サイボーグはファンタジーの夢を見るか⁉~異世界転移したサイボーグの無理矢理無双~   作:語尾砂漠

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第1話/最後の記録

 ——起動シークエンス開始。

 

 人工ニューラルネットワーク、正常に同期。

 生体維持バイタル、すべて基準値内。

 各種センサー、焦点確認。

 周囲の環境をスキャン中……。

 

 プロトコル、ロード完了。

 思考と身体の同期、自立モードへ移行。

 

 『イヴェット・ハリス』、オールグリーン。

 

 ——システム起動。

 

 完全な視界が私の前に映し出される。

 だがそれはいつもと同じ様なものではなく、かなり低所からのものだった。

 つまりは、私の意思とは別なものが全く違うデバイスを用いて私の視界をジャックした……。

 

 もっと恐ろしい事を考えると、システムはオールグリーンだったのにもかかわらず低所からの視界で身動きもうまく取れないとなれば全てをハックされたとも思える。

 

 だが、そうよぎっただけでほぼほぼ杞憂であると思い直した。

 

 何故ならば目の前に私の友が微笑んでいたからである。

 

「やあ、悪いねイヴェット。ちょっとキミを移させてもらったよ、機体はRBC社制のペットロボだ。ぷかぷか浮く事しか出来ないが意思疎通は取れるだろ?」

 

「一体何の悪ふざけなんだ?中佐が言うには作戦前の特別メンテナンスって事らしいが。」

 

 周囲を見回せば見慣れた武器庫のスペースに、『私』の本体が鎮座していた。

 高身長を最新の合成金属の鎧で覆ったその肉体は正に軍神と言うに相応しい。

 

「ふざけてなんかいないさ。」

 

 彼は私の様子が可笑しいと言わんばかりの表情を続けていた。

 

「こんな状況だ、残された時間を有意義に過ごしたいだろうなという俺からの心遣いってヤツ。まあ、そんな姿にしてしまったのは申し訳ないと思うんだが、空きが無かったんだ。」

 

 ワザとらしくやれやれと手を上げる白衣を纏った眼鏡男は周囲に散乱している工具やノートパソコンをしきりに気にしている様だった。

 

 彼の名はジェイス・モレノ中尉。

 私、イヴェットの整備担当になって5年。

 丁度阿吽の呼吸が出来て来た様な具合の相棒。

 

 私が意識を移された先のペットロボというのは猫型の可愛らしいもので、救いがあるとすればカメラと音声出力と聴力がある事だった。

 彼が言う通り最低限度の意思疎通は楽に取れる。

 

「戦闘までの期間を有意義に過ごしたいのはいつだってそうだが、メンテナンスはしょうがないだろう。何で今回はこんな嗜好にしたんだ?」

 

 身体を入れ替えられると、どんなサイボーグであれ動かすのに手間取る。

 私は四足歩行の身体で古ぼけた視界を頼りに、調整室の中を自在に動かそうとしながら聞いた。

 

「君ってヤツは。」

 

 既に何らかの調整を始めていた彼はガシャガシャと叩いていたキーボードの動きを一瞬中断させて、また動かし始めた。

 

「あんまり言いたくないけど、もう最期っぽいじゃん……互いにさ。」

 

「何を最初からあきらめている。負けたとて落ち延びればいい話だ。」

 

「向こうは数百の艦隊で俺達を包囲している、ただでさえ少ない味方も一点突破作戦で全部連れていかれた。ったく、リンドレィだけ残して一体何をどうしようってんだ。」

 

 宇宙帝国軍第13軍独立遊撃隊保有汎用型宇宙戦艦「リンドレィ」

 

 私達が搭乗するこの戦艦は敵対する王国宇宙軍の包囲を受けている。

 他の友軍は別行動をしており、実質私達を助けてくれる者は無いに等しい。

 

「だが私がこうしてメンテを受けているのもその中佐の作戦があるからなんだろ?」

 

「あの秘密主義者と連携が取れるかって?——無理だね、無理。最低限の事しか教えてくれないし、キミのメンテだってパーツ全部使っていいから最強の状態に改修しろってそれだけだし。」

 

 サイボーグが宇宙空間でフル装備に換装するというのは、「リンドレィ」単身で要塞に特攻しようとでもいうのだろうか。

 その前に集中砲火で焼き殺されるのがオチだというのに。

 

「俺は君の身体に用があって身動きが取れない。だから君は精神だけでもいいから、同じ部隊の仲間を気にかけてやってくれないか。」

 

 彼は眼鏡を直しながらそんな格好つけた言葉を真剣な顔で言い放った。

 ふざけている訳でも無く、重く、真剣に。

 

