88はシーヴの翼と共に空を舞う   作:怪盗218

4 / 4
4話 4枚のジョーカー

(再び空へ上がった。いつもならこの辺から逃げるならどっちの方角だと目安つけ始めるころだ。俺は勇敢さなどとは程遠い所にいたのさ)

 

また始まった。俺は今慣れないF/A-18の計器類の確認に忙しいんだから、少し黙っていてくれないか。まったく、本気でお祓いしてくれる奴を探したくなってきたぜ。そんな事を内心愚痴っていると、突然無線機に軽快なロックの音楽が流れてくる。そしてジョーカー隊の3番機が突然編隊から離れアクロバティックな機動を始める。

 

「――さあ、行くよぉ! ヒアウィーゴー!」

 

3番機、確か義勇兵のターシャと言ったか。なるほど、アクロバットチームのスターパイロットだったと聞いてはいたが、確かに腕は悪くない。ハーフロールからのピッチアップ、スナップロール。随分と楽しそうに空を飛ぶ。

 

「あの子は境界層流を手なづけ、大気の僅かな熱上昇さえ味方につける」

 

バクスターがターシャの機動をそう評する。口では文句を言っていたが、腕自体は認めているようだ。

 

「空気の妖精だ」

 

ふっ、妖精か。その比喩は分からないではないが、妖精は武器を持っていないからこそ妖精なんだぜ。

 

(ただ……信用するなよ。彼女は軍人ではなくサーカスのパイロットだ)

(だからコスターが4番機についてその背後を護ってやる)

 

おっと、またか。どうやらこちらの言葉は相手に届きにくいようだが、コープの独り言は明瞭に俺に届く。案外、これはこれで悪くないのかもしれない。先の影22との戦いとは逆に、コープの幽霊に俺の観測員の役割を任せられると、多少は生存率に寄与するかも。使える物は何でも使え。この傭兵哲学は、幽霊にだって適用して悪くないはずだ。

 

「レックス、あんたもどうだい? 少しやって勘を取り戻したら良いんじゃないかな」

 

ターシャの機動に感化されたのか、バクスターからそんな申し出を受ける。そして俺はありがたくその申し出を受け取る。

 

まずは腕慣らしと、ターシャが取った機動と全く同じ動きをする。トレースするように。

 

「やるう。思わずズヴェズダにスカウトしたくなるよ」

「よしてくれ。俺から1番機を取り上げるのは」

「……」

 

ターシャとバクスターの言葉が無線を通じて耳に入る。コスターは無反応だ。ふ、ミュージシャンらしいな。声をかけたわけでは無いが、俺はハンガーで機体の最終チェックをするコスターの姿を視界に捉えていた。彼の右手にはバンドマン特有のたこがあった。きっとコスターはやる奴だ。いつか一緒にセッション出来れば良いんだが。あちらではいつもソロだったから。

 

「後はもう少し魅せるプレイを心がけたら完璧かも。私はもっと派手に動くよ」

 

……だろうな。同じ曲芸を披露しても、ターシャのそれは観客がいる事を想定した動きだった。対して俺は敵機を常に意識した動きを取る。最も敵を最短かつ確実に墜とせる位置につけるように、機首のゆらぎは絶対に起こさない。つまり俺とターシャの違いは、飛行機乗りと戦闘機乗りの違いさ。

 

 

「オープンチャンネルの近距離通信が聞こえる」

 

コスターからの通信が入る。目的地と空母CDCとの無線のやり取りを聞く限り、どうやら俺達は入国拒否をされたようだ。俺達はCDCからの指示に従い進路を変更する。そしてほどなく、幾分緊迫した様子の無線が俺達に届いた。

 

「CDCより連絡。低速で飛行する航空機がいる」

「こちらXO。ドローンに後をつけられた。ジョーカー隊、撃墜しろ。情報を持ち帰らせるな。空域内で墜とせ」

 

ドローン? 俺がコクピット内で首を傾げているとバクスターが「了解」の返事をする。まあ良い。近づけば分かるだろう。俺達はアフターバーナーを全開にしてドローン(?)と言うものを追いかける。

 

「あれだ、レックス。腕試しにはちょうどいいだろう。お前の腕を見せてくれ」

 

