音楽神の加護を持つ夫、美少女アイドル妻と共に芸能界を無双する 〜初心な妻を赤面させながらチートスキルで芸能界の頂点に立つ〜 作:のこのこ大王
電撃歌祭り向けの新曲を作る予定の最終日。
ギブアップした妻に代わって防音室にこもって曲作りを行う。
チートスキルである『音楽神の加護』をフル活用した結果、僅か3時間で完成した。
昼に防音室に入り、夕方になる少し前には曲を完成させて出てきた俺に、妻もマネージャーも驚いていた。
しかし手渡した曲をひったくるようにして手にすると、じっと眺めた後……感想1つ言わずに無言のまま防音室に直行する2人。
『水野美結 × キミを見つめて= 相性度81%』
俺はただ彼女達の行動と、不意に現れたシステム通知を見て、呆然とするしかなかった。
そうして月日は一瞬にして過ぎ去り、ついに電撃歌祭り当日となった。
特設会場には既に満員の観客の姿があり、まるで一流アーティストのコンサートのようだ。
俺は特別に用意して貰ったチケットで堂々と観客席に座って応援することにした。
時間になってBGMとライトが激しく動き出すことで、観客の興奮は最高潮に達する。
スタートの合図と共にステージに現れたのは司会の柳(やなぎ) 花蓮(かれん)。
ストレートロングの長い髪に知的な瞳。
ブランドもののレディーススーツの上からでもわかるスタイルの良さ。
彼女は高らかに電撃歌祭りの開催を宣言する。
今回は対戦形式だ。
本日の出場者からランダムで2人が選ばれ、歌を歌う。
それをネット投票のみで優劣をつける。
余計な審査員など居ない。
審査員など採用すれば、不正の温床になりかねないという和田プロデューサーの懸念からだ。
最初に選ばれて登場したのは、最近人気の6人組女性グループだ。
数の多さを利用してのステージパフォーマンスと歌の重なりは、複数ならではと言える。
歌っているのも、爽快な清潔感のある女の子の歌といった感じだが―――
「相性46%か、まあそんなもんか」
思わずそう呟いてしまった。
まあ一般的には50%行けばマシな方なので決して悪い数値ではないが……。
実力派ばかりが揃う祭典と聞いていただけに、少し残念ではある。
しかし逆に言えばウチの嫁の敵など居ないということだ。
一方、本部で各種映像やネットの反響を見ながら指示を出していた和田プロデューサーは、あまり良い表情とは言えなかった。
画面では対戦相手として選ばれた5人組男性アイドル達がパフォーマンスをしている。
「もう少し何とかならなかったのか?」
「すいません、今回はゴリ押しを弾いてもコレでして」
申し訳なさそうにする部下に思わずため息を吐く。
ネットのアクセス数もいつもは100万人など超えてくるはずなのだが、98万人まで減少していた。
元々実力派ばかりを集め、更にその新曲が聞けるということで人気が出た番組である。
なのに最近では、その実力のある人間が減っていき、定期的に新曲も出さない。
そうなってくると人数合わせとして本来の出演ラインよりも下の連中を登場させるハメになってしまう。
ここ最近では、それが何度か続いてジワジワと視聴率が低下していた。
思わず本日の出演者一覧を見る。
そして思わず口にする。
「今回、彼女が起爆剤になってくれるかどうかだな……」
プロデューサーが悩んでいる頃。
控室の1つでは、女が傲慢な態度で自らのマネージャーに暴言を吐いていた。
「私は本番前は、スイスの水じゃないとダメだって何度言えばわかるのよ!」
そう言って国内メーカーの水が入ったペットボトルを投げつける。
この女は『伊藤(いとう) 麗華(れいか)』
27歳であり、アイドルからアーティストになった歌手1本でやってきた女性だ。
かつてはCMやドラマなどにも出演していたが、この癇癪持ちで傲慢な性格で仕事を減らしていた。
それでもそれなりに歌が上手いため、一定数の固定ファンが存在している。
表向きでは謝罪するも、心の中でペットボトルを投げつけられた田中マネージャーは、毒づいた。
そもそも色んな仕事を用意しても彼女自身がぶち壊す。
