水星の魔女 ~もう一輪の百合の花~ 作:一般通過クルーゼさん
ヒトノゴウッ!!
作者「ア゛ッ!(白目)」
エアリアルの周囲へ、十一基のビットが戻っていった。
盾にはならず、互いに間隔を空けて母機の前方と左右を覆っている。その間に立つ白い機体は、両手に何も持っていなかった。
私はドラグーンを遠ざけず、パンドラの周囲へ配置した。大型三基を背後の高い位置へ、小型八基を上下と左右へ送る。母機を動かした時にも射線を通せるよう、それぞれの向きを僅かに変えた。
残存するガンドノードは追ってこなかった。そのガンビットも引き、エアリアルの後方へ離れていく。
正面の白い機体へ、ユーディキュームを向けた。
『なんで、僕たちの邪魔をするの?』
声が届くのと同時に、左側のビットが動いた。私は小型端末を二基、そちらへ向ける。一基を正面へ残し、もう一基を下へ潜らせながら、回線へ答えた。
「邪魔をするつもりはありません。ただ、この機体が、この私がどこまでできるか。それを確かめたいのです」
正面の端末から撃つと、ビットは光条の脇へ滑り、下方へ送った端末に砲口を向けた。その動きへユーディキュームを合わせる。相手が撃つ前に進路を変えたところで、母機へ戻る先を狙って射撃した。
ビットが大きく避ける。同時に、別の二基がエアリアルの前へ寄った。青い光が広がり、母機へ続けて放った一射を受け止める。
私は着弾を待たず、パンドラを右へ動かした。最初のビットの反撃が、左肩の脇を抜けていった。
『すごく迷惑なんだけど』
「良いではありませんか。互いに親の業によって狂わされた者同士、踊り狂いましょう」
防御の光が消えた。母機の前にいたビットが離れ、それぞれ砲口を上げる。
『お母さんを悪く言わないでくれる?』
「ご不快でしたか」
『そう言えば、怒ると思ってるんでしょ?』
下方のビットが撃った。私は母機を滑らせ、回避先へ回ってくる別の一基へ大型ドラグーンを向けた。
「……ええ。少し、期待しておりました」
大型端末から放たれた光を、ビットが避ける。その向こうで、エアリアルは位置を変えていた。
大型ドラグーンの射撃を追うように、小型二基を動かした。一基をエアリアルの右へ、もう一基をその下へ送る。大型端末の射線から退いた母機が、どちらへ動いても狙える位置だった。
だが、端末が姿勢を整えるより早く、ビットが間へ入った。
右側の小型端末へ一射が向かう。噴射の向きを変えて下へ逃がすと、その先を別のビットが狙っていた。下方の端末から牽制を入れたが、相手は光が届く前に身を翻す。砲口をこちらへ残したまま横へ流れ、短く撃ち返してきた。
小型端末を引く。そのすぐ脇を、光が抜けた。
速い。
移動だけではなかった。砲口を向け直す動きも、射撃から回避へ移るまでの間も、こちらの端末とは違っていた。
二基を母機の近くへ戻し、ユーディキュームを向ける。追っていたビットが離れた隙に、エアリアルへ照準を合わせて撃った。
母機の前へビットが寄り、防御の光が広がる。太い光条を受けた面が白く膨らむと、エアリアルはその陰から斜めに退いていた。
ライフルを振り、次の一射を重ねる。防御を担っていたビットは既に離れ始めており、追撃の光は青い膜の消えた場所を貫いた。
向こうも、受け続けるつもりはない。
防御の位置へ留まれば、ユーディキュームの火力を集中できる。だから一射を受けたところで離れ、別の角度へ回ったビットが次の射線を遮っていた。
私は母機を前へ出した。エアリアルが引き、その周囲から短い射撃が続く。
一射を外し、次の砲口が向く前に進路を変える。だが、パンドラが姿勢を変え始めた時には、右側のビットが既に次の位置へ入ろうとしていた。