あれか……。目標を視認する。MIGが2機か。懐かしいな。中東では何度も相対したものだ。しかし、機動が妙だ。

 

「レックス、相手は無人機だ。その上武装もしていない。任せて良いな?」

 

「無人機……。なるほど、ラジコン戦闘機か」

 

ラジコン戦闘機なら中東でも見た事がある。どおりで、追われていると言うのに、MIGの動きに変化がなかったわけだ。普通空戦の時に相手のケツにつけば、相手の恐怖が手に取る様に分かる。それが血の通っていない戦闘機なら納得だ。

 

「ラジコンって……。だーめだ、レックス。バクスターよりおじいじゃーん」

「ターシャ。言い方」

「レックスは空気を和ませようとしたのさ。なあ、レックス」

 

「……」 バクスターのフォローに俺は無言で返す。おじい……。おじい……。まさかこの俺がマッコイ扱いされるとは……。俺は内心のショックを目の前のラジ――いや、ドローンなる物体にぶつける事にした。

 

俺は最短距離でMIGの背後に着く。後方乱気流が発生しているが、その視界に映らない風の流れは、はっきりと俺の脳裏には映っている。

 

「ミサイル、ロックオン。――発射」

 

ガンサイトの表示が赤色に変わる。その瞬間、俺はミサイルの射出ボタンを押す。ドシューという白い煙を吐きながらミサイルがMIGへ向かう。同時に俺は別の射出ボタンに指をかける。

 

ドォォォーーン!

 

高度3,500mで突如巨大な爆炎が発生する。上手く当たったようだ。俺はそれを確認し、速度を落とす。

 

「わーお、やるじゃん、レイ」

 

反撃してこない機体を狙い撃っただけなのだから、ターシャの賛辞を受けるには及ばない。俺達の様子を更に高高度から観測していた空中管制官から通信が入る。

 

「レックス、もう1機いる。あちらも攻撃を」

 

「管制官、もう終わっている」

 

「終わっている? 何を――「ドォォォーーン!!」」

 

管制官の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、爆発四散した1機目に僅かに遅れて2機目が爆発する。

 

「え、いつ撃ってたの、レイ!? ミサイル1発しか撃ってなかったよねぇ」

「俺も気づかなかった。もしかして機銃……?」

 

正解だ、コスター。

 

「おいおい、あの距離を機銃で当てたのかよ。2機目を捉えていたのは一瞬だろ? なんて早業だよ」

 

特にどうという事はない。直ぐに尽きてしまうミサイル、その上1発1発が高額なことから(おまけにマッコイの調達するミサイルは挙動が怪しいと来ている)、俺達の主兵装は主に機銃だった。

 

その後も俺は追加で現れた2機編隊のドローンのMIGを撃破する。「また機銃だよ」「どうしてあの距離で当たるんだ?」と呆れた声が無線から聞こえてくるが、放っておいてくれ。身体に染みついた貧乏根性はなかなか治らないんだ。

 

そんな緊張感の無い空戦を続けていた俺達だが、別の機影がレーダーに映る。同時に管制官からも注意を促す指令が。

 

「あー、ジョーカー隊。悪い知らせだ。新たな敵映探知。11時の方向」

 

「またぁ?」とターシャが呆れた声を出すが、俺は「ジョーカー3、編隊に戻れ」と隊列を整えるよう促す。そして管制官からの続報が俺達に届けられる。

 

「油断するな。次のは有人機だ。偵察機と護衛機と思われる」

 

だろうな。そんな気配がした。やはり本物のパイロットが乗っている機体と無人のドローン機では感じる気配が違う。気配に殺気が乗っているのだ。この空気、懐かしい。影22に追い立てられた時もそうだったのだろうが、やはり自分で操縦桿を握っているといないのとでは大違いだ。

 

『複数の敵機を確認』

『鳥がいるなら島がある。空母を探せ』

 

視認できるほどの距離まで互いが近づく。偵察機1に、護衛機2か。

 

「護衛機は俺がやる。各隊員は偵察機を」

 

「おいおい、レックス。相手は2機だぞ。やれるのか?」

 

「問題ない、バクスター。見ただけで分かる。こいつらの練度は高くない。それより、偵察機を逃したくない。そちらは任せた」

 

