水星の魔女 ~もう一輪の百合の花~ 作:一般通過クルーゼさん
『ミーティア、射出します』
連絡とともに、格納庫の奥で大きな装備が動き始めた。
左右へ張り出した本体と推進器。前方へ伸びる二本のアーム。その中央には、パンドラを受け入れる支持部がある。
ミーティアが船外へ出るのを待ち、私はパンドラの姿勢を変えた。上方へ回り込み、互いの位置と速度を表示させながら、接近する装備に合わせて噴射を調整する。
機体の下へ、大きな影が滑り込んできた。
図面の中では何度も並べた。試験映像にも繰り返し目を通した。それでも、左右へ伸びる砲身と推進器が視界を占めると、思わず口元が緩んだ。
私はパンドラを支持部へ寄せ、接触する直前に相対速度を落とした。
僅かな振動が座席へ伝わる。続いて固定機構の作動音が機体を通して響き、一つ、二つと接続表示が点灯した。
最後の表示が切り替わってから、姿勢制御へ小さく入力を加える。パンドラの下で、ミーティアの推進器が光った。
『固定、確認。制御接続も正常です』
「こちらでも確認しました」
表示された機体の輪郭が、追加装備を含めたものへ変わる。
母機だけの時とは質量も、推進器の位置も違っていた。噴射に応じた姿勢の変化を確かめ、補正値を調整する。それから前方アームを動かすと、二本の砲身が左右へ開き、指定した角度で止まった。
本体側の二門も確認し、パンドラの腕とドラグーンの展開位置へ干渉しないことを確かめる。
『どうです?』
父上の声がした。
「……ええ。扱えます」
『よかった』
通信の向こうで笑っているのが分かった。
『では、細かい感想は帰ってから』
「ええ。お待ちください」
応答を終え、ミーティアを伴った機体をクワイエット・ゼロへ向けた。
背後の宇宙艇が小さくなっていく。私はキャリバーンの識別が、まだ味方の船内にあることを確かめてから、推力を上げた。
クワイエット・ゼロの輪郭が、正面の映像を占め始めていた。
予測されたデータストーム空間の境界まで、間もなくだった。進路を僅かに下げ、接近速度を確かめていた時、周辺へ向けたオープン回線を受信した。
『コズミック・シードのお嬢さん?』
柔らかな女性の声が、コックピットへ流れた。
『それ以上近づかれると、貴女の身の安全は保証できないのだけど』
レディ・プロスペラ。
私は受信した回線を開いた。ミーティアの姿勢を整えたが、速度は落とさなかった。
「結構です。貴女に保証していただく必要はありません」
彼女が黙ったところへ、言葉を続けた。
「娘さんの安全さえ守れなかった方の保証に、どれほどの価値があるのでしょう?」
『……ずいぶん、言ってくれるじゃない。デリングの飼い犬が』
私は僅かに口元を上げた。
「過去に繋がれたままの亡霊に、首輪の有無を論じられましても……」
正面の構造物を見ながら、固定部、推進系統、兵装制御の状態を確かめる。いずれも異常はなかった。
回線の向こうで、小さく笑う声がした。
『パーメットも使わない機体なんて、随分アンティークなものを作るのね。デリングが私を牽制するために認めたおもちゃが、そこまで形になるだなんて。思ってもみなかったわ』
「あら。貴女にそう言っていただけるのは、嬉しいですね」
『……お嬢さんは、私を嫌っていたと思っていたのだけど?』
「ええ。嫌悪しておりますよ」
返事に迷いはなかった。
「娘の人生を、ご自分の目的のために使う。そのことに、親の愛情という大層な名前までつけていらっしゃるのですから」
巨大な構造物の各所に、光が見え始めていた。
「ですが、GUND技術をここまで仕上げたことには、驚嘆するほかありません。エアリアルについてもです」
『褒めているのか、貶しているのか、分からないわね』
