オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
王となったザナックだが、国を動かせることで見えてくることが多数あった。財源の確認や法の改案、そして税の分配などほとんどが王と専用の事務方しか知らなかったことを全て確認した後、分かったことはランポッサの様々な国の運用が雑ということだ。
改竄された資料を疑うこともない。国民がどれだけ苦しんでいても、その声が握り潰されているとは思わない。巡回士の記録が何もかも出鱈目。適当な予算案にただハンコを押すだけの仕事。
これで国の運営とは片腹痛いと、ラナーが赤インクでかなりダメ出しをしている資料を見て呻いていた。
「おい、レエブン侯……。お前ならこの惨状を知っていたんじゃないか?そうでもないとクーデターなど画策せんだろ?」
「知っておりましたよ。処刑された貴族達が私腹を肥やすために裏工作をしていたことなど。『八本指』と関わっていたほどですからね。欲というのは人間には耐え難いものなのです。良い生活を知ると、もっとと求めてしまう。特に貴族はトップが前国王ということで彼を舐めていた部分も多いでしょう。そして制度を悪用しても国に咎められない。そこまで行き着いてしまえば、あとは欲望の限りを尽くすだけです。自浄作用がなかったために腐敗が当然となる。帝国や法国と接するエ・ランテルがまともなことはパレイソナ都市長のおかげですな。あそこも腐敗していたのなら、今頃王国は消え去っていたでしょう」
「バカ貴族どもから私財を没収したが……。これを注ぎ込んでも足りるか?『八本指』から回収した資金は?」
「それもあれば足りますわ。わたしも直接見るまで信じられませんでしたが……。ギリギリのタイミングでしたね、お兄様。あと五年ほど遅ければ、そもそも復興のための資金すらありませんでしたよ?」
「これに帝国との戦費が加算されていたんだろう?国庫破綻をしていたな、冗談じゃなく」
金が出ていくことはあれど、増えることはない。いくら税を徴収しているとはいえ、その税を納める市民が奴隷として売られて税を回収できなかったり、村長が騙されて麻薬畑を作らされて、その畑を焼かれたせいで他の作物に影響が出たり、そもそも土地を使えなかったり。
これでもモモンが事前に『八本指』の行動を察知して相当数の偽指令書を潰したのだが、本物の貴族が自分の意思で書いた指令書ともなるとモモンでも防げず、麻薬ができてから潰すことも何回かあった。
麻薬を飼料として食べてしまった家畜が死んだりと、農作物・畜産業にはかなりの影響が出ていた。そういう麻薬が関わっていない食べ物は基本的に国内で消費することが多く、余剰分を輸出用にするという采配もできなかった。特にバカな貴族が使いきれもしないのに食料そのものを溜め込んで死蔵させていたり、それこそ『八本指』に融通したりしていたために、余りはそんなにない状況だった。
外交以外で外貨を得る方法は戦争くらいのものだが、これは王国の戦力的に一番あり得ない選択肢。となると地道にお金を貯めていくしかない。手っ取り早いのは、林業か。
「モモンをトブの大森林に派遣してセーフゾーンを作り、そこで林業を実施する。帝国との境界線も曖昧だ。開拓村の近くなら少し森を削っても大丈夫だろう」
「森の賢王はどうなさいます?あの辺りは賢王のテリトリーです」
「お前の丁稚は謎の魔獣に負ける程度なのか?」
「まさか。問題はないでしょう。モンスターの死骸で新たな開拓村の護衛を増やせる。まさしく一石二鳥かと」
「モモンありきの財政策なんて長続きせん。だからこその騎士団選抜のための武闘大会だ」
モモンの出撃に関する書類をラナーに纏めさせ、武闘大会についてはエリアスに任せる。ザナックはその他の処理するべきことをこなしていく。
モモンはさっさと転移でトブの大森林に向かい、そこでモンスターを間引き。ある程度倒した後はエ・ランテルの冒険者へ引き継ぐ予定だった。大森林の奥にでも行かなければ強いモンスターもおらず、護衛や狩りも大事な収入源だった。
大森林の開拓事業ともなれば大規模なプロジェクトで、資金も人材も時間もかかるはずだったのだが、モモンと『
奴隷から解放された開拓民達も、護衛や村作りで雇われた冒険者も、あまりのスピードに驚くばかりだ。
流石に住まいが仮のままでは問題だったので、そこは知識のある大工などがちゃんとした家に作り直してまともな村の形にしていく。それくらいしかやれることがないということで、開墾や林業のやり方、柵の作成など村作りが進められていく。
村人がやれることをやっていく間に、更にモモンがやらかした。その内容としてはトブの大森林の南側を支配している森の賢王を眷属にして帰ってきて、しかもその魔獣に「ハムスケ」と名前をつけたが、その名前の由来がわからなかった民達。
見たことのない新種の魔獣ではあったため、その魔獣の種族を知っていたのかもしれない。その知識はどこから来たのかと、この開拓村の護衛をしていた『蒼の薔薇』のリグリットはモモンについて考えを深める。
「モモンさん、あんな魔獣も手懐けるなんて……。私達も負けてられないわね!」
「負けてられないって、オレ達は何をすんだよ?一応トブの大森林には三体の魔獣が縄張りを作ってるって噂はあるけど……」
「そいつらをテイムするのよ!いくわよ、ガガーラン、リグリット!」
「そんなことをしたら折角モモンがテイムしたあの魔獣の契約の意味がなくなる。それに遠すぎて依頼外じゃろ」
