「ほ、ホシノちゃん……一緒にヴァルキューレ……」
「誘拐じゃないですよっ!?」
「初め……ましてぇ」
私はB008、いやベータ、前世の記憶を少しだけ持った変なやつ?である。
私を作った奴のせいで変な世界に飛ばされてしまったけど、ホシノと会えたと思えば、まぁどうでもいい事である。
そんな私は、アビドス高等学校なる学園にいるのだが、そこで薄緑髪の胸が大きい女の子とホシノに背負われながら対面していた。
「じゃ、じゃあなんで……」
「まぁ、説明すると長くなりますけど……」
そこからホシノはゆっくりだが詳細に今までのことを話してくれた。
私は説明などがすごく下手くそな自覚があるので、とてもありがたい限りである。
「え!?つ、つまりは、あ、新しい後輩さんってこと!?やったぁ!」
「そう言うとは思ってましたけど、もう少し警戒とかないんですかユメ先輩……」
「え、でもとてもいい子そうだし……」
「でもじゃ……はぁ、まぁ私としても同級生が増えるのはいいことですし」
「そろそろ……降りても……いい?」
ずっと背負わされているというのは楽でいいのだが、なけなしのプライドがムズムズするので降ろしてもらった。
脱水症状気味だった体はもう既に回復していてかなり動きやすくなっている。
「えっと……よろしく……お願い…します」
「すごくゆったりとした子だね!うん!こちらこそよろしくね!名前は……」
「ベー…タ」
「ベータ…いい名前だね!私は梔子ユメです!よろしくお願いします!」
会って本当に間もないと言うのにとんでもなくいい人なのは一瞬でわかった。
ホシノが疲れながらも楽しげだった理由も少しだけ理解できた。
この世界に来てから分からないことだらけだったけれど、ホシノと出会って拾われて、本当に良かったのかもしれない。
「えぇ……と、手続き…とか。」
「大丈夫!私が全部やってあげるっ!ま、まぁ書いてもらわないといけないことはあるけどね」
「先生……とかは?」
「……?」
「なんでも…ないです」
やはりと言った所だろうか、この世界は結構やばめなのかもしれない。
普通に銃などを携帯しているし、ここに来るまでの道中砂だらけな上、砂漠に埋もれた街などもあった。
世界滅亡済みの世界で唯一残った学園なのだろうか?
「ユメ先輩、重要な事言い忘れてました。」
「重要な事?」
「記憶喪失なんですよその子」
「え!?」
「……まぁそれで……いっかぁ」
いちいち前世の話をしてもただ面倒くさいだけだし、あながち間違ってもいない。
それに記憶喪失者ということでこの世界の事情なども知れるので結構良い事尽くめなので、訂正しないでおく。
「そっ、そうなの!?……びょ、病院とか」
「別に困って……ないですし…大丈夫…ですよ?」
「で、でも」
「あと…親とかも居ない事がわかりました…から…たとえ記憶が戻ったとしても……きっと、辛いだけ…です」
「…ベータちゃん!」
いきなりユメさんに抱きつかれる。
「大丈夫、大丈夫だよ。私達といっぱい思い出作ろうね!」
「…ふふ、はい」
少しだけびっくりしたけれど、私はその抱擁を受け入れた。
まだ少ししか話していないけれど、ホシノがこの人を好きでいる理由が今度はしっかり分かった。
とても純粋で心優しく、一緒にいると自然に笑顔になれる人。
そして、失礼なのは承知だが悪人に騙されさやすそうだなぁっと心の中で思うのであった。
「入学式……あっいや転校生って言う括りだし時期的に……」
「そうだねっ!張り切って準備しないとっ!」
「別に……やんなくても、いいです…よ?」
「ダメだよベータちゃん!こういう事で一つの思い出として残るんだからっ!」
「あの、話を……」
入学式など正直いってどうでもよかったのだが、やってくれると言うのであれば、私も楽しみにしておくべきだろう。
「よーしっ!カメラとかも準備して、花弁とかもいるよね!あとはっ!」
「もぉユメ先輩!ベータが困ってるでしょ!」
「えへへ…」
これからの日常が少しばかり彩られる予感がするのであった。
◆
「こっちだよー!ベータちゃん!!」
その日のうちに、というか1時間程度で入学式の準備が出来たので今現在執り行われている最中だ。
と言ってもやる事と言えば入学式という立て看板を立てその隣で写真を撮るだけなのだ。
ちなみに、衣服の方はアビドス高等学校の制服を着てもらっている。
退学して行った生徒が残していたサイズがぴったり合っている制服を見つけたのでそれを身につけてもらっていた。
「流れで準備しましたけど、入学式って普通4月とかにやりますよね?しかも転校生……?になるのかは分かんないんですけど、普通やらないんじゃ……」
「気にしない気にしない!私達がやりたいからやるの」
「まぁそうですね…」
「ベータちゃん!そこに立ってっ!」
「こう…ですか?」
入学式の立て看板の隣に立たせカメラの準備をする。
私達のアビドス高等学校は元々はかなりの裕福な高校だったからなのか備品の中にかなり良さそうなカメラがあるので、とても綺麗に取れそうだ。
「はいチーズ!」
「チー……ズ」
パシャリとカメラのシャッターが鳴る音が響く。
「ふふ、入学おめでとうベータちゃん!」
「ありがとう…ございます」
今日からベータちゃんは私達の3人目の在学生、アビドス高等学校のベータとなったのだ。
こんな可愛い後輩を二人も持てることに多大なる幸福感と、先輩として絶対に守らないといけない使命感が生まれる。
頑張ろうっ!
