水星の魔女 ~もう一輪の百合の花~ 作:一般通過クルーゼさん
グエルさんとスレッタさんの決闘を、私は見なかった。
セセリアは決闘委員会の仕事へ向かい、私は事務室に残った。机の端末から中継を開くことはできたが、画面に並べたのは、各部門から届いた報告と取引先からの連絡だった。
時計へ目を向けるたびに、別の資料を開いた。
何が起きるのか、おおよその見当はついている。だからこそ、見ていられなかった。
知っていることを理由に動かず、その結果からも目を逸らす。そうして仕事へ逃げ込んでいるのだと、自分でも分かっていた。
やがて、ホルダーの交代が正式に通知された。
私はその表示をしばらく見つめてから、未処理の一覧を閉じた。
これから起きることまで、同じように見送るつもりはなかった。
「備蓄の確認?」
戻ってきたセセリアが、私の端末を覗き込んだ。
「はい。再び避難者を受け入れることになった場合、学園内の物資だけで足りるか、確認しておきたいのです」
「この前のランブルリングの時に使った分もあるだろうしね。補充の話?」
「それに加えて、外から支援を入れる準備も進めます」
必要な物資と、搬入先の候補を表示する。
飲料水、保存食、衛生用品、寝具。応急処置に使う資材と、避難区画へ運べる電源や照明。前回の襲撃で何が不足したのかを調べ、受け入れる人数に応じて見直す必要があった。
物を買うだけでは足りない。どこへ置き、誰が運び、誰の判断で配るのかまで決めておかなければ、いざという時に使えない。
セセリアは一覧を送りながら、私の顔を見た。
「……まーた、何か心配してる?」
「ええ。学園が、もう一度混乱する危険があります」
「何が起きるか、分かってるの?」
私はすぐには答えられなかった。
記憶にある出来事を、そのまま証拠として示すことはできない。既に変わっていることもある。それでも、何も分からないふりをして待つことは、したくなかった。
「確かな日時や、すべての経緯は申し上げられません。可能性があるだけですので。ただ、起きてから物資や人員を集め始めるのでは、間に合わないかもしれません」
セセリアは少し黙ってから、隣の椅子へ腰を下ろした。
「じゃあ、何が必要かは、ちゃんと説明してよ。そこまで曖昧だと、手伝う方も困るから」
「はい。お願いいたします」
私は資料を彼女へ送り、父上へ通信を繋いだ。
『おや、アイリス。どうしました?』
画面に映った父上は、いつもの白衣姿だった。背後には開いたままの機材があり、部品を抱えた研究員が通り過ぎていく。
「少し、ご相談がございます。父上に、わがままを言ってもよろしいですか?」
父上は瞬きをしてから、手にしていた工具を机へ置いた。
『もちろんです。聞かせてください』
「学園で、再び大きな被害が出る事態に備えたいのです。そのために、余剰資金の一部を使わせていただきたいと思っています」
私は購入する物資と、費用の上限を示した。
日々の支払いや、既に決まっている研究開発の資金には手をつけない。そのうえで、今、動かせる範囲の資金を、避難者の受け入れと救援の準備へ振り向ける。
「学園内の保管場所は分散させます。一か所の倉庫や通路が使えなくなっても、すべてを失わないように」
『運ぶ方は、どうします?』
「委託先を調整します。ただし、平時と同じ条件での配送をお願いするつもりはありません」
施設の損傷、通路の閉鎖、停電。荷下ろし場所が使えなくなった場合や、学園へ入れず、外で待機していただく場合も考えなければならない。
「被害が出た状況での搬送と、一時保管を含めて契約を交わします。待機費用や配送先の変更、途中で運べなくなった場合の引き渡しについても、先に決めておきたいのです」
『なるほど』
「危険な場所へ、無理に入っていただくことはできません。作業を中止する判断も、先方へ残します。その代わり、こちらも、いつでも通常どおり届けていただけるとは考えずに準備します」
父上が頷いたのを見て、私はもう一つの資料を開いた。
