神さまの下請け ーー 神を辞めた元・神さまは人間になりたいらしいけど俺を振り回さないでほしい。 ーー 作:城異 羽大
千葉が私をじろじろと見て、
(そもそもこいつなんなんだよ、、、そういえば、あのとき、神社や寺に行ったみたいな感覚がこの女から、、、)
なんて思考を回しているのが聞こえた。
- やばい!
- バレる!
- えっとー、、、えっと!
「“神さまの下請け”!!!!」
とりあえず思いついたことが反射的に口から出た。
アキは呆れた顔をしている。
千葉は、、、うん、思考を読まないでもわかる。
なに言ってんだコイツ、てきな目でウチを見ないでおくれよ。
- 言ってる私が意味わかんないんだから、、、
「あの、、、えーっとね、、、」
アキが大きくため息をついた。そして
「えっと、、、千葉くんでいいかい?」
「はい」
「信じられないかもしれませんが、ナギはある神と契約をしているんです」
- なにその新設定!?
- そんな契約したことないよ!?
アキは睨みながら、
(いいから合わせろ)
なんて思考を飛ばしてきた。
- ここは言う通りにした方がいいかも
「うん、、、まぁ、そんな感じ!だね!ですよ」
「ちなみにこいつの口調は元からです」
「えぇ、、、」
「いいじゃん、、、」
また睨まれて
(黙れ)
- はーい
「話を戻すと、契約の関係でいろんな体験をしているんですよ」
「なるほど、、、?」
- ほぅほぅ。
「そして明かせないことが多々あります」
「はぁ」
千葉は、疑問符を頭にのっけたような表情をしながらも、軽く頷いている。
- もしかしてうまくいってる?
- アキすごい!!
思わず小躍りしそうになったところで、アキと目が合う。
わかる。大人しくしてればいいのね。
「だからさっきナギは自分を“神さまの下請け”と言ったんです」
「なるほど」
千葉が漫画みたいに、グーを作って手のひらにポンって置いた。
- 天才!詐欺師みたい!
アキがめちゃくちゃ怖い目をこっちに向けてきた。まじで思考を読めてない!?いろいろ怖いよ?
(まだ怪しい、、、が、ギリギリ納得できる、か?うーん、他にもなんか隠してそうだけど、悪意は感じないし、この人なら信じてもいいか)
そんな千葉の思考が聞こえた。
- 私とアキで対応違くね???
- くっ、、、
- いいよ!これからこれから!
なんて思ってると千葉が、
「それであの、“人間だと信じて欲しい”って契約になるんですか?」
「いろいろと事情があって、ですね」
「そそそ!です!!!!!」
「おまえが出てくると急に胡散臭くなるな」
「失敬な、、、あ!」
- そうだ!
「ボクと契約したら貴方は、“下請けの下請け”ってことになるね!おもしろー!」
「普通に下請けでいいだろ!」
千葉が切れ味の良いツッコミを入れてきた。
- いや、でも、さぁ、、、
- 私、神さまじゃないもん、、、
- だから千葉は下請けの下請け!
- あとコイツとかこの女とかやめれ!
- ほんとさぁーーー
- もう、、、アレだよ!
- だんだん遠慮がのうなっておらぬか?
- 別にいいですけど!!!
なんだか腹が立ってきた。
「なんだよ!?」
千葉が、文句でもあんのか?みたいに言ってきた。顔に出てた?まぁ、いい!
「なんでもない!!!」
そしてまたアキがため息をついた。
「はぁ、、、ナギ。いいから契約の条件を話しなさい。千葉くんは条件を聞いてから判断してくれればいいですから」
「へーい」
「わかりました、、、」
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎
なんかいろいろ胡散臭い、、、
でも惹かれるものが強すぎる。
- そもそも神と契約ってなんだよ!?
- この女マジでナニモン!?
「だから人間だって言ってんじゃん!さらに言うならば、この女って言わないでもらいたいものだね。アタシにはナギって名前があんだよ?」
「だからそれもやめろって!!」
「ひどいこと言う千葉が悪い」
「さっきから距離近いんだよ!あほ!」
「アホって言いました!?はーー!?アホって言うやつは馬鹿なんだーーー!!」
ガンッ。
ナギ?に、拳骨が落とされた。
「いたっ!?それ本気じゃない!?」
「まだ加減している」
- やっぱマスター
- アンタは救いの女神だ、、、
「アキは人間だよ?」
「は?」
「ナギ、いいから話を進めなさい。次はもう一段階強くするぞ」
「へいへーい。では、、、千葉!汝に特別な力と加護を与えよう!対価として我を人間と信じたまえ。そして一つの制限をかける。それを受け入れよ」
急に偉そうな口調でナギが喋りだした。そして意味がさらにわからなくなった。でも一番に言いたい。
「普通の雇用契約じゃねぇの?」
「ああ!それとは“べつ”なのだよ」
「は!?」
- さっき言ってた神との契約みたいな?