「おめでとうございますベータ」
「うん、嬉しい…ね」
改めてベータちゃんを見るととても儚げな子である。
身長はホシノちゃんより高く、私より低いぐらいの中間あたりであり、髪はとても長く綺麗に手入れされている。
何故だがふと目を話した瞬間には居なくなってしまいそうな雰囲気を漂わせているため余計に気合いが入るというものだ。
「入学式も終わったことだし、ベータちゃんにこの世界のことを教えてあげないとねっ!」
「……っ!」
ベータちゃんが分かりやすく目を光らせて見つめてくるのでその姿が何故だがツボに入りそうだった。
「っふふ、そんなに気になる?」
「はいっ」
「今までで1番早く言葉が出ましたねベータ…」
という事で私達はとりあえず体育館を後にし、ホワイトボードがある部屋へと移動する事になった。
移動中に新入生がまた増えたことに実感が伴ったのか、とても嬉しくなりルンルンとスキップを刻む。
今だけは本当に世界で一番の幸せ者だ。
そして私達は少し歩いた後にある小さな教室の中に入り、ベータちゃんにこの世界のことを教えようの会を開催する。
「……なんで白い髭つけてるんですか?」
「ふぉっふぉっ、今の私はユメ教授と呼びたまえ」
「……はぁ」
いまの気分はさながら教授気分である。
「ユメ……教授…!」
「ふぉっふぉっ……案外恥ずかしいねこれ」
「なんでやったんです……?」
というお巫山戯を辞めにして本格的に説明に入る……のだが。
「……どこから教えたらいいんだろう……」
「そう言うと思ってましたよ」
「ひぃん……」
「そうですね……キヴォトスって知ってますか?ベータ」
「……?」
「本当に全部忘れてるんですね…なら学園都市というのは?」
「……しら……ない」
記憶喪失を少し甘く見ていたのかもしれない。
この世界のことを何一つ知らないのはさぞ辛いだろう。
「なら、1から教えよっかホシノちゃん」
「そうですね」
私達は協力し合い、キヴォトスのことを手取り足取り教える。
キヴォトスとは学園都市であり、アビドス高等学校以外にも無数に学園が存在し、その自治区を運営しているということ。
拳銃をなんで持っているかを聞かれたら、キヴォトスでは普通だということ。
そしてたとえ何発も撃たれても余程のことがない限り傷すら負わないこと。
それらを教えている時のベータの顔が百面相のように動き回っていて、その表情を見ながら教えるのがとても楽しかった。
「まっ、こんなもんですかね」
「……すごい…世界だね…」
「そんなこと今まで思ったことないですよ、これが普通でしたから」
「そっ……かぁ」
「基本的なことは教えられましたし、休憩にでもします?」
「うん、私も少しつかれちゃった」
一通りの事を教えられたのでとりあえず休憩時間となった。
背伸びをしてリラックスをしているとふとある事に気づいた。
「……べ、ベータちゃん?」
「……ん?」
何故だがニコニコしながら宙を見て微動だにしないベータちゃんが目に入る。
「だ、大丈夫?」
「…………うっ」
「ベータちゃぁぁあん!?」
「……見たことあるなぁ」
何故だがベータちゃんは顔を真っ青に染めながら前方へと倒れ頭を机打つようにガタンと鈍い音が鳴る。
「だ、だだ大丈夫!?いや大丈夫じゃないよね!?」
「落ち着いてくださいユメ先輩。多分大丈夫なやつです」
「えぇ!?」
「だってほら……」
ベータちゃんの方向を指を指す。
「お腹……すいちゃった」
「……ね?」
「ね?じゃないけど!?えぇと、と、とりあえず私のお弁当食べる?」
「……食べ……ます」
急いで弁当箱を取り出して手作りの料理を箸でつまみ、ベータちゃんの口へと運ぶ。
ベータちゃんはギョッとしたような顔になっていたが、今はそんな場合ではないので、無理やり口へとねじ込む
「むごっ……!ちょ!?」
「……これもなんか見た事あるなぁ」
少しの抵抗を見せたベータちゃんは諦めてくれたらしく、大人しく咀嚼してくれたことに取り敢えずは安心したのだが、ホシノちゃんの反応を見るにこの前にも似たような事があったのだろう。
ベータちゃんは無口、というよりかは自身の体の異変を感じ取ることが難しいのだろうか?
