青き晴天の透き通る砂漠の上で。   作:焼きダレご飯

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五話

 

 

 

 私が入学して6ヶ月程が経った。

 大変だけれど楽しい日々の毎日、だけれど最近少しだけピリピリしているような感じがするのは気のせいだろうか?

 

「ホシノ……最近…怒ってる?」

「……怒ってなんていませんよ、疲れてるだけです」

「…嘘」

「……っ、ベータはいいですよね…」

「え?」

「……すみません……少し…席を外します」

 

 そう言って、教室を後にするホシノ、最近ずっとこう言った感じだ。

 どこか焦っているような雰囲気を醸し出している、その原因は怒りに直結するものなのだと思う。

 

 現状を憂いていると言った方が正しいのだろうか。

 確かにアビドスの現状は最悪と言って差し支えが無い、私が来る前に起こったらしい災害で活気があった街は砂に埋もれ、キヴォトス中でも有数であったアビドス高等学校は最早廃校寸前と言っていいほどだ。

 

 ホシノの苦悩は私と比べ、最初からアビドスに居たホシノと比較すれば天と地の差だろう。

 だが、ユメ先輩は希望を見ていて奇跡を歌っているし、まだ最悪の中の光を見続けている、最近では砂祭りなる催しを起こし、人をこのアビドスに連れ戻そうと躍起になっている。

 だからきっと最悪の中に希望もあるはずだ。

 

 でも、心の奥底では全く別の感情も渦巻いてしまう。

 砂祭りなんてものは出来ないんだろうなと、奇跡を信じられるのかと、このアビドスはもう荒廃しつくしている。

 アビドスから出ていった人達を連れ戻すなんて到底出来やしないことも嫌でも理解してしまう。

 

 ユメ先輩を信じたい、ホシノの苦悩も分かるし寄り添いたい。

 そんな私はこんな時でもアビドスとは無関係の他人事で居られてしまう自分も居て、それに恐怖している。

 

「……どうでも……よくないよね」

 

 だから動いた。

 いつもならばどうでもいいと高を括って居る。だが、この半年の間で私も随分と変わったらしい。

 私はこのアビドスを心の底から好きになってしまった。

 抜け殻のような自分に中身をくれたから。

 

 だから、私は動くのだ。

 

「探そう……」

 

 私はしっかりと話をするためにホシノを探し始めた。

 このままでは私の好きなアビドスが仲違いを起こしてしまうだろうと直感でわかってしまったから。

 

 教室を出てアビドスの校内を隈無く探し回る。

 他の教室や屋上、はたまたトイレなどと言ったところを含めて隈無くだ。

 

「いない…」

 

 どこを探してもホシノを見つけられなくて、もしかしたら帰ってしまったのだろうか。

 すると、これから行くつもりだった教室から物音が立つ。

 

「砂祭りなんて、夢物語なんですよ!奇跡なんて……あるわけないじゃないですか!」

「え、えぇと、ご、ごめんね?」

「……っあぁもう!こんなもの!」

 

 ビリビリと何かを破る音が聞こえる。

 

「…もう知りませんっ!」

 

 次にガラガラと扉が開く音がしたので私は咄嗟に隠れてしまった。

 気まずくてしょうがなかったからなのだと思う。

 

 ホシノが去ってから少しして私は隠れ場所から出て、ユメ先輩の元へと向かおうとする。

 

「……ユメ…先輩」

 

 だがユメ先輩の所に行こうとした足が突如として止まる、止まってしまう。

 なんて声をかけたらいいのか分からないし、こう言った経験は初めてのことだから戸惑ってしまい、私は動けずにいた。

 

 こういう時は……どうすればいいのだろうか。

 その答えは今の私には出はしなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……居なくなった?」

「はい、きっといつものように変なことでもしてるだけでしょうし、まぁ心配なんてしてませんが」

 

 その翌日に、ユメ先輩は居なくなってしまった。

 ホシノは然程心配なんてしていないように思えるが、私は違った。

 

 どことなく心が締め付けられるような、探さないといけないようなそんな気がしてならなかった。

 

「ホシノ、さが…そう」

「はぁ?嫌ですよ、ただでさえやるべき事が沢山あるのに」

「……ホシノっ!」

「……っ!?な、なんなんですかベータ……」

 

 普段ならば絶対に出さないような声が出てしまう。

 だが、そんなこと気にすることもできないほどに私は焦っているように思える。

 

「お願い……ホシノ、一緒に探して」

「……あぁもう!分かりましたよ!」

 

