、愚か者どもの処刑執行。やることはまだまだ山積みだ。ラナー、お前にも手伝ってもらうからな」
「ええ、お兄様。差し当たっては、『
「そうだな。『
「エリアス様のご許可が頂ければ、参加致しましょう」
「レエブン侯?」
「『
「畏まりました」
この会話の後、国民にはランポッサの退位とザナックの戴冠。そして犯罪をしていた貴族の一斉処刑が実施され。
王国は帝国のような血の粛清によって、完全に沈む前に泥沼から這い出ることができた。