「それから、パンドラの整備と補給ができる宇宙艇を、学園の近くへ派遣していただけますか。予備のドラグーン端末と、交換部品も積んでください」
『整備班ごと、ということですね』
「はい。学園の格納庫が使えなくなった場合にも、帰投先を残しておきたいので」
そこまで告げてから、少しだけ間を置いた。
「それから……父上が作られた、アレも、運べるようでしたら」
画面の向こうで、父上の動きが止まった。
『あれえー。あれを使うような戦いとか、ないと思うんですけどねぇ』
「私も、使わずに済むことを願っています」
『パンドラだけならともかく、あれも収容して整備するとなると、船を選びますよ。接続試験用の設備も必要ですし』
「手配は、お願いできますか?」
『ええ。候補はあります』
隣のセセリアが、私と画面を交互に見た。
「そのおもちゃ、名前より先に、必要な船の大きさが出てくるんです?」
父上が少し楽しそうに笑った。
『いやぁ、好きなものを形にしていたら、少々大きくなりましてね。今のパンドラを乗せて、推進機構と対艦戦闘力をつけるための−−』
「……親子だねぇ」
「私はまだ、何も申し上げておりませんが」
「言わなくても分かるよ。説明したそうな顔、そっくりだもん」
私は口を閉じ、資料へ視線を戻した。
今、必要なのは学園を守るための準備だった。あの装備を持ち込んで戦う場所ではない。
ただ、その先にも備えておきたかった。
「まずは、避難物資とパンドラの支援を優先してください。そちらの調整を遅らせるようであれば、後からで構いません」
『分かりました。船と人員は、こちらで調整します』
「ありがとうございます」
返事があまりに穏やかで、私はかえって言葉に詰まった。
資金を使う理由も、物資の用途も説明した。だが、その前提となる危険を、十分に明かせてはいない。
「……何も、聞かれないのですか?」
『何をです?』
「私が、なぜ、ここまでの準備が必要だと考えたのかを」
父上は僅かに首を傾げ、それから柔らかく笑った。
『聞きませんよ。僕も、皆も、アイリスを信じていますから』
父上が手元を操作すると、画面にいくつもの映像が並んだ。
研究、生産、調達、財務、物流。それぞれの場所から、見慣れた方々がこちらを見ている。会社の先行きが見えなかった頃から、残ってくださった方々だった。
『物資の一覧は、こちらでも確認します。学園側の担当者をご紹介ください』
『保管先は、候補を二つ出せます。片方へ入れなくなった場合の搬送も調整しますよ』
『船へ載せる部品は、整備班で選びます。学園側に残す分と分けておきましょう』
皆さんが、当たり前のように仕事の話を始める。
私は画面を見つめたまま、すぐには答えられなかった。
『必要だと考えたことを、僕たちへ頼んでくれたんでしょう?それが嬉しいです』
父上の声に、視線を戻した。
『こちらでも考えます。予算や手配に無理があれば、それも伝えますよ。まぁ、珍しい僕らの姫様のわがままですから、皆さん頑張ってくださいよぉ』
ほかの画面でも、皆さんが頷いていた。
私は一度、目を伏せた。
「……まったく。ワンマン経営は、リスクしかないんですよ」
画面の向こうで、誰かが笑った。
隣からも、楽しそうな声がする。
「照れ隠しが下手だねぇ、代表代理?」
「セセリア」
「皆さん、今の、ありがとうございますって意味だそうですよー」
「自分で申し上げます」
私は姿勢を正し、画面の皆さんへ頭を下げた。
「ありがとうございます。どうか、お力を貸してください」
父上は嬉しそうに笑い、皆さんと一緒に頷いてくださった。
会社への依頼を終えると、私は学園内の連絡先を開いた。
セセリアが、表示された宛先を見て眉を上げる。
「……ファンクラブ?」
「ええ。皆さんにも、ご相談したいことがありまして」
「何を頼む気?」
「避難された方への食事の配布や、物資の整理です。会社から人を派遣しても、学園の事情に詳しい方がいてくだされば、助かりますから」
