水星の魔女 ~もう一輪の百合の花~   作:一般通過クルーゼさん

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作者はプロヴィデンスに脳を焼かれております。


第25話

『ミーティア、射出します』

 

 連絡とともに、格納庫の奥で大きな装備が動き始めた。

 

 左右へ張り出した本体と推進器。前方へ伸びる二本のアーム。その中央には、パンドラを受け入れる支持部がある。

 

 ミーティアが船外へ出るのを待ち、私はパンドラの姿勢を変えた。上方へ回り込み、互いの位置と速度を表示させながら、接近する装備に合わせて噴射を調整する。

 

 機体の下へ、大きな影が滑り込んできた。

 

 図面の中では何度も並べた。試験映像にも繰り返し目を通した。それでも、左右へ伸びる砲身と推進器が視界を占めると、思わず口元が緩んだ。

 

 私はパンドラを支持部へ寄せ、接触する直前に相対速度を落とした。

 

 僅かな振動が座席へ伝わる。続いて固定機構の作動音が機体を通して響き、一つ、二つと接続表示が点灯した。

 

 最後の表示が切り替わってから、姿勢制御へ小さく入力を加える。パンドラの下で、ミーティアの推進器が光った。

 

『固定、確認。制御接続も正常です』

 

「こちらでも確認しました」

 

 表示された機体の輪郭が、追加装備を含めたものへ変わる。

 

 母機だけの時とは質量も、推進器の位置も違っていた。噴射に応じた姿勢の変化を確かめ、補正値を調整する。それから前方アームを動かすと、二本の砲身が左右へ開き、指定した角度で止まった。

 

 本体側の二門も確認し、パンドラの腕とドラグーンの展開位置へ干渉しないことを確かめる。

 

『どうです?』

 

 父上の声がした。

 

「……ええ。扱えます」

 

『よかった』

 

 通信の向こうで笑っているのが分かった。

 

『では、細かい感想は帰ってから』

 

「ええ。お待ちください」

 

 応答を終え、ミーティアを伴った機体をクワイエット・ゼロへ向けた。

 

 背後の宇宙艇が小さくなっていく。私はキャリバーンの識別が、まだ味方の船内にあることを確かめてから、推力を上げた。

 

     

 

 

 

 

 クワイエット・ゼロの輪郭が、正面の映像を占め始めていた。

 

 予測されたデータストーム空間の境界まで、間もなくだった。進路を僅かに下げ、接近速度を確かめていた時、周辺へ向けたオープン回線を受信した。

 

『コズミック・シードのお嬢さん?』

 

 柔らかな女性の声が、コックピットへ流れた。

 

『それ以上近づかれると、貴女の身の安全は保証できないのだけど』

 

 レディ・プロスペラ。

 

 私は受信した回線を開いた。ミーティアの姿勢を整えたが、速度は落とさなかった。

 

「結構です。貴女に保証していただく必要はありません」

 

 彼女が黙ったところへ、言葉を続けた。

 

「娘さんの安全さえ守れなかった方の保証に、どれほどの価値があるのでしょう?」

 

『……ずいぶん、言ってくれるじゃない。デリングの飼い犬が』

 

 私は僅かに口元を上げた。

 

「過去に繋がれたままの亡霊に、首輪の有無を論じられましても……」

 

 正面の構造物を見ながら、固定部、推進系統、兵装制御の状態を確かめる。いずれも異常はなかった。

 

 回線の向こうで、小さく笑う声がした。

 

『パーメットも使わない機体なんて、随分アンティークなものを作るのね。デリングが私を牽制するために認めたおもちゃが、そこまで形になるだなんて。思ってもみなかったわ』

 

「あら。貴女にそう言っていただけるのは、嬉しいですね」

 

『……お嬢さんは、私を嫌っていたと思っていたのだけど?』

 

「ええ。嫌悪しておりますよ」

 

 返事に迷いはなかった。

 

「娘の人生を、ご自分の目的のために使う。そのことに、親の愛情という大層な名前までつけていらっしゃるのですから」

 

 巨大な構造物の各所に、光が見え始めていた。

 

「ですが、GUND技術をここまで仕上げたことには、驚嘆するほかありません。エアリアルについてもです」

 

『褒めているのか、貶しているのか、分からないわね』

 

「貴女のお人柄と、技術の価値を分けてお話ししているだけです。両方まとめて差し上げるほど、私は親切ではありませんので」

 