感情のままにSNS投稿などするため、定期的に炎上する。
未だに自分がアイドル全盛期の人気があると思い込んでいて傲慢な態度のまま。
もう会社に何度も担当変更の申請をしたことか。
いい加減、通して欲しい。
今日だって久々の大舞台だと言って何度ステージ衣装や髪型・化粧にまで文句をつけてきたことか。
おかげで他のスタッフも不満をギリギリ気づかれない程度に隠してはいるが、いつ爆発してもおかしくない。
自分のスタッフ達の怨嗟の声が聞こえていない彼女は、ランダムによって次に歌うことが決まった。
その知らせを聞いて不敵な笑みを浮かべるとステージへと歩き出す。
ステージで自分が紹介され、そして音楽が鳴り始めて気分が高揚していた。
自分が今日この番組で一番の話題を攫うのだと。
そんな彼女を和樹は冷ややかな目で見ていた。
「曲との相性度が53%は決して悪い数字じゃない……なのにこの状態は純粋に歌い手の技量不足だ」
相性度というのは、あくまでその曲との親和性の話だ。
言うなれば追加ブーストのようなものであり、曲の内容をよりよく聞いている人々に届けられるようになるというもの。
逆に言えばそれ以上ではなく、純粋な歌の技量が無ければそれ以前の話である。
せっかく曲自体が青春をテーマにした良い曲なのに、彼女の歌唱力そのものが観客達が曲の世界に没頭するのを邪魔しているという皮肉だ。
しかし彼女はそれに気づかずに気持ちよさそうに歌っている。
歌が終わると拍手が鳴り響く。
大半が義務的な拍手ではあるものの、大勢の拍手に気分を良くした麗華は自信たっぷりにステージを下りる。
拍手が鳴りやんだタイミングで現れた司会の柳がテンポ良く番組を進行する。
「さあ、伊藤 麗華さんの対戦相手は―――」
バンッ!
とBGMが鳴ってから、背景の巨大スクリーンに情報が出る。
「次は、かつてアイドルとして人気を博した彼女が帰ってきました! MIYUさんです!」
名前を横文字にしただけのシンプルな芸名。
それこそ我が妻の水野 美結である。
現れた彼女は堂々としていた。
長い黒髪を靡かせ、アイドル衣装に見えるがところどころ露出が抑えられた衣装は、色味もダークブルーと落ち着いた女性の雰囲気を漂わせたもの。
全盛期よりもより大人びた雰囲気と少女らしいあどけなさを残した彼女に、会場はその姿に見とれて静寂に包まれた。
最初にハッとして声を出したのは司会の柳だった。
彼女はMIYUの説明をする。
登場した頃は物凄い人気だったこと、そして結婚を機にしばらく家庭を優先していたこと。
決して事務所からリソースを減らされて仕事が減ったなどとは言わない。
それに今回、彼女こそ和田プロデューサーが一番気にかけている出演者だという話も彼女は知っていた。
だからこそ最大限盛り上げる。
「そう言えば最近ではあの伝説の『美樹』の歌でバズってましたよね?」
「ええ、そうですね」
「では、もしかして今回の新曲も?」
「ふふっ、それはスグにわかるでしょう」
軽く笑って誤魔化す美結に既に知っている司会者も笑みを浮かべる。
そして彼女が歌うと宣言して司会者は後ろに下がる。
大型スクリーンには曲名と情報が出る。
『キミを見つめて』
作詞:美樹
作曲:美樹
その瞬間、会場が騒然となった。
しかし彼女が歌い始めるとスグに静寂に包まれる。
そして人々は次々と曲の世界に引き込まれていく。
学生時代、自分は何でも出来る、何にでもなれると思っていた頃。
ぼんやりと、それでも将来を考えて、それを目指していたあの時。
初めて『キミ』と出会って恋に堕ちた。
自然と『キミ』を視線で追ってしまう。
誰かと『キミ』が仲良く話しているだけで嫉妬してしまう。
偶然に『キミ』と話す機会があり、緊張と興奮のあまりに何度も台詞を噛んでしまったこと。
そして『キミ』を自転車に乗せて2人乗りで帰ったあの時の気持ち。
あれだけのことがあったのに結局は想いを伝えることなく2人の道は分かれてしまった。
あの時、気持ちを伝えていれば結果は変わっただろうか?
