音楽神の加護を持つ夫、美少女アイドル妻と共に芸能界を無双する 〜初心な妻を赤面させながらチートスキルで芸能界の頂点に立つ〜 作:のこのこ大王
最強歌バトルは、テンポよく進んでいた。
流石、特大コンサート級というべきか。
ここぞとばかりに三大エンターテインメントからも売り出したい人間が次々と出場する。
特にまだ単独コンサートすら出来てない者からすれば、8万人のコンサート会場、しかも生配信もある場所で歌う機会など、まず巡り合えることはないレベルの幸運だ。
それでもこの番組に出場する者は、緊張しつつもそれを表に出さずに己の力を発揮していた。
そうして最後の挑戦者となった。
柳 花蓮がその名を口にする。
「―――MIYUさんの登場です!」
登場した彼女は、清楚なワンピース姿だ。
ここでまずは数字を選択する。
そうして対戦相手が決まってから、対戦相手から歌を歌う。
その間に挑戦者は、歌う楽曲や衣装の準備を行うことが出来る。
つまり挑戦者が圧倒的有利な状態だ。
それでも今回挑戦した5人のうち、4人は0勝。
唯一勝った者も1勝だった。
挑戦者達は、大手事務所が送り出してきただけあって勢いがある歌い手ばかり。
しかし残念なことに対戦相手の運が悪いというか、自滅したというか。
同じ事務所や他の三大エンターテインメントの大御所などを引き当ててしまい、彼ら彼女らの容赦ない歌唱力の前に散っていった。
ある意味、対戦相手を強くし過ぎたせいで、自分達が売り出したい者を自分達の会社所属の先輩に潰させたようなものだ。
正直これには大爆笑するしかない。
特に1勝したロック系ミュージシャンなんて、1勝1敗で何とか2勝目!と目指していたところに爆弾が炸裂した。
なんと自分の会社の大御所である『国民の父』と呼ばれる俳優が対戦相手として登場してきて、彼の代表曲とぶつかったのだから。
ぶっちゃけ勝てる訳がない。
人気もさることながら、圧倒的な技量差による容赦ない一撃によってトリプルスコアで大敗した。
だからこそ『MIYU』ならどこまで行けるか?という話題で持ち切りになった。
何故なら彼女の最近の曲は全て『美樹』の曲なのだから。
だが残念なことが1つある。
最後ということは、選択肢が無いということだ。
元々挑戦者6人に対して対戦相手が18人しか用意されていない。
つまり残った3つの数字しか無く、選択出来ないということ。
唯一出来るのはその3つの順番ぐらいだ。
「では、数字の順番通り―――」
彼女は数字の若い順番で指名する。
そうして控室に戻った。
そして控室のモニターを見る。
「それでは、1人目の対戦相手が登場です!」
ステージの照明が落ちて人影がステージに上がってくる。
曲が鳴り始め、再び照明がステージを照らすと、爆発的な歓声が巻き起こった。
柊(ひいらぎ) 名雪(なゆき)
28歳の女性実力派アーティストであり、ライバルと言われている一宮(いちのみや) 姫乃(ひめの)とアイドル時代から二大アイドルとして鎬を削った1人だ。
海浜エンターテインメント所属。
彼女は、髪を大きくて緩い三つ編みにして肩からぶら下げており、ラフな白いTシャツに青のジーンズという恰好をしている。
それでも彼女の圧は、この業界を戦い抜いてきた者特有のそれだ。
彼女は登場して一瞬で歌の世界に入り込む。
彼女の歌が風景を見せる。
それは青春の1ページ。
初恋を胸に、それを伝える勇気が持てずに見送るしかない少女の物語。
好きな人に少しでも近づきたい……でもその勇気が持てない。
そうしているうちに時間だけが過ぎ去っていく。
ほんの少しの会話さえ、嬉しかった。
永遠に続いて欲しいと願っても、やがて終わりの時がやってくる。
そうして少女の初恋は、誰にも告げることもなく、彼女の胸の中で静かに終わりを迎えた。
歌が終わると大歓声が巻き起こった。
中には歌詞に影響されて泣いている者もいる。
ほとんどが女性だ。
まあ女性向けの歌ではあるので、それはある意味当然なのだが。
彼女の歌を聴きながら、美結に指示を出して準備をさせる。
相手が青春の恋愛を歌うなら、同じく青春の歌で対抗してやろう。
準備が終わった彼女が、どこか不安そうにしていた。
なので彼女を抱きしめながら耳元で囁くように言葉をかける。
「大丈夫、自分を信じろ。俺を信じろ。失敗を恐れるな。愉しんでこい」
