幼馴染を取り戻す為に過去へ転生したら、世界だけじゃなくて性別まで変わってしまった件について   作:PKO

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「時間ですよ。三十一番」

 

僕は顔を引き攣らせる。目の前にいるのはピンクの髪をした女性だった。緩やかに弧を描いた口元から飛び出る甘い声。しかし熱はなく、どこまでも人を小馬鹿にしたような音がする。

ゼロが「あらら」と口を尖らせた。

 

「ええー? 二人どっちも女の子? だとすると、過去説はナシ? せっかくタイトル考えたのに……」

 

残念そうにボヤく声は、どうやら彼女たちには届かないらしい。部屋着のまま床に座り込む僕を見て、神木はすっと表情を無くした。

 

「何をしているのです。……まさか、準備もしていないのですか?」

 

言うと、彼女は僕の部屋にかかっているユニフォームを見た。僕はよろよろと立ち上がる。それはそうだ。色々ありすぎて、着替えをしていなかった。

ユニフォームに腕を伸ばす僕を見て、神木はふうとため息をついている。

 

「おおよその時間はお伝えした筈ですが」

「……そうだね。けど、てっきりほら、秋葉忍軍が迎えに来るかと」

「軍は男が多いですから」

 

神木の答えに、僕はハッとした。よく考えたらそうだ。秋葉忍軍は、どちらかと言えば男性比率が高い。特に養成所の当主候補を管理し、逃亡を防ぐ役割は、純粋に筋力量の多い者が割り当てられていた。

つまりだ。僕が女になっているから、神木はやってきたのだろう。もたもたと着替えていると、ゼロが「えっ」と困ったような声を上げていた。

 

「前は二人の男の子が迎えに来たけど、今回はカズキくんが女の子になってるから二人の女の子が迎えに来たってこと? 条件揃えてないから、本当に過去なのかどうか分からないじゃん! カズキくんが女の子になったせいで!」

 

僕のせいかよ!

内心思いながらも、神木からも忍からも見えも聞こえもしないゼロへ返す言葉はない。何とか自分の体を見ないようにして着替え終わると、神木は意地悪そうに目を細めた。

 

「女が迎えに来たのがご不満?」

「まさか」

 

別に性別はどっちでもいい。彼女そのものへ少し思う所があるが。しかし、否定したにも関わらず神木は「そう?」と口角を捻じあげていた。

 

「あら。わざと着替えをせず、男が来るのを待って、目の前で着替えたかった。……ということでしょうか。私には理解し難い下品な嗜好ですこと」

「……」

 

僕は口を閉ざす。そういう方面から殴りかかられるとは思っていなかった。思わず固まっていると、神木はくすと笑う。「冗談ですよ」とはいうが、今のは絶対冗談ではなかった。

着替え終わった僕が無言でいると、彼女はさっさと背を向ける。何か言い返したかったが、咄嗟に言葉が出てこない。目を丸くしたままゼロを見ると、彼は「そんな目で見られても……」ときゅっと眉を寄せた。

……とにかくだ。こうなっては仕方がない。どこまでが記憶通りで、どこからが違うのかを確かめることが先決だろう。何が何だか分からないし、ここが僕の知る世界という確証は無い。けれど、知らないばかりの世界でもないのだ。

僕は神木結衣に付いて歩く。後ろには秋葉忍軍の少女が控えていた。逃げられるような場面ではない。向かう先は待合室。……この後何が起こるのか、僕の予想通りならば。

やがてひとつの部屋の前にたどり着いた。「どうぞ」と神木に促され、室内へと足を踏み入れる。そこに居たのは、あの懐かしい顔だった。

 

「……王次郎」

 

ぽつと名前を呼ぶ。記憶よりも高い声だった。上擦ったような音になるのも仕方がない。短く髪を切りそろえた男は、鋭い目をこちらに向けていた。最近の記憶よりも若い姿だ。目の下に隈はなく、背は真っ直ぐに伸び、全体的に張り詰めたような空気を纏っている。

今になるとよく分かる。彼の視線に含まれるものが明確な敵意であると。かつての僕はそれに気が付かず、ただ正面から向き合えば分かり合えると思っていた。

懐かしさに頭が揺れる。しかし王次郎は違う。彼は数歩僕に向かって足を進めてきた。

……って、な、なんだろう。違和感がすごい。王次郎はこんなに大きかっただろうか。言い知れぬ圧迫感に若干気圧されながらも見上げると、王次郎は目を細める。

 

「今日で最後だな、カズキ。貴様との決着をつける日が来た」

「……」

 

決着。

……そうだ。この後僕らは、天心の前で戦った。次期当主となる為の、実質的なコロシアイだ。

かつての僕はここで敗北してしまった。そして勝利した王次郎は次期当主となる。強さを追い求め、その結果天心を殺し、王となり、法を変えた。その結果を僕は見ている。XBにより多くの人が死に、XBを忌諱する者も現れた。王次郎もそのひとりだ。

XBを誰よりも愛しているのに、愛する資格を失ってしまった。ビームバットを手放して、釘打たれた木製のバットを使う程に。彼にとっての愛すべきスポーツが、贖罪の手段に変わる。

……その分岐点はここなのでは無いだろうか。

王次郎に見下ろされながら、僕はひとつの考えに辿り着いた。

かつての最終試合、僕には勝算があったのだ。スピード、パワー。そして戦略。程度に差はあれど、いずれも王次郎より優れていた事はデータが示している。天心も僕が勝つと思い込んでいた。途中までは。

