水星の魔女 ~もう一輪の百合の花~   作:一般通過クルーゼさん

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第21話

 帰投の途中、私たちはほとんど話さなかった。

 

 ノレアさんの死が確認されたという連絡は、ケナンジさんから届いた。データストームによる深刻な身体への障害が認められ、機体から救出された時には、既に危険な状態だったという。

 

 私は説明を聞き、短く返事をした。通信を終えてからも、エランさんの腕の中へ落ちた手が、目に浮かんでいた。

 

 私は彼女の死を知っていた。けれど、知っていたはずの場面とは違うところで、彼女は亡くなった。

 

 変えられない運命だったと言ってしまえば、それ以上は考えずに済むのかもしれない。私が機体を追い詰めたことも、接続を続ける彼女へ何度も回避を強いたことも、避けられない結末へ至る途中の出来事にできる。

 

 だが、どこまでが必要な攻撃で、どこからが私の怒りだったのかを、曖昧にしたくはなかった。

 

 最後に胸部へライフルを向けた理由だけは、分かっている。セセリアを守るためではなかった。もう戦えない相手を、それでも撃とうとしたのだ。

 

 私は端末を操作し、戦闘記録をすべて保全するよう整備班へ連絡した。自分の音声も、操作も、射撃の照準も残っている。後から見直すことは怖かったが、消してよいものではなかった。

 

 隣でセセリアが、端末を開き直した。

 

「物資、届いてるって。使えなくなった入口の分は、別の区画へ回したそうだよ」

 

「……はい」

 

「炊き出しの準備も始められるって。まぁ、カテドラルの許可が出ればだけど」

 

 ファンクラブの皆さんからの報告が、転送されてきた。

 

 まず自分たちの安全を確かめてから、学園側の担当者へ合流するようお願いしていた。届いた一覧には、集まれた人数と、これから必要になる物が記されている。

 

 私は追加の搬送を調達部門へ頼み、現地の判断を担当者へ任せた。

 

 備えは役に立っていた。救えなかった人がいる一方で、今、その備えを使って動いてくださる方々がいる。私は報告へ礼を返し、端末を閉じた。

 

     

 

 

 

 

 

 ブリオン寮の格納庫へ入ると、整備班が誘導の位置についていた。

 

 指示に従って機体を進め、架台へ固定する。接続を確認すると、ようやくコックピットの表示が待機状態へ切り替わった。

 

 十一基のドラグーンは、すべて戻っている。私は記録の転送を確かめてから、ハッチを開いた。

 

 先に足場へ出たセセリアが、下で待つ人たちへ軽く手を上げた。その額には、血の滲んだ被覆材があった。

 

 昇降機を降りると、待機していた職員が彼女へ声をかけた。傷を確かめ、新しい被覆材へ取り替えていく。ほかに痛むところはないかと聞かれ、セセリアは少し考えてから、肩と腕を動かしていた。

 

 私はその隣で、主任技術者へ向き直った。

 

「機体の点検をお願いします。それから、戦闘記録は保全したうえで――」

 

 セセリアがこちらを振り返った。

 

 額の白い被覆材へ目が留まり、声が途切れた。

 

 手当てを受け、自分の足で立っている。職員の問いにも、いつもの調子で答えていた。それなのに、傷を覆う布を見た途端、砕けたラウンジの窓が脳裏へ浮かんだ。

 

 呼びかけても返事のなかった、あの短い時間。瓦礫の中で白い髪を見つけるまで、何も考えられなくなったこと。

 

 操縦中は押さえ込んでいたものが、不意に身体の奥から込み上げてきた。

 

「……アイリス?」

 

 セセリアが差し出した手を、私は掴んでいた。自分でも驚くほど、指が震えている。

 

「どうしたの。気分悪い?」

 

「いえ。そうでは、なく……」

 

 説明しようとしたが、息が整わなかった。

 

 彼女はここにいる。分かっているのに、手を離せない。

 

 私の出生も、実父のことも、人間を憎んで何を企てていたのかも。そのすべてを聞いたうえで、明日も一緒に食事をしようと言ってくれた人が、いなくなるかもしれなかった。

 

「……貴女が」

 

「うん?」

 

「返事を、してくださらなくて」

 

 セセリアの表情が変わった。

 

「あの時は、聞こえなかっただけだよ。すぐ、返したでしょ」

 

