「天空都市は住民のから徴収した魔力で成り立つと言ったな。アレは嘘だ!それで賄えるのは運用魔力の三割!残り七割は、とある存在によって賄われているのだよ!!」 作:タワマン太郎
オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル
タグ:残酷な描写 転生 性転換 TS 最強
「天空都市は住民から徴収した魔力で成り立つと言ったな。アレは嘘だ! それで賄えるのは運用魔力の三割! 残り七割は、とある存在によって賄われているのだよ!!」
血を吐きながら、なお嗤う。
天空都市アストラディアの最下層、天蓋を支える神殿区画の最奥。砕けた白亜の床には幾何学の魔法陣が幾重にも走り、崩れた大理石柱の隙間からは都市核の青白い光が脈動していた。焦げ付いた空気の中、膝をついていた魔族リュークリウッドは、追い詰められた獣のような濁った目で勇者たちを睨み上げていた。
神藤勇輝は剣を構えたまま眉をひそめる。彼の剣身には、神より与えられた唯一無二のギフト【断絶付与】が淡く宿っていた。万物を等しく断つ理不尽の刃。その切っ先が、今まさに魔王軍序列十三位の喉元を捉えている。
「……なにを言っている」
勇輝の声は低い。正義感ゆえの怒りと、腹の底を冷やす得体の知れない嫌な予感が混じっていた。
その後方では、白金の法衣を血と煤で汚したリュファス・フォン・アイローラが息を呑んだ。彼女は微かな癒しの光を指先に宿しながら、信じられないように首を振る。
「都市全体を支える魔力を、ひとつの存在が……? そんなこと、理論上ありえません……!」
大盾を深々と地に突き立て、前衛を守っていたレヴィア・ソーラの表情も険しい。ニア教の聖騎士たる彼女の精悍な瞳が、祭壇の最奥に鎮座する巨大な重封印扉へ向く。
「この高密度すぎる反応……まさか、地下全域そのものが『封印装置』……!?」
王国宮廷魔術師たる才媛、クリア・セレーゼは蒼白な顔で周囲に浮かぶ古代文字の解析を急いでいた。震える声が、絶望的な確信を帯びる。
「術式構造が違います! これは都市核じゃない……! 都市核が、地下に眠る“なにか”に寄生して魔力を吸い上げているんです……!」
リュークリウッドは、四人の狼狽を見て壊れたように喉を震わせた。
「く、はは……ようやく見えたか! 千年の繁栄、浮遊大陸の奇跡、空を渡る白鳥の城塞……その全ては、住民の献身などという美談で成り立っていたわけではない!」
彼は崩れた祭壇に自らの腕を突き立て、黒い負の血を魔法陣へと流し込む。
「この都市は眠る太陽の上に築かれた棺だ! お前たちは英雄譚の気取りで、触れてはならぬ棺の蓋をこじ開けたに過ぎん!」
「止めろッ!」
勇輝が踏み込む。
だが、間に合わない。
リュークリウッドは両腕を大きく広げ、まるで劇場の狂言者のように高らかに叫んだ。
「――聞け、幽冥に沈む星骸の夢。
七つの夜を喰らい、九つの暁を拒み、
十三の罪名をもって我が血を鍵と成す。
眠りし災光よ、封環を裂け。
沈黙の棺を破り、白き終末の羽を広げよ。
禁じられし黎明、邪月に濡れし太陽、
我が呼び声に応じ、現世へその眼を開け――
《アルカ・ノクス・エクスシオン》!!」
――ズ、ズズ……!