「貴女のお人柄と、技術の価値を分けてお話ししているだけです。両方まとめて差し上げるほど、私は親切ではありませんので」
前方アームの状態を呼び出す。操作に応じ、左右の砲身が僅かに動いた。
「そして、その技術を前にして、見ているだけでは満足できなくなったのです」
『それで、ここまで?』
「ええ。私たちの技術で、挑むために」
返事は、すぐにはなかった。
クワイエット・ゼロに灯る光が増えていく。こちらを迎える準備が始まったことは、機影を捉える前から分かった。
『……そう。止めても無駄なようね』
「ご理解いただけたようで、何よりです」
『なら、そのおもちゃで、どこまでやれるかしら?』
回線が切れた。
私は通信表示を脇へ送り、推力を上げた。
予測されていた境界を越えると、外部から取得していた情報の一部が途切れた。
パンドラ自身のセンサーが捉えた映像を前へ出し、各系統を確かめる。姿勢制御、推進、兵装。接続された十一基のドラグーンにも、異常はない。
その正面で、クワイエット・ゼロから機影が現れた。
先頭の機体が構造物を離れる間にも、その後ろから新たな列が続いていた。ガンドノードの群れが、こちらへ向けて広がっていく。
人型の機体に交じり、ひときわ大きな影が見えた。
背面へ大型の装備を取りつけたガンドノードだった。アーマーパックを装着した機体が推進器を噴かし、通常の機体を追い越して左右へ散る。その外周から、小さな機影が分離した。
一機につき、四基。
ガンドノード自身が遠隔兵器でありながら、さらにガンビットを放つ。分離した端末は母機の周囲へ留まらず、こちらの上下へ回り込み始めた。
私は敵の識別を分けた。
通常のガンドノード。アーマーパック装備機。そこから放たれたガンビット。
それぞれの位置を追いながら、ミーティアの前方アームを開いた。
左右の砲身を射撃位置へ移し、本体側の二門にも照準を与える。各部のミサイル発射口を開くのと同時に、パンドラの背部と腰部へ分離の指示を送った。
大型三基、小型八基。
十一基のドラグーンが母機を離れた。
背部から離れた端末を上方へ、腰部の六基を左右へ送る。ミーティアの砲口と推進器を避けて広がった端末が、それぞれ姿勢を変えた。
敵も、まだ撃たなかった。
通常の機体が正面へ並び、アーマーパック装備機はその外側へ位置を取る。分離したガンビットだけが、隊列から遠ざかるように広がっていた。
四門の砲で中央を押さえ、ミサイルを左右へ展開する機体へ向ける。ドラグーンの一部を敵のガンビットへ振り分け、残る端末をその母機の回避先へ送った。
射撃準備の表示が揃う。
「では――いざ」
引き金を引いた。
ミーティアの四門が、ほぼ同時に光った。
太い光条が正面へ伸び、その両脇からミサイルが飛び出す。白い尾を引く弾体が広がり、別々の目標へ向けて曲がっていった。
同時に、十一基のドラグーンが撃った。
その光が届く直前、ガンドノードが動いた。
先頭の三機が間隔を狭め、互いに位置をずらす。その間に青い光が広がり、薄い膜のようなものが射線の前へ浮かび上がった。
ミーティアの砲撃が、そこへ突き刺さる。
光が膨らんだ。だが、奥にいる機体へは届かなかった。収束していた光条が防壁の表面で乱れ、外側へ流れていく。
側方から通したドラグーンの射線の前にも、別の機体が滑り込んでいた。その後ろへ二機が寄り、新たな防壁が広がる。
続いて、ミサイルが迎撃を受けた。
アーマーパックから離れたガンビットが、それぞれ砲口を振っていた。先頭の弾体が撃ち落とされ、その爆発を抜けたものにも、別方向から射撃が重なる。
迎撃を抜けたミサイルが青い膜へ接触し、白い光を膨らませた。
防御の奥にある機影は崩れなかった。
私は着弾を待たず、上方の大型ドラグーンを動かした。