「なるほどねぇ。代表代理様、使える人脈は全部使うんだ」
「頼ってもよいか、伺うところからですよ」
代表の方へ連絡すると、ほどなく応答があった。
私から話があると伝わったらしく、画面の向こうには数人の学生が集まっていた。こちらを見る姿勢が、少々よすぎる気もした。
『ご連絡、ありがとうございます。何か、僕たちにできることが?』
「はい。本日は、皆さんにご協力をお願いできないかと思いまして」
私は、避難物資を準備していることを説明した。
「もし、以前のランブルリングの時のようなことが起きたら、避難された方々へ食事や日用品を届ける人手が必要になります。その際、皆さんにも協力していただきたいのです」
『もちろんです!さすがアイリス様!』
返事が、説明を終えるより早かった。
私は少し笑い、手を上げた。
「ありがとうございます。ただ、何をするのかを聞いてから、決めてくださいね」
画面の向こうで、学生たちが互いに顔を見合わせた。
「食料や調理器具などは、こちらで用意します。皆さんには、炊き出しの準備と配布、物資の仕分けなどをお願いしたいと思っています。まずは、調理の経験がある方と、運搬や記録を担当できる方を確認していただけますか」
『できます。食堂で手伝っている会員もいますので、声をかけてみます』
『寮ごとに、何人参加できるか集めればいいでしょうか?』
「はい。学園側と場所や手順を調整しますので、担当の方へ繋いでいただければ助かります。人数だけでなく、できることも教えてください」
返事をしながら、既に端末へ書き込み始めている方がいた。
セセリアも自分の画面へ目を戻し、連絡窓口を整理してくれる。
「実際に何か起きた場合は、ご自身の避難を優先してください。活動を始めるのは、担当者から場所の安全を確認した連絡が届いてからです」
『承知しました』
「それから、参加は希望される方だけで構いません。今は引き受けられると思っていても、その時に難しくなれば、遠慮なく仰ってください」
皆さんが頷く。
そこで、代表の方が少し表情を引き締めた。
『アイリス様。何か、起きるんですか?』
私は一度、息を整えた。
「何かが起きると決まったわけではありません。ただ、前回、必要だったものを覚えているうちに、備えておきたいのです」
その答えに、彼女はしばらく私を見つめた。
やがて頷き、手元の端末を持ち直す。
『分かりました。何も起きなければ、使わずに済みますもんね』
「ええ。それが一番です」
『では、担当を決めてご連絡します』
「ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
通信を終えると、隣から小さな笑い声がした。
「アイリス様ねぇー。ファンクラブというか、信奉者じゃないの?」
「善意、ボランティアですよ、セセリア」
「話を聞く前に、もちろんです、だもんねぇ。ずいぶん信用されてるじゃん」
セセリアは、私へ送られてきたばかりの連絡を表示した。もう、参加希望者を確認し始めたという報告が届いている。
「アンタに頼まれたら、無理してでも来る人、いると思うよぉ」
私は画面を見つめた。
その可能性は、考えておかなければならなかった。
「……では、人数に余裕があっても、交代できるようにしましょう。長時間、同じ方へ任せきりにしないように」
「あと、本人に全部聞かないで、窓口はこっちにしてもらう。代表代理様のお墨付きが欲しくて、確認が増えたら困るし」
「お願いいたします」
彼女は頷き、先方へ返信をまとめ始めた。
「それにしても、何してもらうか、よく思いつくねぇ」
「物資を用意する方と、それを必要な方へ届ける人は、別ですから。私一人では、どちらもできませんので」
「……そっか」
セセリアが少しだけこちらを見た。
「じゃ、皆さんに働いてもらった分、ちゃんとお礼してあげなよ」
「盗撮の黙認では足りませんか?」
「……十分だね」
準備が進む一方で、総裁選に絡む連絡は増え続けていた。