俺の指示に各隊員から「「「了解」」」の声が届く。

 

「よし、では、散開(ブレイク)!!」

 

かくして格闘戦(ドッグファイト)が始まった。

 

さて、宣言したからにはこの2機は確実に仕留めなければな。まず俺は、自機を敵の射線軸上にあえて晒してみせる。さあ、美味しい獲物だぞ。かかってくるがいい。

 

『なんだこいつ、動きがまるで素人だぞ。俺が墜とす、手を出すな』

『待て、俺がやる。こいつをやってソトア軍にも俺の価値を理解させてやるんだ』

 

2機が俺の誘導に引っ掻かりこちらに向かってくる。やれやれ、自分で仕掛けて置いてなんだが、こいつら本来の護衛機としての任務を忘れちまっているのか? おおかた俺を一瞬で墜として、残りの3機に相対するつもりなのだろうが。

 

2機を引っ張ったまま俺は上昇する。4,700、4,800、4,900……。ここだ。急激な減速と捻り込みで俺は瞬時に2機の背後を取る。

 

『――消えたっ!』

『馬鹿なっ! 一体どこにっ!』

 

「……遅いんだよ、お前達」

 

その程度の腕じゃあ、エリア88なら1週間(ワンウィーク)パイロットにも及ばないぜ。

 

俺は流れるように機体をスライドさせながら機銃で2機を一斉射する。直後、蒼天の空に2つの爆炎が生まれた。あの炎の中で今2人の命が焼かれている。かつて俺の命が焼かれたように。

 

インシャラー(全て神の御心のままに)……

 

 

 

「レイ、やったの!?」

「なんて早業だ。しかもまた機銃か?」

「おいおい、こっちはまだ偵察機に追いついてもいないぞ」

 

ジョーカー隊の面々からの無線を聞き、俺も加勢するか、と機首を変えようとした時だった。突然俺の脳裏に奴の声が響く。

 

(……風が強者を強者の元へと導くのか)

 

あっ!? 今何つった、コープ!

 

(……)

 

「おいっ、コ――「新たな機影を確認」」

 

管制官の注意の言葉に僅かに遅れてF/A-18のレーダーサイトの隅に1機の機影が出現する。ちっ、新手か? ターシャ達のレーダーも捕捉したらしい。

 

「レイ、新手なのっ!? 1機で大丈夫!?」

「ターシャ、勝手に編列を離れようとしない」

「レックス、どうだ?」

 

「こちらは問題ない。任務継続。偵察機を逃がすな」

 

各隊員に指示を出し、俺は新たに出現した敵影に機首を向け、スロットルを全開にする。ドオォンッと音速を突破した瞬間ソニックウェーブの衝撃がF/A-18を包み込む。俺は機体を制動しながら一直線に飛んだ。

 

「――目標視認(ターゲット・インサイト)!」

 

敵機もこちらを視認したのだろう。殺気を真正面からぶつけられる。互いに音速を超えた2機だ。一瞬で機体同士が空中で交錯する。一瞬捉えた敵機の形状から、俺は相手をデルタ式の単発戦闘機 ミラージュと推察する。

 

敵機も俺を標的と見定めたのか、俺達は互いを意識しながら時計回りに旋回軌道を取る。敵機から挨拶代わりのミサイルが放たれ、俺もお返しとばかりにミサイルを撃ち返す。『ミサイル接近』の警告が喧しくてたまらないが、この仰角なら躱すのは容易い。互いにバレルロール一発で接近するミサイルの誘導を剥がす俺達。

 

なかなかやるじゃないか。影22には及ばないだろうが、この敵は分かっている敵だ。酸素マスクで隠された俺の口角が僅かに上がる。かつての仲間達なら例外なく隠し持っていた狼の牙が、酸素マスクの下でのぞかせる。

 

徐々に旋回半径を小さくしながら上昇していく俺達。まるで逆さにした漏斗の外側をなぞるかのように上昇していく。敵さんのコックピット内まで視認できそうな程互いの距離が近づいていく。がたいの良い男だ。地上で相対すれば俺はあっという間にのされてしまうだろう。だが、ここは己の腕と鋼鉄の翼だけが頼りの孤独な空だ。高度が10,000mを超えた瞬間互いの機体が再び交差する。ここからは一瞬だ。