それを追うように、敵のガンビットが二基、進路を変える。一基が正面から撃ち、もう一基がこちらの回避先へ回った。
大型端末を下げ、側方の小型端末から牽制を入れる。その間に、正面の防壁の後ろからビームが来た。
私はミーティアを傾けた。
パンドラの頭上を光が抜ける。続く一射を避けようと噴射を変えたところで、右側から新たな警告が鳴った。
外側へ回っていたアーマーパック装備機だった。
本体側の砲を向け、その進路へ撃つ。敵機が回避した先へ小型端末を回したが、射撃するより早く、敵のガンビットが端末へ砲口を向けていた。
私は端末を引いた。
先ほどまでいた位置をビームが通り、その向こうで、狙っていた機体が列へ戻っていった。
四門の砲と十一基のドラグーン。それにミサイルを加えた初撃は、敵の隊列を崩し切れなかった。
数機が集まって射線を遮り、その背後から別の機体が撃つ。外側ではアーマーパック装備機がこちらの進路を追い、そのガンビットがドラグーンを押さえていた。
小型端末を一基、さらに外へ出す。
敵のガンビットが追った。そこへ別の端末を回すと、今度はその母機がライフルを向ける。
二基を同時に引き、パンドラの進路も変えた。
一射がミーティアの左側を掠めた。
外装の損傷表示が点灯する。推進と兵装に支障がないことを確かめ、噴射を調整した。
遠隔兵器を操る機体もまた、遠隔兵器だった。
ドラグーンが狙った相手だけを見ていては、その外から撃たれる。防壁へ火力を集めればガンビットに回り込まれ、端末同士の撃ち合いへ意識を割けば、母機を狙われた。
私は群れの奥へ目を向けた。
正真正銘の、人機一体。
エリクトは、そのすべてを見ている。
「……ええ。そうでなくては」
砲身の状態と残弾を確かめる間にも、正面へ三機が集まっていた。再び青い防壁が広がり、その後方で別の機体がライフルを構える。
私はドラグーンを散らした。
一基が角度を変え、別の一基が高度を落とす。敵のガンビットがそれぞれを追うのを見ながら、ミーティアの前方アームを正面へ揃えた。
防御を担う三機へ撃つ。
光条が膜へ突き刺さり、防壁の中心がこちらへ向く。その反応を見届け、私は推力を上げた。
ビームの散る光を前に残したまま、ミーティアを加速させた。
左右から敵機が出てくる。小型端末を二基ずつ向け、別々の角度から撃たせると、アーマーパック装備機が進路を変えた。
そのガンビットが、こちらの端末へ寄ってくる。
狙われたものを引き、上方の大型端末から母機へ射撃を通した。敵機が防御側へ寄り、青い光が側方にも広がる。
私は右の前方アームの射撃を止め、兵装を切り替えた。
MA-X200ビームソード。
長大な光の刃が、ミーティアの前方へ伸びた。
正面の三機が間隔を開き、防壁の面を傾ける。左右の機体もこちらへ向き直り、ガンビットとともに射撃を集中させてきた。
私はミーティアを捻った。
左側の装甲を光が掠める。警告を脇へ送り、残る砲で敵の射撃位置を狙う。相手が回避へ移る一瞬に、前方アームを振った。
巨大な刃が、防御フィールドへ触れた。
青い光が大きく波打つ。私は推力を落とさず、刃を押し込んだ。接触した場所から閃光が広がり、正面の映像が白く染まる。
防御を担う機体が、位置を変えようとしていた。
左の前方アームも切り替える。
二本目の刃を伸ばし、右の刃で押していた面へ叩き込んだ。
青い膜が歪み、その一部が裂けた。
機体を傾け、開いた場所へ右の刃を通す。奥にいたガンドノードの腕が飛び、続いて胴体が上下に断たれた。
隣の一機は噴射を上げて逃れた。だが、もう一機は防御の位置から退くのが遅れた。
左の刃が、その機体を捉えた。
光の向こうで装甲が砕ける。
私はミーティアの機首を上げ、爆発する二機の間を抜けた。