その射線へドラグーンを向けると、ビットが砲口を返した。端末を引き、代わりに母機から撃つ。太い光条に進路を塞がれたビットが離れ、その間を別の一基が通った。
防盾を上げた。光が外縁を削り、座席へ振動が伝わる。
撃たれてから避けるのでは、間に合わない。
こちらが反応できても、パンドラの動きが遅れる。端末を追わせても、相手が射撃位置へ入る方が早かった。
私はユーディキュームをエアリアルへ向け直した。
母機を狙えば、守るためにビットが戻る。その動きを待って、パンドラを押し出した。
エアリアルの前へ、再び二基が寄った。私はユーディキュームを撃ち、その防御へ光を集める。青い膜が膨らみ、母機の輪郭が白く霞む間に、上方の大型ドラグーンを回した。
ビットが一基、そちらへ向く。
私は大型端末のすべての砲門を、その一基へ揃えることはしなかった。異なる射角を与え、まず中央から撃つ。相手が右へ避けたところで、その先へ別の砲門から射撃した。
二本目の光を避け、ビットがさらに進路を変える。その下へ、三本目を通した。
端末全体を振り向け直すより早く、別の砲門から次の射線を置くことはできた。
ビットが外側へ逃れた。小型端末をその先へ回すと、別のビットが間へ入る。そこから撃たれる前に小型端末を下げ、今度は右側の大型端末へ射撃を指示した。
エアリアルを狙う光と、ビットの進路を塞ぐ光が、異なる角度へ伸びる。
十一基という数は、同じだった。だが、こちらのドラグーンが持つ砲門は、合わせて四十三。一基を動かせなくても、向けられる砲口は一つではない。
私は八基の小型端末を二基ずつ開き、三基の大型端末をその間へ置いた。エアリアルを中心に、それぞれの射線が重なりすぎない位置を取り、砲門ごとに照準を与えていく。
最初は母機へ。次は、その射撃を防ごうと寄るビットの外側へ。さらに、その外からこちらを狙うものの進路へ。
すべてを一度に撃たせず、僅かに時をずらした。
正面に青い防壁が生まれる。その側面を別の光が通り、ビットが迎撃へ回った。背後でエアリアルが退こうとした場所へ、まだ撃っていなかった砲門から射線を置く。
エアリアルの噴射が変わった。後退していた機体が斜め上へ跳ね、脚部のすぐ下を光が通る。
そちらへユーディキュームを向けると、ビットが一基、母機の前へ滑り込んだ。青い光へライフルの一射が突き刺さり、相手はすぐに防御を解いて離れた。
『……数撃てばいいってものじゃないよ』
「ええ。ですから、この通り」
返事をしながら、端末を動かした。
エアリアルは射線の少ない側へ抜けていた。こちらが次の砲門へ照準を与える間に、その外へ出ようとしている。一方で、左右のビットは大型端末へ砲口を向け始めていた。
私は撃たずに配置を崩した。
直後、大型端末のいた位置へ二方向から光が集まる。射撃を続ければ、そこを狙われていた。
砲門が多くても、端末そのものの速さが変わるわけではなかった。
『まだ続けるの?』
エアリアルは距離を取り直していた。
近づけば退き、こちらが進路を変えれば、その先へビットを置く。射線を増やせば、その外へ抜けるために母機とビットが同時に動いた。
「始めたばかりではありませんか?」
『君の機体じゃ、僕らについてこられないよ』
「ええ。端末の性能差については、よく分かりました」
上方の大型端末を動かすと、ビットが一基、同じ方向へついてきた。私はその大型端末をさらに高く上げ、小型二基を左右へ開いた。
エアリアルの近くに収めている限り、向こうは短い移動で射線を塞げる。
もっと、動いていただく。
「ですから、少し広く使わせていただきます」
小型端末を母機の下へ、大型一基を右の外側へ送った。エアリアルの前から二基が離れる。