 前方アームの状態を呼び出す。操作に応じ、左右の砲身が僅かに動いた。

 

「そして、その技術を前にして、見ているだけでは満足できなくなったのです」

 

『それで、ここまで?』

 

「ええ。私たちの技術で、挑むために」

 

 返事は、すぐにはなかった。

 

 クワイエット・ゼロに灯る光が増えていく。こちらを迎える準備が始まったことは、機影を捉える前から分かった。

 

『……そう。止めても無駄なようね』

 

「ご理解いただけたようで、何よりです」

 

『なら、そのおもちゃで、どこまでやれるかしら?』

 

 回線が切れた。

 

 私は通信表示を脇へ送り、推力を上げた。

 

     

 

 

 

 

 

 予測されていた境界を越えると、外部から取得していた情報の一部が途切れた。

 

 パンドラ自身のセンサーが捉えた映像を前へ出し、各系統を確かめる。姿勢制御、推進、兵装。接続された十一基のドラグーンにも、異常はない。

 

 その正面で、クワイエット・ゼロから機影が現れた。

 

 先頭の機体が構造物を離れる間にも、その後ろから新たな列が続いていた。ガンドノードの群れが、こちらへ向けて広がっていく。

 

 人型の機体に交じり、ひときわ大きな影が見えた。

 

 背面へ大型の装備を取りつけたガンドノードだった。アーマーパックを装着した機体が推進器を噴かし、通常の機体を追い越して左右へ散る。その外周から、小さな機影が分離した。

 

 一機につき、四基。

 

 ガンドノード自身が遠隔兵器でありながら、さらにガンビットを放つ。分離した端末は母機の周囲へ留まらず、こちらの上下へ回り込み始めた。

 

 私は敵の識別を分けた。

 

 通常のガンドノード。アーマーパック装備機。そこから放たれたガンビット。

 

 それぞれの位置を追いながら、ミーティアの前方アームを開いた。

 

 左右の砲身を射撃位置へ移し、本体側の二門にも照準を与える。各部のミサイル発射口を開くのと同時に、パンドラの背部と腰部へ分離の指示を送った。

 

 大型三基、小型八基。

 

 十一基のドラグーンが母機を離れた。

 

 背部から離れた端末を上方へ、腰部の六基を左右へ送る。ミーティアの砲口と推進器を避けて広がった端末が、それぞれ姿勢を変えた。

 

 敵も、まだ撃たなかった。

 

 通常の機体が正面へ並び、アーマーパック装備機はその外側へ位置を取る。分離したガンビットだけが、隊列から遠ざかるように広がっていた。

 

 四門の砲で中央を押さえ、ミサイルを左右へ展開する機体へ向ける。ドラグーンの一部を敵のガンビットへ振り分け、残る端末をその母機の回避先へ送った。

 

 射撃準備の表示が揃う。

 

「では――いざ」

 

 引き金を引いた。

 

 ミーティアの四門が、ほぼ同時に光った。

 

 太い光条が正面へ伸び、その両脇からミサイルが飛び出す。白い尾を引く弾体が広がり、別々の目標へ向けて曲がっていった。

 

 同時に、十一基のドラグーンが撃った。

 

 その光が届く直前、ガンドノードが動いた。

 

 先頭の三機が間隔を狭め、互いに位置をずらす。その間に青い光が広がり、薄い膜のようなものが射線の前へ浮かび上がった。

 

 ミーティアの砲撃が、そこへ突き刺さる。

 

 光が膨らんだ。だが、奥にいる機体へは届かなかった。収束していた光条が防壁の表面で乱れ、外側へ流れていく。

 

 側方から通したドラグーンの射線の前にも、別の機体が滑り込んでいた。その後ろへ二機が寄り、新たな防壁が広がる。

 

 続いて、ミサイルが迎撃を受けた。

 

 アーマーパックから離れたガンビットが、それぞれ砲口を振っていた。先頭の弾体が撃ち落とされ、その爆発を抜けたものにも、別方向から射撃が重なる。

 

 迎撃を抜けたミサイルが青い膜へ接触し、白い光を膨らませた。

 

 防御の奥にある機影は崩れなかった。

 

 私は着弾を待たず、上方の大型ドラグーンを動かした。

 

 それを追うように、敵のガンビットが二基、進路を変える。一基が正面から撃ち、もう一基がこちらの回避先へ回った。

 