その先へ、アーマーパック装備機が飛び込んできた。
大型の装備から格闘用アームが開き、先端に光の刃が生まれる。左右から伸びた刃が、パンドラを挟むように迫った。
私は前方アームを振り戻した。
ミーティアの長大な刃が、その一本を根元から断つ。だが、敵機も止まらなかった。残るアームを伸ばしながら機体を捻り、こちらの側面へ抜けようとする。
私はパンドラの左腕を上げた。
複合兵装防盾から伸ばした刃で、迫る光を受け流す。その間に側方の小型端末を回し、アーマーパックと本体の接続部へ撃ち込んだ。
装甲が弾けた。
敵機が姿勢を崩したところへ、ユーディキュームの一射を通す。胴体を貫かれたガンドノードが、破損したアーマーパックとともに回転を始めた。
離れていた四基のガンビットは、なおも動いていた。
一基がパンドラへ砲口を向ける。私は小型端末から牽制を入れ、その射線を外させた。
母機を落とせば終わる、とは考えない方がよさそうだった。
追撃を切り、ミーティアを横へ流す。先ほどまでいた場所へ、ガンビットと後続機の射撃が集まった。
砕けた防壁の向こうに、進める空間ができた。
だが、そこへ戻る前に、新たなガンドノードが位置を取っていた。今度は同じ場所へ密集せず、互いに距離を保って防御の面を作っている。
その外側には、アーマーパック装備機が残っていた。ガンビットを広げ、こちらが刃を振り抜いた後の進路へ射線を置こうとしている。
右の刃を消し、アームを射撃位置へ戻した。
正面の一群が寄る。そこで撃たず、左の刃を向けたまま進路を変えた。
ガンドノードが追ってきた。
ドラグーンに射撃させ、防御を担う機体がそちらへ向いたところで、本体側の砲を別方向へ向ける。一機が回避した先へ小型端末を回すと、敵のガンビットがその端末を狙った。
私はその動きを待っていた。
端末を退かせながら、右の前方アームから母機へ撃つ。ビームがアーマーパックの外縁を削ったが、相手は姿勢を変え、防壁の内側へ退いていった。
さらに別の端末を下方へ送った。
防壁の向きが変わる。その外側へ大型端末を下ろし、右アームの射撃と重ねた。
二方向から届いた光が、青い膜の端で交差する。
防御を維持したまま一機が動いた。その後ろを通ろうとした機体へ、下方の小型端末から撃つ。
脚部が弾けた。
傾いた機体を捉え、ユーディキュームの引き金を引いた。
光が胴体を貫く。
その爆発を見届ける前に、大型端末を引き上げた。敵のガンビットが、こちらの射撃が終わるのを待っていたように砲口を向けていた。
ビームが端末の脇を抜ける。
続く射撃を避けながら母機の進路も変え、私は左の刃を消した。
ミーティアの左側には傷が増え、砲身の温度も上がっていた。十一基のドラグーンはすべて動いていたが、射撃を続けたことで、蓄えたエネルギーが減っている。
前方アームを開き直し、四門の砲を敵へ向けた。
ガンドノードが間隔を狭める。再び広がった防壁へ砲撃を加え、その光に敵の輪郭が覆われる間に、ドラグーンへ帰還を指示した。
まず、小型四基。
左右へ広がっていた端末が戻り、腰部の接続位置へ収まった。補給が始まったことを確かめ、残る端末を母機の後退に合わせて動かす。
敵が追ってきた。
ミーティアの砲撃を続けながら、小型二基を左右へ回す。ガンビットがその迎撃へ向かったところで、私は推力を上げた。
敵の射撃が後方を抜ける。
追従しようと防壁が傾き、その背後からアーマーパック装備機が出てきた。進路へ大型端末の一射を置き、ミーティアの機首をさらに下げる。
補給を終えた四基を、再び分離した。
入れ替わりに残る小型四基を戻し、大型端末も一基ずつ背部の接続位置へ収める。補給を終えたものから外へ送り、砲撃と加速を続けながら、十一基を順に入れ替えていった。
