音楽神の加護を持つ夫、美少女アイドル妻と共に芸能界を無双する 〜初心な妻を赤面させながらチートスキルで芸能界の頂点に立つ〜 作:のこのこ大王
色々と美結に来る仕事をこなしていると、彼女にとっての2度目の電撃歌祭りの日がやってきた。
2度目でしかも連続出場ということもあり、美結は非常にリラックスしていた。
「じゃあ、行って来るわね」
マネージャーにそう告げてオープニングに参加する。
司会の柳 花蓮も場を盛り上げるために自慢のトーク力を駆使して観客の期待値を上げていく。
「それではそろそろ始めましょう!第一試合を!」
高らかな宣言と共に、歌番組が始まった。
美結が出るからなのか、それとも別の理由なのか。
最初からネットの視聴者数が200万人を突破していた。
これには和田プロデューサーも指揮部屋で満足そうにしている。
最初に登場したのは、最近出てきた男性3人組のロックを歌うグループだ。
チートスキルで確認すると相性度は53%。
まあまあといったところだ。
本人達は若いこともあり、まだまだ粗削りである。
特に息継ぎで僅かに息を吸う音が入ってしまったり、息を吐き切った時の最後に僅かな音ブレをマイクが拾ってしまっている。
これでは音楽に集中出来ないし、せっかくの努力の成果が半減してしまう。
それでも勢いに乗って歌い切った。
まだまだこれからといった所かな。
対戦相手として現れたのは、女の子15人という大所帯なグループ。
人数の多さを利用したダンスや歌の厚みで勝負を仕掛けている。
チートスキルで確認すると相性度は47%。
これは人数の多さが逆に足を引っ張っている状態だ。
歌っている曲が応援ソングなのは構わないが、どうしてもそういう方向性が合わない子が出てくる。
無理して歌うからトータルとしての相性度が下がっているという訳だ。
ここから技術で多少補うことが出来なくもないが、若い彼女達にそれを期待するのは酷だろう。
投票の結果、勝ったのは女性グループの方だった。
個人的には男性3人の方が良かったが、あくまでネット投票である。
純粋な歌の上手さだけで決まる訳ではない。
こうしてどんどんと番組が進んでいく。
そして美結はどうやら最後になったようだ。
「さて、これが最後の試合になります!」
司会の柳は、一切の疲れを見せることなく素晴らしい番組進行をしていた。
彼女を声で、一人の少女が現れた。
茶色の肩まであるセミロング。
少し大きめのピンク色をしたフリルが大量についたアイドル衣装を着た美少女だった。
笑顔であるものの、どうも彼女の見た目と衣装が似合っていない気がする。
橘(たちばな) 心愛(ここあ)
三大エンターテインメントと呼ばれる会社の1つ『二階堂エンターテインメント』所属のアーティストだ。
絶賛売り出し中である19歳の彼女だが、どうにも俺からすれば彼女にアイドル路線は似合わない。
笑顔を振りまきながら登場した彼女は、司会の柳の言葉に『緊張しています』と初々しいコメントを残してステージに立つ。
歌はアイドルらしい恋愛の歌だ。
だたチートスキルで確認すると相性度は27%
ぶっちゃけ彼女との相性が悪すぎる。
それでも彼女の歌い方、特に言葉に感情を乗せるのが美味い。
息継ぎやブレスなどもその辺のアイドルでは不可能なレベルだ。
するとチートスキルが表示を変更し始めた。
『相性度41%』
それを見て俺は驚いた。
たまに居るのだ。
己の技術や表現、歌への理解度などで強引に相性度を上げてくる天才が。
彼女も元が低いとはいえ14%も上げてきた。
もしこれが彼女にとってもっと良い相性の曲だったなら―――
そんなことを考えていると曲が終わっていた。
彼女はあくまでも笑顔で手を振って去っていく。
こんなミスマッチを起こすなんて彼女の事務所が悪いのか、それともマネージャーが悪いのか。
そして彼女の対戦相手であり、最後に出てきたのは俺の嫁である『MIYU』である。
彼女が出てきた瞬間、大歓声が巻き起こる。
まるで彼女が本日の主役だと言わんがばかりだ。
まあこれも仕方が無い。
前回の放送の切り抜きは未だ再生数が伸び、彼女のファンは増え続けている。
しかも世界的に人気の『美樹』の曲提供だ。
もしかしたら今回も―――と思うのは当然の流れだろう。
司会の柳も、会場の熱気を察して余計な言葉を入れずにスグに美結をステージに立たせた。
演出によって一時的にステージの証明が落ちる。
美結はステージ中央に立って瞳を閉じている。