 ホシノは渋々と言ったように了承してくれた。

 探す手が増える事に越した事はない。

 私達はその日からユメ先輩を探し始めた。

 

 

 

 ────1日目

 

 

 

「はぁ、どこをほっつき歩いてるんだか……まさか、また悪い大人に……」

「……」

 

 その日は見つからなかった。

 ただの体調不良で学校に行けなかっただけだ……きっとそうに決まっている。

 

 そう心に思い込ませた。

 

 

 

 ────2日目

 

 

 

「……いない……」

 

 2日目も学校には来なかった。

 まるでこの世からユメ先輩なんて言う存在が消えたかのように思えた。

 

 

 

 

 ────3日目

 

 

 

「べ、ベータ……せ、先輩……は」

「大丈夫……大丈夫だよ、ホシノ」

 

 3日目も影すら見えなかった。

 私は少しづつ覚悟を決め始めた。

 

 この日私は静かに吐いていた。

 

 

 

 ────4日目

 

 

 

「……どこ……どこなのっ!!ユメ先輩!!!」

「ホシ……ノ」

 

 当然かのように見つからなかった。

 もう分かっている、きっとユメ先輩はもう……

 

 私は見ていられなかった。

 ホシノはこの日から明確に変わり始めた。

 

 

 

 ────5日目

 

 

 

「先輩……先輩」

「っ、、」

 

 目から生気が抜け落ち、まるで動いているだけのロボットのようであった。

 その日からホシノは学校に来ないでずっとアビドスの砂漠を探し続けていた。

 

 

 

 ────2週間目

 

 

 

「先輩……」

 

 私は、どうしたらいい?

 この状況を、友達の絶望をどうやって癒せばいい?

 お願いします、ユメ先輩……私にこの子を救わせて欲しい……

 

 私はただホシノの隣にいることしか出来なかった。

 

 

 

 ────3週間目

 

 

 

『ほしのちゃ……べー54騶ラ$ナ.go.‰✣ღЙ¿/ごめんね。砂嵐騶ラ$ナ.に会っちゃって、またコンパスを忘れちゃって……』

 

 私達は見つけてしまった。

 見つけてしまったのだ。

 

『メモも残して.go.jp‰✣ღЙ¿/私の手帳あそこにあるから、目立つ場所に置いてあるから、すぐ分かると思う。』

 

 私たちが聞ける最後のユメ先輩の声、私はとっくのとうに覚悟はできてしまっていて、悲しむ余裕がある。

 でも……

 

「あ…はは、ここにいたんですね。全く……探しましたよ?」

 

 もう……どうしたらいいのだろう。

 助け合ってね……でしたよね。ユメ先輩。

 

 でも、酷なお願いです。

 こんな時に私は言葉すらかけることが出来ないのですから。

 何もかもがどうでもよかったあの頃に……戻りたい気分です。

 

 私は、ホシノの手を掴み、握る。

 それしか出来ない。

 

「……っ、うっ、ベータぁ……っあぁあ」

「うん。大丈夫、私はここにいるよ」

 

 あぁ、自分が恨めしい。

 こんな事になるのであれば、あの時、あの瞬間に、話をすればよかった。一言、たった一言だけで、未来が変わっていただろうに……私は……私は……私は……あぁ、くそっ……なんで私はこんな世界にいるのだろう。

 

「帰ろう……ホシノ、私達の家に」

「ユメ先輩も……です」

「……そう……だね」

 

 あぁもう、消えてしまいたい。

 でも、それはきっとユメ先輩が怒ってしまうだろうから、私は私のできることだけを……しなければ……

 

 私達は帰路に着く。

 その間に会話なんてものは存在してなくて、私はただただホシノ手を握りしめることしか出来なかった。

 助けるってどうすればいいんですか。教えてよ……お願い……ユメ先輩……だれかぁ……

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アビドス高等学校に戻ってきた。

 ベータとユメ先輩と一緒に、またこの地を踏めた。

 でも、だと言うのに、私の心は大穴が空いたかのようにすっからかんで、ベータから少しでも離れてしまうと、心自体が無くなってしまいそうだ。

 

「ベータ……」

「なに?」

「……なんでも…ない」

 

 ただ名前を呼びたかった。

 そこに居ることを確認したくてしょうがなかった。

 まだ……ユメ先輩にごめんなさいって言ってないのに…砂祭りもきっと…出来るって言ってあげたかったのに……あぁ、なんであんなに怒っていたのだろう。

 

 分かってる。

 自分が腹立たしかったからだ。

 何も現状を解決できない、甘ったれた私が大っ嫌いだったからだ。

 私はその心を見て見ぬふりをして、ただただ八つ当たりをしていただけだ。

 いつも笑顔なベータを見てそれが羨ましいと思ってしまうほどに、私の心は汚れていたんだ……。

 