最後の大型端末が背部を離れた時には、敵の隊列が先ほどよりも長く伸びていた。
追いつこうとする機体と、防御の位置を保とうとする機体。その外へ広がりすぎたガンビットもある。
私はそれぞれの距離を見ながら、端末を散らした。
「お見事です」
口元が緩んだ。
「ですが、こちらも、まだ使えるものがございますので」
四門の砲口が、再び光を帯びる。
私は十一基の位置を確かめ、引き金を引いた。
ガンドノードの防壁が、こちらの射線へ向きを変えた。
その面が重なる前に、ミーティアの推力を上げる。座席へ身体が押しつけられ、こちらを狙っていた砲口が後方へ流れた。前方へ回り込もうとしていた機体も進路を塞ぎ切れず、噴射の向きを変えて追ってくる。
速度を保ったまま、敵の列に沿って進んだ。
大きく回したドラグーンが、ガンドノードの外側へ出る。そこから大型一基を撃たせると、狙われた機体が回避し、後方の二機へ近づいた。
三機が寄り、防壁を作る。
私は前方アームを向け直した。
四門の照準が揃い、太い光条が青い膜へ突き刺さる。向こう側の機体が姿勢を変え、防壁の中心をこちらへ合わせた。
その間に、小型端末を二基、上下へ分けて送った。
上方の一基が先に撃つ。
敵のガンビットがそちらを追った。射撃を避けるために端末を引き、代わりに下方の一基をさらに奥へ滑り込ませる。
正面では、ミーティアの砲撃が防壁を打ち続けていた。
四門のうち二門をそのまま撃たせ、残る二門で側方のアーマーパック装備機を牽制する。その機体が噴射の向きを変えた時には、小型端末は既に防壁の後ろへ抜けていた。
こちらへ背を向けたガンドノードの背部を捉える。
撃った。
光が推進器の脇へ突き刺さった。機体が前へ傾き、防壁の一角が大きくずれる。
隣の一機が、その場所を埋めようと動いた。
端末を横へ流しながら、もう一射を通す。
肩口を貫かれ、ライフルを構えていた腕が外れた。青い膜が途切れたところへ、正面からミーティアの砲撃が届く。
ガンドノードが光に呑まれた。
残った一機は既に離れ始めていたが、退く先には上方の大型端末を回していた。回避のために姿勢を変えた、その胴体へ撃つ。
爆発が膨らんだ。
私は追撃を切り、背後へ回していた小型端末を引き戻した。その直後、敵のガンビットが射線を通してくる。
端末を横へ逃がしながら、その先へ別の小型端末を向けた。
こちらを追っていたガンビットが噴射を変える。私はその方向へ大型端末の砲口を置き、短く撃った。
小さな機影が光に包まれた。
だが、その爆発の脇を、別のガンビットが抜けてきていた。ミーティアの砲口を向けると、それもまた進路を変え、母機の近くへ退いていく。
防壁を崩すだけでは、射撃は止まらない。
私は十一基へ新たな進路を与えた。
四門で正面を撃ち、敵が防壁を向けたところへ、側方からドラグーンを差し入れる。ガンビットが迎撃へ回れば、その母機へミサイルを送った。
アーマーパック装備機が回避し、防壁の後ろを離れる。
そこへ大型端末から撃った。
装備の一部が砕け、敵機が姿勢を崩す。その機体を庇うように二基のガンビットがこちらを狙ったが、私はミーティアの砲口をそちらへ向け、射撃を中断させた。
残る砲で、母機を撃ち抜く。
爆発の光を背に、次の射撃位置へ移った。
敵も配置を組み替え続けていたが、外側へ迎撃の手を増やせば、正面の防御に加われる機体は減った。防壁を維持すれば、その後ろへ端末を回す余地が生まれた。
私はその間を縫い、少しずつ機体を削っていった。
ガンドノードの列が薄くなる。
その隙間を広げるように、さらに推力を上げた。
その瞬間、意識の奥へ何かが触れた。
警報ではなかった。映像にも、まだ新たな機影はない。
それなのに、操縦桿を動かしていた。
