カタカタヘルメット団を蹂躙したその日だ。
私達は襲撃しに来たカタカタヘルメット団を見事なまでに返り討ちにし今は対策委員会本部へと戻ってきていた。
「す、凄かったわね…色んな意味で…」
「敵の数もそうでしたが、先生の使われる力、あれは一体…」
みんな驚いている。
そりゃあそうだ、あんなゲーム世界の様なテキストをまさかの肉眼でゲームのように捉えれるとは思っても見なかったので、かなり疲れた。
「うへ〜これはかなり堪えるなぁ…」
「慣れてなかった…だけかも…ね?」
恐らくこの疲れも慣れてなかっただけの後遺症なのだろう。
先生が用いる力、全てをデータとして知れると言う破格な性能だが視界に映る情報の数はすぐに理解できるわけがない。
視界に映るものの取捨選別は、私も含め初めからできるはずがないだろう。
《お疲れ様皆!お水持ってきたから休憩しよっか》
「うん…ありが…と」
「気が利くわね、頂くわ」
「ベータ、私にも」
「うん、待ってて…ね」
「自分で取りに行きなさいよ…」
寝ころんでいるホシノにお水を持っていく最中に先程までの戦闘を思い返してみるのだが、やはり相手の武装レベルが一段階高くなっているように感じる。
相手側のフィクサーの資金力はどれ程のものか全く想像が出来ないが、大方どの企業の差し金かわかったような気がした。
一つはネフティス。
それはノノミが元々入学予定だった学園を蹴ってまで、アビドス高等学校に入学してしまった報復、または取り返しに来たと言う最もらしい理由があるからだ。
もう一つはカイザーコーポレーション。
私達がお金を借りている場所であるカイザーローンの大元、それがネフティスと肩を並べる程の資金を持ったカイザーコーポレーションが思い当たった。
当然確証なんてものはない、ただの当てずっぽうでしかないが、こうして候補を並べ如何なる状況でも判断しなければならない。
他にも思い当たる場所はあるが、絞れても5つ、頑張っても4つ程度、それ以上しぼる事は出来やしないし、私達、いや私はこういった調査は到底向かない不向きな奴だから、カタカタヘルメット団を動かしているフィクサーの存在を看破出来ずにいたが────
「ねぇ…先生。」
《ん?どうしたのベータ》
「無理にとは…言わないけど、私達を助けてくれない…かな?」
私達が今できることは外部からの協力を仰ぐ事だ。
私たちができる事、つまりは学生の範疇で出来る事は、どうしても限られてくる。
確信は無いが相手が何かしらの企業であれば、余計にだ。
だが、先生ならば違う、先生は大人だ、私達の制限を先生は全て解除した状態で動ける上にシャーレと言う絶対を持っている。
「現状、私達は…見ての通り困窮────」
「ちょっ、ちょっと待ってよベータ先輩!」
待ったを掛けたのはセリカであった。
やはりとは思ってはいた、セリカは嫌がるだろうと、私も私達だけで何とかできるのならばこういう手は取りたくはない。
「もしかしてだと思うけど…」
「うん、そのもしかして…だよ。」
「でも先生は部外者じゃないっ!」
「セリカちゃん、落ち着いて」
「でもっ!!」
「ごめん…ねセリカ」
「…なんで…謝んのよ…」
セリカの気持ちも、よく分かる。
だから私は謝ることしか出来ない、見ず知らずの大人と言うのは怖いなんてものじゃないだろうし一から信頼を築くことも難しいかもしれない。
でも、私達はこのままでは居場所を失ってしまう。
「…ベータ先輩」
「うん?」
「信じて…いいの?」
「…誓うよ」
「分かった」
いい子すぎるのではないだろうか。
話したらわかってくれる後輩なんてこの世に何人いるのだろうか、いやはや他の学校に行ったら自慢しまくりたい切実に。