 

空と大地がひっくり返り地球が真っ逆さまに降ってくる。高度計の針は気が狂ったかのように回転し、機体は失速寸前だ。俺は、高高度に存在する微かな空気と高度を味方につけ最小半径で旋回する。そして俺達は再び正面からぶつかり合う。真正面からミサイルが向かって来る。相変わらず警告音がけたたましい。ちっ、電源を引っこ抜いてやろうか。

 

俺は身体に染みついた勘と経験だけで(いや、正確には染みついているのは魂か)、ほんの僅かに機体をバンクさせる。翼の僅か下をくぐったミサイルがシュンッと音を立てて後方に流れていく。躱されるとは思っていなかったのだろう。真正面にはミラージュがいた。

 

諦めろ、この距離は俺の物だ。格闘戦(ドッグファイト)を超える超接近戦(インファイト)。俺が最も得意とする射程(レンジ)。俺は機銃のスイッチを強く押し込んだ。機銃の残弾カウンターが一瞬にして二桁吹っ飛ぶ。

 

交錯直後、俺の背後で激しく爆発するミラージュ。音速での殺し合い……。コンバットと呼ぶにはあまりにも鋭利なすれ違い。この敵は、俺の錆びつきかけていた空戦感覚を再び呼び起こすに十分な敵だった。

 

俺はゆっくりと高度を下げ機首をエンデュランスの方向に向ける。レーダーはジョーカー隊の面々が近づいてきている事を示していた。合流まで1分もかからないだろう。

 

「なあ、コープの幽霊さんよ。お前さん、どうして成仏してないんだい? もしかしてこのドッグタグに縛られていたりするのか?」

 

コープは何も語り掛けてこない。まったく、意思の疎通が一方的過ぎるぜ。これじゃあ、観測員としての役割を果たせないじゃないか。俺は西の空に沈みかけている太陽に向かってそう毒づいていた。

 

 

 

(あの男は俺の魂があんな物に縛り付けられていると考えているらしい。だが、それは大きな間違いだ。俺はどこにでもいる。どこにでもいける)

 

(……誰か聞こえているか? 誰でも良い。聞こえていたら伝えてくれ。影22を含むソトアの空を飛ぶ全ての者に。……88だ。覚えておけ、88という数字がお前達を約束の地へと導く、と)

 




はい、これで完結です。本当はこんな短編で終わりにするのでは無く、長編にしたいという思いはあるのですが、なかなかリアルの時間が取れずここまでとしました。だって、ゼロもまだ最初の数ミッションしかやっていないし、8も三週目に突入したい、オンラインのロビーにもまだ足を踏み入れていない、来月には例のゲーム界の黒船が上陸する等々で時間がいくらあっても足りません。

繰り返しになりますがエスコン8、最高でした。ストーリーは5と甲乙つけがたい程良かったですし、グラフィックや音楽、UI等諸々は文句のつけようがないレベルで、結果エスコン史上最高だったと個人的には思っています。

まあ、あえて欠点を言うなら、①ムービーシーン集が欲しい(小説を書くのに該当ムービーを探すのが大変でした。メーカー様には知ったこっちゃない話でしょうが……)、②ミッション後のリプレイ時に音楽も流して欲しいという点でしょうか。

せっかく姐さんが「何やってんの、その音楽もっと大きく!」って言ってくれてもリプレイ時にはその音楽が流れないって……。今のままでも閲覧しながらご飯3杯いけるのですが、それを実装してくれたらご飯5杯はいけるのに。アップデートで何とかしてくれないですかね、メーカー様。

さて、どうも私が題材とする原作漫画は、どれも昭和臭がするものばかりですね。歳がばれてしまうのは今さらですが、これではターシャに「だからおじいなんだよ」とバクスターみたいに突っ込まれても何も言い返せません。

でも、今作もとても楽しく書く事が出来ました。この楽しさが、本作品を読んでくれた方と共有できたならとても嬉しく思います。どんな感想もどしどしお待ちしております。反響次第では長編化の意欲が湧くかもしれませんし、是非色々な意見をお聞かせくださいませ。

ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。