33歳のウマ娘は娘と同じG1を目指す 作:Lagavulin
夫のところへ戻ると、ステラがまた泣きそうな顔になった。
父親に抱きしめられ、少し離れて顔を見る。私はその横で、水のボトルを3本並べた。
「おめでとう。最後、自分から行けたね」
「うん。前、見えたから」
「そこから、すごくよかった」
娘が何度もうなずいた。
私も隣へ座り、夫が開いた映像を見る。
私が動き始めても、ステラはすぐには追わなかった。最後のコーナーで外が開くと、直線へ入るのを待たずに速度を上げている。
去年の重賞では、私と同じところから行って最後まで走れなかった。秋華賞では、待ちすぎて届かなかった。
今日は、自分で抜きに行く場所を選んでいた。
「ここから、ずっと速かったね」
声をかけると、娘がこちらを向いた。
「お母さんも、全然止まらなかった」
「止まるつもりなかったもの」
「抜けないかと思った」
「抜かれたくなかったわ」
ステラが笑う。私も笑って、もう一度ゴールを見た。
次に、私の記録を出してくれた。
速度を上げてからも、走り方が崩れていない。取りたかった場所も取れていた。
「フィオ自身も、今日がいちばんよかった」
うなずいた。
走っていたときの感触も、そうだった。
記念撮影に呼ばれ、ステラが真ん中へ立った。
すぐ隣へ行きたくなったけれど、先に娘1人の姿を撮ってもらう。星が見えやすいよう、少し外へ向くように声をかけた。
「お母さん、細かい」
「可愛いところ、ちゃんと入れたいんだから」
カメラの横で夫もうなずく。
娘は笑って、言われた向きへ立ち直した。
1人の写真が済むと、私も呼ばれた。同じ色の服で、肩を並べる。
「同じレースのあと、2人で撮れたね」
「有馬、勝ってからになった」
少し得意そうな声だった。
娘の腕へ触れ、カメラのほうを向いた。
最後は夫も入り、ステラを真ん中にして3人で撮ってもらった。係員に礼を言い、荷物のところへ戻った。
*
帰宅すると、娘の端末が何度も鳴った。
メイプルシフォンからは、長いお祝いの言葉と、ゲームの結果画面が届いていた。
ステラが見せてくれる。
「私がレース行ってる間に、点数抜いたって」
「お祝いと一緒に送ってくるんだ」
「あと、今度は自分の応援にも来てって」
「もちろん行くよ。ライブも見たいし」
娘が返事を打ち始めた。
夫は食事を並べていた。帰ってから全部作らずに済むよう、料理を頼んでおいたのだ。
私も手伝い始めると、ステラが端末を伏せて来てくれた。
「今日は、ステラのお祝い」
夫が言った。
娘へ飲み物を渡し、私もうなずく。
「初GⅠ、おめでとう」
カップを合わせると、ステラは少し照れた。
食事の途中で、娘が聞いてきた。
「私が来たの、いつ分かった?」
「足音は聞こえたよ。でも、ステラだって分かったのは、横に来てから」
「星、見えた?」
「うん。見えた」
ステラが嬉しそうにしたので、そこからまたよく話した。
外へ出てきたところも、最後まで追いついてきたことも。夫と2人で、何度もよかったところを話した。
*
娘が部屋へ戻り、居間には夫婦だけが残った。
友人へ電話すると言っていた。扉の向こうから、聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。
食器を片づけて戻り、夫の隣へ座る。
「私のところも、見ていい?」
「もちろん」
映像を開いてくれた。
先頭へ出るところから見た。肘を膝へ置き、少し前へ身を寄せる。
ちゃんと走れていた。最後まで脚が動いている。
その外から、ステラが来た。
娘が前へ出た場面で止めた。
「いちばんよくて、負けたんだよね」
夫がうなずいた。
しばらく黙ってから、自分でもう一度再生した。今度は止めず、ゴールまで見た。
「嬉しいよ。あの子が勝ったの」
「うん」
「でも、悔しい」
夫の手が、こちらの手へ触れた。
握って、少し隣へ寄った。画面の中では、ステラが振り返っている。
「今日、ステラを迎えたとき、すごく嬉しそうだったね」
「嬉しかった」
「次は、私が勝って、もっと喜ばせたい」
夫がこちらを向いた。
「俺も、フィオを勝たせたい」
「じゃあ、また付き合って」
「うん。来年も」
その手を握り直した。
夫が身体ごとこちらへ向く。
「今日のフィオも、可愛かったよ」
顔を上げた。
夫を見てから、少しだけ目を逸らす。
「先に言ってよ」
夫が笑い、私の頬へ触れた。そのまま背中へ腕を回し、少し強く抱き寄せてくる。
私も笑って、夫の肩へ頬をつけた。背中へ手を回し、まだ握っていた手にも少し力を込めた。
*
翌朝、出勤用の鞄を用意していると、ステラが端末を持ってきた。
「お母さん、どれがいい?」
「何の?」
「昨日の写真。家に飾るやつ」
画面には、昨日撮ってもらった写真が並んでいた。娘1人のもの、私と2人のもの、夫も入った3人のもの。
3人で撮った写真を開いた。真ん中のステラは、まだ少し目が赤い。けれど、大きく笑っていた。
「これがいい。ステラ、すごくいい顔」
「お母さんも笑ってる」
「嬉しかったからね」
コーヒーを持ってきた夫も、横から画面をのぞいた。
「俺も、これがいいな」
娘がうなずいて、その写真を選ぶ。私ももう一度のぞき込み、真ん中にいる娘を指した。
「次は、お母さんが真ん中ね」
「勝ったらね」
「そのつもりで言ってるの」
ステラが私を見た。笑って見返すと、娘も笑う。
夫が端末を受け取り、選んだ写真を大きくした。鞄を椅子へ掛け、私ももう少し顔を寄せた。