神さまの下請け ーー 神を辞めた元・神さまは人間になりたいらしいけど俺を振り回さないでほしい。 ーー 作:城異 羽大
「は?」
俺の口から疑問が漏れ出た。
「おい鬼海、それやめろって何度言えばわかる?」
ナギが毎度のことのように怒鳴り声をあげた。
- コイツもこんな反応するんだな、、、
- いや待て!
- そうじゃない!
- いつからいた?
今日一日ナギが印象的だったとは言え、、、違うな。話してない誰かがいたら普通に気づける。地獄を見たとか絵に没頭してとか、理由になるか、でもさすがに、、、ってかナギも榊さんも気づいてなかった?
- なんで??
意味わかんねぇ。
そもそもなんでいんだよ。
ああ、もう、なんもわかんねぇよくそ。
「あははは!」
嫌な笑い声が響く。
「いやぁ〜!だってまだ【営業中】の看板はでてたじゃないか!」
「おめぇは例外だ!てゆーか出禁にしていいですか?いいよね?アキ!ねぇ!?」
「俺は裏に行ってるからあと頼む」
「ねぇ!!!アキ!!!」
「ふふっ。つれないねぇ〜。僕は君とも話がしたかったんだけどなぁ。さっきまで楽しそうに話してたじゃないか」
「閉店作業するので、、、すまないナギ。千葉くんを頼んだ」
そう言って榊さんは、カウンターの奥にある暖簾を抜けて、奥の厨房に行った。そして開きっぱなしだったドアまで閉めた。
ギィィィィィ、ガッチャン。
- 鍵までかけたな、、、
- 気持ちわかるけどそこまでって、、、
- 先生、あんた何したんだよ、、、
「おい!ぬらりひょん!いつからいた?」
「ん〜?君が神威を発散していたあたりかな?秋くんに拳骨されてたとこって言いたいところだけど何度もされてたからねぇ?あはは。ちなみに僕が来たのは‘二回目’あたりだよぉ〜」
「だからてめぇと話すの嫌なんですよ!!」
「う〜ん。じゃあ取引の成立を祝って‘お酒’でも飲まないかい?」
「ざけんな!」
「え〜?いいのかい?千葉くんがオススメのお酒、持ってきてるよぉ?」
「え、まじ?」
ナギが一気に威勢を落とし、勢いよく振り返った。そしてさっきまでとは打って変わり、キラキラした目を俺に向けてきた。
「、、、ねぇ千葉、マジ?」
「は?あるけど、これって依頼料じゃねぇの?」
「契約する予定だったから別にいらんかったのじょ〜。それより!早く!酒見せろ!!酒!」
今にも飛びかかってきそうなナギに手を向けて、ステイ!と手で制す。そして急いで酒を取り出してカウンターに置いた。
瞬間、目にも止まらぬ速さでナギが酒を手にした。気づけば頬擦りしている。
- なんだこれ?
「先生?」
「今ね、‘計算通り’って言葉がちょうど頭に浮かんでるよ」
そう言って不気味な笑みを見せる。
眼鏡は光を反射して輝いてるのに、顔はどうにも影で真っ黒に見える。あくまで比喩だけど、それくらいに影がさしてるように見えて、禍々しい。
- ぬらりひょんってマジでいたのか?
- まぁ本物じゃないだろけどたぶん、、、
- それに近いなにか、か?
- とりあえず人間じゃない
- それは確か、だと思う、、、けど
- 断言できないのが歯痒い、、、
- 霊能力が強化されたんじゃないのか?
- その上でわからないのか?
- なんなんだまじで、、、
ナギと対面した時とは違った異質な感じ。
気持ち悪い。
「ふふっ。言っとくけど、“僕は”妖怪じゃないから」
「じゃあナギが言ってたのは?」
「あ〜!あだ名みたいなもんだよ。あはは」
- 絶対うそだろ、、、
- じゃあ神?
- 人間って方がまだ信ぴょう性がある
- たぶん、なんとなくだけど、、、
- そもそも神のイメージって、、、
- あれ?俺に憑いてるのも神だったか?
- だったらありえる?
- 先生が神??
- いや、なんか違う気もする、、、
そこになぜか違和感が働く。働いてしまう。
さっきまで冴えてた直感が、この曖昧さに対して不具合を起こしてる気がしてならない。
- くそっ
意味わかんねぇのはもう懲り懲りなんだよ。
「はぁ」
とりあえず一度思考をリセットしよう。
さっきまでの発言を思い出せ。
- そうだ、、、『僕は?』って言ったか?