 だとするのであれば彼の期待に応えない訳にはいかない。

 そろそろ身体にも慣れてきた頃合いだ、たどたどしい脚部をコントロールし武器庫のオートドアの前まで行く。

 この機体を認識したドアはひとりでに開いた。

 

「君の気にする人たちへ別れと感謝を伝えてくるんだ、それと、出来れば君自身中佐に話を聞きに行ってほしい。唯の技術士官には話せない事もあるだろ。」

 

 機体に備わっている電子音をピポッと鳴らして承認の意思を示し廊下に出る。

 

「言うまでも無いが終いにはここに戻って来てくれよ、その身体でドンパチはできないからね!」

 

 オートドアが閉まるまでのほんの短い瞬間彼の方にカメラを向けたが、ずっとモニタと睨めっこをしていた。

 

 ——

 

 宇宙戦艦「リンドレィ」は大型で戦闘兵も多く載せる事ができる。

 つまりは彼等の兵舎が備わっているのだが、その区画を適当に目指していた。

 私を運用する変人ばかりのウイスキー部隊の1人へ会いに行くためだ。

 

 いつもの機体ならばすぐに到着する筈が、あまり言う事を聞かないポンコツロボに押し込められたせいでゆったりとした移動しか出来ない。

 

 そうやってフラフラしている内にだだっ広い共有部で何やら装備を展開しているバカがいた。

 土嚢に、固定式マシンガンを設置して、ボックスには対人地雷やプラスチック爆弾がぎっしりと敷き詰められている。

 

「おいおい、アン!何を考えている、これも中佐の指示か⁉」

 

 固定式マシンガンの関節部のねじを回していた女性隊員がこちらに気が付くと、工具を投げてこちらにやって来る。

 

「あぇ、もしかしてイヴ?ハハッ、なんでそんな姿なんすか?」

 

「ジェイスが、空きがこれしかないからってよ。私としてはいつもの姿で様子を見て回りたかったんだがな……敵を艦内におびき寄せようとでもいうのか?」

 

 アン・ブレル軍曹、私がこの部隊にやって来た時は既にいた先輩にあたる。

 彼女はペットロボと化してしまいうろうろする私を拾い上げて自分の仕事場へと連れ帰る。

 

「まあ、後顧の憂いを断つってヤツっす。このマシンガンはココに鎮座させとくっすけど、地雷と爆弾はそれぞれ数値確認と稼働の確認だけっす。」

 

「ここは広いとはいえこんなところでやるモンじゃないだろ。」

 

「まあ、あのマシンガンの設置指示があったっすから、ココに来るついでって事で。」

 

 稼働させていない起爆スイッチをカチカチと弄って、故障が無いか確かめる彼女。

 いつもは何も考えてい無さそうな顔をしていたが、今はそこに暗い影が落ちていた。

 

「……運命なんて神様が決めるっす。だからウチは気にしない……って思ってたんすけどね。いざ死んじゃうってなるとやっぱり怖いっすよ。」

 

「お前が思いつめるとはな。」

 

「あっ、ひどいっすよ。いくらウチでも読める空気はあるんす。」

 

「少しは自分の上官を信用したらどうだ?その仕事、中佐が考案した任務にあたっているのだろう。」

 

 私はヒトの心が無いロボットではなく、サイボーグだ。

 彼女の抱えている不安や不信はある程度理解できる。

 だから口には出していても、中佐しか頼れる先が無いというのはかえって不安しかのこらない事など気が付いていた。

 

「最近トップになったあのいけ好かない方っすね、正直期待できないっす。……あーあ、コレで人生お終いか。」

 

 軽い言い草だったがその顔からは悲壮感が漂う。

 非戦闘中の戦艦の天井からは星の瞬く宇宙が見え、光を浴びて想いに更けている彼女は正直絵になっていた。

 

「ウチはバカだからこんな時何を考えるべきかなんて、わかんないっす……。あはは、困っちゃうっすね。」

 

「そうだな、なら最期の一瞬まで1つの事を考えたらどうだ?」

 

 ない頭を絞って死の淵に叩き込まれた少女を必死に元気づける。

 後世にこの記録が残る様であればさぞかし滑稽に見えるだろう。

 しかし、私には一応長い付き合いがあったジェイスからの指示がある。

 

「だからそれがわかんないっす。」

 

 ため息をつきながらプラスチック爆弾の発破スイッチをONとOFFをカチカチ弄り半ば遊ぶように確認をする。

 

「生きのこる事を考えろ、アン。お前はまだ若い、必要なら私や部隊を見捨ててでも生き残れ。」

 

