幼馴染を取り戻す為に過去へ転生したら、世界だけじゃなくて性別まで変わってしまった件について   作:PKO

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5.

気を取り直して。

兎にも角にも、牢からの脱出はできた。それで良しとするしかない。

気を失った見張り達が見つかるのは時間の問題。彼らが目覚めれば騒がれるし、そうでなくとも別の誰かが様子を見に行けば終わりだ。それまでに何とかして、この施設の外に出る。次の目標はそれだった。

抜け道は知っている。前回の脱獄時にも使ったからだ。なので、今すぐにでも向かいたいところなのだが……。

僕は全く別方向へ足を進めていた。時々すれ違う忍軍達を、それらしく振る舞うことでやり過ごす。そうして奥へ奥へと進んでいく。

 

「……どこ行くの? 早く外に出るんじゃないの?」

 

大人しく着いてきていたゼロ。どうやら痺れを切らしたらしい。黙々と歩いていた僕に不思議そうな声を向けてくる。僕は仮面越しに彼を見下ろした。

 

「勿論出るよ。行先も決めている。……ただ、その前にどうしても必要なものがあってね」

「必要なもの?」

「ああ。XBギアを借りていこうかと」

 

ゼロが「XBギアを?」と復唱する。僕は頷いた。

XBギア。プレイヤーの身体能力を向上させ、激しい戦闘を可能にする装備だ。バットやグローブ、スパイクのようなXBに特化した物が主力になっている。後々、ゼロが支配する世界ではマスク型や大剣型等の、純粋に身体能力を向上させるようなものも多く登場し始めていた。

現時点、最新鋭のXBギアを持っているのはシンジュク、そしてネオトーキョー国の王家である鳳家だ。その中でも、僕には明確な狙いがあった。

 

「神木結衣。……彼女、パワードスーツ型のXBギアを持っていてね。スパイク型を改良したものらしいんだけど」

 

見たのはいつ頃であったか。王次郎とのラストバトルの少し前当たりだった気がする。五反田くんの最新鋭ギアを一瞬にして破壊して見せた脅威の装備。

主に使うのは足技だ。XBボールの打ち出し、そして打ち返し。当時の彼女はどちらにも流用していた記憶がある。

 

「前は折れてない右手で戦うなんてことをしたけれど、今回はどっちもまともに使えない。けど、あのギアがあれば話は別だ」

「バットを握らずに、足でXBボールを蹴るの?」

「そう。その戦法が取れるのなら、僕も外の世界で戦力になれるわけだ」

 

……という訳で、僕はチヨダ城の中をウロウロとしていた。神木結衣は何処にギアを保管しているのか。考えられるのは研究室や保管庫、残るは彼女の自室になる。細かい施設内地図を把握している訳では無いので、どれも憶測に過ぎないのだが。

僕は歩きつつ、周囲を観察する。ゼロは「それもいいけど」と話しかけてきた。

 

「なんだか周囲がバタバタしてきてない?」

 

言われて立ち止まる。確かに彼の言う通りだ。先程まで静かだった城内がザワついている。しばらく様子を伺っていると「そこの者」と声をかけられた。秋葉の忍だ。

統一感のある仮面を付けた少年が、僕をじっと見ていた。

 

「ここで何をしているでござる」

 

……ござる。なんだか聞き覚えのある語尾だ。でも、記憶より冷たい印象を受ける。まさかと思うが……彼なのだろうか。

秋葉市之助。秋葉三兄妹の長男。

僅かな懐かしさを覚えるが、思いに耽る時間はない。例え彼本人だったとして、それは何の意味も持たないからだ。僕が一方的に彼を知っているだけ。彼は僕を知らない。

どうやら、やり過ごすしかないらしい。幸い秋葉忍軍は全員同じ仮面を付けており、服装も統一されている。ここは一隊員として振る舞うのがいいだろう。

秋葉忍軍、かれらの挙動を思い出す。トレースするように背筋を伸ばしてから「地下牢の見張りをしておりました」と答えた。

 

「先程交代を」

 

続けると、目の前の彼は「ふむ」と頷く。「ご苦労」と返された言葉に内心ホッとした。胸を撫で下ろしていると、彼は改めてこちらに仮面を向けてくる。

 

「交代してすぐですまぬが、直ぐに対応するべき問題が発生した。ネズミが脱走したとのこと」

「ネズミ……」

「うむ。天心様と王次郎様。お二人の耳に入る前に奴を処理せよ、とのお達しだ」

 

