音楽神の加護を持つ夫、美少女アイドル妻と共に芸能界を無双する 〜初心な妻を赤面させながらチートスキルで芸能界の頂点に立つ〜 作:のこのこ大王
次期若大将として人気だった烏丸 悠馬のパフォーマンスに会場は盛り上がっていた。
「では、今度は防衛側の水野エンターテインメントに登場して頂きましょう!」
既にインカムで情報を聞いていた柳 花蓮だったが、それでも本人が登場すると驚きを隠せなかった。
そして何より、何の前情報も無い観客やネット視聴者達は、それこそ大歓声の中で大混乱し、多いに困惑していた。
「え? 何で『若大将』が!?」
「松島 大門じゃん!!」
「は? どうして水野エンターテインメントに?」
「待って!? これって『次期若大将』VS『若大将』ってこと!?」
「夢の対戦カード過ぎるだろ!」
会場もネットも会話が止まらない。
そんな大騒ぎすら愉しむように堂々とステージに立つ大門は、とても気分が良かった。
彼はどこまでもマイペースで合図を出す。
今は多くを語ろうとは思わない。
一刻も早く、この歌を届けたかったのだ。
『旅路』
作詞:美樹
作曲:美樹
元々相性度85%あったこの歌を、今の彼が歌うと95%にまで跳ね上がっている。
それだけ大門にとってこの歌は、自分のお気に入りであり、暇さえあればこの歌ばかりを口ずさんでいた。
さあ出かけよう。
自由で気まぐれな野良猫を見習って
ボクには純粋さだけしか取り柄がないけれど
さあ共に出かけよう
スタートラインは人それぞれさ
必要なのは、旅を続ける情熱だけさ
それさえあれば、他は何もいらない
さあみんなで動かそう
夢という名のエンジンを
前を向いて歩こう
道なき道を選んで
誰かと一緒なら怖くない
休憩する時はみんなで語ろう
そしてまた歩き出そう
きっと素晴らしい明日が待っている
時には落ち込むこともあるさ
誰かが止まってしまうこともある
そんな時は、誰かが一緒に泣いてくれる
誰かが肩を貸してもくれるさ
みんな他人だけど
誰かが困っていれば
きっと手を差し伸べてくれるはずだ
灼熱の砂嵐の中も
光の無い深海も
極寒の吹雪でも
ボク達の足は止まらない
例え喧嘩をしたとしても
みんなで本音を語ろう
そうしてまた誰かが誰かに肩を貸すんだ
不思議とみんなの歩調が揃う
誰かが山頂に旗を立てても
また誰かが次の目標を口にする
そうしてみんながまた歩き出す
いつかあの空に浮かぶ月に旗を立てるその日まで
仲間達と歩き続けよう
―――ボク達の旅は、決して終わることはないのだから
彼が歌うのは、仲間達と果てしない旅をする物語。
その度は、どこか人生にも似ている。
それを仲間達と色々ありながらも歩いていこうという歌だ。
彼の普段から飄々とした姿と、その内に秘めた熱い情熱が歌によって表現される。
歌が終わってもしばらくは音が無い静寂が会場を包む。
それからどれぐらい経過しただろうか。
ふと誰かが呆然としながらも何とか拍手をし始めた。
するとそれをきっかけに正気に戻った人々が、全力で拍手をし始め、やがて大歓声となった。
ネットの書き込みは『ヤバい』という言葉で溢れている。
そんな様子を控室で見ていた烏丸 悠馬ですら『ヤバい』と口にしていた。
一向に鳴りやまない歓声を背にして満足そうにステージを後にする大門。
彼はついに自分が納得出来る歌に出会えたのだ。
逆にテレビでこれを見ていた海浜エンターテインメントの木原は、未だ呆然としていた。
満を持して送り出した烏丸 悠馬が負けたというのもあるが、まさか強行に出て行った松島 大門が、まさか水野エンターテインメントに移籍していたとは思わなかったのだ。
もうこれは単純な損失ではない。
今回のこれは、完全に顔を潰されただけでは済まされない。
今後数年間は、今回のダメージを回復することは出来ないだろう。
下手をすれば自分の立場すら危うい。
木原がまさに株主たちにどう説明したものかと悩んでいた頃。
二階堂エンターテインメントの控室では、一宮(いちのみや) 姫乃(ひめの)が準備を終えてステージへと向かっていた。
すると偶然、大門に出会う。
「松島さん、お久しぶりです」
「ああ、姫乃ちゃんか、久しぶりだねぇ」
互いに知っている顔だけあって和やかに会話を行う。
「素晴らしい歌を聞かせて貰いました。流石ですね」
「いやぁ~ホント、良い歌だったでしょ? 歌っていて楽しいと思えたのは本当に久しぶりだったよ」
あまりにも少年らしい無邪気な笑顔で語る大門に、一宮は苦笑しながらも笑顔で答えていた。
しかしここで長く会話をしている時間はない。
「では、そろそろ私はこれで」
そう言ってステージに歩いていく彼女に、大門は振り返って声をかけた。
「そうそう、姫乃ちゃん。1つだけ忠告しておくよ」
あくまで淡々と、しかしハッキリとしたその声に思わず彼女も振り返る。
「今日は全力で歌うことだ……悔いを残さないようにね」
「それは、どういう―――」
いつの間にか真剣な表情の大門に、姫乃も真剣な顔で質問する。
しかしまるでそう聞かれるとわかっていたかのように大門は口を開いた。
「今日の『彼女』は―――キミでは止められないだろうからね」
気づけばいつもの笑顔に戻っていた大門は、これ以上は何も語らず姫乃に背を向けて去っていった。
姫乃は、その言葉が気になったものの、時間を見てステージに行くことを優先するしかなかった。