変な感覚だ。
私は先程まで警戒の色を落とせないでいた先生の目を見ただけで信頼と呼べる物へと感情を昇華させていた。
見たことがあったような気がしたのだ。
他人には思えなかったし、まるでかつての自身であったかのようにも見えてしまっている。
『高熱を出した時に見た夢』に色んな大人の人を見たが、その大人達と似たような雰囲気を感じ、まるで同一人物なのではないかと言う錯覚を起こしてしまうほどに。
「……ん、準備できた」
「シロコ、ネクタイズレてる…よ」
「気づかなかった…ありがと」
ホシノはあの大人のことを受け入れているかのような言動を見せているが、内心警戒の色しかないのだろう。
性格が多少変わったところでホシノはホシノ、元来のホシノは他人には不信用だ。
私が支えなければ。
「ホシノ、私が…いる」
「……え?あ、えぇ、そうですね」
「…ホシノ」
「…はい?」
「また今度…遊びに行く?」
「っ!!はいっ!」
うん、よかった、少しだけホシノの顔色が良くなったように感じる。
まぁまだ、警戒の色は抜け切れるはずもないが、先程よりかは遥かにマシだ。
《…いきなり決まった形になっちゃったけど、本当に皆はいいの?言いたくは無いけど不審者みたいなものだけど…》
準備をしている途中に先生からそんなことを言われる。
それに答えたのはシロコであった。
「いいの、ベータ先輩が言うそんな気がするは確実だから」
《えぇ?》
「間違ったところ見たこと…あぁまぁ、少しだけはありますがほとんどありませんねぇ」
「高く評価…しすぎ」
皆そんなことを思っていたのかと思うと、多少ながらプレッシャーと言うものを感じる。
信頼してくれることは嬉しいがあまり信頼されすぎるのは良くないことだとも思うので、程々に信頼して欲しい限りだ。
《信頼されてるんだねベータ》
「…嬉しい…ね」
「実際かなり信頼してますよベータ、頼りにしてるってやつです」
「そうよベータ先輩!!」
「まだ歴は短いかもですが信頼してますっ!」
「……そっ…かぁ」
「…っは」
「む……」
珍しくホシノ達に素直に褒められてしまって照れてしまっまた所を笑うなホシノ……っ!
《仲良いねぇ…》
ニマニマとこちらを暖かい目で見守らないでください先生っ!!
「そ、それよりも……だよ!!」
「うんうん、そうですねぇベータ」
「っあぁぁ!」
っあぁもうなんなのだっ!今日はなんなのだぁ!!
◆
アビドスと言うところに初めて来たが、話で聞いてたよりも遥かに荒廃していた。
こんな所で学園が存在していることがにわかには信じられないほどに、そんな所で私に支援要請が来ているとアロナに言われ、早速来たはいいのだがまさかの遭難である。
水も食料も底を尽き、軽い脱水症状な上に重い荷物を背負っているので余計に体力を消耗してしまい、その場に倒れ込んでしまう。
そんな遭難の中で私は一人の少女に拾われた。
ロードバイクに乗っている銀髪、または白髪の狼耳を付けた美少女が私の目の前に現れ、水を分け与えてくれた為に私は何とか助かり、しかもその美少女は私の目的であるアビドスの学生であった。
豪運とはまさにこの事である。
そして私はその美少女、シロコと呼ばれる白髪の子に連れられ、アビドス高等学校になんとか辿り着くことに成功し、背負われながらだが、生徒達の元へと案内してくれた。
シロコに背負われながらの登場だったので、自己紹介をどうするか迷ってしまった。
元気よくギャグ風にやるか、シンプルに挨拶するべきかで頭のリソースを使い、最終的にはシンプルに挨拶した。
すると皆も挨拶を返してくれた。
大人の私にはその優しさにしみじみしてしまうほどにいい子達だったが、やはりまだ警戒の色を出している生徒が二人ほどいるようだ。
「初め…まして先生」
そんな事を考えていると、警戒している生徒の内の一人に話しかけられた。
何故だか妙な感覚だ。
まるでこちらを見透かすかのように透き通る瞳、私の全てを無意識に教えているかのようなそんな感覚。
「……?」
そんな彼女が途端に表情を歪ませる。
「どこかで……会った?」
《え?初めまして…だよ?》