神殿そのものが軋み、悲鳴を上げた。
幾重にも重なっていた高次の封印陣が、薄いガラスのように一枚ずつ砕け散っていく。祭壇の奥、巨大扉の継ぎ目から朝焼けのような白金の光が滲み出した。
いや、光と呼ぶにはあまりにも濃密すぎた。空気が瞬時に燃え上がり、充満する魔力が空間そのものを歪める。四人の髪が静電気のように逆立った。
扉が、音もなく開く。
そこにいたのは――少女だった。
透けるほどに白い肌。腰まで流れる美しい淡銀の髪。年の頃は十代半ばほどに見える華奢な体躯。だが、その背に揺れていたのは、明らかに人ならざる六対十二枚の銀翼。羽毛というより、神話を精密な金属細工で写し取ったような、硬質で神聖で、それでいて恐ろしいほどの鋭利さを秘めた翼。
少女は、重そうなまぶたを半分だけ開き、ひどく眠たげに周囲を見回した。
「……ん……ふぁ……」
その声は、あまりにも小さく、儚かった。
だが次の瞬間、リュークリウッドが狂喜に顔を歪めて叫ぶ。
「目覚めよ、我が切り札! さあ、この忌々しい人間どもを――」
最期まで言葉を紡ぐことは叶わなかった。
少女が、ただ鬱陶しそうに、ハエでも追い払うように片手を「パッ」と振ったからだ。
技ですらなかった。詠唱も、魔法陣も、術理の構築すら存在しない。ただ、そこに存在するあまりに膨大すぎる魔力が、欠伸混じりに漏れ出ただけ。
世界が、一瞬で白く裂けた。
音は遅れてやってきた。いや、音と呼べる代物ですらない。空間が紙のように一線で断ち切られ、白光の奔流が一直線に走り抜ける。
リュークリウッドの上半身も下半身も、彼の発した悲鳴も、千年の野望も、まとめてその白光の中へと消し飛んだ。跡形もない。灰すら残らない完全なる不活性化。
余波だけで神殿の半分が蒸発し、分厚い天井が丸ごとごっそり抉れ去る。天空都市を支える最下層の強力な防御結界に、網目のように巨大な亀裂が走った。
勇輝たちは、誰一人として動けなかった。
勇輝の【断絶付与】を宿した剣が、手元でぎちぎちと嫌な音を立てて軋む。あの剣なら、確かに“どんな概念でも斬れる”はずだった。だが、目の前の少女は「斬れるかどうか」以前の問題だった。大海の津波をマグカップで受け止めようとするような、理屈そのものが成立しない圧倒的破滅。
レヴィアが、自身の信仰を根底から試されるような震え声で呟く。
「……魔族……ではない……あれは、何……?」
「こんなの、魔術じゃありません……ッ!」
クリアの唇が急速に青ざめていく。
「ただの余剰魔力の放出……! しかも無造作に、ただ腕を振っただけで……最上位の殲滅級極大術式を超えているなんて……!?」
リュファスはガタガタと震える手で必死に杖を握りしめた。
「嘘……でしょう……? あんなもの、神様でもなければ……」
少女はそんな四人の戦慄など一切意に介さず、ふらふらと覚束ない足取りで一歩前へ出た。そして「こてん」と小さく首を傾げる。
「……だれ? ここ……どこ……?」
その声音に悪意や敵意は微塵もなかった。そこにあったのは、ただの「寝起きの困惑」だけ。
けれど四人にとっては、その純粋で無垢な響きこそが、何よりも救いのない恐怖だった。
世界を容易く滅ぼせる怪物が、自分の力を一切理解していない。これ以上の災厄が、この世に存在するだろうか。
◇◇◇◇◇
……ねむい。
まず最初にラルム・エトワールが思ったのは、極めてシンプルなそれだった。
頭がぼーっとする。身体は軽いような重いような妙な感覚だ。翼の先まで痺れるみたいに力が満ち満ちていて、逆に感覚が鈍くなっている気がする。すごく長く、たぶん途方もない時間眠っていたような気がする。
目の前には知らない人たちがいる。知らない天井、知らない匂い、知らない石造りの部屋。なんか、めちゃくちゃ派手に壊れてるし、焦げ臭いし、熱いし、空気がざらざらして不快だ。