 大型端末を下げ、側方の小型端末から牽制を入れる。その間に、正面の防壁の後ろからビームが来た。

 

 私はミーティアを傾けた。

 

 パンドラの頭上を光が抜ける。続く一射を避けようと噴射を変えたところで、右側から新たな警告が鳴った。

 

 外側へ回っていたアーマーパック装備機だった。

 

 本体側の砲を向け、その進路へ撃つ。敵機が回避した先へ小型端末を回したが、射撃するより早く、敵のガンビットが端末へ砲口を向けていた。

 

 私は端末を引いた。

 

 先ほどまでいた位置をビームが通り、その向こうで、狙っていた機体が列へ戻っていった。

 

     

 

 

 

 

 四門の砲と十一基のドラグーン。それにミサイルを加えた初撃は、敵の隊列を崩し切れなかった。

 

 数機が集まって射線を遮り、その背後から別の機体が撃つ。外側ではアーマーパック装備機がこちらの進路を追い、そのガンビットがドラグーンを押さえていた。

 

 小型端末を一基、さらに外へ出す。

 

 敵のガンビットが追った。そこへ別の端末を回すと、今度はその母機がライフルを向ける。

 

 二基を同時に引き、パンドラの進路も変えた。

 

 一射がミーティアの左側を掠めた。

 

 外装の損傷表示が点灯する。推進と兵装に支障がないことを確かめ、噴射を調整した。

 

 遠隔兵器を操る機体もまた、遠隔兵器だった。

 

 ドラグーンが狙った相手だけを見ていては、その外から撃たれる。防壁へ火力を集めればガンビットに回り込まれ、端末同士の撃ち合いへ意識を割けば、母機を狙われた。

 

 私は群れの奥へ目を向けた。

 

 正真正銘の、人機一体。

 

 エリクトは、そのすべてを見ている。

 

「……ええ。そうでなくては」

 

 砲身の状態と残弾を確かめる間にも、正面へ三機が集まっていた。再び青い防壁が広がり、その後方で別の機体がライフルを構える。

 

 私はドラグーンを散らした。

 

 一基が角度を変え、別の一基が高度を落とす。敵のガンビットがそれぞれを追うのを見ながら、ミーティアの前方アームを正面へ揃えた。

 

 防御を担う三機へ撃つ。

 

 光条が膜へ突き刺さり、防壁の中心がこちらへ向く。その反応を見届け、私は推力を上げた。

 

     

 

 

 

 

 ビームの散る光を前に残したまま、ミーティアを加速させた。

 

 左右から敵機が出てくる。小型端末を二基ずつ向け、別々の角度から撃たせると、アーマーパック装備機が進路を変えた。

 

 そのガンビットが、こちらの端末へ寄ってくる。

 

 狙われたものを引き、上方の大型端末から母機へ射撃を通した。敵機が防御側へ寄り、青い光が側方にも広がる。

 

 私は右の前方アームの射撃を止め、兵装を切り替えた。

 

 MA-X200ビームソード。

 

 長大な光の刃が、ミーティアの前方へ伸びた。

 

 正面の三機が間隔を開き、防壁の面を傾ける。左右の機体もこちらへ向き直り、ガンビットとともに射撃を集中させてきた。

 

 私はミーティアを捻った。

 

 左側の装甲を光が掠める。警告を脇へ送り、残る砲で敵の射撃位置を狙う。相手が回避へ移る一瞬に、前方アームを振った。

 

 巨大な刃が、防御フィールドへ触れた。

 

 青い光が大きく波打つ。私は推力を落とさず、刃を押し込んだ。接触した場所から閃光が広がり、正面の映像が白く染まる。

 

 防御を担う機体が、位置を変えようとしていた。

 

 左の前方アームも切り替える。

 

 二本目の刃を伸ばし、右の刃で押していた面へ叩き込んだ。

 

 青い膜が歪み、その一部が裂けた。

 

 機体を傾け、開いた場所へ右の刃を通す。奥にいたガンドノードの腕が飛び、続いて胴体が上下に断たれた。

 

 隣の一機は噴射を上げて逃れた。だが、もう一機は防御の位置から退くのが遅れた。

 

 左の刃が、その機体を捉えた。

 

 光の向こうで装甲が砕ける。

 

 私はミーティアの機首を上げ、爆発する二機の間を抜けた。

 

 その先へ、アーマーパック装備機が飛び込んできた。

 