ネズミ。それは僕のことだろう。もう脱走がバレたのかという驚きと共に、僅かに足を引く。目の前で、空虚な面の奥が暗く光っていた。

次の瞬間だ。ビッ! と空気を割く音がする。真横に一文字を描いたのはクナイの軌跡だ。僕は咄嗟に身を引いたことで、何とか攻撃から避ける。ゼロが「バレてる!」と叫んだのを皮切りに、僕は勢いよく反対方向へとダッシュした。

廊下を走る途中、びゅんと耳元で風切り音がする。クナイだ。後頭部を狙った生かすつもりのまるで無い攻撃を、僅かに身をかがめる動きで躱した。僕の背中に張り付いたゼロだけが大袈裟に「うわー!?!」と怯えている。

 

「もー! カズキくんが早く逃げないから見つかっちゃったじゃん!」

「あはは! ……いや、想定よりかなり早いよね」

 

追っ手は独りじゃない。先程の彼が「出逢え!」と叫ぶと、次々に忍が飛び出してきた。分かれ道の反対側から飛んでくる蹴りの下を潜り抜け、突き当たりの階段を手すりを掴んだまま「飛び降りる」。右腕が熱のような痛みを帯びたが、致し方ない。顔を顰めるだけで耐えた僕とは対照的に、ゼロは浮遊感に「ぎゃ!」と悲鳴を上げていた。

そんな中でもお構い無しにクナイが降ってくる。刃の雨の中、僕は再び廊下を駆け抜けた。

 

「よ、よく避けれるね? カズキくん……XBギアも無しに……」

「この程度ならなんとか。伊達にクソジジイに虐められて育ってないよ」

 

肩にしがみついたゼロに向かって僕は笑う。かれらも訓練を受けた兵士ではあるが、当主候補とはまた別種だ。統制された動きは読みやすい。

このまま鬼ごっことして逃げ切るだけならば問題は無いだろう。問題は鬼ごっこではないという部分だが。

 

「……逃げるだけなら簡単だ。けど、神木結衣の部屋もラボも遠退いちゃったな」

「えー。じゃあ、ギアが手に入らないってこと? わざわざ地上に出たのに?」

 

ゼロがぶーたれる。気持ちは分からないでもなかった。まさかこんなに早く、本人ではないと見抜かれるとは。せめてもう少し探索できるかと思っていた。

「秋葉忍軍は優秀だね」と呟く。ゼロは「言ってる場合じゃないよ」と頬を膨らませ、元々の丸さをさらに強調することになっていた。その真横をクナイが通り過ぎる。

廊下の突き当たりにスコンと音を立てて突き刺さるそれを見て、彼は戦々恐々としていた。

 

「分かってる。……けれど、手ぶらで外にはいけないな。という訳で少し寄るところがあってね」

「寄るところ?」

「そう」

 

そんな会話をする間にも、忍は迫ってくる。その手に追いつかれる寸前で僕はばっとを小さく身をかがめた。忍はつんのめる。障害物は僕だ。「ぐっ!」と呻きながら前転するように転がった彼を放置し、今度は反対側へと走る。そのまま階段からちょうど降りてきたばかりの忍をついでに蹴りつけると、勢いのまま後ろへとひっくり返っていた。

 

「この先はロッカールームなんだけど、そこにいけば僕らが使っていた練習用のXBギアがあるはずだ」

「それって、君達の仲間の遺品ってこと?」

 

無邪気な声でゼロが尋ねてくる。僕は淡々と「そう」と答えた。

 

「神木結衣が使っていたほどのものじゃないけれど、生身よりはマシだ。外に出て直ぐに戦えるように武器は揃えておきたい」

「……それはいいけど、ロッカールームって入口は幾つ? 一つだと追い詰められて捕まっちゃわない?」

 

僕は笑う。「大丈夫」と告げると、ゼロはなんとも言えない顔をした。

 

「けど、君にも一つ手伝ってもらうよ。さっき僕に使わせた覚悟ってやつ、今度は君が見せる番だ」

「ええ? なんでぼく?」

「まあまあ! ……ほら、見えた!」

 

ロッカールームだ。僕は蹴り入れるようにしてその部屋に飛び込む。そして同時に仮面を引き剥がし、秋葉忍軍の装束を全て脱ぎ捨てて下着姿になる。ゼロは「うわー!? 露出狂!?」と絶叫した。