「はい。ですが……」

 

 また額の傷へ目が向いた。

 

 もう少し弾が内側へ入っていたら、どうなっていたのか。崩れた窓の向こうで彼女を見つけられなかったら、私は何を目にすることになったのか。

 

「アイリス、こっち見て」

 

 言われて顔を上げた途端、涙が落ちた。

 

 私は慌てて空いている手で拭った。整備班の皆さんがいる。点検の指示も、帰投の報告も、まだ終わっていない。

 

「申し訳ありません。少し、落ち着けば――」

 

 声が震え、続かなかった。

 

 気づけばセセリアの肩へ手を伸ばし、そのまま抱き寄せていた。

 

「ちょっと、アイリス!」

 

「……ご無事で、よかった」

 

 傷へ触れないよう、彼女の肩口へ顔を寄せた。

 

 コックピットでも、同じことを申し上げた。それでも、まだ足りなかった。無事だと分かってからも、恐ろしかった想像だけが何度も戻ってくる。

 

「失ったかと、思いました。貴女が、いなくなってしまったらと……」

 

 口にすると、声がいっそう震えた。

 

 セセリアの手が背中へ回る。

 

「いるよ。ちゃんと帰ってきたでしょ」

 

「……はい」

 

「二人で帰ってきたんだから」

 

 私は頷こうとして、うまくできなかった。彼女の制服を掴む指に、また力が入った。

 

     

 

 

 

 

 

 

 整備班の前で、ここまで感情を崩すアイリスを見るのは、セセリアも初めてだった。

 

 仕事を任せる相手がいれば、疲れていても背筋を伸ばす。研究の話になれば、いくらでも言葉が出てくる。その彼女が、今は返事さえ満足にできず、自分へ縋っていた。

 

 背中を撫でながら顔を上げると、主任技術者と目が合った。

 

 代表と歳の近い、中年の男性だった。会社が苦しかった頃から現場を支え、十二歳のアイリスが持ち込む要求を、どう実現するか考えてきた人だ。

 

 秘書になってから、セセリアは彼と何度も予定を調整していた。最近は作業の相談だけでなく、本人へ休むよう言っても聞かないので何とかしてほしい、と連絡が来る。

 

 その主任が、穏やかに微笑んでいた。視線がアイリスの背中へ落ち、再びセセリアへ戻ってくる。

 

 うちのお姫様、泣かせたな。お前、責任取れ。

 

 何も言われていないのに、一言一句、間違いなく伝わってきた。

 

 あたしが泣かせたわけじゃないんだけど。

 

 目で訴えても、主任の笑顔は変わらない。今は原因より、誰が泣きやませるのかが大事らしかった。

 

 隣へ視線を移すと、推進系を担当する中堅の女性整備員がいた。

 

 若手をまとめる姉御肌で、アイリスにも遠慮がない。検証が長引くとセセリアへ連絡し、迎えに来れば、残りはこっちでやるから、と彼女を引き渡してくれる人だった。

 

 その女性は腕を組んだまま、笑みを深めた。

 

 言い訳は後。今、頼られてるのは誰だと思ってるの?

 

 背中を撫でる手が止まりかけると、笑顔のまま眉が上がる。セセリアは何も言わず、手を動かした。

 

 その向こうでは、若い男性整備員が工具を持ったまま、こちらを見ていた。

 

 ドラグーンの調整を担当し、改修が終わるたびにアイリスを呼びに来る人だ。仕事では彼女を頼りにしているが、普段は年の離れた妹を相手にするようなところがある。徹夜明けのアイリスが実機試験へ加わろうとした時、本人には黙ってセセリアへ知らせてくれたこともあった。

 

 彼は二人の繋がった手へ目を落とし、それから片眉を上げた。

 

 ここまで来たら、やるしかないっすよ。

 

 声など出していないのに、口調まで分かった。

 

 セセリアが睨むと、彼は唇を引き結んだ。しかし、期待を込めた視線は逸らさなかった。

 

 少し離れた作業台には、白髪交じりのベテラン技術者が立っていた。

 

 アイリスが幼い頃から、加工した部品を見せてもらいに通っていた相手だ。セセリアも工房を訪ねた際、彼女のために用意された古い踏み台を見ていた。

 

 今では必要のない高さなのに、アイリスが来ると、彼は習慣のようにそれを出す。彼女もその横へ並び、楽しそうに作業を覗き込む。

 

 その男性が、真っすぐにこちらを見ていた。

 

 分かっているよな?