……えっと。
誰だっけ、わたし。
ラルム。うん、それはわかる。ラルム・エトワール。それが今のわたしの名前。
でも、それだけじゃない気もする。
遠い。すごく遠い。水の底から遥か上の空を見上げるみたいに曖昧だけど、もっと別の名前があったような。男だったような、そうでもないような。硬い祭壇じゃなくて、ふかふかの布団で寝てた記憶があるし、空を飛んだことなんて一度もないはずなのに、背中の羽の動かし方は最初から体得している。
『地球』
ふいに、そんな単語が脳裏に浮かんだ。
そうだ、それだ。
ちきゅう。青い星。電車。スマホ。コンビニ。夜の街灯。夏の湿気。ゲーム。漫画。あと……うん、やっぱり自分は男の子だった気がする。
「……あー」
思い出そうとすると、頭の奥がズキズキ痛む。
けど、完全に消えたわけじゃない。断片だけが残っている。たぶんわたしは、あっちの世界で死んで、それでこっちの異世界に来たんだ。しかも女の子になって。いわゆる「TS転生」ってやつ。前世の自分なら「マジかよ最高じゃん」とか「ネカマじゃん」とか笑えたのかもしれないが、今の寝起き頭にはそんな元気すらない。
というか、あまりにも知らない場所すぎる。
起こされたと思ったら、いきなり知らない黒いおじさんが何か叫んでたし。なんか邪魔だったからサッと手を払ったら消えちゃったけど……あれ、大丈夫だったのかな。まあ、叫び声がうるさかったし、いいか。
視線を向けると、四人組がいる。
カッコいい剣を持った男の子がひとり。可愛い女の子が三人。
(……なんか、あの男の子だけラノベの主人公みたいだな)
ぼんやりした頭でも、それだけは直感的に理解できた。真っ直ぐで正義感の強い目をしてるし、場違いなくらい熱血のオーラが出ている。しかも周りを美少女三人で固めてるって、なにそれ。ズルくない? 主人公特権?
いや、そんなことより。
身体がむずむずする。長く寝過ぎて固まっている感じだ。
眠気覚ましに、ちょっと体を動かしたい。じっとしていると、またすぐ寝ちゃいそうだし。背中の羽もギシギシいってる気がする。肩とか背中とか、ぐーっと伸ばしたい。うん、軽く。ストレッチ程度に、軽くだけ。
「……ちょっと、うごこ」
その何気ない一言が、勇輝たちにとって「死刑宣告の鐘」に聞こえたことを、ラルムは知る由もなかった。
◇◇◇◇◇
勇輝は少女――ラルムが一歩踏み出した瞬間、全身の産毛が逆立ち、心臓が凍りつくのを感じた。
「総員、戦闘態勢ッ!!」
叫ぶより早く、レヴィアが極限の反応で前に出る。巨大な大盾を構え、全身の神気を限界突破で滾らせて、幾重もの高位防御障壁を張り巡らせる。リュファスは即座に最高峰の加護系統祝詞を高速で連続詠唱し、クリアも偏向・拡散の重層魔術陣を何十重にも重ねがけした。勇輝自身も【断絶付与】の刃に全存在を賭した霊気を込め、いつでも斬り込める絶対の姿勢を作る。
対するラルムは、欠伸を噛み殺しながら、肩をぐるぐると回した。
ただ、それだけだった。
――**ドゴォンッ!!!**
彼女が肩を回した際、肘が空気を切った衝撃波だけで、神殿の空間が爆ぜた。
「っ、ぐぅあああッ!?」
レヴィアの絶対防御障壁が一枚、二枚、三枚とガラス細工のように爆ぜ砕け、最後の四枚目でギリギリ持ちこたえる。勇輝は歯を食いしばり、余波の暴風で後方へと流される足に全体重をかけて床石へねじ込んだ。
少女は自分の巻き起こした惨状にすら気づかず、今度は背中の翼を「ふわり」と大きく広げる。
銀翼十二枚が、完璧な開帳を果たす。
その瞬間、神殿内の魔力濃度が物理的な限界を超えた。光が液状化して世界を満たし始める。床の白亜石は跡形もなく融解し、壁の古代紋章が焼き切れ、空間そのものがその存在の重みに耐えかねて悲鳴をあげる。
