音楽神の加護を持つ夫、美少女アイドル妻と共に芸能界を無双する 〜初心な妻を赤面させながらチートスキルで芸能界の頂点に立つ〜 作:のこのこ大王
その年の年末。
誰もが仕事終わりを迎えて忙しそうに帰宅する。
中には数日前から仕事が終わって故郷に帰省する者、外食をして愉しそうにする者、ここぞとばかりに商売をする者。
様々な想いが溢れた年末となっていた。
そんな年末の夜。
誰もが今年最後の日に、新年の準備や、もう全てをやり終えてゆっくりしている頃。
俺達の大一番が始まった。
―――年末事務所対抗歌合戦
芸能内の様々な思惑が交差する番組。
今年は大幅な改革があったことが大々的に宣伝されたこともあり、視聴率は開始直後にも関わらず高かった。
テレビ中継で55%。
ネット視聴も300万人超え。
まるでかつての人気が返ってきたかのような数字に、思わず放送室に居た和田プロデューサーも口元に笑みを浮かべる。
特設ステージでは12万人という超一流アーティストのライブを思わせるほどの人数で溢れかえっていた。
現在の数字を耳のインカムを通して聞いた柳 花蓮のテンションは上がりっぱなしである。
彼女は今年最後であり、今年一番の大勝負であるこの番組を成功させるために全力で場を盛り上げた。
番組としては、事前に決まっている順番通りに各事務所が攻撃したい事務所を指名する。
その事務所とアーティストを1人づつ出して歌バトルを行い、勝った方が1ポイント貰える。
どの事務所を狙っても良いので、ポイントのために確実に勝てそうな所を狙うか、話題性を考えて格上を倒すために挑戦するのか?
攻撃側のアーティストを見てから仕掛けられた側は、誰を出し何を歌わせるかを決められるため、防衛側が有利だ。
だからこそこういうシステムの場合は、一番弱い所が集中攻撃されるか、暗黙の了解のように影響力の強い事務所が勝つようになっている。
しかしここで少し面倒な話があった。
和田プロデューサーが、わざわざこちらに来て忠告をくれたのだ。
「何かある」
漠然としていたが、長年の勘とでも良いたげな言葉に素直に感謝しておいた。
俺だって何かありそうだと思っている。
ステージでは、早々に第一試合の開始が告げられた。
最初に登場したのは、そこそこの中堅事務所であり、去年から今年にかけて人気が出てきた2人組の男性グループだ。
そして彼らが指名したのは……何とウチだった。
この瞬間、嫌な予感がした。
本来、この番組は事務所対抗という形ではあるが、実際には事務所が売りたいアーティストの宣伝場である。
だからこそ対戦相手には話題性が欲しい。
勝敗などどうでも良いのだ。
弱小事務所の知名度など無い相手と勝負して勝った所で何の話題性もないし、何の宣伝にもならない。
だったら大手事務所を指名して、少しでも相手から人気や話題性のあるアーティストを出して貰う方が数倍マシだ。
勝てれば『下剋上成功』という話題性が手に入り、負けたとしても『あの人気or話題のアーティストと対戦した』という宣伝を得ることが出来る。
どちらに転んでも得をすることになる。
大手事務所としては、売り込みたいアーティストを安定して勝たせることで『さすがは大手事務所』と宣伝出来て、影響力を維持出来る。
なので本来ならウチを狙う理由など無い。
もしかしたら今話題性のある、俺の嫁との対戦を狙ってかもしれないが……。
対戦相手の2人組は、帽子をかぶり、大き目のサイズの服にダメージジーンズ、首元にはやけに大きな金のネックレス。
曲もわかりやすく、歌とダンスで勢いに乗った歌という感じである。
ただ相性度は59%と高めであり、粗削りながらも人気があるという理由もわからなくもない。
彼らが歌うのは、若者の自由というものだ。
社会のしがらみや、大人の意見に反発し、俺は俺だ!という感じの歌である。
歌の世界に引き込むというよりは『俺の歌を聞けぇ!』って叫んでいると言った方が良いだろうか。