ステージの後ろに表示された文字に思わず大歓声が響き渡る。
『いのち』
作詞:美樹
作曲:美樹
少ししてBGMと共に照明のスイッチが入り、ステージを照らす。
するとスグに誰もが曲を聞き逃すまいと黙り込む。
歌が始まる、その第一声と共に彼女は瞳を開いた。
一気にステージの雰囲気が変化する。
次の瞬間、チートスキルも反応した。
『水野美結 × いのち = 相性度86%』
思わず声が出そうになった。
歌い出しの時点で既に相性度が前よりも16%も上昇している。
その影響か、会場全体が歌の世界観に包まれる。
それは、いつもの日常。
家族とのたわいのない会話。
友人達との雑談。
お隣さんとの世間話。
世界中のどこにでもある光景。
次に思い描くのは働く者達の姿。
スーツ姿で世話しなく働くサラリーマン。
レストランで食事を作るコック。
それをテーブルに運ぶ給仕。
学校で授業を受ける生徒。
教壇でそれを教える教師。
荷物を運ぶトラック運転手。
畑を耕す農民。
機械を動かすオペレーター。
設備を点検する技師。
街を見張る警察官。
人を助ける医者。
火の中に飛び込む消防士。
国のために訓練を行う兵士。
そんな彼らを紙に描く子供達。
誰もが日々を生きている。
特別な人なんていない。
貧富の差はあれど、人々の幸せはそれぞれであり、差などない。
みんなが己の幸せを求め、守り、生きている。
例え今は1人でも、誰かが必ずアナタを必要としてくれるはず。
いつかはアナタを心から心配してくれる人と出会えるはず。
もしくはもう出会っているかもしれない。
だから一度立ち止まって周囲を見てみよう。
―――きっと、何かが見えるはずだから
誰もがその歌を聞いて思う。
普段、他人の事など気にしていない。
しかし彼ら、彼女らが居るからこそ、世の中が回っているのだ。
一人一人が頑張って、それぞれの幸せを掴もうとしている。
誰もが自分の今の幸せを守ろうと努力している。
それの何が悪いというのだ。
例え安い給料だろうが、歯車のような扱いだろうが、それでもその仕事は必要で、そんな中でもそれぞれの幸せを追い求めている。
大金持ちになった所で、己が幸せでなければ何の意味がある?
大切な人と共に生きること、大切な人を守ること。
それこそがもっとも尊いはずだ。
だからこそ自信をもって欲しい。
今の人生にもっと胸を張って欲しい。
誰もが代えの利かない存在なのだから。
曲が終わってから5秒ほど、静寂に包まれた。
そして爆発的な歓声が響き渡る。
今回は泣いている人よりも、勢いよく立ち上がって拳を振り上げて興奮している人の方が多い。
―――そうだ!俺達は俺達だ!
そんな声が聞こえてくる。
今回の歌は、一人一人の自由や愛を謳った人間賛歌だ。
だからこそ、曲を聞いた彼ら、彼女らは自分の生き方に、そして他人の生き方を思い出して共感したり称賛したりしている。
ひとり、ひとり、人間は違うのだ。
誰1人として代わりなどいない。
そうした想いに触れて、皆が何気ないと思っていた日常や、繰り返しで灰色だと思っていた生活に希望を見て、意味を見つける。
ステージ上の美結も満足そうに周囲に手を振っていた。
すると奥から1人出てくる。
対戦相手だった橘 心愛だ。
彼女は瞳にうっすらと涙を浮かべながら美結に近づくと、そのまま握手を求め、そして感極まったのか抱き着いて泣き始めた。
一瞬驚いた美結も、彼女を抱きしめる。
その光景に会場は拍手に包まれた。
結果は、美結の圧勝。
しかし心愛に対して悪く言うものは、ほとんどいなかった。
みんな『良い勝負』ではなく『美しい勝負』だったと褒め称えた。
その理由の1つが、番組終了後の心愛のSNS。
『MIYUさんのファンになりました!』
メッセージと共に美結とのツーショット写真が投稿されていたからだ。
その日から、美結は定期的に心愛とメッセージのやり取りをする仲になった。
ある日の夜。
疲れていたのか、スマホを握り締めたままソファーで眠ってしまった彼女を抱っこして寝室へと運ぶ。
その時、スマホをサイドテーブルに置こうとして、ふと表示されている内容が目に入ってしまった。
それは、心愛相手に『私の旦那様はこんなに凄くてカッコいい』というひたすらの旦那自慢だった。
それを見た瞬間。
俺は心の中で橘 心愛に対して申し訳ない気持ちになってしまった。
それと同時に自分の嫁に対してもツッコミを入れてしまう。
何をしてるんだよ……と。