闇ナルコ 習作 作:ナルコスキー
班分けと自己紹介
「第七班。春野サクラ」
名前を呼ばれた途端、背筋が勝手に伸びた。
「うちはサスケ」
――しゃーんなろー!
危うく声に出るところだった。机の下で拳を握ったまま斜め前のいのをうかがうと、ものすごい顔でこっちを睨んでいる。勝った。悪いわね、いの。
「それから、うずまきナルコ」
握っていた拳が、すうっとほどけた。
――嘘でしょ。
振り返ると、一番後ろの席で、うずまきが目をぱちぱちさせていた。窓際のサスケくんと私を、順番に見る。それから、ぎこちない笑顔を見せる。
「……よ、よろしく、ってばよ」
サスケくんは振り向きもしない。私は「……よろしく」とだけ返した。自分でも分かるくらい、そっけない声になった。
後ろの席の女子たちが、顔を寄せてひそひそやっている。ねえ、あの子、朝からなんか変じゃない? ってばよ、だって。くすくす笑う声まで聞こえてきた。
よりによってうずまきと同じ班になるなんて。しかも様子も変だし。
今朝あの子が教室に入ってきたときは、雰囲気の変わりように言葉が出なかった。お、おはよう、なんて裏返った声で言って、鞄の紐に引っかかって顔から転んでた。
入学したときから、あの子のことは知っていたけど、あの子はいつも前髪で顔を半分隠して、誰とも口を利かない子だった。お母さんには、あの子に近づいちゃだめよと言われていた。理由は教えてもらえなかったけど、うずまきには誰も寄せ付けないオーラがあったから、そんなこと言われなくても、関わらないつもりだった。
卒業デビューにしたって、変わりすぎでしょ。
発表が全部終わると、いのが私の机の前までやってきた。
「よかったわねえ、サクラ。サスケくんと一緒で」
「……なによ、その言い方」
「だって、もうひとりがアレでしょ」
いのは顎で教室の後ろを指した。うずまきはキバに何か言われて、へらへら笑っている。
「せいぜい足を引っぱられないようにね。あの子、分身もまともに出せないんだから」
言い返してやりたかったのに、何も出てこなかった。せっかくサスケくんと同じ班になれたのに、なんだか素直に喜べない。
担当の上忍は午後に来るとかで、お昼は班ごとに教室で待つことになった。サスケくんは私が弁当の包みをほどくより先に、黙って出ていってしまう。
一緒に食べよう、って言うつもりだったのに。
弁当を抱えて廊下に出て、中庭をのぞいて、裏の演習場の方まで行ってみた。どこにもいない。今日のために、お母さんに頼んで卵焼きを甘めにしてもらったのに。
あきらめて教室に戻ってきたとき、窓際にうずまきがひとりで座っているのが目に入った。
うずまきは店の包み紙にくるまったパンをかじりながら、窓の外を見ていた。うずまきの顔を見てはっとする。さっきまでへらへらしていたのが嘘みたいに、黙って、家並みのずっと向こうを眺めている。
その横顔が、なんだか大人びて見えて、ちょっとどきっとした。同い年のはずなのに、すごく冷めた顔をしている。
思わず足を止めた私に、うずまきがこっちを向いた。
次の瞬間には、ぎこちない笑みを浮かべている。
「……な、なに?」
「べ、別に」
――何なのよ、あいつ。
自分の席に戻って、弁当の蓋を開けた。甘めの卵焼きは、ひとりで食べてもあんまりおいしくなかった。
午後になっても、先生は来なかった。
ほかの班が一組、また一組と先生に連れられて出ていく。窓の外が茜色になるころには、教室に残っているのは私たち三人だけだった。
うずまきは机に突っ伏して、腕の隙間から窓の外を見ていた。たまに足をぶらぶらさせては、「……遅いってばよ」と机に向かってぼやく。誰に言っているのかも分からない、気の抜けた声。
サスケくんは腕を組んで目を閉じたまま。私は話しかける話題を探しては、見つけられずにいる。三人もいるのに、教室はやけに静かだった。
――気まずい。
結局ひとことも交わさないうちに、教室の戸がからりと開いた。
顔を出したのは、銀色の髪をぼさぼさに逆立てた男の人だった。額当てを斜めにずらして左目を隠し、口元まで覆面で覆っている。見えているのは、眠たそうな右目だけ。
「……あ、来た。遅いってばよ、先生」
うずまきが机から顔を上げて、ぼそっと言う。男の人は私たち三人を順に眺めて、のんびりと頭を掻いた。
「えー……キミたちが第七班ね。うーん。第一印象は……微妙、かな」
遅刻してきたくせに、微妙ってなによ。この人が、私たちの先生?