 

 頷くまで視線を外してもらえそうになく、セセリアは小さく頷き返してしまった。

 

 最後に目が合ったのは、代表より年上の女性技術者だった。

 

 会社の初期から研究を支え、代表にもアイリスにも遠慮なく注意する人だ。秘書として挨拶をした時、最初に頼まれたのは、あの子が大丈夫と言っても、そのまま信じないでほしいということだった。

 

 それからも、無理な予定を見つけるたびに連絡をくれる。食事や睡眠のことまで気にかける、もう一人の祖母のような人でもあった。

 

 彼女は手元の資料を静かに閉じ、その場からセセリアを見つめた。

 

 責任を取りなさい。

 

 視線が一度、アイリスの震える肩へ落ち、戻ってくる。

 

 このまま泣かせたら、あなたを泣かせますよ。

 

 セセリアは、ゆっくりと息を吐いた。

 

 五人とも何も言わず、持ち場を離れることも、二人へ近づこうとすることもなかった。

 

 パンドラの開発に携わっているのは、会社が苦しかった時期をアイリスと一緒に耐えた人たちだった。彼らにとって彼女は、頼りになる代表代理であると同時に、妹であり、娘であり、孫でもある。

 

 その大事な少女が、今、自分へ縋って泣いている。

 

 うちのお姫様泣かせやがったな。お前が何とかしろ。

 

 そこだけは、五人とも見事に一致していた。

 

 

 

「……勘弁してぇ」

 

 

 

 小さく漏らしても、誰も聞こえたふりをしなかった。姉御肌の女性に至っては、いっそう笑みを深める。

 

 セセリアは腕の中へ視線を戻した。

 

「はぁ、アイリス。少し座ろ」

 

「……はい」

 

「手は離さないから。あたしも隣にいる」

 

 そう告げると、抱きついていた腕がようやく緩んだ。代わりに、指が探るように手へ触れてくる。

 

 セセリアはその手を握り、壁際の椅子へ誘導した。

 

     

 

 

 

 

 

 椅子へ座っても、私はセセリアの手を離せなかった。

 

 彼女は隣の椅子を寄せ、持っていたハンカチで私の頬を拭ってくれた。

 

「……皆さんの前で、申し訳ありません」

 

「今はいいよ。ほら、少し息して」

 

 言われるまま、ゆっくり息を吸う。呼吸が整っても、彼女の額へ目を向けると、また胸の奥が冷えた。

 

「傷は診てもらったでしょ。大丈夫だよ」

 

「……はい」

 

 セセリアは少しだけ身体を寄せ、私の肩へ自分の肩を触れさせた。

 

「そんなに怖かった?」

 

「はい。以前よりも、怖くなりました」

 

 繋いだ手を見つめながら、私は言葉を続けた。

 

「貴女に本当の私を知っていただきました。隠していたことも、見られたくなかったところも。それでも、そばにいてくださった。その貴女を、失うかもしれないと思ったら……」

 

 また声が詰まった。

 

 受け入れてもらえたことが嬉しかった。その嬉しさと同じだけ、失うことが恐ろしくなっていた。

 

「それで、あの子を撃とうとした?」

 

 私は顔を上げた。

 

 セセリアは、握った手を離さなかった。

 

「……はい」

 

 俯きかけ、彼女の顔へ視線を戻す。

 

「武器を失ったことは、見えていました。それなのに、貴女を傷つけた相手だと思うばかりで……止められて、ようやく、もう戦えないのだと気づきました」

 

「うん。見てた」

 

「貴女を守るためだったと、申し上げることはできません」

 

 あの時、セセリアは既にコックピットにいた。ソーンも、武器を失っていた。

 

 それでも撃とうとした自分を、エランさんと彼女の声で、ようやく止められたのだ。

 

「……止めてくださって、ありがとうございます」

 

 セセリアは少し黙った後、息を吐いた。

 

「あたしのために誰かを撃ったことにされたら困るよ」

 

「はい」

 

「助けてくれたのは嬉しい。でも、あたしを傷つけた相手だからって、もう戦えない人まで撃ってほしくはない」

 

「……はい」

 

 私はその言葉を聞いた。

 