- いよいよ現実離れしてきてないか?
- それいうなら地獄もだな、、、
- さらば日常、、、じゃない!
「どういうことだ?」
「言ったやん?特別な力を与えると。つまりはそういうことさ」
「コラッ、ナギ。ふざけてないでちゃんと説明しなさい」
「いや、ね?漫画で見たからやってみたくてさ!」
「また拳骨を喰らいたいか?」
「ねぇ?接客モードは?」
「彼はこれから一緒に働くことになるんだろう?それに彼のためにも、お前をちゃんと制御しなきゃならない。だから仕方なくだ!」
- マスターは苦労性だ、、、
「ああ、コイツはアキ!榊 秋《さかき あき》ちゃんと名前があるんだよ?ちゃんと呼んであげな」
「榊さん。もう一回、この女に拳骨を」
ゴツンッ。
結構、生々しい音が聞こえた。今のは榊さんもイラついてたな。
「本当に君には申し訳ない」
「榊さんがいるので大丈夫ですよ」
なんて悶えているナギを放って少し談笑していた、ら
「もう!早く!契約!しよう!」
「なら説明をしっかりとしなさいと言っているだろう。それで最初の契約は不成立になったんじゃないのか?」
「うぅ、、、」
- なんの話だよ、、、
「えっとね。これからボクが条件を提示するから、同意して欲しいんだ!」
- 当たり前のことじゃねぇの?
- どういう意味で言ってんの?
「そういう様式なんさ!まぁさっき言ったのと変わらんですよ?私は君に“恩恵”を、貴方はワタクシへ“対価”を払う。簡単に言えばそんな!」
「ナギ、、、不履行の判断基準や不履行時の罰則、期限だとかほかにもいろいろあるだろう。契約を成立させる気があるのか?」
「まずはだよ!まずは!」
えーっと、、、さっき言ってた『特別な力』と『加護』が恩恵で、『人間と信じる』と『制限』が対価ってこと?で合ってるよな?
ナギを見る。頷いた。
- 思考のぞくのやめて欲しいんだが?
ニヤリと笑いやがった。くそっ。もういい。
- コイツの話が事実なら、、、うん、、、
- 悪くはない?内容によるが、、、
「お?ノリ気かい?んふふふ!なんとですよねぇ!千葉くんには霊能力を強化してあげちゃいます!そ、し、て〜アタイの出来る力を全て使ってでも、君を守ってあげようじゃないか!そういう提案だ!」
- サッパリわからん
「だぁかぁらぁ!!!今まで見えなかった景色が見えるくらい、目を良くしてやるって言ってんだよ!?、、、それに加え、其方に憑いてるウゼェやつから守ってやろう!って意味ですよ?」
「あ、、、」
- 地獄が強烈すぎて目的を忘れてた。
- いや、まぁ、
- それくらいに刺激的だったし、、、
- ってか、
- うん、
- いい経験だった!
- そうだ!そうだよ!!そうだよな?
- 俺は、遂に地獄変を描けたんだ。
- いや、でも、まだだな。
- 家に帰って、絵の具で描こう。
- 油がいいか、顔料がいいか、、、
- 待てよ?地獄変って言ったら膠だ
- 日本画だよな。やっぱ!
- あぁ!楽しみだ!
「あははは!!!」
ナギが目の前で大笑いした。
ってかいつの間にこんな近寄ってた!?
「お前さぁ!聞いてたか?命に関わるくらいヤバい状態なんですよ?なのに絵しか頭にないのか?馬鹿なんですか?最高やんか?、、、ククっ、、、あはははは!いいな!やっぱりいいぞ!きみ!」
なんか貶されながら褒められた?
そういえば、そういう話だった気が、、、
- いやぁ、、、なんか、
- 俺の中での優先順位がなぁ、、、
「じゃあ『やる』って言ったの撤回するつもり?わちきの仕事を手伝えば、もっと面白い景色をたくさん見られるのだが?そんためにゃあ生きなきゃあかんでしょうに。なぁ?」
「あぁ、たしかに、、、」
- いや、当たり前のことだわ
- でも、そうだよな、、、
- ってかそうだわ!だったわ!