敗因は何か。簡単だ。僕の慢心である。本気を出さなかった訳ではない。ただ、王次郎があれ程までに必死で、荒々しいプレイをすると思わなかった。

絶対に勝つ。……王次郎が抱えた覚悟を、僕が見誤ったと言えるだろう。けれど今は二回目だ。ならば慢心なんてしない。

全力で彼と対面し、真正面から打ち勝てばいい。そして天心の呪縛から解き放つのだ。

前回は、彼に罪を背負わせてしまった。けれど今ならまだ間に合う。王次郎を地獄に一人残すなんてことは二度としない。

転生。

かつて共に歩んだ王次郎の決意を無碍にする訳ではない。それでも目の前にいる王次郎に、同じ道を歩ませるのはおかしいだろう。何故僕がこのタイミングでこの場所に放り出されたのか。その答えは、きっと勝利の先にある。

……そうだ。分からない事に悩むよりも、今目の前の彼に向き合うほうがいい。僕は王次郎をぐいと見上げ、にやりと口角を上げた。

 

「決着。……望むところだよ、王次郎。この戦いで、僕が君の目を覚ましてやる」

「……愚かな。目などとっくの昔に覚めている。弱者に価値はない。それが全てだ」

「そうかな? 僕は例え君が弱くても、価値がないなんて思わないけれど」

 

煽るように言う。王次郎はひくりと米神を動かしたが、「ほざいていろ」としか言わなかった。そうして僕に背を向ける。歩いていく先はフィールドだ。

その姿を見送っていると、ゼロが「へえ」と声を上げた。

 

「王次郎くんってあんな感じだったんだ? だとすると、Qちゃんってかなりのキャラ変だったんだね」

「……まあ、ある意味では。もっと昔は、寧ろQみたいな性格だったけど」

 

穏やかでお人好し、じっとり周囲を観察しているタイプ。そしてXBが好き。幼い王次郎はそんな感じの性格だった。天心に引き取られてから暫く、彼は徐々に変わっていったのだ。

……とはいえ、今の彼も王次郎だと受け入れている。彼の中で「力」というものがどれ程大切なものなのか。未来を知る僕には理解出来るからだ。

僕はうんと伸びをする。

 

「さて……。僕も行こうかな。せっかくの二回目だ。今度こそ勝つよ」

 

言いながら、僕もフィールドへ足を向ける。ゼロはぽてぽてと着いてきた。

 

「なんだ。あんな感じだったから、やり直しには消極的かと思ってたよ」

「積極的ではないさ。けど、目の前にある機会をみすみす見逃すなんてことは出来ない。……王次郎の為にもね」

「ふうん」

 

僕の答えに、ゼロは興味無さそうだ。しかし彼の興味のために戦う訳ではない。全ては王次郎の為だ。もし本当に転生したのなら、僕にはその機会を活かす選択肢しかない。今ならば間に合うのだ。可愛い弟に、人の死を背負わせるなんてことは出来ない。

……そうして僕は真正面から王次郎に挑んだ。勿論全力だ。卑怯な手も一切使わず、正攻法で戦った。正攻法で得た勝利……王次郎が僕の言葉に耳を貸すとしたら、それしかないと確信していたから。

けれどここに誤算がある。僕は今、女の子だった。

一般的な話。男女には筋力に差がある。例えば「成人女性の筋力は十二歳の男児にも敵わない」なんて言われるほどだ。それを完全に失念していた。

試合が始まってすぐ、僕は気がつく。王次郎が放つ球が、記憶のそれよりもずっと重たいのだ。初めは彼が強いからかと思ったが、そうでは無い。僕が弱くなっていた。

勿論「タイム」なんて言えるはずもない。体格差や筋力さを補うXBギアもない。一体一で大柄な男と戦って、今の僕が勝てるはずもなかった。

そうして目に見えた結果として、僕はストレートに敗北した。舐めてなんかいないし、全力だった。けれどスピードもパワーも追いつかないし、バカ正直に真正面から挑んだせいで戦略もクソもない。

僕はあっという間に王次郎に踏みつけられ、かつて聞いたあの言葉を耳にすることになる。天心は嘲笑いながら「腕を折れ」と王次郎へ命じた。

足が振り下ろされる。以前の僕は「まさか王次郎がそんなことをするはずが無い」と思っていたせいで避けられなかった。けれど今は違う。

全力で僕の腕をへし折ろうとした足から、びゅっと左腕を引き寄せる。当たり前に王次郎はスカった。何も無い地面に靴の裏が当たり、だんっと大きな音を立てる。

王次郎は「ぐ」と僅かに目を細めた。もしかしたら、思いっきり足を踏み抜いたせいで痺れたのかもしれない。僕が避けたせいだ。

……でも、普通に嫌だろう。腕を折られるのは。せっかく折れていない腕に戻れたのいうのに。

けれど世の中は無情だ。スカった事に腹を立てた天心は、王次郎に向かって「何をしている!」と怒鳴り散らかす。その次に続けられた「両腕をへし折れ!」の言葉に僕が「えっ」と目を向いている最中、クソジジイの怒号が僕の現実になった。

そして冒頭に至る。

 

結局二年前と同じように僕は牢屋に入れられ、二年前とは違って両腕を負傷していた。

 

 

 

 

 

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