「……ベータ」

「うん」

「居なくならないで……」

「ずっと…ここにいるよ」

「嘘?」

「絶対」

 

 ベータは笑っていなかった、こんなベータは初めて見る。

 真剣なベータのお陰で私のぽっかりと空いてしまった心の隙間が埋まっていくような気がする。

 実際のところは埋まるはずのない穴だが、確かに満たされているような感覚がある。

 

「ベータ……」

「うん」

「ずっと…一緒にいて」

「離れることなんて……ないよ」

「……なんで?」

「私がそうしたいから」

「……」

 

 この甘い……甘い言葉に今だけは身を委ねたい。

 ベータがくれる、この優しい言葉がとても、心に染みて……

 

「だから…ね、今だけは、ううん。泣きたい時に…いっぱい泣いていいんだよ?」

「……っぅ」

 

 私は泣いたのだろう。

 自覚なんてできないほどに自然と涙が溢れてしょうがなかった。

 ずっと

 ずっと

 ずっと

 泣いて

 泣いて

 泣いて

 その間、ベータは優しく頭を撫でてくれて微笑みかけてくれて……私は…わたし……は…そんなベータが大好きで……

 

「ベータ」

「うん」

「ありが……とう」

「ふふ、どういたしまして……だね」

 

 ベータ、私の、たった一人の友達。

 彼女は友達なんて思っても無いのかもしれないけれど、私は彼女なしでは生きていけそうもない。

 最後に残された大切なものなのだから。

 

「ねぇベータ」

「うん、なに?」

「その……えっと、、」

「ふふ、遠慮……しないで」

「……だ、抱きしめても……いいですか?」

 

 私は怖くなって目をつぶってしまう。

 その間ベータは何も答えてくれなくて、静寂だけが流れた。

 こんなこと言わなければよかった、この静寂がすごく苦しい。

 

 そんな刹那の静寂にふわりと暖かな温もりが体を支配する。

 

「ベータ……べー…たぁ」

 

 抱きしめてくれたようだ。

 優しく頭を撫でてくれながらとびっきりの慈愛を込めてくれた。

 

「もう一度言う…ね」

「……え?」

「離れることなんて……ないよって」

「……っ」

 

 心が締め付けられるかのようだった。

 苦しみなどと言ったものでは無いものに、心が締め付けられてその逃げ場を探す為にベータを強く抱きしめる。

 

「ふふ、もう…少し、だけだよ?」

「……はい」

 

 その後はお互いの体温を感じ合う時間だけが流れた。

 ベータは少しと言っていたが、少しでは収まるはずのない時間、抱きしめてくれて、その温もりを離したくなくて、ベータの胸に顔を埋めながら枯れたはずの涙が再び出てしまう。

 

 みっともない。

 本当にみっともないと言うのに、ベータは何も言わずにただただ優しく頭を撫でてくれて、私は更にまた泣いてしまって。

 

 そして……

 

「寝ていい……よ」

「で、でも、、」

「起きるまで……離れない」

「……うん」

 

 ごめんなさいベータ。

 貴方に甘えさせて欲しい。

 

 ベータ。

 貴方の夜を私にください……

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ベータちゃん!一緒にご飯食べよっ!」

「…え?」

 

 チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる真昼時にそんな声が聞こえる。

 陽光照らす教室で、気持ちのいい風が吹き頬を撫で、暖かな光で身を包む、最高の日の出来事だ。

 

 そんな最高の日だと言うのに、私の思考は最低と言ってもいいほどに淀んでいる。

 その原因が何なのかは分からないが、何か心に突っかかってしょうがなかった。

 

「ユメ…先輩?」

「なにその、死んだ人が蘇ったみたいな反応」

「……いえ、食べましょうか」

「うんっ!」

 

 あぁ、そうだ。

 私は一体何を考えていたのだろう。

 ユメ先輩と毎日のように一緒にお昼ご飯を食べる日常、有るのはただそれだけだと言うのに。

 

「あぁ!またコンビニ弁当食べてる…!」

「…美味しい…ですから」

「栄養偏っちゃうでしょ!」

 

 自身の体調なんてものはどうでもいい。

 ユメ先輩はそんな私に毎回の様に気にかけてくれた。

 口うるさいと思った事なんてなかった、私に投げかけてくれる言葉の節々に愛を感じ取れるから。

 