グラスレーとペイルの系列企業から、よく似た相談が相次いだ。今後の安定した取引に向けた協議。供給条件の確認。事業継続についての相談。
件名は穏当でも、内容を並べれば意図は見えた。
従来どおりの優先供給を続けられるか分からない。設備の共同利用を見直す必要があるかもしれない。新規発注は、総裁選の先行きが見えるまで待ちたい。
「皆さん、うちの将来が心配なんだって。ありがたいねぇ」
「ご心配を解消するには、支持表明が必要なのでしょうね」
「話が早くて助かるだろうね。そこまでは、どこにも書いてないけど」
デリング総裁との取り決めは、今も有効だった。
ただ、その総裁が意識を取り戻していない今、以前ほど抑えが利いていない。露骨に会社を奪おうとする代わりに、日々の取引へ少しずつ圧力が加えられていた。
シャディクさんの意向がどこまで直接働いているのかは、分からない。それでも、同じ時期に同じ方向から相談が重なることを、偶然として扱うつもりはなかった。
営業部門へ連絡を集め、生産部門には代替の調達先を確認してもらう。先に作成をお願いしていた事業継続計画が、早速役に立っていた。
「宿題、無駄にならなくてよかったですねーって、皆さんに伝えとく?」
「もう少し、労って差し上げてください」
「アンタもね。頼んだら終わりじゃないんだから」
「ええ。承知しています」
私は届いた報告への返信に、改めて礼を書き添えた。
その合間に避難経路の復旧状況を確認し、物資の搬入報告へ目を通す。
ファンクラブからは、参加を希望する方々の一覧が届いた。調理、配布、運搬、在庫の記録。できることに応じて担当を分け、寮の異なる方々も一緒に動けるよう、連絡先が整理されていた。
宇宙艇の派遣も決まり、整備班の一部が乗り込むことになった。船内の格納庫を映した報告には、予備部品と作業用の架台、その奥で覆いを掛けられた大きな構造物が見えた。
学園へ入れる必要のないものは、船に残しておく。
そう返事をしてから、私は次の報告を開いた。
ミオリネさんが地球へ向かったという報せを聞いた時も、私は仕事をしていた。
交渉の場が再び争いへ変わった時には、事務室の画面に速報が流れていた。
煙の上がる街並み。移動するモビルスーツ。混乱した音声の向こうで、誰かが退避を呼びかけている。
私は手を止め、映像を見つめた。
「ミオリネ社長、大丈夫かなぁー」
セセリアが隣から画面を覗く。
「ご本人の無事は、まだ確認できていません」
「そっか。……贖罪とかする? 今、手を貸したら、許してくれるかもよー」
彼女は流れてくる記事へ目を移した。
「あっは。株式会社ガンダムへの風評、すっごいことになってるねぇ」
「ずいぶん、打算的な贖罪ですね」
「そりゃねー。助ける方にも、都合はあるでしょ」
軽い声だったが、その指は一つの記事の上で止まっていた。
「必要な支援があるなら、検討します。ですが、あの時の言葉を帳消しにするためには、したくありません」
「貸しにはしないんだ」
「はい」
ミオリネさんが、何を見て、何を思っているのか。
私には分からない。分かったつもりで語り、その気持ちまで決めつけることは、もうしたくなかった。
「……大丈夫です。ミオリネさんには、スレッタさんがいます」
「でも、水星ちゃん、ホルダーでもないし、ガンダムもないよぉ?」
「はい。私に、貴女がいるようなものですよ」
セセリアの指が止まった。
「……あたし、ガンダムの代わりまで頼まれてる?」
「そうではありません」
「分かってるよ」
彼女は僅かに視線を逸らし、端末を机へ置いた。
スレッタさんが、ミオリネさんを許すとも限らない。それでも、何を望み、誰のそばへ行きたいのかを、自分で決めることはできる。
私が、ここにいてほしいと願ったように。
セセリアが、自分の意思で残ってくれたように。
「ミオリネさんを支えられるものが、ホルダーやエアリアルだけだとは思いません。あとは、スレッタさんがどうなさるかです」
「少し前までのアンタに、聞かせてあげたいねぇ」