最近白金級になった『蒼の薔薇』とはいえ、難度90を超えるという大森林の長をテイムするのは難しい。
それにモモンがハムスケと名付けた魔獣には普段はトブの大森林に居させて、巡回ルートに今回の開拓村を含んでもらうという、今までとあまり変わらない生活を心掛けさせた。そのため大森林内への影響も最小限に留められる策だ。
そんな予後のことも考えたモモンの考えに、リグリットは確認したいことがあったために、夜に一人でいるところへ声をかける。モモンからも了承を得て、村の外にあった適当な切り株に腰をかけて話し始めた。
「それで何の御用です?十三英雄のリグリット様」
「ありゃ、知られていたのかい。十三英雄って言っても実力は下の方さ。ちょっとアンデッドとか死霊を扱うのが上手いだけの老婆だよ。で?アンタはあの『
「──気付いていましたか」
「ご同輩だからねぇ。王国の暗部組織だから仮面を被ってるとか国民は思ってるんだろうけど、敏感な奴は気付くさ。普通の人間なら王国中の貴族と犯罪者を捕まえられるほどアンデッドを呼び出せるなんて思ってないから気付かないんだろうけどね。ちなみにあたしにも無理だ。なあ、モモン。アンタ、『ぷれいやー』かい?それとも、神人?」
そこまで直接的に聞いてくる人がいなかったために、モモンは少しだけ目を開いてしまう。
『
法国という、プレイヤーが建国した国の存在を知り、その他のプレイヤーと思われる存在がやってきたことを考えれば警戒されるのもわかる。
最も、モモンの場合はその事情がかなり異なる。他のプレイヤーはユグドラシルでのアバターそのままにこの世界にやってきたようだが、モモンはこの世界の人間としてちゃんと産まれている。そういう意味では厳密にはプレイヤーではないのだが、現地民では信じられない力を持っていれば、疑われても仕方がない。
「『プレイヤー』という神ではありませんよ。私には父も母もいます。父は狩猟が得意なだけの剣士で、母も優しい朗らかな人でした。神の血筋だったとも聞いたことがありません」
「まあ、そうだろうね。もしランポッサが神の血筋なら王族は、というより王国はもっと平穏だっただろう。となると母親の方だけど、彼女もただ南方の良いところのお嬢さんってだけ。神に連なるような痕跡は出てこない。だからこそアンタの実力は際立っておかしいんだけどね?アインズ王子」
「──そこまで調べたのですか?」
モモンはいくら250歳を越えているような超人だとしても、そこまでの情報を知り得ているとは思わなかった。それは極秘の、王家の恥部だ。今の国王であるザナックにも、もちろんラナーにも伝えず、真相を知っているのはレエブン家の者のみ。
アインズという王位継承権もない王子がいたということは先日の大粛清で貴族に知られ渡ったが、その王子は殺されたことになっている。そのアインズがモモンであると公言したことは一切ない。
だというのに知られていたということで、モモンは目の前の老婆を警戒する。
本当の父親のことではなく、養父の方を紹介したのに、両者を間違われたことについては何も言わなかった。どうしたってモモンにはこの忌まわしい血筋が関わってきてしまうために。
「おっと、怒らないでくれよ。これでもあたしはアンタに忠告に来たんだ。──世界最強の竜王、評議國を統べる十三英雄からの言伝だ」
「白金の竜王……!まさかドラゴンが十三英雄だったと?」
「本当はもっと人数もいたし、ドラゴン以外にも亜人や異形種はたくさんいたんだけどね?脱線したが言伝だ。『人類圏でその過剰な力を使用しないように。そうすれば僕は君のことを見逃そう。この決め事を破れば、世界盟約の元、君を殺す』以上だよ」
「随分上から……。噂が本当なら難度300以上の化け物なんだから当然か。俺の勝手一つで王国を滅ぼそうとするなら従うしかないじゃないか。……世界盟約とは何です?強い存在を縛るための決め事ですか?」
「そんなところだね。『ぷれいやー』の力は強大すぎる。好き勝手されたら世界はめちゃくちゃになるだろう?それを抑止するための決め事さ。アンタが『
「でも帝国と戦争しないように介入することはない。随分身勝手な神様気取りだ。ある意味プレイヤーよりも傲慢なのでは?……まあ、良いでしょう。リグリット様、白金の竜王にお伝えください。『王国に危機が迫らない限り、極力その約束を守る』と。まさかかの竜王も突如現れた危険に対応するために、力も使わず殺されろなんて理不尽なことは言わないでしょう?それこそ──プレイヤーが襲ってきたりした場合には」
「まあ、そういう緊急時はね。あとは戦争でド派手に力を使わなければあの頭でっかちもとやかく言わないさ」
「襲われているのに手加減をしろとは酷なことを言う。王国から攻めることがないように、抑止力にはなります。それで良いですか?」
「ああ。そう伝えておくよ」
リグリットはモモンの回答に満足したのか、立ち上がって去ってしまう。
世界最強の竜王に調べられたのでは、バレてしまっても仕方がないとは思うモモン。ただし戦争のことについては納得のいかない部分もあった。
「帝国は第六位階を使ってくるのに、こっちは制限しろって?フールーダはユグドラシルの恩恵もないこの世界の人間だからか?プレイヤーのやらかしは知ってるが……。八欲王みたいな奴らが来て世界侵略を始めたらどうするんだ?竜王もあまり残ってない、人間で強いのは極一部。プレイヤーと比べたら時間稼ぎもできない程度の存在。百年の揺り返しか……。それが俺だったら良いんだけど」