 大型の装備から格闘用アームが開き、先端に光の刃が生まれる。左右から伸びた刃が、パンドラを挟むように迫った。

 

 私は前方アームを振り戻した。

 

 ミーティアの長大な刃が、その一本を根元から断つ。だが、敵機も止まらなかった。残るアームを伸ばしながら機体を捻り、こちらの側面へ抜けようとする。

 

 私はパンドラの左腕を上げた。

 

 複合兵装防盾から伸ばした刃で、迫る光を受け流す。その間に側方の小型端末を回し、アーマーパックと本体の接続部へ撃ち込んだ。

 

 装甲が弾けた。

 

 敵機が姿勢を崩したところへ、ユーディキュームの一射を通す。胴体を貫かれたガンドノードが、破損したアーマーパックとともに回転を始めた。

 

 離れていた四基のガンビットは、なおも動いていた。

 

 一基がパンドラへ砲口を向ける。私は小型端末から牽制を入れ、その射線を外させた。

 

 母機を落とせば終わる、とは考えない方がよさそうだった。

 

 追撃を切り、ミーティアを横へ流す。先ほどまでいた場所へ、ガンビットと後続機の射撃が集まった。

 

     

 

 

 

 

 

 砕けた防壁の向こうに、進める空間ができた。

 

 だが、そこへ戻る前に、新たなガンドノードが位置を取っていた。今度は同じ場所へ密集せず、互いに距離を保って防御の面を作っている。

 

 その外側には、アーマーパック装備機が残っていた。ガンビットを広げ、こちらが刃を振り抜いた後の進路へ射線を置こうとしている。

 

 右の刃を消し、アームを射撃位置へ戻した。

 

 正面の一群が寄る。そこで撃たず、左の刃を向けたまま進路を変えた。

 

 ガンドノードが追ってきた。

 

 ドラグーンに射撃させ、防御を担う機体がそちらへ向いたところで、本体側の砲を別方向へ向ける。一機が回避した先へ小型端末を回すと、敵のガンビットがその端末を狙った。

 

 私はその動きを待っていた。

 

 端末を退かせながら、右の前方アームから母機へ撃つ。ビームがアーマーパックの外縁を削ったが、相手は姿勢を変え、防壁の内側へ退いていった。

 

 さらに別の端末を下方へ送った。

 

 防壁の向きが変わる。その外側へ大型端末を下ろし、右アームの射撃と重ねた。

 

 二方向から届いた光が、青い膜の端で交差する。

 

 防御を維持したまま一機が動いた。その後ろを通ろうとした機体へ、下方の小型端末から撃つ。

 

 脚部が弾けた。

 

 傾いた機体を捉え、ユーディキュームの引き金を引いた。

 

 光が胴体を貫く。

 

 その爆発を見届ける前に、大型端末を引き上げた。敵のガンビットが、こちらの射撃が終わるのを待っていたように砲口を向けていた。

 

 ビームが端末の脇を抜ける。

 

 続く射撃を避けながら母機の進路も変え、私は左の刃を消した。

 

 ミーティアの左側には傷が増え、砲身の温度も上がっていた。十一基のドラグーンはすべて動いていたが、射撃を続けたことで、蓄えたエネルギーが減っている。

 

 前方アームを開き直し、四門の砲を敵へ向けた。

 

 ガンドノードが間隔を狭める。再び広がった防壁へ砲撃を加え、その光に敵の輪郭が覆われる間に、ドラグーンへ帰還を指示した。

 

 まず、小型四基。

 

 左右へ広がっていた端末が戻り、腰部の接続位置へ収まった。補給が始まったことを確かめ、残る端末を母機の後退に合わせて動かす。

 

 敵が追ってきた。

 

 ミーティアの砲撃を続けながら、小型二基を左右へ回す。ガンビットがその迎撃へ向かったところで、私は推力を上げた。

 

 敵の射撃が後方を抜ける。

 

 追従しようと防壁が傾き、その背後からアーマーパック装備機が出てきた。進路へ大型端末の一射を置き、ミーティアの機首をさらに下げる。

 

 補給を終えた四基を、再び分離した。

 

 入れ替わりに残る小型四基を戻し、大型端末も一基ずつ背部の接続位置へ収める。補給を終えたものから外へ送り、砲撃と加速を続けながら、十一基を順に入れ替えていった。

 

 最後の大型端末が背部を離れた時には、敵の隊列が先ほどよりも長く伸びていた。

 

