音楽神の加護を持つ夫、美少女アイドル妻と共に芸能界を無双する 〜初心な妻を赤面させながらチートスキルで芸能界の頂点に立つ〜 作:のこのこ大王
最強歌バトルは、ついに最後の3回戦目を迎える。
ここまで2連勝。
最高記録だ。
そして最初からいきなり3連勝が出るのか?
そういったことを気にする視聴者も出始める。
そんな中で、ついに最終戦が始まる。
そう思った瞬間だった。
司会の柳 花蓮が何か指示を受けたかのように開始ではなく、人を紹介すると言い出した。
やってきた人物に、今日何度目になるかわからないといった感じで観客やネット視聴者達が驚いた。
松島(まつしま) 大門(だいもん)
海浜エンターテインメント所属。
国民的スター俳優にして『若大将』の異名を持つ、渋いイケ叔父スタイルの男性俳優だ。
常にスーツでビシッと決めており、その寛大さと俳優としての格はトップクラス。
しかも元々歌手に憧れていたということで、音楽業界に進出してくるなど、マルチな才能を持つ。
彼は、ステージ上で軽快なトークを繰り広げる。
それによって会場は爆笑に包まれた。
そうして独自の雰囲気を作ると、ようやく曲が流れ出す。
「厄介だな」
俺は思わずそう口にする。
彼の歌い始めた歌は、彼の代表曲と呼ばれているもの。
相性度も技量補正もあって61%と悪くない数字だ。
歌が聴く人々を、歌の世界に引き込む。
それは遠き故郷を想って歌う歌。
旅に出た男が、ふと故郷を思い出して帰路に就く。
途中で様々な人々との出会いと別れを繰り返す。
そうして徐々に懐かしい風景が広がっていく。
ときに困難が立ち塞がろうとも、決して諦めることなく歩こう。
いつか必ず帰れると信じて。
気づけばいつの間にか、ここまで帰ってきた。
懐かしい風景の中を駆け抜ける。
そして見つけた古くも思い出が詰まった我が家。
中から出てきた、記憶よりもはるかに老けた母親。
それでも駆け寄って抱きしめる。
―――ただいま、母さん
歌が終わると大歓声の中にすすり泣く声も聞こえてきた。
特に年齢が高いほど歌が刺さったようだ。
かなりの高評価だったことが伺える。
準備が出来た美結を見る。
最初は同じく故郷を想う歌をぶつけるつもりだったが、スグに方針を変えた。
ここまで来たら万が一の事故というものが怖い。
悪いが、確実にこの大御所を潰す必要がある。
司会の柳 花蓮が場の熱が冷めぬようにトークで回す。
そしてこちらの準備が出来たことを確認すると、歌の始まりを告げた。
今回登場したMIYUの姿に、皆が見惚れる。
シンプルながらもしっかりとしたデザインのワンピース。
大き目の帽子を被っていて、完全に田舎に居そうな美少女という雰囲気を出していた。
そして後ろの特大モニターに曲名が出た瞬間に、ざわめきが起きた。
『想い人』
作詞:美樹
作曲:美樹
皆口々に言う。
「やっぱりそうだ!全部新曲だ!」
「全部が美樹の新曲とかヤバいな!」
「既存曲が多い中で、新曲3連発とか豪勢過ぎるだろ!」
―――そう、今回の悪だくみは『新曲攻め』だ。
全て相手に合わせて同じジャンルの歌で正面から勝負して叩き潰す。
これこそ王道だと言わんがばかりに新曲を大量に用意して今回の番組に臨んだ。
だが、まさかあの『若大将』が出てくるとは……。
おかげで全て真正面から叩き潰す計画を修正するハメになった。
俺がそんなことを考えているうちに、彼女の歌が始まった。
瞬時に皆が歌の世界に引き込まれる。
田舎の駅で、少女が1人の恋人を見送る。
彼は言う。
「俺は都会で成功して、キミを迎えに行く」
キラキラした瞳でそう言う彼を彼女は見送った。
「待ってるわ」
そう言って。
向こうで仕事を始めた彼は、毎日のように彼女に電話をかけた。
それを彼女は嬉しそうに待った。
しかしそれが1年ほど続くと、だんだんと会話が減り、電話が毎日ではなくなる。
心配になった彼女は、月に何度か彼の元を訪ねるようになった。
数日、彼の部屋で掃除や洗濯をして料理を作る。
まるで新婚の気分。
彼は最初こそ嬉しそうに、そして申し訳なさそうにしていた。
でも数か月すると、会話も減り、いつの間にか見たことの無い他人のような姿に見えることさえあった。
それでも彼が仕事が大変なだけだと思った。
しかし。
―――ついに私が居ると知りながら、飲み会を理由に彼は朝帰りをするようになった。
そうして私は、いつの間にか連絡を取らなくなった。
彼も連絡しようとしてこない。
ただ共通の友人から、彼の近況をたまに聞くことがあるぐらいになってしまった。
それから1年。
風の噂で、彼が結婚したと聞いた。
私は、彼と過ごした思い出の草原に居る。
数々の出来事が頭を過る。
何が悪かったんだろう?