「来るぞ……ッ!!」クリアが血を吐くような叫びをあげる。
ラルムは、ただ両腕を上げて「ぐーっ」と大きな伸びをした。
その運動に追従して、空間から何千、何万という白銀の光刃が自律発生する。
剣術ではない。魔術の技術でもない。ただ漏れ出た魔力が、あまりの高密度ゆえに自ら鋭利な刃の形状を成しただけの、純粋なる暴力の結晶。だがその一刃一刃が、王国の巨大城壁を一撃で紙のように切り裂く威力を秘めていた。
「防げぇぇぇぇッ!!!!」
勇輝の魂の咆哮。
レヴィアの大盾が摩擦で真っ赤に焼きつき、火花を散らす。リュファスの聖なる結界が次々と砕け散り、クリアの偏向陣が限界を超えて悲鳴を上げる。勇輝は迫り来る光刃の濁流のなか、眼前の数本を【断絶付与】の剣で必死に断ち切った。
切れた。確かに切れた。だが、それは津波の波頭を一滴分刻んだに過ぎない。
直後、神殿全体が爆ぜた。
余波だけで神殿の東側が一瞬で崩壊し、天蓋を支えていた太い支柱が二本消失する。その衝撃で、天空都市アストラディア全体がガタガタと大きく傾いた。
ラルムは「あ、ちょっと背中鳴っちゃった」とでも言いたげに、パチパチと瞬きをしただけだった。
彼女の“ウォーミングアップ”は、それからも続いた。
軽く足踏みをする。――衝撃で天井が吹っ飛ぶ。
眠気覚ましに指先をパチンと鳴らす。――直線上の空間が丸ごと抉れる。
羽を軽くはためかせる。――極大の暴風魔力が吹き荒れ、都市外縁の浮遊補助機構が悉く砕け散る。
勇輝たちは、もはや戦うどころではなかった。生き残るだけで全霊を削り取られていた。
これは戦いではない。災害との遭遇ですらない。世界の法則の向こう側から、ただそこに“存在している”だけの圧倒的な何か。自分たちの紡いできた英雄譚に、決して現れてはならない存在だった。
「勇輝様……っ!」
リュファスの悲鳴に勇輝が振り向く。
都市の最奥、浮遊を司る巨大な結晶導管が、次々と暗転し始めていた。ラルムが放つ規格外の魔力余波に耐えきれず、都市の制御回路そのものが過電流で焼き切れ始めているのだ。
クリアが絶望に満ちた声をあげる。
「浮遊機構が……完全に停止します! このままでは天空都市が、地上へ墜落する――!!」
その時だった。
ラルムが、ぴたりと動きを止めた。
彼女は崩れ去った天井の破片の向こう、開け放たれた青空を見上げる。どこか懐かしむように、眩しそうに目を細めた。
「……そと」
次いで、ふわりと可憐に笑う。
それは絶望の最中にあって、あまりにも無邪気で、あまりにも場違いな笑顔だった。
「いってみよう」
銀翼十二枚が、一斉に眩い閃光を放った。
次の瞬間、ラルム・エトワールの姿は天を裂く一条の白き光筋となって消え去っていた。神殿の天井を、上層の建造物を、上空を覆う巨大な雲海をまとめて貫き、彼方へと一瞬で飛び去ったのだ。
残されたのは、静寂。
そして、遅れて訪れる破滅のきしみ。
天空都市アストラディアが、ギギギ……と重い音を立てて大きく傾いていく。
千年もの間、空に浮かび続けた奇跡の巨城が、支えを失った船のように、ゆっくりと地上へ向かって沈み始めていた。
◇◇◇◇◇
その報せは、大陸の強者たちのもとへ瞬く間に届いた。
エルフの王国シェルアウィン、その最奥に聳える大樹宮。
幾千年を生きる大長老オルフェリアは、空の彼方に走った一条の白光を遠目に見止め、老いた手を激しく震わせた。
「……あれが、再び目覚めてしまったというのですか」
傍らに控える若きエルフの戦士たちが息を呑む。大長老は静かに、だが隠しきれない恐怖を刻み込んで告げた。
「全土に国を護る最大の備えをさせなさい。……だが、決して、決して彼女と敵対してはなりません。あれは打ち勝てる相手ではなく、怒りを買って許される相手でもない。天災という言葉すら、あれの前にはあまりに生ぬるい」
◇◇◇