 追いつこうとする機体と、防御の位置を保とうとする機体。その外へ広がりすぎたガンビットもある。

 

 私はそれぞれの距離を見ながら、端末を散らした。

 

「お見事です」

 

 口元が緩んだ。

 

「ですが、こちらも、まだ使えるものがございますので」

 

 四門の砲口が、再び光を帯びる。

 

 私は十一基の位置を確かめ、引き金を引いた。

 

     

 

 

 

 

 ガンドノードの防壁が、こちらの射線へ向きを変えた。

 

 その面が重なる前に、ミーティアの推力を上げる。座席へ身体が押しつけられ、こちらを狙っていた砲口が後方へ流れた。前方へ回り込もうとしていた機体も進路を塞ぎ切れず、噴射の向きを変えて追ってくる。

 

 速度を保ったまま、敵の列に沿って進んだ。

 

 大きく回したドラグーンが、ガンドノードの外側へ出る。そこから大型一基を撃たせると、狙われた機体が回避し、後方の二機へ近づいた。

 

 三機が寄り、防壁を作る。

 

 私は前方アームを向け直した。

 

 四門の照準が揃い、太い光条が青い膜へ突き刺さる。向こう側の機体が姿勢を変え、防壁の中心をこちらへ合わせた。

 

 その間に、小型端末を二基、上下へ分けて送った。

 

 上方の一基が先に撃つ。

 

 敵のガンビットがそちらを追った。射撃を避けるために端末を引き、代わりに下方の一基をさらに奥へ滑り込ませる。

 

 正面では、ミーティアの砲撃が防壁を打ち続けていた。

 

 四門のうち二門をそのまま撃たせ、残る二門で側方のアーマーパック装備機を牽制する。その機体が噴射の向きを変えた時には、小型端末は既に防壁の後ろへ抜けていた。

 

 こちらへ背を向けたガンドノードの背部を捉える。

 

 撃った。

 

 光が推進器の脇へ突き刺さった。機体が前へ傾き、防壁の一角が大きくずれる。

 

 隣の一機が、その場所を埋めようと動いた。

 

 端末を横へ流しながら、もう一射を通す。

 

 肩口を貫かれ、ライフルを構えていた腕が外れた。青い膜が途切れたところへ、正面からミーティアの砲撃が届く。

 

 ガンドノードが光に呑まれた。

 

 残った一機は既に離れ始めていたが、退く先には上方の大型端末を回していた。回避のために姿勢を変えた、その胴体へ撃つ。

 

 爆発が膨らんだ。

 

 私は追撃を切り、背後へ回していた小型端末を引き戻した。その直後、敵のガンビットが射線を通してくる。

 

 端末を横へ逃がしながら、その先へ別の小型端末を向けた。

 

 こちらを追っていたガンビットが噴射を変える。私はその方向へ大型端末の砲口を置き、短く撃った。

 

 小さな機影が光に包まれた。

 

 だが、その爆発の脇を、別のガンビットが抜けてきていた。ミーティアの砲口を向けると、それもまた進路を変え、母機の近くへ退いていく。

 

 防壁を崩すだけでは、射撃は止まらない。

 

 私は十一基へ新たな進路を与えた。

 

 四門で正面を撃ち、敵が防壁を向けたところへ、側方からドラグーンを差し入れる。ガンビットが迎撃へ回れば、その母機へミサイルを送った。

 

 アーマーパック装備機が回避し、防壁の後ろを離れる。

 

 そこへ大型端末から撃った。

 

 装備の一部が砕け、敵機が姿勢を崩す。その機体を庇うように二基のガンビットがこちらを狙ったが、私はミーティアの砲口をそちらへ向け、射撃を中断させた。

 

 残る砲で、母機を撃ち抜く。

 

 爆発の光を背に、次の射撃位置へ移った。

 

 敵も配置を組み替え続けていたが、外側へ迎撃の手を増やせば、正面の防御に加われる機体は減った。防壁を維持すれば、その後ろへ端末を回す余地が生まれた。

 

 私はその間を縫い、少しずつ機体を削っていった。

 

 ガンドノードの列が薄くなる。

 

 その隙間を広げるように、さらに推力を上げた。

 

     

 

 

 

 

 その瞬間、意識の奥へ何かが触れた。

 

 警報ではなかった。映像にも、まだ新たな機影はない。

 

 それなのに、操縦桿を動かしていた。

 

 ミーティアが大きく傾く。

 