 

「煩いな。四の五の言わずに、その仮面を付けて、服を被って。部屋の真ん中で浮いてて!」

「え、ええ!? なんだよ……どういうこと?」

 

ゼロはモタモタとしている。「これでいいのお……?」という不安げな声を無視し、僕は急いでロッカーを開けた。……かつて、共に切磋琢磨し、散った仲間。かれらの使っていたギアだ。

一番近くのロッカーからスパイク型のギアを引っ張り出す。靴を脱ぎ捨て、履き替えた瞬間だった。ドン! という音と共に扉が開く。忍達だ。

かれらは死を恐れない。個ではなく郡。死も生も軽い。鳳家という脳を生かすためなら、どんな恐ろしい場所にでも果敢に飛び込んだ。

その勇敢さと無謀さが、この作戦を有効化する。

部屋に突入した忍が真っ先に見つけるのは僕ではない。部屋の真ん中に立ち尽くしている「忍」だ。かれらはそこへ向かって、雪崩のように突き進んだ。そうして「ひらり」とかわされる。

 

「……何!?」

 

忍の一人が驚いたような声を上げた。無理もない。かれらが突撃したのは、服と仮面を被り、宙に浮いたゼロ。身体部分が存在しないのだから。

闘牛よろしく布に突っ込んだかれらは、そのままその奥にあった「消化器」にぶつかる。後は説明するまでも無い。僕はゼロを引っ掴み、そのまま走って部屋を出た。瞬間、ばすんという爆発音がする。消化器にぶつかった忍たちはきっと粉まみれだろう。

 

「よし、上手くいったね」

 

スパイク型のギアの調子もいい。そのまま廊下を駆け抜け、さらに地下道へと進んだ。認証を必要とする扉すらXBギアによる蹴りで破壊し、中へと入り込む。

その間も、ゼロは具合が悪そうにしていた。

 

「鬼だよ、カズキくんは……。分かる? 大勢の人間が一気に雪崩れ込んできた時の恐怖……。というか、せめて囮にするならそう説明してよ」

「説明したら嫌がるでしょ」

 

僕の答えに、ゼロは「うわ!」と眉を寄せた。「そういうの良くないよ」と諭されるが、僕は無視をする。つい先程、僕の尊厳を無視した作戦をとったのだから、これでおあいこなのでは無いだろうか。

ひたすらに走る。一回目……かつては脱出にも一苦労だった。地下道への隠しルートは厳重に管理されており、簡単に抜けられなかったからだ。僕は毎回システムにハッキングする必要があった。

今回は違う。ただ蹴りを入れればいい。

提示されるなぞなぞのような電子キーに向かって、僕は蹴りを叩き込む。画面は割れ、煙を吐き、エラー表示の後でキーはあっさり開いた。

 

「脳筋」

 

ゼロがポツリと呟く。僕は適当に流し、扉の向こうへと足を踏み入れた。

この先は地下水道になっている。かつて王次郎を連れ、何度も行き来した場所だ。一度目のように迷う事もなく、スムーズに進んでいける。僕はそこで、やっと一息つくことができた。

 

「前回よりも脱出が前倒しだ。……多分、この水路を抜けることも加えるのなら、一週間は予定が早まっている」

「知識アドだね。やり直しの醍醐味だよ」

「……けど、いい事ばかりとも分からない。前回よりもスムーズだということは、前回とは違う展開だということ」

 

即ち、僕の知る未来が不確定になる。なんともいえない顔をしたゼロだが、気を取り直したように「ねえ」と声をかけてきた。

 

「これからどうするの?」

 

これから。悩みどころだ。僕はううんと首を捻る。

 

「あくまでも僕の目的として……。僕は王次郎を止めたい。鳳家としてじゃなくて、彼本人としてのXBを取り戻したいんだ。前回のような、償えない罪を背負うこともなく……ただ純粋にXBを楽しむ彼を」

 

人を害し、人にXBを憎ませた。その起点に王次郎はいた。その起点にならないようにしたい。Qが仲間と過ごす時のような穏やかさを、人生通して保持して欲しい。それが僕のエゴであり、願いだ。

それを叶える為には、彼による被害を極力無くさなくてはならない。僕は歩きながら答える。

 

「ブンキョウ、トシマ、シンジュク。……そしてミナト。最初、王次郎が鳳家としてXBを挑んだのはこの順番だ。彼は手始めにブンキョウの赤門トオルを再起不能にした」

 