蓄積された無気力と無関心が俺に染み付いていたせいなのか。それとも俺の絵に対する欲求が、生への執着を上回っていたのか。
なぜか、そこまで重要に思えてなかった。
- あぁ、でも、
- これは昔からだな、、、
「お主は些末なことばかり気にするのぉ。ええやないか。欲望のままに生きてみなんし」
「だな」
スッ。
榊さんが手で俺とナギの目の前を手刀で切った。
「千葉くん。でもね、契約はしっかり考えてしようか。ナギ、おまえは誑かすんじゃない!」
「はい、、、」 / 「誑かしてないもん!」
返事が分かれた。が、まぁナギの言う通りではある。納得してしまったから。
「じゃあ改めて条件を言うね。私は恩恵として千葉の霊能力をあげて、今まで見えてなかった世界を見えるようにしてあげよう。仕事でも面白い経験をさせてやる!そして!今なお狙われてるヤツから守ってやろう!それ以外の危険からもですね」
榊さんが深くため息をつく。まじで今日何度目だろう、、、
「はぁー、、、ナギ、さっきから言おうと思ってたんだが、聞いてないぞ」
「何が?」
「霊能力だ」
「いやぁ、絵を見てたら思いついてね!」
「もういい。お前がいいならもういい」
榊さん、、、めちゃくちゃ気の毒に思えてきた。
「千葉くんはいいのかい?」
「はい?」
「霊能力の話だよ。思ってるよりいいものじゃないよ?」
「俺にはむしろ願ったり叶ったりです」
「それだけじゃないんだよ。ナギの、僕たちの仕事を共にするなら危険も伴うよ。さっき地獄を見た経験よりも、ね」
「だからウチが守んじゃんね」
「お前は信用ならん!」
「それはそうなんですけど、、、それでも、です」
「君も君だな、、、でもね、対価についてはしっかりと考えて決めなさい。わかりづらいと思うが、よく聞いて理解してから決めるんだよ」
「え?、、、はい」
- 聞いた感じそこまでだったけど、、、?
- どういうこと?
- てか待って?!
- アイツと同類扱いされなかった?
- 榊さん!?!?
「いいじゃんいいじゃん!」
「よくねぇ!」
「まま!そんじゃ!対価について話すね」
押し切りやがった、、、
「これはさっき言った通り、私を人間だと信じようと努力して欲しい。譲歩して、まぁ、なんだっけ?そう!疑うのは許す!」
- 当たり前だろ、、、
「でもね、、、あることに気づきかけると痛みが生じるよ。あと常に、そのことに関して確信を抱けなくなる」
「正体のことだろ?」
「そそ。ついでに言うと信じる努力を放棄しても痛むからね」
「へぇへぇ」
意味わかんねぇ。契約なら普通、天秤が均等にならないか?これってそんな重要か?
まぁいいか。
対価も、、、それくらいなら別にいいか。
考えを整理しながら了承に思考が向いてると、それを察した榊さんが、片手で俺の肩を掴んだ。そして真剣な表情で
「千葉くん。君はわかってないと思うが、思考が制限されるんだ。痛みを伴ってね。本当によく考えるんだ。これはね、君の権利を譲渡するようなものなんだよ?」
「いやぁ、、、恩恵がデカすぎて、それくらいならって思っちゃいまして、、、」
「アッキーどっちの味方?」
「彼に決まってる。善良な若者を悪魔から守るのは当然じゃないのか?」
- 榊さん、、、
「なんかラブコメ始まってる?」
「うるさい!千葉くん、ちなみにこの馬鹿は最初は対価の痛みで、『頭にタライが直撃するくらい』を想定してたんだ」
「マジかよ!?」
冷めた。
一気に冷めた。
- コイツ信じらんねぇ、、、
「いや?ね?アキに言われて、あの、静電気でピリッてするくらい?だっけ?そんぐらいにしてやったんだから!な!?」
「こういうヤツなんです、、、」
「ですよね、、、」
わかってた。
- コイツオカシイ。
「あと不履行の条件はなしにしたよ!」
- えっと、、、ってことは、、、!