はぁもう最近親バカならぬ後輩バカになっていないか心配…にはなってないし、なんなら口に出して褒めまくりたい限りだが、いつかこの後輩バカが表に出て、後輩達にウザがられないかが心配である。
《私でよければ、全力で助けるよ》
「…まだ内容も…言ってない…よ?」
《うん、大丈夫。》
「……そっか」
先生…か、私がこの世界に来てから人の目を沢山見てきたが、ここまで澄んでいて真っ直ぐな目は初めて見た。
痛いほどによくわかった。
なんでこの人だけがこの世界で先生になれたのかをしっかりと理解したのであった。
◆
先生にアビドスの事情を事細かに伝えていたら、時刻はもう夜と言っていい程に経っていた。
膨れ上がるアビドスの借金、毎月の利息、毎回のように来る襲撃、正直言って霹靂してきた。
ベータが先生に助けを求めるのは正解だとは思ってはいるが、やはりまだ私はあの大人を信じきれない。
というより、大人というものを信じきれないのだ。
先生が悪い人じゃないってことはよく分かってはいるが、私の大人へのイメージがどうしても悪い方向でしか捉えられない。
だが、私はベータを信じている。
心の底からベータを信じ、例えそれが間違っていたとしてもそれはそれでいいと思えるほどにだ。
だから、先生を信じることは難しくても、ベータを信じることは意図も容易い事だ。
「……」
それは良いとして、私達はなにか対策をしなければならない、根本的な解決方法だ。
とりあえず明日、先生のお陰で潤沢になった物資を使い、カタカタヘルメット団のアジトに襲撃を仕掛け壊滅させるべきだろう。
その事は先にベータに伝えたあとに皆に伝え────
「こんばんは、小鳥遊ホシノ」
ふと背後から声をかけられる。
その声に私には覚えがあった、最悪だ本当に最悪、二度と会いたくはなかったクソ野郎の声。
「……お前、何回言わせる?」
私は振り返る。
そこに居たのは真っ黒な姿をしている人間かと疑うぐらいに歪なやつがそこに居た。
こいつと会うのは一度や二度とじゃなく、私が一人になった時に唐突に現れては話を持ちかけてくる。
当然私はこいつのことを全くと言っていい程知らない。
「手厳しいですねぇ、私は貴方達が…」
「黙れ」
こいつの言う話とは、私と引き換えにアビドスを救わないかと言うものだ。
どうやら、私はこのキヴォトスにおいて最高の神秘を持っているから、研究させて欲しいと言ったもの、つまりは人体実験をさせろと言う申し出で、もしそれが叶ったらアビドスの借金を帳消しにしてくれるらしいが真実の程はわからない。
もし、それが真実ならば私自身、それでもいいとは思っているが、そんなことをしたらベータが許してはくれない。
約束したのだ、ずっと一緒にいると、こんな奴の助けなんて必要はない、アビドスは私達だけで解決する。
「……今夜も無理そうですね。残念です。」
「そんなに潔がいいんだったらもう来ないで欲しいんだけど」
「分かりました、もう来ません」
「は?」
妙に早く引き下がるこいつを見て、思わずハテナを浮かべてしまう。
「ですから、もう引き下がると言っているのです。」
「……どういうつもりだ?」
「交渉相手を変えようかと思いまして。」
「……交渉相手?…お前まさかっ!!?」
「えぇ、アビドス高等学校3年生ベータ、その人に交渉をと思いまして」
何を言っている。
何を言っている何を言ってる?
私のベータを奪い去る気か?私のだぞ?お前みたいな下劣な奴に渡っていい人じゃないんだ。
お前なんかが、ベータを、私のベータを、奪う気か?
「殺すぞ?」
私の思考は赤に染まっていた。
こいつだけはこの世に存在させては行けないと私の勘が告げている。
こいつはベータを、研究材料と見ている。
人体実験をベータに、私のベータに施そうとしていて、命の保証なんてものはない物にベータをっっ!!!