 先ほどまでパンドラの胸部があった位置を、細い光が抜けた。

 

 息を止めた。

 

 続く光が、別の方向から来る。

 

 大型ドラグーンを引き、母機を下げた。視界の上を、小さな物体が横切った。

 

 ガンドノードのガンビットではない。

 

 輪郭を確かめるより先に、次にどこから来るのかが分かった。小型端末の一基を反転させ、射撃を指示する。

 

 二つの光が交差した。

 

 向こうが身を翻し、こちらの射線を外れる。その向きを見て、ようやく相手を捉えた。

 

 エアリアルの盾、エスカッシャンを構成するガンビット。

 

 先ほどまで撃ち合っていたものとは、形も、大きさも違った。それが、ガンドノードの群れを抜けてきていた。

 

「……来ましたか」

 

 声が漏れた。

 

 胸の内へ、冷たいものが走った。遠くにいたはずの相手が、不意にこちらを振り向いたような感覚だった。機器の表示より先に、その方向を見ている。

 

 まだ、エアリアルの姿はない。

 

 だが、そのビットは既に、こちらの砲口と端末の間へ入り込もうとしていた。

 

 私はミーティアを旋回させながら、三基のドラグーンを迎撃へ回した。残る端末にはガンドノードと、そのガンビットを牽制させる。

 

 右側から光が来た。

 

 避けた先へ、上方からもう一射。

 

 母機を捻り、ユーディキュームを向ける。射撃を行うのと同時に、別のビットが視界の端へ入った。

 

 こちらが砲口を向けた時には、もう次の位置へ動こうとしていた。ドラグーンで追えば、その射線の外から別の一基がパンドラを狙う。

 

 私はミーティアの噴射を変えた。

 

 大きな装備が姿勢を変える、その途中で、前方アームに警告が走った。

 

 右側の砲身が光に貫かれた。

 

 外装が弾け、砲口の先が不自然な方向へ折れる。遅れて振動が座席へ届き、固定されたパンドラの身体まで揺れた。

 

 出力を切った。

 

 砲身の状態表示が赤へ変わる。その向こうから、次の射撃が来ていた。

 

 左のアームを振り、牽制の一射を放つ。狙ったビットは回避したが、射撃を中断して外側へ逃れた。

 

 その間に機体を立て直した。

 

 右前方アームは使用不能。残る砲は三門。

 

 推進系統と、パンドラとの固定部は生きている。

 

 表示を見てから正面へ目を戻すと、ガンドノードの群れが、また近づいていた。

 

     

 

 

 

 

 使えなくなった砲身へ意識を残す余裕はなかった。

 

 右前方アームへの接続を閉じ、残弾と、まだ撃てる兵装を確かめる。ミーティアを加速させると、エアリアルのビットも追ってきた。

 

 ドラグーンを二基ずつ動かし、一基が撃つ間にもう一基を別角度へ回す。

 

 撃ち落とすことには固執しなかった。こちらへ砲口を向ける時間を削り、次の攻撃へ移るまでの間を作る。

 

 その間に、ミーティアの進路をガンドノードの群れへ向けた。

 

 敵が動いた。

 

 数機が寄り、進路の前へ防御フィールドを広げる。その左右ではアーマーパック装備機が位置を取り、残るガンビットを迎撃へ回していた。

 

 私はミサイルへ目標を割り振った。

 

 正面の防御へ集まった機体。左右へ散開するアーマーパック装備機。その後方で射撃位置へ入る機体と、さらに奥から向かってくる列。

 

 残っている弾体を、すべて使う。

 

 左の前方アームと、本体側の二門にも照準を与えた。

 

 ミーティアは、まだ動いた。だが、ここで抱え続けるために持ってきた装備ではない。

 

 パンドラの推進系統を確かめ、ドラグーンへ次の展開位置を送る。機体を少し下げると、エアリアルのビットが放った一射が頭上を抜けた。

 

 私はその光を見送らず、引き金を引いた。

 

 ミーティアの各部から、ミサイルが飛び出す。

 

 幾筋もの白い尾が集まり、正面へ向かう弾体の外を別の群れが回った。そのさらに外で左右へ分かれ、ガンドノードの展開する空間へ広がっていく。

 

 迎撃が始まった。

 

 ガンビットの射撃を受け、先頭の数発が爆ぜる。その後ろから続く弾体へも光が伸びたが、私は迎撃位置へドラグーンを向けていた。

 