『キミ』は、私の気持ちに応えてくれただろうか?
どうして今になって後悔しているのだろうか?
どうせ後悔するなら、どうしてあの時、気持ちを伝える勇気を持てなかったのか?
もし『キミ』にもう一度会えたなら、あの時の想いを伝えられるだろうか?
その時『キミ』は、今でも私の気持ちに応えてくれるだろうか?
今でもふと思い出すのは、あの頃のキミの後ろ姿。
その後ろ姿を追いかけると、必ず『キミ』は振り返る。
そして出会った時と同じように振り返って笑みを浮かべるのだ。
―――私が恋した、その笑みを
誰もが泣いていた。
初恋は実らないという言葉がふと頭を過る。
会場だけでなくネット中継を見ていた全ての人々が、ただひたすらに泣いていた。
どうしてあの時、自分も勇気が出せなかったのか?
どうしてあの子に想いを伝えなかったのか?
どうして最初から諦めてしまったのか?
あんなにあの子に恋をしていたのに、あんなに自分のものにしたいと願っていたのに。
少しの触れ合いに満足し、あと1歩の勇気を振り絞れなかった。
だからこそ願う。
もう手遅れだと理解していても。
『もう一度チャンスがあれば』
そう願わずにはいられない。
そしてそのチャンスで想いを伝えるのだ。
僅かな可能性であっても、その想いは本物であり、忘れられるものではないのだから。
だからこそ願わずにはいられない。
『あの人にもう一度会いたい』
そんな想いに人々は、ただ泣きながら曲を聞いていた。
ステージ横では、自分の対戦相手がどれだけのものかと見学していた伊藤 麗華が居た。
彼女は今、立っていることが出来ず、膝から崩れ落ちガクガクと震えている。
『絶対に勝てない』
彼女の傲慢さは、観客全員を涙させている美結によって粉々に砕かれていた。
いくら彼女の歌を否定したくても、彼女の脳裏には歌によって過去の憧れの人が嫌でも思い出される。
あの時、芸能界に入って恋愛を自粛しろと言われていた。
だからこそ、当時好きだった先輩に気持ちを伝えることは出来なかった。
そうしてまで芸能界にしがみ付いたが、結果はどうだ?
トップになると意気込んでいたのに、中堅どまりだ。
そして独り身でもう27になる。
もしあの時、全てを捨てて先輩を選んでいれば。
アイドルになれずとも、幸せな家庭を築けていたのではないか?
そんな想いを必死に頭を振って否定するも、曲がそれを許さない。
こうして徹底的にプライドを折られ、心をかき乱された彼女は、耐え切れなくなりスタジオから逃げ出した。
美結が歌い終えると一瞬の静寂が会場を包む。
しかし少しして誰かが頬に流れる涙など気にせず呆然としながらも手を叩く。
それがやがて万雷の拍手となり会場が揺れるほどの大歓声へとなっていった。
ネットでも彼女を称賛する弾幕だらけになり、対戦は圧倒的勝利となる。
いつの間にかネットの視聴者数も300万人を超えており、和田プロデューサーも満足していた。
更に彼女の歌唱シーンは切り抜かれ、様々なプラットフォームに投稿され盛大にバズることに。
こうして美結は、電撃歌祭りのMVPを受賞し、かつての全盛期を超える人気を得ることになった。