ミーティアが大きく傾く。
先ほどまでパンドラの胸部があった位置を、細い光が抜けた。
息を止めた。
続く光が、別の方向から来る。
大型ドラグーンを引き、母機を下げた。視界の上を、小さな物体が横切った。
ガンドノードのガンビットではない。
輪郭を確かめるより先に、次にどこから来るのかが分かった。小型端末の一基を反転させ、射撃を指示する。
二つの光が交差した。
向こうが身を翻し、こちらの射線を外れる。その向きを見て、ようやく相手を捉えた。
エアリアルの盾、エスカッシャンを構成するガンビット。
先ほどまで撃ち合っていたものとは、形も、大きさも違った。それが、ガンドノードの群れを抜けてきていた。
「……来ましたか」
声が漏れた。
胸の内へ、冷たいものが走った。遠くにいたはずの相手が、不意にこちらを振り向いたような感覚だった。機器の表示より先に、その方向を見ている。
まだ、エアリアルの姿はない。
だが、そのビットは既に、こちらの砲口と端末の間へ入り込もうとしていた。
私はミーティアを旋回させながら、三基のドラグーンを迎撃へ回した。残る端末にはガンドノードと、そのガンビットを牽制させる。
右側から光が来た。
避けた先へ、上方からもう一射。
母機を捻り、ユーディキュームを向ける。射撃を行うのと同時に、別のビットが視界の端へ入った。
こちらが砲口を向けた時には、もう次の位置へ動こうとしていた。ドラグーンで追えば、その射線の外から別の一基がパンドラを狙う。
私はミーティアの噴射を変えた。
大きな装備が姿勢を変える、その途中で、前方アームに警告が走った。
右側の砲身が光に貫かれた。
外装が弾け、砲口の先が不自然な方向へ折れる。遅れて振動が座席へ届き、固定されたパンドラの身体まで揺れた。
出力を切った。
砲身の状態表示が赤へ変わる。その向こうから、次の射撃が来ていた。
左のアームを振り、牽制の一射を放つ。狙ったビットは回避したが、射撃を中断して外側へ逃れた。
その間に機体を立て直した。
右前方アームは使用不能。残る砲は三門。
推進系統と、パンドラとの固定部は生きている。
表示を見てから正面へ目を戻すと、ガンドノードの群れが、また近づいていた。
使えなくなった砲身へ意識を残す余裕はなかった。
右前方アームへの接続を閉じ、残弾と、まだ撃てる兵装を確かめる。ミーティアを加速させると、エアリアルのビットも追ってきた。
ドラグーンを二基ずつ動かし、一基が撃つ間にもう一基を別角度へ回す。
撃ち落とすことには固執しなかった。こちらへ砲口を向ける時間を削り、次の攻撃へ移るまでの間を作る。
その間に、ミーティアの進路をガンドノードの群れへ向けた。
敵が動いた。
数機が寄り、進路の前へ防御フィールドを広げる。その左右ではアーマーパック装備機が位置を取り、残るガンビットを迎撃へ回していた。
私はミサイルへ目標を割り振った。
正面の防御へ集まった機体。左右へ散開するアーマーパック装備機。その後方で射撃位置へ入る機体と、さらに奥から向かってくる列。
残っている弾体を、すべて使う。
左の前方アームと、本体側の二門にも照準を与えた。
ミーティアは、まだ動いた。だが、ここで抱え続けるために持ってきた装備ではない。
パンドラの推進系統を確かめ、ドラグーンへ次の展開位置を送る。機体を少し下げると、エアリアルのビットが放った一射が頭上を抜けた。
私はその光を見送らず、引き金を引いた。
ミーティアの各部から、ミサイルが飛び出す。
幾筋もの白い尾が集まり、正面へ向かう弾体の外を別の群れが回った。そのさらに外で左右へ分かれ、ガンドノードの展開する空間へ広がっていく。
迎撃が始まった。