 小型端末の二基が、別々の角度から撃つ。

 

 敵のガンビットが射撃を中断し、身を翻した。その間をミサイルが抜け、青い膜へ次々と衝突する。

 

 防壁が爆発の光に覆われた。

 

 後方から別の機体が加わるところへ、残る三門を撃った。

 

 光条が防壁へ突き刺さる間にも、ミサイルは別の方向から届いていた。左右のガンドノードが防御を作り直そうと寄り、その背後をアーマーパック装備機が横切る。

 

 私は、防御へ入ろうとする一機へ照準を絞った。

 

 端末ごとに僅かに時をずらして撃つ。

 

 ガンドノードの腕が飛んだ。

 

 隣の機体が姿勢を変える。その動きで防壁の端が後退し、回り込んでいたミサイルが奥へ抜けた。

 

 爆発が生まれた。

 

 三門の砲口を動かし、崩れた部分へ光を集める。

 

 防壁が裂けた。

 

 その後ろにいた機体を、太い光条が貫く。続くミサイルが、アーマーパック装備機へ届いた。

 

 大型の装備が爆発に包まれる。

 

 そこから離れたガンビットが射撃を続けたが、今度はその位置へ大型ドラグーンを向けた。広げた射線の一つが小さな機影を捉え、その隣をミサイルが抜けていく。

 

 さらに奥で、爆発が続いた。

 

 残弾の表示が、視界の端で減っていった。

 

 敵の射撃も止まってはいなかった。

 

 ミーティアの左側へ光が突き刺さり、衝撃が固定部を通して伝わる。装甲が剥がれ、警告表示が増えた。それでも、残る砲はまだ動いていた。

 

 最後の目標へ照準を移す。

 

 ミサイルの残数が、零へ変わった。

 

 三門から、もう一度光が伸びる。

 

 射撃を終えるのと同時に、私は接続を切った。

 

     

 

 

 

 

 固定機構が解除された。

 

 パンドラの推進器を噴かし、ミーティアの上から離れる。

 

 急に機体が軽くなった。

 

 上昇しながら左へ身を捻る。先ほどまで接続されていた場所へ、エアリアルのビットの射撃が通った。

 

 ミーティアの外装が弾けた。

 

 私は十一基のドラグーンを母機の動きへ合わせて引いた。追ってくるビットへ一射ずつ置き、パンドラを囲む位置へ展開し直す。

 

 切り離された装備が、背後へ遠ざかっていった。

 

 残弾は使い切った。砲身も、外装も、随分と傷つけてしまった。

 

 父上へお話しすることが、また増えたと思った。

 

 正面へ目を戻す。

 

 先ほどまでこちらを囲んでいたガンドノードの群れは、大きく数を減らしていた。

 

 爆発の光が消えた場所を、装甲片が流れている。破損したアーマーパックから伸びた格闘用アームが、機体と離れて回転していた。

 

 生き残ったガンドノードが位置を変える。

 

 その周囲には、母機を失ったものも含め、幾つかのガンビットが残っていた。だが、先ほどまでのように広い範囲を押さえるだけの数はない。防壁を組み直そうとする機体同士にも、埋め切れない距離が生まれていた。

 

 私はその奥へ進路を取った。

 

 エアリアルのビットが、ついてくる。

 

 小さな機影が二つ、正面を横切った。その後ろから別の一基が回り込み、左右にいたものも距離を変える。

 

 私は機体を減速させた。

 

 意識の奥に、先ほどと同じ感覚が触れた。

 

 今度は、方向がはっきりしていた。

 

 顔を上げる。

 

 クワイエット・ゼロを背に、青い光を引く機体が降りてきた。

 

 白い装甲。大きく張り出した肩部と、背部の推進器。

 

 周囲を動いていたビットが、その機体を中心に位置を整えていく。

 

 私はユーディキュームを構え、左腕の複合兵装防盾を前へ出した。十一基のドラグーンも、それぞれ砲口を向ける。

 

 敵の機体が、正面で止まった。

 

 エアリアル。

 

 映像でも、記憶の中でも、何度も見た機体だった。

 

『すごい操縦技術だね。でも、僕らの邪魔をしないでくれるかな』

 

 回線へ、幼い声が入り込んだ。

 

 私はゆっくり息を吐いた。

 

「ようやく、お会いできましたね」

 

 操縦桿を握る指へ、力がこもる。

 

「エリクト・サマヤ」

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