私は彼女に見覚えなどありはしなかった。
ベータと呼ばれる美少女にあったのであらば確実に忘れることは無い容姿をしているし、雰囲気も普通のそれじゃなかった。
「……そっ、かぁ」
ニコニコ笑顔を崩さない彼女、その表情は変わっていないように見えるが、何故だか彼女の感情は読めやすい。
そんな彼女との会話はとても落ち着く、声のせいだろうか?声が澄んでいる、または透き通っているように感じる。
詩的に例えるならば水のように浸透する声、詳しく言えばあまり母音を発音していない流れている声。だがはっきりと聞こえるのがまた不思議だ。
例えを色々出してみたが、なかなか表現が難しい声質である。
「……戦車の…音」
「うへ〜懲りないねぇ」
ふとそんな会話が聞こえたが、何を言っているのかが分からなかった、戦車の音など1ミリたりとも聞こえなかったが、きっとこの二人に分かるのだろう。
「…指示出して……できる…でしょ?」
突如そんなことを言われる。
確かに私には指揮の経験はあるにはあるが、まさかあの一瞬で読み取ってしまったのだろうか。
私自身はあまり指揮の経験を積んできた訳では無いので、自信を持って得意とは言えないが、私にはそれができると確信しているしきっと彼女も分かっているのだろう。
だが────
《…いきなり決まった形になっちゃったけど、本当に皆はいいの?言いたくは無いけど不審者みたいなものだけど…》
私はいわば部外者、指揮とは信頼の元に生まれる。
だから少し、いや、大分不安だった。
「いいの、ベータ先輩が言う、そんな気がするは確実だから」
そうシロコが言う。
「間違ったところ見たこと…あぁまぁ、少しだけはありますがほとんどありませんねぇ」
そうノノミが言う。
「実際かなり信頼してますよベータ、頼りにしてるってやつです」
そうホシノが言う。
「そうよベータ先輩!!」
そうセリカが言う。
「まだ歴は短いかもですが信頼してますっ!」
そうアヤネが言う。
そうか、なるほど、理解できた。
この荒廃したアビドスがまだ残り続けれている理由はこの子達がお互いに信頼し合って、しっかりと頼れているからなのだと。
感謝を、信頼を、言葉に出せて言える。
それだけの事だ、ただそれは簡単にはできやしない事は私は自身痛い程知ってしまっている。
大人になればなるほどにその言葉は出せない事を知ってしまっている。
ただのありがとうすらも言えなくなった友もいる。
だから、感謝を伝えれる彼女達の姿は私の目にはとても眩しく映った。
《仲良いねぇ……》
私は先生、生徒を守り導く存在、私は導くのだ、彼女達がこの透き通る砂漠の上でより健やかに過ごせるように、より青春を送れるように、大人として導くのだ。
だって私は先生なのだから。
◆
「それじゃあ……よろしく…お願いします。先生」
早速先生の出番だ。
ベータが突拍子もないことを言い、先生を指示役に据えたが、内心不安でいっぱいである、まぁだが、ベータの信頼はこの不安よりも軽く上回っているので先生なる者の指示を聞いてやることにした。
「昨日の今日かぁ……」
「おやぁ?セリカちゃんお疲れ様かなぁ?」
「ち、ちがっ、しょ、しょうがないでしょ、連日なんて初めてなんだからっ!」
正直いって疲労するのもしょうがないと思う。
今までは期間を開けての襲撃だったというのに、昨日撃退したやいなやまた襲撃と来た。
どうやら、相手も余裕がないのだろう。
「終わりも…ちかい…かな?」
「たまたまかもですよベータ」
「……はぁ」
元来ベータは面倒臭がり、3年になってからは鳴りを潜めつつはあったが、流石に襲撃は面倒くさいらしい。
《来るよ、皆》
「うん…任せた」
「ちゃんと指示してよね!怪我でもさせたら承知しないんだからっ!」
「セリカは厳しい…ね」
もう既に私達の準備は終わっている。
地平線の向こうからゆっくりと戦車の頭が出てくる、グダグダと会話が出来ていた程度には遠くに居たらしい。
気の所為ではないと確信できる程に最近のベータの聴力と視力が異常な程に高くなっているように感じる。
それも高熱を出したあの時から劇的に、まぁ身体能力自体は全く上がってはいないみたいで、タイマンをすれば私が8割方勝てるとは思うが。