「そんなベータちゃんに…じゃーん!」

「弁当…箱?」

「そうっ!これはベータちゃんの分だよ!」

「私…の?」

「い、嫌ならいい…よ?」

「ふふ、とっても嬉しい…です」

「よかったぁ…!」

 

 心底安心したように胸を撫で下ろし、ふぅっと息をつく。

 そんなユメ先輩を見る度に、私の心は乱れていくように感じる。

 今確かに目の前にいるユメ先輩が、まるで異物のように感じてしまって胸糞が悪くなる。

 

「もう買っちゃったコンビニ弁当は2人で食べよっか」

「…はい」

 

 優しかった、叱ってくれた、諭してくれた、そんな尊敬する先輩。

 この学園のことなんてどうでもよかった、ホシノもユメ先輩もこの世界のことなんてどうでもよかった。

 でも、ユメ先輩はそうさせてはくれなかった。

 

 どうでもいいと思っていた方が楽だった。

 何を失っても平常心が保てるから、例え親であったとしても取り乱すことなんてしないで済むから。

 

 

 

「…ベータちゃん」

「…?」

「ごめんね」

「…っっ」

 

 

 

 その言葉で、その発言で、その声で、私の幻想が歪んだ。

 私はどんな顔をしていたのだろうか、きっととんでもない醜態を晒していたに違いないだろう。

 

 世界が歪んだ後の真っ暗な空間で私とユメ先輩が相見える。

 

「ごめんねベータちゃん」

「あや…まらないでください…」

「それでもごめんね」

「貴方のせいなんです…よ?」

「うんごめんね」

 

 きっと幻だ。

 私の都合のいい存在でしかないユメ先輩ではない何かだって分かっているのに…

 

「貴方の…せいで、私…すっごく…辛いんです」

「うん」

「ホシノだって、すごく辛い思いしてるんですよ?」

 

 すらすらと言葉が出る。まるで濁流の様に

 

「なんで…どうして、私にこんな…こんな想いさせるんですか?知らないままでいたかった、何も知らないままでよかったのに…貴方は、なんでこんなに優しくしてくれるんですか?やめてください、辛いんですよ、苦しいんですよ…居なくならないで欲しかったのに、なんでどうして、私達を置いて行くんですかぁ……!」

 

 本当に子供のように喚いてしまう。

 知りたくなかった感情のせいで私の心は押しつぶされそうだった。

 

 ユメ先輩のせいなのだ。全部全部全部、貴方のせいで。

 

「ごめんね、ベータちゃん」

「…謝んないで…くださいよ」

「…私ね。初めてベータちゃんに会った時、ベータちゃんとっても苦しそうだった」

「…え?」

 

 そんな訳ない、その時の私はまだどうでもいいと思えていた頃のはずだ。

 

「まるで、自分のことを見つけて欲しいって言ってるみたいだった」

「なに、を」

「記憶喪失なんてものじゃないって薄々わかってたんだよ?ホシノちゃんも多分わかってたと思う。」

「……」

 

 言葉が出なかった。

 だから私はユメ先輩から出る言葉を静かに待った。

 

「不安だらけの世界だったよね、右も左も分からなかったよね、ごめんね。全部教えてあげたかった…」

「教えてください…これからも」

 

 そう言うと、ユメ先輩は微笑みながら困ったかのような表情を浮かべ頬をかく。

 私は唇をかみ俯くことしか出来なかった。

 

「そんな不安だらけの世界で、ベータちゃんにたくさんの幸せを教えたかったの、一緒にお弁当を食べたり、一緒に宝探しをしたりする、そんな些細な幸せを一緒に過ごさせていたかった。」

「っ…あっ」

「ベータちゃんは幸せだった?」

「…そんな…そんな聞き方…ずるいです…よ」

「えへへ…」

 

 私は今までのことを振り返る。

 私に残された僅かな幸せの記憶、決して色褪せることの無い記憶の数々。

 

 私は一泊を置く。

 

 

 

 

 

「すごく幸せでした。」

 

 

 

 

 そして世界は音を立てて崩れ始めた。

 ユメ先輩の表情は見えなかった、けれど、きっといつものような笑みだったのだろう事は容易に想像できる。

 

 ありがとうございました。

 ユメ先輩、あなたのお陰で私は幸せを知れました。

 前世の記憶も朧気な私はこの世界に来て本当はすっごく辛かったんです。

 それに気づきたくなくて、いつもの日々を上の空で過ごしていた。

 

 でも、貴方のお陰で…そんな上の空でも、とっても楽しかったんです。

 

 

 本当に…ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さようならユメ先輩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、世界は完全に崩れた。

 

 

 

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