- なにしても不履行にならないのか
- 待てよ?それじゃあ、、、
「それって契約の終了どうすんの?」
「え!?だめだよ?」
「そこも譲歩しやがれ」
「え〜」
「しなさい」
「うぅ、、、」
ナギは数秒から数十秒くらいモゾモゾしながら悩んでた。そして腹を決めた顔をして
「わかった!千葉が辞めたいって言ったら辞めていいよ!!その代わり、制限はそのままね!恩恵も返してもらうから!!」
「よくねぇよ!?不条理すぎんだろうが!!」
「え〜ダメ?」
「ナギ、相手の立場になって考えなさい。無理だろうけど、頑張って考えなさい」
「うん。榊さんの言う通り、無理だろうけど頑張れ」
「二人とも酷くない?」
「「お前に言われたくない」」
榊さんと被った。なんか安心感がある。
「ナギ、せめて恩恵は千葉くんに残してあげなさい」
「じゃあどっちか!」
「だったら霊能力で」
「千葉くん!?」
反射だった。
- しょうがないんです榊さん
- 俺の中の優先順位が、、、
榊さんは、残念なものを見るような目をしてたけど、俺は揺るがなかった。
「はぁ、、、さすがは“ナギが待ってた人”か」
俺にもため息をつかれた、、、
なんかいろいろと申し訳ない。
あと小さくなにか呟いていたが、俺にはよく聞こえなかった。
「アキー?もう契約成立できそう?」
榊さんは目を瞑り腕を組んで数秒の間、黙った。そして目を開いたら、俺を見て
「千葉くん。本当にこれでいいんだね?」
「はい!」
「わかった。じゃあこれ以上は言わないよ」
榊さんは呆れたような、それでも少し笑ったような顔をした。
- すいません
ナギみたいには伝わらないだろうけど、その分は笑顔で返した。
そのナギは俺たちを見て、満面の笑みを浮かべている。
- 榊さんの苦労の大半はお前のせいだぞ?
「それでもアキは離れていかなかったもん」
今度はナギが呟いた声が聞こえなかった。
でも少し柔らかい表情をしている。
「ん?」
「ねぇ千葉、改めてどう?」
「どうってなにがだよ、、、」
- 契約は、まぁ、いいと思ってる
「じゃあここは?」
- あぁ、それもだよな
- うん
- なんとなくとしか思えんが
- 居心地は悪くない
いや!
もちろん疑念もあるし、危機感も働いてる。
流されたわけじゃない!
ナギは相変わらず胡散臭いし、面倒いし、危うさもある。いつもの俺なら避けるような存在でしかない!でも、瞳が綺麗だった。
必要としてくれた。肯定してくれた。
それがちゃんと本心だとわかった。
あの瞳からそれが伝わった。そして、あの瞳をもっと見てみたいと思った。
あとは榊さんの存在もありがたかった。
この人はしっかりと信頼できる。というかすでにしてしまってる。
ただ、まぁ、俺の味方とは言ってたけれど、ナギの味方でもあるんだろうな、、、だってナギの正体の話がな。直感だけど、なにかしら隠していることがあると思う。
でもそれは、ナギの味方でもあるからだろうし
俺にとって都合が悪いことじゃない気がする。
それも含めて、上回って、
なんとなくここに居たいと思った。
居てもいいって言われてる気もした。
だから
この選択でいい
思考が制限されようが痛みがあろうが、
危険に晒されることがあろうが、
どうでもいい。どうだっていい。
得られるものが大きいから。これからが楽しくなりそうだから。この衝動に従いたいから。
俺がそう思ったから、だから、
いいんだ!
ナギが俺の瞳の奥をじっと見て、顎をクイッとあげた。
それを軽く笑い飛ばして、大きく頷いてやった。
「よし千葉!この条件に同意したな!それなら私の手を取れ!!」
ナギはそう言って、豪快に手を差し出した。
「おう!!」
俺も大きく応じて、思いっきり握手をするように手を握った。
契約に応じる。俺はそれを誇示した。
なんとなくなにかに向けて。
たぶんそういうものが必要だと思って。
実際、予想は確かだった。
世界の法則が適用されたような、感覚が全身を走る。だが明確な変化はまだない。
- これが契約の成立?
するとナギの手から温かいものが流れ込んできて、身体の根源まで届いていったのがわかった。たぶん、、、
ナギと俺とのなにかが繋がった。
この感覚は、さっき地獄を見たときの感覚に近い。でもさっきよりも強い。
だからこそ流れ込んでくる。変えられる。変わってく。そして見えてくる。ナギとの繋ぎ目が、この目でしっかりと。
握られた手
その中心にプラチナみたいな色。白にも見えるくらい輝く光。
どんどん強くなり、眩しくなって、
視界はまさしく、ホワイトアウトした。
そして
確かに、結ばれた。