「本当に耳いいですよねぇ」
《耳がいいなんて言うレベルかな…》
「まぁベータだからねぇ〜」
「私を…なんだと思ってる…の?」
私だけの愛おしい親友、その事実は絶対に変わることがないので安心して欲しい。
そんな事を思っていたら、ようやく戦車に乗り込んだ不良達が襲撃にやってきた。
「よぉ!!また来たぜぇ!」
「ひゃーーはははっ!!今回は一筋縄には行かねぇぜ……?」
「ま、負け前提で話してないですか?姉貴……」
全く愉快な奴らである。
彼女達の防具を観察してみたが、どうやら以前使っていたやつよりも高品質になっているようだった。
そしてその不良達の数も夥しいと表現するのが正しいぐらいに増えてしまってもいる。
これらの情報から裏がいることは殆ど確定である。
「何でも…いい、かかっておいで」
「ふん、やってやるよぉ!!」
そしてベータが挑発し、相手がそれに答える。
戦闘の火蓋は切って落とされ、アビドス防衛戦が始まったのであった。
《アロナ》
そんな先生の声が聞こえたその瞬間体が軽くなったような気がする。
「…は?」
そして驚くべきことに私達の視界がまるでゲームの世界かのように情報が直接頭に伝わる。
詳しく言えば、敵の武器の情報、敵の装甲の詳細、敵の強さ、敵のボスの位置が事細かに視覚に記載されており、しかもその情報に要らないものなどなかった。
「……へぇ」
「これが…シャーレ」
みんなも全く同じような状況らしい、もしこれらの情報が嘘偽りのないものだとしたら、一体どこからその情報を取得したのだろう、もしや、先生が持っているタブレットからなのか?
《皆、勝つよ》
先生が号令を掛け、私たちの気合いは十分な程に高まる。
《ホシノは前方に、ノノミはサイドからホシノのカバー、シロコは3秒後にミサイルを》
「おっけ〜」
「ん」
「はい☆」
まさかだと思うのだが、この視覚で感じ取れる情報全てを先生は一瞬で掌握し、理解した後に指示を出しているのだろうか。
無駄な情報などないとは言ったが、その情報の数が尋常ではなく、戦闘中に頭で理解するなんて事はかなり難しいことだ。
そして私は先生に言われた通り行動してみたのだが、不思議な程に意図も容易く敵陣へと潜り込めれているし、私達は一切と言っていいほどに怪我をしていない。
《ミサイルの後にセリカはノノミの後ろに着いて、ノノミはアヤネに回復して貰ってから遮蔽に、その後リロードしてシロコと位置を入れ替えて掃射。》
的確、それ以外に言葉が見つかりはしなかった。
圧倒的にやりやすいし、従っていれば必ず勝てるのだろうなと言う直感も働いていた。
しかもだ、先生の指示には私達の特徴を大いに活かしたもの、つまりは私達の戦闘スタイルすらも情報として取得できるのだろう。
それは先生の力なのか、はたまたそのタブレットの力なのかは分からないが、敵にまわられたら最悪と言ってもいい程の物を先生は持っていた。
噂は聞いていたが、ここまでの物を連邦生徒会は所有しているのか。
《ベータは…うん、自由にやっちゃえ!》
「あいあい…さー」
そんな的確な先生が暫し悩んだ後にベータに遊撃を命じた。
正直大正解な指示だと思う。
ベータは自由に動かせた方が私達にとって得るものが多すぎるし、ベータは誰かの指示で行動をすると、自前の特異性を活かせない場面もしばしばあるので、勝手に行動してもらって蹴散らしてもらった方が良いと最近私でも考えていたことだ。
《それじゃあ続けるよ》
本当に無慈悲だ。
カタカタヘルメット団に同情なんてすることはないんだろうなと思っていたが、ここまでの蹂躙を見せられると流石に心が痛くなるほどだ。
先生が指示をし、私が皆を守り、シロコちゃんが1人づつ確実に倒し、セリカちゃんがそれをカバーし、ノノミちゃんが数多の敵を一定の間隔で一片に倒し、アヤネちゃんが回復し、あまつさえベータが死角から襲いかかる。
これに対応出来る者はいるのだろうか。
このキヴォトスの中でも、勝てる物は少ないどころの話ではなかろうか。
少なくとも私は、私達が負ける姿が想像できなかった。