 怖かったから。大切だから。その気持ちに囚われ、自分が何をしようとしているのかさえ、見えなくなっていた。

 

「ノレアさんは、亡くなりました」

 

「うん」

 

「データストームによるものだと伺いました。ですが、私との戦闘が、どれほどの負担を強いたのかは……」

 

 セセリアは、すぐには答えなかった。

 

「分かんないことまで、今、決めなくていいよ」

 

 私は彼女を見た。

 

「戦闘を止める必要があったのも、アンタが途中から怒ってたからだし」

 

「……はい」

 

「何もかも自分のせいだって言って終わるのもなしね。何をしたのか分かんなくなるから」

 

 私は頷いた。

 

 許していただくための返事を求めてはいけない。自分が何をしたのかを、まず確かめなければならなかった。

 

 セセリアが頷いたのを見てから、私は繋いだ手へ目を落とした。

 

「ですが、今は……この手を離すことも、怖いのです」

 

 彼女は私の指を見下ろし、握り返してくれた。

 

「離してって言ってないよ」

 

 顔を上げると、彼女は少しだけ眉を下げていた。

 

「あたしも、今日は一人になりたい気分じゃないし」

 

「……よろしいのですか」

 

「だから、そう言ってるじゃん」

 

 柔らかく返され、ようやく息を吐けた。

 

「では、もう少しだけ」

 

「うん」

 

「……できれば、その後も」

 

 セセリアが目を細めた。

 

「少しずつ増やしてくるねぇ」

 

「申し訳――」

 

「謝らなくていいから。どうしてほしいのか、言ってよ」

 

 私は彼女を見つめた。答えは、ずっと同じだった。

 

「貴女と、離れたくありません。今日だけではなく、その先も。一緒にいていただきたいのです」

 

 口にすると胸の奥が痛み、握った手へ力がこもった。

 

 セセリアはすぐにはからかわず、繋いだ手へ目を落とした。それから私を見て、少しためらうように口を開いた。

 

「……じゃあ、契約でもする?」

 

「契約、ですか」

 

「これからも、一緒にいるって」

 

「ですが、秘書のお仕事の契約に、そのようなことまで含めるわけには」

 

「仕事じゃない」

 

 セセリアの頬が赤くなった。

 

 私はその顔を見つめ、言葉の意味を考えた。秘書としてではなく、個人として、これからも一緒にいる約束。

 

「……では、どのような」

 

「あー、もう!」

 

 セセリアが片手で口元を覆った。

 

「婚約ってこと!」

 

 格納庫の作業音が、一瞬だけ途切れた。

 

 私は瞬きをした。セセリアは真っ赤な顔でこちらを見ていたが、握った手は離さなかった。

 

「今すぐとか、そういう話じゃなくて。これから先も、一緒に過ごして、喧嘩もして、それでも帰るところは同じにする。……そういう約束!」

 

 喉の奥が熱くなった。何か答えなければと思ったのに、声が出てこない。

 

「……アイリス?」

 

「本当に、そのように思ってくださるのですか」

 

「ここまで言わせといて、そこから確認する?」

 

「いえ。ですが、あまりに、嬉しくて」

 

 また涙が落ちると、セセリアが困ったように眉を下げた。

 

「もー。泣きやませようとしたんだけど」

 

「申し訳、ありません」

 

「謝るんじゃなくて、返事」

 

 彼女は赤い顔のまま、私の目を見た。

 

「あたしは、アンタといたい。アンタは?」

 

 私は息を吸い、今度こそ言葉にした。

 

「私も、貴女と一緒にいたいです」

 

 握った手を両手で包み、彼女へ身を寄せる。

 

「どうか、これからも。私と、一緒にいてください」

 

 セセリアの口元が、ようやく緩んだ。

 

「うん。じゃ、決まり」

 

 私は彼女を抱き締めた。

 

 先ほどのように、失う恐怖だけで縋りついたのではなかった。それでも、うまく力を加減できず、セセリアが少し笑いながら背中を叩く。

 

「怪我人には、優しくしてよね」

 

「……すみません」

 

「今のは、もう少し緩めてって意味」

 

 慌てて腕を緩めると、今度は彼女の方から抱き寄せてくれた。

 

「あと、この約束、何でもアンタの言うとおりにするって意味じゃないから」

 

「はい」

 

「嫌なことは嫌って言うし、委員会の方もするし、怒る時は怒るよ」

 