そして、彼は二度とXBができなくなった。そう聞いている。ゼロは「容赦なーい」と楽しげだ。

 

「じゃあカズキくんはまずブンキョウにいくの? 王次郎くんの横暴を阻止するために」

「……いや、それはしない。し、まだタイミングじゃないはずなんだ。前回王次郎がブンキョウに挑んだのは、調度ミナトとシンジュクが戦った頃でね」

 

五反田くんの台頭。新しくリーダーとなった彼は、大井さんを引き連れてミナトトライブの根城へ宣戦布告を行う。結果、ミナトが勝利した。新加入の白金ハル、タイガの活躍は勿論のこと、そこには神谷瞬の存在も大きい。

 

「逆に言えば、今はまだ天心も王次郎も体勢が整っていない。その間、ブンキョウトライブもミナトトライブも他のチームも、皆安全だということになる。問題はチヨダトライブが動き出してからだ」

 

猛威を振るう鳳家。XB法により、各地区で独自の治世が行われていたが、それをまっさらにしたのが王次郎達だ。その過程では死人も出ている。神谷瞬。最強のXBプレイヤーは、チヨダトライブとの戦いの後、命を落とした。

前回、僕は彼に会えていない。牢を抜けて彼に会えば、王次郎が彼と戦えば、何か変わるはずだとあの頃は信じていた。その結果は無惨なものとなったのだが。

可能ならば、そんな未来は避けたい。僕にとってミナトトライブはかけがえの無い存在だった。記憶が無くなっていたとしても蔑ろには出来ない。

僕はゼロを見る。

 

「まずは装備を整えよう。君の好きなRPGみたいに。スパイクは手に入ったけど、これじゃあただ走るのが早くなるだけだ」

 

狙っていた神木結衣のボディスーツ型ギアのように、ボールを打つことはできない。最低限、足だけでも戦えるようにはなっておきたかった。そうでなければ、僕は王次郎とXBで戦うことすらできない。ミナトトライブと肩を並べることも同じく。

ゼロはぽよんと跳ねた。「RPGは悪くないね」と楽しげだ。続けられた「ゆうしゃが不在なのはアレだけど」という苦情は華麗に無視をする。

 

「じゃあ、ギアを開発してもらう為にシンジュクに向かうの? ちょうどミナトトライブとも戦うみたいだし、合流するにはピッタリな相手かも」

「……うん。それも考えたんだけど、最初は別の場所に行こうと思ってる」

「? なんで?」

 

ゼロが尋ねてくる。僕は眉を寄せた。

 

「正直、シンジュクに行きたいのは山々。けれど、シンジュクとミナトが戦いを始める……このイベントは、王次郎達が動くトリガーになってる可能性もあるでしょ?」

「なるべくイベントは弄りたくない。から、異物である君は極力干渉したくないって話?」

「そう。鳳家の襲来は、見落とせば人が大勢傷つく。シンジュクに僕が接触したことで、イベントがズレて予見できなくなったら? ……そんな失敗はできない」

 

なので、違う場所から向かうのだ。「じゃあどこに行くの?」と聞かれたので、僕はさらに顔を渋くした。

 

「セタガヤトライブ、かな」

「……ええー」

 

分かる。ゼロの気持ちは。あのトライブにいるのは轟くん。しかも過去の轟くん。記憶にあるのは、ザル警備すぎてバンバン泥棒……というかオオタトライブに入り込まれていたとか、ビームバット欲しさに迷惑メールでハルくんをおびき出そうとしたとか。本当にろくでもない。屋敷にはバニーガールがいたし、足蹴にしていたし。

……けれど、彼には金があるのだ。狙いは資金力である。

察したのだろう。ゼロは「卑しい理由だなあ」とぽつり呟いたが、轟くんからむしり取ろうとしていることについて責めるような言葉はなかった。

世界は全てが弱肉強食、と、人はいう。特に天心とか。だが僕はそう思わない。世界は金と情報でも回るのだ。轟くんのお金があれば、強力なXBギアを手に入れられるかもしれないし、広範囲で人探しもできる。

タイムリミットは不明。ただ、目的達成は早いに越したことはないだろう。ゼロも納得したらしい。異論はないようだった。

 

「とりあえず、どこかから上に上がらないとね」

 

言いながら、彼はトテトテと歩き出す。僕はその後を追いかけた。

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