聖法国アウグニス、白亜の大聖堂地下深層。
国を守護する古代竜、輝鱗龍ヴァル・ジーヴァは、長い封印座から重々しく目を開けた。地脈そのものを揺らす重厚な声に、法王すらも膝を折る。
『白き翼の灯が、再び空を割った。ならば告げよ、人の子らに。火山が噴くように、海が荒れるように、星は時に自らの生態系を守る『抑止』を起こす。……守り手は、人に都合よく剣を振るいなどせぬ』
「守り手……」
『近づくな。試すな。ただ祈れ。せめて彼女の目覚めが、ただの気まぐれで済むことをな』
◇◇◇
魔王城、黒曜宮。
重厚な玉座に座す魔王は、配下からの緊急報告を聞くなり、珍しく長い沈黙を守った。
「……リュークリウッドはどうなった」
「消滅……いたしました。欠片も残らず」
「だろうな」
魔王は痛む額を押さえ、深々とため息をつく。
「序列十三位ごときの浅知恵で、よくもまあ触れてはならぬ領域の棺に触れたものだ。愚か者が」
「陛下……あの銀翼の少女は、一体何者なのですか」
側近の問いに、魔王は重々しく言葉を選んだ。
「太古の昔、一度だけ禁書で記録を見た。大陸戦争も、神代の残滓も、邪神の降臨すら比較にならん……『終局級』という名の概念だ。もしあれが本気で腹を立てれば、魔族も人族も関係なく世界の地図が書き換わる」
そして、苦々しく首を振った。
「頼むから、寝ぼけたままどこかの僻地で平和にしていてほしいものだな……」
◇◇◇
大陸西方、巨大冒険者都市グランゼル。
酒場の最上階、限られた者しか立ち入れぬ個室で、SSSランク冒険者最古参“灰冠”のバルドレイクは、窓の向こうの空を切り裂いた光の余韻を見つめ、酒杯を止めた。
「へえ……。まだ生きてやがったか、あの銀の嬢ちゃん」
隣にいた弟子が怪訝な顔をする。
「知ってるんですか、師匠」
「知ってるとも。昔、遠目から一度だけ事故みたいに見かけた。山ひとつを一瞬で消し飛ばして、本人は『あれ、やりすぎちゃった?』みたいな顔して立ってたよ」
バルドレイクは珍しく冗談を捨て、真剣な眼差しになった。
「忠告しとくぞ。英雄に憧れるのは勝手だが、あれにだけは絶対に挑むな。死んでも武勇伝にすらならねえ。相手が強すぎるんじゃない……存在の尺度が違うんだ」
◇◇◇◇◇
その頃、当のラルム・エトワールは。
はるか高空、雲を突き抜け、温かな陽光が降り注ぐ空の中をののほんと飛びながら、きわめて平和なことを考えていた。
(……すごい。空、すっごくきれい。風も気持ちいいなぁ。……なんか下のほうで壊れたり傾いたりして大変そうな感じもしたけど、まああとで謝ればいいかな。いやでも、全然知らない人たちだったし、まずは状況確認だよね。こういうの、異世界転生ものの定番だと、最初は近くの町に行くんだっけ? 宿屋とかあるかな。……あ、お腹すいた。寝起きだから甘いものが食べたい。パンケーキとかあるかな。この世界にホットケーキミックスとかあるのかな。あと、この服。ひらひらしててなんか落ち着かないんだよね。女の子の服ってこんなにソワソワするんだ。前世の記憶なんてほとんど残ってないくせに、こういう変な違和感だけしっかり残ってるの、なんか理不尽じゃない?鏡があったら顔も見たいな。感触的にかなりの美少女な気はする。たぶん。……あ、この羽は目立つな。すっごく目立つ。畳んだり隠したりできるのかな、これ。……まあ、いっか! 考えてもよくわかんないし。とりあえず、どこか静かで日当たりのいい場所を見つけて、もう一回二度寝しよう)
そんな呑気すぎる結論を胸に抱き、歩く概念、歩く太陽たる少女は白銀の翼を優雅にはためかせる。
その存在が世界にとってどれほど絶望的な意味を持つのかも知らぬまま。
ただ少し眠たそうに、少しお腹を空かせながら。
世界を平然と滅ぼし得る少女は、今日も自分がどれほどの規格外であるかを知らない。