 カチカチと音を鳴らしていたスイッチはピタリとその音を消した。

 

「心外っす、流石にそんな無礼はいくらウチでもやらかしはしないっすよ。……この命は帝国でなく部隊の為に。」

 

 仲間内で謳われる独立遊撃隊のスラングめいた訓示をボソリと口にする彼女を、私は美しくも悲しいものだと思った。

 縛られている、仲間に、人に。

 そうして彼女は死に行くのだ。

 

「——顔は見えないけど、イヴはなんだか寂しそうっすね。」

 

 一応この機体にも顔と呼べる部分はあるが、映し出されているのはデフォルトの顔文字だ。

 

「若者が戦地へ死に場所を求めているのを見るのは寂しいもんだ。」

「まぁまぁ、ウチの事はいいっすから。」

 

 彼女は木箱に入っていた部品から器用にサブマシンガンを組み立てて身体に吊り下げる。

 

「そんな事より、イヴはこの部隊のカナメっすからね。ウチが生きるか死ぬかより、イヴが目標を達成できるかどうかに部隊の命がかかってるっす。」

 

 その身体にはグレネード、ナイフ、追加弾倉と次々に重しを加えられていく。

 マガジンをロードし、弾丸の装填をも終え臨戦の状態へと徐々に己を変容させる彼女。

 

 中佐の作戦開始時刻までまだ時間があるのだが。

 

「また生きていたらいくらでも楽しくおしゃべりするっすよ。……生きていたら、ね。」

 

 どうやら相当私は甘かったらしい。

 自身の糖分に頭をやられそうになって、逃げる様に——まさしく気まぐれな猫のようにその場を去った。

 

 ——

 

 戦艦のブリッジに到着した私は、悲惨な光景を目の当たりにした。

 レーダーに映る幾千の機影。

 モニタに映される絶望的な残エネルギー。

 船員たちから報告される逐一の言葉1つ1つが、望まない現実を示してくる。

 

 「……わかった、第2動力炉をコンデンサーに回せ。空弾倉にため込んでおけば悪あがきができそうだ。本艦の推力を0に、各種エネルギーをチャージに回せ!」

 

 その言葉を余すことなく汲み取り、希望へと変える仕事をしていた華やかな服を着た男が1人。

 彼はチラリとこちらを見て、更に大きく声を張る。

 

「中佐殿の分はキチンと武器庫へ回しておけよ、後で文句を言われたらたまったものではない。……ダイス中尉!少し任せるぞ!」

 

 彼、ロン・アーサー提督は、近くに居た将官から敬礼を受けマントを翻しながらこちらへと歩み寄ってくる。

 

「キミ……イヴェットか、ブリッジにワザワザ来るとはね。この私に何の用かな?」

 ブロンドの髪と髭を優雅に蓄えた彼はそれを撫でながら私の動向を気にしていた。

 

「今の私は中佐の駒という訳じゃない。」

 

「いや、すまないねキミは悪くない。ハァ……あの中佐はどうも好きになれん、陰気で不可思議なお荷物め。」

 

「数週前にいきなりやってきてずっとお客様気分、そりゃ誰に聞いても良い返事は帰ってこないのも頷けるな。」

 彼は皴のある顔をにっこりとさせて目を輝かせる。

 

「ふ、イヴェット君にまでそう言われてしまってはヤツも懲りるだろ……懲りてもらう為にも、ここは生きて帰らねばな。」

 

「アンは決死の覚悟だったが、提督はどうも違うな?」

 アンの名前を出した途端に面食らった顔をしていた彼は、百面相の様に今度は気分が沈んだかの様に真面目な顔をする。

 

「私にもあの年頃の娘が居てな、若者に背負わせてしまうとは年寄りとして情けない限りだ。私は、私はリアリストなんだよ。」

 ため息をつきながらもそう言った。

「生きる希望を見出す事が?」

 

 彼は始終私と目を合わさずにブリッジの全てに目を通しながら話していた。

 つまりはそう言う性分だという事。

 そう決めつける事も出来た筈だったが、つい手が出てしまった。

 

「そうだ、生きる可能性から目を背けて死という美学に惑わされてはならない。」

 

 モニタに映し出される数々の数値が我らに死を告げに来ていた。

 アンを照らす星々が美しかった様に、ロン提督にも眩い光が射す。

 それは美しい星たちではなく、醜い機械の人工的な、そして絶望を知らせる筈の光だった。

 

「イヴェット君、私は美しい最期より醜い明日を取る。そうした道もあるのだという事を示したいのだ。」

 

「それが『リンドレィ号』の末路だと?」

 

「この船は私であり、諸君はその細胞だ。即ち、諸君の命運は私にあるのだよ。提督とはそういう立場だ……乱用させてもらうさ。」

 