ひたすら自分達の言い分を語りながら、派手な踊りをパフォーマンスとして入れてくるので、歌の世界に入り込むということはない。
どちらかと言えば、彼らの主張を聞かされているというだけで、個人的な評価としては微妙だと言える。
控室で彼らの歌とパフォーマンスを見ながら、俺は高藤 瑠璃に声をかけた。
「今回は、キミに行って貰う」
その言葉に瑠璃が焦った。
「え?あ、アタシ、ですか!?」
そんな彼女に淡々と告げる。
「これがキミのデビュー戦だ。問題ない、勝てる」
自信満々にそう答える俺に、彼女は自信無さげに反論するが、それを許す気はない。
「今まで何のために努力してきたんだ?何を目指して路上で歌ってたんだ?」
「……」
「新人がコンサートやった所で1万人とかそんな規模だ。でも今日は10万人以上いる場所で歌えるんだぞ?こんなチャンスは今日だけだ。最高のデビューじゃないか」
そう言いながら彼女のエレキギターを渡す。
「勝ち負けなんて気にするな。大勢の観客も気にするな。気になるならいつもの駅前で歌ってるつもりで歌えばいい。歌の世界に没頭出来るまで目を閉じてても良い。思い切ってやってこい!」
俺の励ましに、彼女は次第に決意を秘めた瞳を向けてきた。
「……わかりました!やってみます!」
一方、ステージでは柳 花蓮が場の熱が冷めないように盛り上げていた。
そんな中、耳に次の準備が整ったという連絡と共に、情報が伝えられる。
一瞬驚いた彼女だったが、流石はプロ。
一切表情に出さずに呑み込むと、大げさにその情報を会場に伝えた。
「それでは、水野エンターテインメントの防衛戦! 何と本日デビューという新人です!」
その言葉に会場もネットもテレビを見ていた視聴者も驚きと困惑に包まれる。
誰しもが『え?嘘だろ?』という感じだ。
みんなウチは『MIYU』だけだと思っており、てっきり彼女で無双するだけだと思い込んでいたからだ。
もちろん俺はそんなことにはしない。
いくら人気だろうが何だろうが、同じ人物ばかりが出てきて無双し続ければどれだけ名曲を引っ提げようとも、必ず飽きられてしまう。
そうなればどれだけ頑張っても一定以下評価にしかならず、下手をすれば叩かれかねない。
そしてそう考えて気づいてしまった。
恐らく三大エンターテインメントの狙いはこれだったのだと。
しかし残念ながらその狙いは既に崩壊していると言える。
何故なら、もはやウチの戦力は嫁だけではないのだから。
―――同じ頃、紹介されてステージに上がった高藤 瑠璃は、極度に緊張していた。
今まで頑張ってトレーニングをして、デビューを目指してきた。
しかしいきなりこんな大勢の前で歌うことになるとは思ってもみなかったのだ。
服装も『これでいい』と言われ、白のオフショルダーニットに黒のミニプリーツスカート、そして黒のブーツ。
足が震えそうになるも、何とか堪える。
先ほど控室で先輩達から励まされた言葉を思い出す。
相棒のエレキギターを抱きしめて瞳を閉じ、一度大きく深呼吸をする。
思い出すのは、今までの人生。
方向性の違いとは名ばかりに、ただ相性が悪いからと追い出されたグループ。
それでも諦めきれずに歌の道を突き進もうとした想い。
何をすればいいのかわからず、とにかく駅前で歌い続けていたあの頃。
そうしてスタウトされた日。
スタジオで練習する日々。
たまに先輩達が見に来てアドバイスも貰った。
そう、全てはこの日のため。
瞳を閉じたまま、合図を入れる。
そして相棒のエレキギターを構えた。
始まった曲と共に演奏する。
一瞬にして会場の雑音が消えた。
背後の特大スクリーンに曲名が表示される。
彼女はゆっくり目を開ける。
その瞳には、会場の観客ではなく、いつもの駅前でもない……彼女の歌の世界が広がっていた。
―――その瞬間、曲を聴いていた観客・視聴者達は全てが歌の世界に引き込まれた。