- じゃあ、ナギか?
- ありえる
- それは充分にありえる!
- あれ?でも、、、
- 痛みがねぇ、、、
- じゃあ、、、違う?
- あ!!
- あぁ!!そうだ!!!ナギが、、、
ピリッ!!
「いっった!!!」
「はぁ!っはっはっはっ!!!君も学習しないねぇ〜。これで三回目だよ?ナギの正体について考えるのはやめといた方がいいよぉ」
痛みの余韻に耐えながら先生を睨んだ。いつにも増して不愉快だな。この魑魅魍魎。
「僕はただの精神科医さ」
- 嘘くさい
ってか
「先生、なんか病院と雰囲気違いません?」
「病院じゃないからね」
- じゃあ今はただの化け物か
- それもそれで嫌だな
「相変わらず失礼なことばっか考えるねぇ」
「あんたが悪い」
- ん?
- 待てよ?
- 思考に返事されてないか?先生に
ナギのせいで慣れてしまっていたから気づかなかった。それにあまりにも自然すぎた。これもさっきの急に現れた延長か?気持ち悪い。やっぱり人間じゃないよな、、、っていうか
- 二人ともまじで何者だよ!?
「ふふふ。のちのち分かるよ」
「やめてください」
「結論を急ぐのはよくないって話さ。それに見え方もこれからどんどん変わっていくと思うしねぇ。だから焦らない焦らない」
今の状況で医者っぽい助言されてもな、、、
もういいや。話題を切り替えよう。
「先生も思考を読めるんですか?」
「ははっ。僕は君の表情見て察してるだけさ。心理学だよ心理学」
- その誤魔化しはもう通じねぇよ
「心理学ってそんな便利な言葉じゃないですけど?そもそもなにしに来たんすか?」
「ん〜彼女に用があってね」
ああ、取り引きがどうのこうの言ってたな。
どうせこいつらのことだから俺を取り引き材料にしてねぇか?絶対そうだ。
ほんとコイツら、、、
俺の人権をもっと尊重してくれよ。
もうめんどくせぇ。
ただでさえ疲れてんのに、、、
ってか話すのも無理。ギブ。
「おいナギ、それやるから助けてくれ」
反応がないから目を向けた。
すると俺が持ってきた酒を夢中になって、宝物かのように鑑賞している。
- 聞いてねぇ、、、
アル中でも、もっとマシな行動するよな、、、
いや、知らんけど。
「う〜ん。アルコール中毒の患者はもっとひどいかなぁ?」
「だからそれやめてください」
「あはは!彼女の真似してみたんだ」
「普通はできませんよ?」
「んふふ。だいぶ仲良くなったみたいだねぇ。それに二人とも良い方向に変わったねぇ。いやぁ〜いいねぇ〜いいねぇ〜」
「はぁ、、、」
完全に煙に巻くつもりだ。ため息の出る蛇口が開きっぱなし。反発する気力は当たり前にねぇ。だからそのまま思考を吐いた。
「それも‘計算通り’ですか?」
「どちらかというと、‘想像以上’って言葉が似合うかな」
絶妙にクソみたいな返答するのは仕様かな。一刻も早くやめていただきたい所存。
ナギが言ってた、俺に憑いてるやつより厄介って言葉にめちゃくちゃ同意できる。ってか
- もう帰って良いかな?
- あれも契約で大丈夫になっただろうし、、、
- うん!帰ろう!
「ダメだよ」
「え?」
- デジャブかよぉおおおおお!!
「君に憑いてる“それ”の対処はまだだし。いま帰ってもまた襲われるよ?だから、帰らない方がいい」
「脳が過労死しそうなんで、もっと分かりやすくお願いします」
「契約のおかげで抑止効果は多少出たけど、直接的な対処も必要なんだよねぇ〜“それ”」
- もう、、、なんなんだよ!!
ナギに聞こう。そっちのが手っ取り早い。
「おいナギ!!説明しやがれ!!!」
「え?なにが?」
- どんだけ夢中になってたんだよ、、、
俺は目の前にいる不快の権化から離脱したい。だから助けてくれよ。俺ひとりの手に余る。
っていうかさ話しかけても聞こえないってどうなんだよ。末期だろ、、、
「千葉には言われたくない!!」
「なんでだよ!?」
「あはっはっはっ!二人とも、同じ穴の狢って知ってるかい?」
「黙ってろ!!!」/「黙ってください!!」
「くふふふっ!はっはっはっ!いいねぇ!!君たち!!」
先生は口を大きく開けて笑いながら、膝を叩いてた。よっぽど面白いらしい。
- ナギ、殴っていいぞ
俺が視線と一緒に思考を飛ばせば、ナギは即座に頷いた。
- よし行け!!