「もぉ、ベータちゃん。お腹すいたならちゃんと言わないとだよ?」
「……まぁいいかなぁって…思いまして…」
「ダメだよベータちゃん!そういう時はちゃんと言わないといけないのっ!」
「……はぁい」
うーむ、少しだけベータちゃんの事を知れたような気がする。
恐らくなのだが、自身のことに然程興味がない、または大丈夫だと高を括ってしまうのだろう。
「ベータちゃん、自分が少しでも辛いなって思ったらちゃんと相談してね?」
「なん…で?」
「私たちが心配だから。」
「……はい」
少し驚いたかのような反応を見せた後に取り敢えずはわかったというように、頷いてくれたので取り敢えずは安心だ。
私はホシノちゃんやベータちゃんの先輩として、ちゃんとこの子達の事を見てあげなくちゃね。
◆
ベータが転校して来て1ヶ月程が経った。
「ベータ!?どこです!?ベータぁ!」
「ベータちゃん!?ベータちゃぁん!?」
私とユメ先輩とベータで宝を探すために砂をガシガシと掘っていたら、急にベータが砂に呑まれ、行方不明となっている。
「ホシ……ノ…ユ…せんぱっ……た、たす……」
「ベータぁぁあ!!」
「待っててぇ!!」
砂の中から手を突き出しピクピクしてるベータを発見し、自分でも驚く程の速度で駆け出し引っ張り出しに行く。
ユメ先輩と協力し合い全力で砂の中のベータを引っ張る。
「おりやぁ!!」
「ぶわぁ……!?」
「あっ」
勢い余りすぎてベータを天高くまで引っこ抜いてしまい、宙を舞うベータ。
「ベータぁぁぁぁ!?」
「長くない……人生だった……」
「達観しないでベータちゃぁぁん!?」
私は全力で落下地点にダッシュし両手を前に差し出し、受けに入る。
そして寸分たがわずその両の腕の中にずんっとベータがすっぽりと入ってきてくれた。
「ありが……とう」
「別に……はぁはぁ……いいですよ……」
実の所、こういう事は一度や二度ではなく、かなり頻繁に起きる。
ベータは不運なのかどうなのかは分からないが、よく吹っ飛んだり、コケたりする。
恐らくになるのだが、ベータはかなりの面倒臭がり屋で、危険を目の前にしてもどうでもいいかで済ませてしまうのではなかろうか。
「……はぁ」
「…?」
「もっと気をつけてください」
「……わかっ…た?」
本当にわかっているのだろうかこの人は……
「ベータちゃぁぁん!」
「うわっ!?」
そして遅れて後ろからユメ先輩が涙目になりながら走り込んで、抱きつくようにしてきたのだが、その勢いを殺しきれず私達は砂に埋もれる。
「げほっ、もぉ……ユメ先輩……!」
「えへへ……」
「えへへ…じゃないですよ!」
「ひぃん……」
「ぶぼぼ……」
「ベータぁあ!?」
また私たちは埋もれたベータを引っ張り出すのに苦労するのであった。
そんなこんなで宝探しの帰路である。
「なんだか、宝探しよりもベータを助ける方が疲れた気がします……」
「ベータちゃんったら不用心にも程があるよ?」
「気をつけてる……つもり……です」
「つもりかぁ……なら、良いの…かな?」
「良くないですからね!?」
全くユメ先輩は後輩に甘いところがあるので、困ったものである。
そんな所もユメ先輩の魅力なのは分かってはいるつもりなのだが、これではベータはいつまで経ってもポンコツマシーンと化してしまうだろう。
そんな甘いユメ先輩が懐からある手帳を取り出す。
「……手帳?」
「あっ、これ?これはねぇ……バナナトリのメモ帳だよ…!」
「……なん……で?」
「確か、忘れない為に付けてるんでしたっけ?」
「それもあるけど、ホシノちゃんやベータちゃんの言葉をメモとして残したいなぁってさ」
「はぁ、この前も言いましたけど小学生じゃないんですから買い換えましょうよ……」
律儀なのか何なのかは分からないが時折バナナトリならぬ奇妙な鳥のメモ帳を取り出しメモを取り出すことが多くなったように思える。
私達の言葉をメモした所で何になるのかは分からないが、本人がいいならそれでいいのだろう。
「……楽し、そうですね?」
「うん!とっても楽しいよ。私今とっても幸せなの」
「……そうですか?」
「だって、ベータちゃん達が居るから!」
「恥ずかしげもなく……はぁ」
天然タラシの優しい先輩、でも騙されやすくて人が良すぎてしまうのが玉に瑕だが、きっとユメ先輩が感じている幸せは、私が感じているのと同じなんだろう。
「ねぇホシノちゃん、ベータちゃん」
「はい?」
「無い方がいいことだけど、すっごく辛いことがあった時、ううん、どんな些細なことでも助け合ってね?」
「なんですか今更?」
「ふふ、きっと二人にはこれから可愛い後輩達が増えると思うの、その可愛い後輩達を全力で守る事になる。だけど、それは楽しいけどきっと辛い時もあるだろうから、同級生同士助け合ってねってことだよ」
「……わかり…ました」
唐突に何を言い出すかと思えば、全く甘いことを言ってくる先輩である。
何より私はベータを助けっぱなしで助けられた覚えは……多分無いはずだ。
まぁ……でも、これからもベータはポンコツかますだろうから、助けてあげないと……ですね。
全く、手のかかる同級生を持ったものだ。