そう言って彼女を送り出す。
ステージ照明が消えた所で、彼女がステージに立つ。
曲が始まると同時に明るく照らされる。
彼女は淡いピンク色のドレスを着ていて白のレースも相まって、まるで花の妖精のように見える。
耳元にも大きな花の形をしたイヤリングが目立っており、いつもより清楚感が強まっていた。
『桜吹雪の中で』
作詞:美樹
作曲:美樹
彼女が歌い出すと曲の世界が、風景が観客全体を包む。
入学の日。
初めてあの人に会った。
最初は先輩と後輩の関係だった。
偶然にも出会う機会が何度かあり、日常会話をする友達のような仲になる。
そうしてやり取りを繰り返し、放課後には一緒に買い物などをする関係になった。
そんなある日、先輩と見知らぬ美人が愉しそうに話をしている現場を見てしまう。
それとなく聞くと、先輩の幼馴染らしい。
それを聞いて瞬時に嫌な気分になった。
彼の笑顔が他の誰かに向いていることが、苦しくてたまらなかった。
それが嫉妬だと気付いた時
―――私は、恋をしていることに気づいた
先輩と居る時間が愉しかった。
彼が居ない時間が退屈だった。
他の娘と話す彼を見るのが辛かった。
少しでも一緒に居たいと同じ部活に入った。
何度も一緒に帰った。
理由をつけて休日に2人で出かけることもあった。
それでも先輩に想いを伝える勇気が持たなかった。
今の関係を壊すのが怖かった。
でも、ある夏の日。
花火大会のあの夜に、幼馴染だと言っていた人と一緒に花火を見ているアナタを見て、心が壊れそうだった。
アナタを誰かに取られるのが……失うのが怖かった。
彼女が好きなんですか?と聞くのが怖かった。
そんな気持ちを抱えながら、それでも彼の自転車に2人乗りで走る時間が好きだった。
一緒に勉強をする時間が尊かった。
休日に出かけたあの日が、輝いて見えた。
だからこそ。
私は、たった1度だけ。
自分の全てをこの瞬間につぎ込む。
桜が舞い散る季節。
先輩が卒業する日。
この日が終われば、彼との接点は大幅に減る。
きっとこのまま彼を失ってしまうだろう。
だからこそ―――神様、私に勇気を下さい。
卒業式が終わった校舎。
誰もが学校の校門前で別れを惜しみ、写真を撮りながら会話をしている。
そんな中、学校の裏手にある大きな桜の木の下で。
私を待っててくれた彼の元へと駆け寄る。
息を整えようとしても、心臓が煩く響く。
それでも深呼吸を何度かして、彼の顔を見る。
私の大好きな人の顔。
彼の顔を見て、改めて思う。
ここで後悔したくないと。
どうせ後悔するのなら、私の全てを捧げてからだ。
桜舞い散る青空の下。
私は精一杯の想いを乗せて彼に伝える。
―――アナタが好きです
その言葉を言い終えて、私の心は軽くなる。
あの日から、ずっと言えなかった言葉。
それをやっとアナタに伝えることが出来た―――と。
歌が終わると会場は一瞬の静寂に包まれた。
しかし突然、数人の女性が号泣しながら立ち上がって拍手する。
するとそれを引き金に会場全体が立ち上がって拍手をし始めた。
そして歓声が上がり始めると一気に会場の外に聞こえるほどの大歓声となる。
ネット中継も弾幕の嵐だ。
特に女性からのコメントが圧倒的だ。
青春を思い出し、自らの経験と重ねた者もいれば、曲の世界に引き込まれてまるで映画を見た気分だと口にするものもいる。
そして改めて議論になった。
柊 名雪も同じく青春ソングだったこともあり『どちらが上か』という議論だ。
それがそのまま試合結果に反映される。
―――MIYUの大差勝利。
柊 名雪は、曲の影響もあって目に涙をためていた。
試合結果に関しても納得している。
これだけの名曲を完璧に歌われては、自分では勝てないと。
そして同時に思っていたことを口にした。
「私も、こんな素晴らしい曲に出会いたい」
今までの曲が悪いとは言わない。
むしろ十分過ぎると思っている。
しかしそれでも目の前で、これだけの歌が披露されれば羨ましいという気持ちが出てしまう。
自分だってこんな曲に出会いたいと。
ステージから控室に戻った美結は、笑顔で俺に抱き着いてきた。
それを優しく受け止める。
ここから少し休憩を挟んで2回戦目だ。
それまで彼女をゆっくりと休めさせることが大事である。
「まずは1勝ね」
橋本マネージャーの言葉に、2人で頷く。
そう……ここからが本番だ。