「お話し中失礼します!中佐から緊急の無線が、供給エネルギー量が足りないと喚いています!」

 

「ええい!なんと無礼な奴だ!」

 

 話に割って入って来た兵に追いやられ、ロン提督からも片手で「どこかへ行け」とハンドサインを頂く。

 自分の命運に他を道連れにする者、自分の末路を他と隔てる者。

 

 私は常にどちらでも無いのだ。

 

 これほどまでの疎外感、これほどまでの俯瞰視点。

 こんなにも僥倖と思った事はなかったな。

 

 私はそんな彼等、戦艦のブリッジから離れエンジン部分へ向かう事にした。

 あの中佐がブリッジまで寄越した苦言のエネルギーとやらの具合を見るには最適な場所だろう。

 

 ——

 

 映画やフィクションで馴染みのあるスチームでパンクな場所というのは専門的技術員でないと立ち入る事すら出来ない。

 故に私がキャットウォークで訊ねに来たのは、そのソフトウェアを総括して束ねているコンソールルームだ。

 大きな吹き抜けからは数々の巨大部品の様子が見え、魔道炉から発せられる紫色の輝きも確認ができる。

 

「ウイスキー1、イヴェットか⁉」

 

 静謐な部屋の中で大きな声をあげた男が1人。

 その鍛え上げられた身体を揺らしソレをサポートするスマートサングラスを片手にのしのしとこちらに近づいて来た。

 下は野戦服そのままを、上にはリラックスなスポーツウェアジャケットを着ていた。

 

「やあ、リッグス。よく私だと分かったな、お前の方こそなんでこんな場所で?」

 

 コルトン・リッグス。

 ウイスキー部隊のベテラン少尉だ。

 

 彼は私を拾い上げるとまるでバスケットボールの様に手先でクルクルと回しながら歩き、最終的にはコーヒーサーバーの近くにあったサイドテーブルに鎮座させた。

「中佐殿の指示でな……。」

 

 彼は私に見える様に素早くハンドサインを出し、彼の着ているジャケットの袖から出ていたワイヤーを己の機体に受け入れた。

 

 ジャックオン。

 有線通信だ。

 

「反乱分子の確認だとよ、奴さんこの船を信じていないらしい。要するに何が何でもエネルギー供給に関わるエンジン部だけは守れって事だ。」

 

 自分の表情が変わらない事に感謝してその情報を受け入れる。

 圧倒的な数で敵艦隊を囲んでいるにも関わらず、撃沈予定の戦艦にまでスパイを潜り込ませるとはどうなっているのか。

 

 私は信じられなかった。

 敵の作戦行動についてではなく、それを感知し勅命を下した中佐殿の脳内が理解できない。

 

「中佐はそうまでして何故生の魔道エネルギーを必要とする⁉それだけでは何も出来ないだろうに。」

 

「だからみんなお前さんを怪しんでいるのさ。フル武装のサイボーグが指揮下にあるってだけで皆びびるもんだ。」

 

「私の身体を⁉くそ、ココまで来てやっとジェイスのいう意味が分かって来た。」

 

 彼はこの場に居る他の人に気づかれまいとコーヒーを1人分入れて、リラックスしながら飲みだす。

 私は私でジャックインされている事を悟らせない為にもジッとしている他なかった。

 

「ははぁ、その為のメンテ期間、その為の機体ってか。だったら役目はお前さんで決定だイヴ。文字通りお前さんにしか出来ない。」

 

 フルスペックの私を魔道エネルギー満載で運用させるのであれば色々な戦術が可能だ。

 例えば、敵の目の前で友軍を制圧し安全に寝返る、なんてことは容易に考えられる。

 

 生きて帰る可能性が低いって時に自分の背中を心配しなくてはならないとは、私が理想とする窮地ではない。

 こんな体では死んでも死にきれないのは皆同じだ。

 

「何をどうしろって……そういやジェイスは中佐へあいさつに行けと言っていた、何か仕込んでいるのか、リッグスは何か。」

 

「聞いていない、だがパスを無視するわけにもいかんだろ。」

 

 彼はそう発信すると、強制的にジャックインを解除した。

 私のカメラに向けて指を立てて「行け」とサインを立てる。

 

「目の前のボールを蹴らない程、私は朴念仁じゃない。」

 

 彼からの回答を得られなかったが、私の決意表明はきちんと届いている筈だと思い振り返らずに部屋を出た。

 最初から定まっていたが、中佐へのあいさつをサボるという選択肢は消えてしまったみたいだ。

 彼の陰謀を何とか止めなくては。

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