「……返す言葉もありません」
私は速報を脇へ移し、学園の配置図を開いた。
「セセリア。準備の状況を、もう一度確認します」
彼女の顔から笑みが消えた。
「近いと思ってる?」
「はい」
「避難経路は、今朝の変更まで入れてあるよ。担当者への連絡も、すぐ回せる」
「ありがとうございます。整備班には、パンドラを出せる状態で待機していただきます」
「炊き出しの方は?」
「調理場所と保管先の確認をお願いします。実際に動いていただくのは、避難と安否確認が済んでからです」
「分かった。窓口の人にも、もう一回伝えておく」
セセリアは予定を書き換えてから、私を見た。
「アイリスは?」
「学園を守ります。被害なしとは、いきません。私一人で、すべてに対応できるとも申し上げられません。ですから、皆さんにお力をお借りします」
「うん。そのために準備したんでしょ」
「はい」
彼女は少しだけ笑った。
「少しは、吹っ切れた?」
「ええ。貴女のおかげで」
「じゃあ、勝手に出ていって、帰ってから説明します、は、もうなしだからね」
「承知しました」
私は整備班への通信を開いた。
学園周辺で戦闘が始まったという警告を受けた時、私たちは決闘委員会のラウンジにいた。
ロウジさんが監視映像を開く。宇宙空間を背景に、赤いダリルバルデとミカエリスが交戦していた。
「グエル先輩と、シャディク先輩……?」
ロウジさんが呟く。別の表示には、ドミニコス隊の出動情報があった。
私は二機の動きを見てから、セセリアへ顔を向けた。
「退避準備を、始めてください」
「分かった。ロウジ、学園の警備と繋いで。外の戦闘だけで終わるか、確認して」
「はい」
セセリアが端末を操作する隣で、私は社内の緊急連絡を開いた。
「こちらアイリスです。準備していた退避手順へ移行してください。物資の搬送は、安全を確認できた区画から。宇宙艇は学園側から離して待機をお願いします」
『了解しました』
「格納庫へ向かいます。パンドラの最終確認を」
通信を切ると、セセリアが立ち上がった。
「ラウンジに残ってる人は、あたしたちで誘導する。区画ごとの連絡も、こっちで受けるよ」
「お願いします。避難先へ移った後も、連絡をいただけますか」
「アンタもね。何が起きてるか分かんなくなるの、嫌だから」
彼女は別の連絡欄を開き、短い文面を送った。
「手伝ってくれる皆さんにも、自分たちの避難を優先するように送った。張り切って倉庫へ集合されても困るしね」
「ありがとうございます」
「そのお礼は、帰ってからでいいよ」
私は頷き、ラウンジを出た。
格納庫へ向かう途中、床の下から突き上げるような揺れが来た。
照明が揺れ、廊下の向こうで悲鳴が上がる。すぐに警報が鳴り、学園内での武装機体による攻撃が告げられた。
端末に送られてきた映像には、ルブリス・ソーンと、周囲へ展開するガンヴォルヴァが映っていた。
私は走り出した。
格納庫では、整備班が既に架台から離れる準備をしていた。
「代表代理、全十一基、使用可能です。補給も終わっています」
「ありがとうございます。出撃後は、予定どおり退避してください」
「船側も受け入れ可能です。ただし、周辺の戦闘が続いている間は、接近できません」
「承知しました。無理に近づけないよう、お伝えください」
コックピットへ乗り込み、機体を起動する。
表示が立ち上がると同時に、セセリアから連絡が入った。
『ラウンジ周辺の退避、始めたよ。今のところ、予定の通路は使える』
「こちらも、間もなく出ます」
『うん。……帰ってきてよ』
私は操縦桿へ手を置いた。
「はい。帰ります」
パンドラが架台を離れる。
整備班からの誘導を受け、開かれた搬出口へ進んだ。その向こうには、既に煙が流れていた。
備えてくださった方々がいる。これから、誰かのために働こうとしている方々もいる。
その人たちが動ける時間を、場所を、守らなければならなかった。
私は機体の推力を上げた。
「アイリス・シード、パンドラ。出ます」