顎をクイって上げて指示を出す。そしてナギが実行に移そうとした。そのとき
ほぼ同時
先生の左手がナギの目の前に飛び出た。
ナギは動きを制止され、ピタリと止まる。
それを見て先生は静かに笑いながら
「はははっ!も〜少し見ていたいねぇ!でもナギ、彼に憑いてる者への対処はしないでいいのかい?契約違反の罰則を受けるだけで済まないよ。だって“彼が死ぬ可能性”もあるからねぇ!!」
「そうだよ!酒どころじゃねぇ!!!」
- あー、、、だったわな
- ってか失敗したか、、、クソ、、、
俺は危機への対処よりも、先生のうざったい物言いが鼻についた。だからさっき制止されたのを悔しく思ってたが、ナギは忘れてたそっちの方に夢中だった。
どっちが正常なんだろうか?
とりあえずナギは頭を抱えて悩みこんでる。
「えっとえっとー!!!えー、、、」
「ふふふ。君のことだから、原因を見つけてブッ飛ばせばどうにかなるとか考えたんじゃないかな?必要なのは即座にできる対処だよ。わかってるのかい?」
「うるさい!だからアキに、、、」
「千葉くんにはもう“御守り”を作って渡してあるよ。それに君の力を加えれば充分じゃないかな」
「うっ、、、」
「さっそく取り掛かろうか。千葉くん、御守りを貸してくれるかい?」
「あ、はい」
ナギは想像通りだけど、先生は本当に厄介だな。初めてナギに同情するわ。
まぁよくわからんけど、どうにかなるならそれでいい。もう全部任せよう。
ってか、もう、どうにでもなれって思いがある。どうにかなりそうって漠然とした予感がある。信頼とは違う変な直感で、、、
それに恩恵については霊能力の強化で、既に満足はしてしまったせいで
- なんかなぁ、、、
まぁ完全にではないけど、、、
実際に先生に対して変な感じがしたし、、、
でも絵を描く上での有用さは証明されてるんだよな。それが一番重要だし、、、
- ああ、そっか
- わかった!
絵を描きたいって欲求が頭を独占してるんだ今。さっきの熱が冷めきってねぇな。
あとは単純に疲労だ。
- 家帰ったら寝るか描くか迷うな
「んふふ。いやぁ〜君は本当に面白いねぇ」
「はいはい」
ポケットから御守りを取り出して適当に渡す。
もうどうにでもしてくれ。
御守りを受け取った先生は、後ろを向き、俺とナギに見えないよう作業をし始めた。
- なにしてんだ?
「チバー、、、ごめん、、、」
「ドンマイ。ってかあれこそ災害だよな」
「だよね!」
共通の敵を前にすると仲が深まるアレになってないか?
「ぐふっ!」
先生が急に笑い出す。
- そのまま爆散してくんねぇかな
「チバー。ああいう“術”はね、意外と繊細なんだよ」
「邪魔するなって?」
「千葉のためにね。ちなみに詳しく説明すると基本的に見られない方がいいんだ。だから御守りって包まれてるでしょ?中身が見えないように」
「なるほど」
よくわからんけど、そういうもんなのか。
- いや待て
- お前やればできるじゃねぇか!
- ちゃんとした説明!!
「常識の範囲内なら誰だって可能ですよね?」
「お前とは常識が大きく違うようだな」
「常識なんてそういうもんじゃない?」
「お前に言われると不服なんだが?」
「君たちいい加減にしてくれないかい???ナギの言ってたように繊細な作業なんだよ。黙って見ていてくれるとありがたいね!」
先生が肩を震わしながら注意してきた。
- 少しはやり返せたか?
- でもまだ足りないな、、、
そのまま笑い過ぎて過呼吸にでもならないかな。そんで勝手にくたばって欲しい。
「千葉くん。さっきからカバンが震えてるけど、電話じゃないかな?放置したままでいいのかい?」
「え?」
カバンからスマホを取り出して画面を見たら大量の着信。
「まじか!あとお願いします!」
俺は急いで店の外に出た。