「っ…くくく、なるほど…これが、、、」
「お前……覚悟はできてるな?」
私は腰に据えてあったショットガンに手を添える。
瞬きなんてしない、一瞬の隙すらも与えずにこいつを葬る。
そして、ショットガンを引き抜こうとして
「ホシノ?」
「……!?」
私は振り返る。
そこに居たのは心配そうな表情をしたベータがそこに立っていた。
「なん…あっ!?」
私は再び黒ずくめの大人が居た方向へと振り向くと、既にその大人は消えていた。
逃げられた。
「……っくそ」
「ほ、ホシノ?」
心配そうな顔つきで私を見ている。
ごめんなさいベータ、これは話せない。
「…すみません、ベータ」
「な、何かあった…の?」
「いえ、失くし物をしてしまって…」
「……ふぅん、聞かないおく…ね」
「………はい」
ベータに隠し事は出来ない。
でも、ベータは見なかったことにしてくれる優しさがある。
ごめんなさいベータ、今回もまたその優しさに甘えます。
大丈夫ですからベータ、私は絶対に貴方たちを死んでも守る。
後輩たちにもベータにも手出しなんてさせない、たとえ、ベータとの約束を無下にしても、必ずだ。
◆
「ねぇベータ先輩。」
「ん〜?」
これは、先生が来る少し前の話だ。
今現在セリカとのふたりきりの状態で教室で寛いでいた。
私がゲームをし、セリカがそれを眺めながら雑談をする、そう言ったなんてこともない日、予め言っておくが、今は休憩時間なので、セリカに咎められることは絶対ない。
「気になっただけで、他意とかはないから聞くわね。」
「うん。」
「ほ、ホシノ先輩とはどういう関係……」
「…………ほへ?」
「あ、いや、だからその、お、お付き合いとかされてるのかなぁ……なんて」
「…………ホシノ…………オツキアイ?」
いま私の頭は驚くほどの回転をしている。
な、何を言い出すんだこの可愛い猫さんは???え?なに?ん?あ、ごめん、頭の中でも回答に困ってるね、うん。え?ホシノと付き合うとか……え?有り得るの?私が?
女の子同士だもんね?無理じゃないかな?え、あ、でも、この世界で男の人見たことないし、生殖方法違うとか……って何考えてんだよ!?え?
「べ、ベータ先輩!?い、嫌なら別にっ!?」
「あ、いえ、別に嫌?とかじゃないけど……ね?」
「な、なんか喋り方おかしいわよ!?」
全く何を言い出すのだ、そりゃあ当然私とホシノが付き合ってる……?とかそんな関係じゃないことは百も承知だ。
でも、たが、それでも、それを否定したくない自分がいることに驚愕している。
「ゴソウゾウニオマカセシマス」
「ベータロボになっちゃった……」
は、話をそらさねば……私の体力が持たんっ!!
「そ、それよりもっ……ね!!」
「あっ、はい」
「セリカは…私達と居て楽しい……かな?」
ただ単純に気になったのだ。
いつも世話を焼いてくれるセリカ、その世話が嫌になってしまったりしていないだろうか、もししていたら全身全霊で直していかなければならない。
「え、楽しいわよ?」
「そう…なの?」
何を言ってるんだと言いたげな顔をされながら、言われるので表しぬしてしまう。
結構真面目に言ったので余計にだ。
「まぁ、確かにホシノ先輩はだらしないし、ベータ先輩ものんびりし過ぎだし、シロコ先輩は時々考えてること訳わかんないし、ノノミ先輩はアイドルに拘るしで、頭抱えることはあるわよ」
「お、多い……ね」
「でも、それが嫌いじゃない。」
欠点は欠点、それがいいだなんて変わっている。
それが世間の声なのだろうが、私はセリカの意見に大賛成だ。
「そう…だね。」
「ふふ、でもベータ先輩はゲームしすぎだけどねっ!」
「うぐっ……」
全く今日もセリカは手厳しい限りだ。
まぁでもそれがセリカの良さで、それがなきゃセリカじゃない。
ダメな所も良いところも含めてそれがその人たらしめるのだから。
「セリカはいい子……だね」
「ちょ、な、何よいきなり」
なんだがセリカが愛おしくなって髪をわしゃわしゃと撫でたくなってしまう。
セリカは困惑していたが、嫌そうではなかった為、髪が乱れない程度に優しく撫でる。
「セリカ、先輩が…言うべきことじゃ…ないけど」
「ん?」
「いつも助けられてる…ありがとう…ね」
「……ふふ、こっちのセリフだわ」
今日はセリカとの絆を深められたようなそんな日になった。