「……はい」

 

「その代わり、帰ってきたら、ちゃんと顔見せる。アンタもね」

 

 私は彼女の肩へ額を寄せ、頷いた。

 

 この約束があっても、何も失わずに済むわけではない。彼女を危険から完全に遠ざけることもできない。

 

 それでも、帰ってくる先を同じ場所にしたいと言ってくれた。私はその答えを、疑わずに受け取りたかった。

 

     

 

 

 

 

 アイリスの呼吸が落ち着いてから、セセリアは顔を上げた。

 

 五人は、それぞれの持ち場にいた。

 

 主任は作業端末を開いている。ただ、口元が先ほどより随分と緩んでいた。姉御肌の女性も、目が合うと満足そうに笑い、何事もなかったようにパンドラへ視線を戻す。

 

 若手の男性は俯いていたが、肩が小さく揺れている。あれは後で、絶対に何か言ってくる顔だった。

 

 ベテランの男性は、こちらへ一度だけ深く頷いた。年配の女性も静かに微笑んでいる。先ほどまでの圧は消えていたが、どうやら、これでようやく合格らしい。

 

「……全員、聞いてたね」

 

 声を落とすと、アイリスが肩から顔を上げた。

 

 周囲を見て、それから今さらのように頬を赤くする。

 

「……申し訳ありません」

 

「アンタに言ってないから」

 

 セセリアは額へ触れかけ、傷があることを思い出して手を下ろした。

 

「もう、ここじゃ作業にならないね。帰ろ」

 

「はい」

 

 立ち上がっても、アイリスは手を離さなかった。主任へ向き直り、少し掠れた声で告げる。

 

「点検の結果は、明日、確認いたします。本日は、お任せしてもよろしいでしょうか」

 

「もちろんです。ゆっくり休んでください」

 

 主任の返事に、ほかの四人も頷いた。

 

 セセリアはその笑顔を見て、余計なことを言われる前に帰ろうと決めた。

 

     

 

 

 

 

 

 格納庫を出ると、焦げた臭いを含んだ空気が流れてきた。

 

 遠くでは、まだ救助車両が動いている。運び込まれた物資を受け取り、別の区画へ届ける人々の姿もあった。

 

 私はセセリアと繋いだ手へ目を落とした。

 

 震えは治まっていた。それでも、今日の出来事が終わったようには思えなかった。

 

 ノレアさんは亡くなった。

 

 機体を降りてからすると言っていた話は、最期にエランさんが伝えた、わずかな言葉になった。彼が何を告げ、彼女が何を思ったのかを、私は知らない。

 

 救えなかったことも、自分が撃とうとしたことも残っている。何ができて、何が届かなかったのか。自分が何を選んだのか。後から確かめ、説明しなければならなかった。

 

 隣でセセリアが歩調を緩めた。

 

「また、仕事の顔になってる」

 

「……考えることが、残っておりますので」

 

「休んでから考えて」

 

 私は彼女を見て、頷いた。

 

 皆さんへ任せたことは、任せよう。休むようにと言われたことも、受け入れようと思った。

 

「セセリア」

 

「何?」

 

「先ほどのお約束ですが」

 

 彼女が一度こちらを見た。

 

「まだ何かあるの?」

 

「改めて、私からも申し上げる機会をいただけますか。貴女に、言っていただいてばかりですので」

 

 セセリアはすぐに顔を逸らした。

 

「そういうところ、急に律儀だよねぇ」

 

「大切なお約束ですから」

 

「……じゃあ、ちゃんと考えといて」

 

 その耳が、また赤くなっていた。

 

 私も顔が熱くなるのを感じながら、頷いた。

 

 帰ったら何を食べるか。今夜はどこで休むか。彼女へ改めて、どのように伝えようか。まだ考えたいことが、いくつもあった。

 

 セセリアが、繋いだ手を軽く引く。

 

「ほら。行こ」

 

「はい」

 

 私はその歩調へ合わせ、彼女と一緒に歩き出した。




原作の残りイベント的にスムーズにエンダーしてしまった(2敗)

もっと喧嘩させたりドロドロしたものにしたかったんだけどなぁ(頭C.E.)




グエルとの決闘イベント吹っ飛ばしちゃった(3敗)

水星の2期はないのか。もっとドロドロした宇宙VS地球やろうぜ
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