ガンビットの射撃を受け、先頭の数発が爆ぜる。その後ろから続く弾体へも光が伸びたが、私は迎撃位置へドラグーンを向けていた。
小型端末の二基が、別々の角度から撃つ。
敵のガンビットが射撃を中断し、身を翻した。その間をミサイルが抜け、青い膜へ次々と衝突する。
防壁が爆発の光に覆われた。
後方から別の機体が加わるところへ、残る三門を撃った。
光条が防壁へ突き刺さる間にも、ミサイルは別の方向から届いていた。左右のガンドノードが防御を作り直そうと寄り、その背後をアーマーパック装備機が横切る。
私は、防御へ入ろうとする一機へ照準を絞った。
端末ごとに僅かに時をずらして撃つ。
ガンドノードの腕が飛んだ。
隣の機体が姿勢を変える。その動きで防壁の端が後退し、回り込んでいたミサイルが奥へ抜けた。
爆発が生まれた。
三門の砲口を動かし、崩れた部分へ光を集める。
防壁が裂けた。
その後ろにいた機体を、太い光条が貫く。続くミサイルが、アーマーパック装備機へ届いた。
大型の装備が爆発に包まれる。
そこから離れたガンビットが射撃を続けたが、今度はその位置へ大型ドラグーンを向けた。広げた射線の一つが小さな機影を捉え、その隣をミサイルが抜けていく。
さらに奥で、爆発が続いた。
残弾の表示が、視界の端で減っていった。
敵の射撃も止まってはいなかった。
ミーティアの左側へ光が突き刺さり、衝撃が固定部を通して伝わる。装甲が剥がれ、警告表示が増えた。それでも、残る砲はまだ動いていた。
最後の目標へ照準を移す。
ミサイルの残数が、零へ変わった。
三門から、もう一度光が伸びる。
射撃を終えるのと同時に、私は接続を切った。
固定機構が解除された。
パンドラの推進器を噴かし、ミーティアの上から離れる。
急に機体が軽くなった。
上昇しながら左へ身を捻る。先ほどまで接続されていた場所へ、エアリアルのビットの射撃が通った。
ミーティアの外装が弾けた。
私は十一基のドラグーンを母機の動きへ合わせて引いた。追ってくるビットへ一射ずつ置き、パンドラを囲む位置へ展開し直す。
切り離された装備が、背後へ遠ざかっていった。
残弾は使い切った。砲身も、外装も、随分と傷つけてしまった。
父上へお話しすることが、また増えたと思った。
正面へ目を戻す。
先ほどまでこちらを囲んでいたガンドノードの群れは、大きく数を減らしていた。
爆発の光が消えた場所を、装甲片が流れている。破損したアーマーパックから伸びた格闘用アームが、機体と離れて回転していた。
生き残ったガンドノードが位置を変える。
その周囲には、母機を失ったものも含め、幾つかのガンビットが残っていた。だが、先ほどまでのように広い範囲を押さえるだけの数はない。防壁を組み直そうとする機体同士にも、埋め切れない距離が生まれていた。
私はその奥へ進路を取った。
エアリアルのビットが、ついてくる。
小さな機影が二つ、正面を横切った。その後ろから別の一基が回り込み、左右にいたものも距離を変える。
私は機体を減速させた。
意識の奥に、先ほどと同じ感覚が触れた。
今度は、方向がはっきりしていた。
顔を上げる。
クワイエット・ゼロを背に、青い光を引く機体が降りてきた。
白い装甲。大きく張り出した肩部と、背部の推進器。
周囲を動いていたビットが、その機体を中心に位置を整えていく。
私はユーディキュームを構え、左腕の複合兵装防盾を前へ出した。十一基のドラグーンも、それぞれ砲口を向ける。
敵の機体が、正面で止まった。
エアリアル。
映像でも、記憶の中でも、何度も見た機体だった。
『すごい操縦技術だね。でも、僕らの邪魔をしないでくれるかな』
回線へ、幼い声が入り込んだ。
私はゆっくり息を吐いた。
「ようやく、お会いできましたね」
操縦桿を握る指へ、力がこもる。
「エリクト・サマヤ」