どうしてこうなったんだろう?
考えてもわからない。
私が出来ることは、ただ現実を受け入れて泣くことだけ。
風が吹く。
もう手から零れ落ちてしまった何かを惜しんで涙があふれる。
過ぎ去った日々も遠くの空へと飛んでいく。
それらを意識して―――私はその場で泣き崩れた。
風が吹く。
あの頃とは違う風。
あの時とは別の想い。
ただ私は静かに願った。
―――せめて、アナタが幸せでありますように
彼女が歌い終わると会場ではすすり泣く声が多かった。
ネットでも涙でコメントを打てない人々が多く、しばらくコメントも沈黙していた。
少ししてから拍手や歓声がパラパラと起き始めると、それを引き金に一斉に歓声が巻き起こる。
『水野美結 × 想い人 = 相性度84%』
相性も悪くなかった。
何よりネットのコメントも、この悲恋の歌の感想で弾幕になっているほどだ。
「男がクズだ」
「よくある話」
「私も同じような経験があるわ」
「俺なら絶対に恋人を見捨てないね」
「彼女はそれでも彼の幸せを願うなんて良い子過ぎる」
コメントの反応も悪くない。
だが、それでも投票の時間となると雰囲気が怪しくなる。
やはり『若大将』の人気やファンによる投票が多くなったのだ。
投票は、どうやら接戦らしい。
いつもより集計が遅れた。
ステージには、美結と大門の2人が結果を待っていた。
「お待たせいたしました!」
柳の声によって、会場が静まり返る。
誰もが結果を見守る。
「今回の勝者は―――MIYUさんです!」
その言葉と共に背後の特大モニターに結果が表示される。
僅か32票差。
しかしそれでも勝ちは勝ちだ。
こうして俺達の挑戦は、見事3連勝という結果で幕を閉じた。
控室に帰ってきた美結は、涙を浮かべながら俺に飛びついてくる。
それを優しく受け止めて抱きしめる。
「私、勝ったわ」
「ああ、本当によく頑張ったよ」
橋本マネージャーは、空気を読んで外に出ていく。
2人はそれに気づかず、抱き合っていた。
一方、松島 大門の控室。
彼は長年支えてくれていた白髪交じりのマネージャーに声をかけていた。
「いやぁ~、負けちゃったよ」
「それでも僅差でした。流石ですね」
「よしてくれ。負けは負けだ。それにしても最近の若い子は凄いね」
そう言いながらテーブルに置いてあった水を飲む。
「正直、悔しいとかよりもさ……羨ましかったよ」
「羨ましい……ですか?」
「そうさ。キミも見ただろう?あの観客との一体感を。歌の世界を」
そう言って大門は立ち上がる。
「ボクも人生で一度くらいは、あんな風に全てを魅了するような歌が歌えればなぁ」
それは彼の心からの本音だった。
マネージャーもそれを知っている。
彼は元々は、俳優ではなくアーティストになりたかったのだと。
「一度、ダメ元で彼に連絡してみようかな?」
「彼?」
「『美樹』って作家さ。あれだけの名曲と言えるものをたくさん出せるんだ。ボク用の望む歌だって書いてくれるかもしれないだろ?」
冗談っぽく言う大門だったが、その瞳にはギラギラと光ものがあった。