屋上の手すりにもたれて、先生は、はたけカカシと名乗った。
「じゃ、自己紹介してもらおうかな。好きなもの、嫌いなもの、将来の夢とか、そういうの」
「先生から、お手本を見せてください」
「オレ? はたけカカシ。好き嫌いをキミたちに教える気はないなあ。夢は……ま、いろいろ」
結局、名前しか分からないじゃない。顔だって半分以上隠れてるし。
「じゃ、右から」
右端にいたのは、うずまきだった。
膝の上で拳を握って、少しのあいだ黙っている。それから、思い出したように口を開いた。
「うずまきナルコ、です。好きなものは……一楽のラーメン。嫌いなものは、えっと……ラーメンが出てくるまでの待ち時間、ってばよ」
「はいはい。将来の夢は?」
うずまきは一瞬黙ってから、口を開く。
「……まだ、考え中、ってばよ」
へへっと笑ってごまかしている。考え中って何よ。それでよく卒業できたわね。
「ふーん。じゃ、次」
私の番だった。
「春野サクラです。好きなものは……っていうか、好きな人は……」
目が勝手にサスケくんの方へ流れて、顔が熱くなる。夢を聞かれても、言いかけてやめた。嫌いなものだけは、すぐに出てきた。
「嫌いなものは、恋路を邪魔する人です」
言ってから、ちらっとうずまきを見る。うずまきはきょとんとして、それから、へらっと笑った。……絶対、分かってない。
「うちはサスケ。嫌いなものはたくさんあるが、好きなものは別にない。それから、夢なんて言葉で片づける気はないが、野望はある」
サスケくんの声が、低く沈んだ。
「一族の再興と、ある男を必ず殺すことだ」
屋上が静まり返る。思わず息を呑んだ。
殺す、って。冗談で言っている顔じゃなかった。背中が、ひやりとした。
「……はい、よろしい。明日から任務――の前に、ちょっとした演習をやる。明日の朝は、ごはん食べてこない方がいいよ。吐くから」
にっこり目を細めたかと思うと、先生の姿はもう屋上のどこにもなかった。
吐くから、って。なによそれ。
隣を見ると、サスケくんはもう階段の方へ歩きだしていた。私の自己紹介なんて、たぶん聞いてもいなかった。
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給水塔の陰から、オレは屋上を見下ろしていた。
サスケが先に階段を下り、春野がそれを追いかけていく。うずまきは二人から少し遅れて、階段の方へ歩いていった。
五年前の十月十日。白い提灯の明かりも届かない路地で、オレは泥と血にまみれた子供を見下ろしていた。頭を抱えて丸まったまま、差し出した手を最後まで取らなかった子供。涙で濡れた目の底で、どろりとしたものが渦を巻いていた。
その子供が、今日はへらへら笑ってる。
昼に受付で班の書類を受け取ったとき、イルカがオレを見つけて、包帯の取れない背中も構わずに立ち上がってきた。
「カカシさん。ナルコのやつ、今朝、笑ったんですよ」
鼻の傷をこすりながらそれだけ言って、照れくさそうに黙った。三代目も、報告を聞き終えると長いことパイプをくゆらせて、そうか、とだけ漏らした。その声には、はっきりと安堵が混じっていた。
時間がたてば人は変わるもんだ――と素直に喜べるほど、オレはあの子のことを知らないわけじゃない。
何かあるな、あれは。
明日の演習で、少し見てみるか。