『……行って』
十一基のビットが広がった。
こちらの端末を追っていたものだけではない。母機の前にいたものまで左右へ開き、上下へ散っていく。
私は息を吸った。
視界の中へ収めていた戦場が、その外へ広がっていく。
右の大型端末へ向かうビット。下方の小型端末を追う一基。パンドラを迂回して背後へ回ろうとするものがいる。その向こうでは、こちらの大型端末がエアリアルへ射線を通そうとしていた。
どれか一つへ意識を寄せれば、別の場所で撃たれる。
すべてを、同時に。
意識の奥で、何かが弾けた。
音が遠のいた。
正面の映像から目を離していないのに、その外で動く端末の位置まで掴めた。十一基のドラグーンと十一基のビット。それぞれの向きと速度、その先で交わる射線が、頭の中へ広がった。
私は操縦桿を動かした。
母機を左へ。小型二基を上下へ分け、大型一基を反転させる。直後、それぞれの位置を敵の射撃が通った。
退かせた小型端末を撃たせ、その光を避けるビットへ別の端末を向ける。そこから母機を狙おうとした一基には、ユーディキュームを合わせた。
エアリアルが動いた。
私はその移動先へ、大型端末を送った。
◇
右上方では、大型ドラグーンが一基のビットに追われていた。
噴射を続けて離れようとしても、距離を詰められる。相手が砲口を上げたところで大型端末を横へ振ると、光が側面を掠めた。
端末の姿勢を戻しながら、後方へ向けて撃つ。ビットは光条の下へ潜り、そのまま大型端末の腹側へ回り込もうとした。
私は大型端末を上へ逃がし、追ってくるビットの前へ、下方から小型端末の射線を通した。
相手が噴射を変える。その一瞬で大型端末を反転させ、二方向から挟んだ。だが、ビットは射線の交わる場所へ入らず、大型端末のすぐ脇へ滑り込んできた。
今撃てば、自分の端末まで射線へ入る。
小型端末の射撃を止め、大型端末をさらに回した。ビットはその動きについてきながら、母機へ砲口を向けていた。
パンドラを下げる。その一射が頭上を抜ける間に、大型端末をビットの進路から外した。
空いた射線へ、小型端末から撃つ。
ビットは加速して逃れた。
追い切れない。だが、そのまま母機へ撃たせることも避けられた。
左側では、小型二基が別々のビットと向き合っていた。
一基を先に撃たせ、もう一基を外へ回す。射撃した端末へ敵が寄ったところで、その背後を取るつもりだった。ところが、外へ送った端末を別のビットが追い、二つの組が離れていく。
私は先に撃った端末を引いた。
追ってくるビットの進路を、外側へ回していた端末の方へ寄せる。追われている二基を近づけ、互いの背後へ射撃できる位置を作った。
二基を、ほぼ同時に撃たせた。
追っていたビットがそれぞれ退く。その二つの回避方向も、重ならなかった。
私は小型端末の向きを変えず、別の砲門から射撃を重ねた。片方のビットが進路を上へ変えたため、その先へ大型端末の照準を置く。今度はもう一基が、そちらへ砲口を向けていた。
大型端末を引いた。
端末同士が互いの進路を守り、射撃を止めさせようとする。その間に生まれる短い隙間へ、別の一基を入れた。
エアリアルへ砲口を向けると、その端末を狙い、上方からビットが下りてきた。
私は撃たずに端末を落とした。敵の光が直前の位置を貫き、今度はそのビットへ大型端末から射撃する。
避けられた。だが、エアリアルへの道が一瞬空いた。
小型端末を反転させ、母機へ撃つ。
エアリアルは姿勢を傾け、光条を外した。その手が背部へ伸び、抜き放たれたサーベルに光の刃が生まれる。
私は小型端末を退かせた。
エアリアルが踏み込み、振り抜いた刃が端末の先を掠めた。回避した端末をビットが追おうとしたところへ、母機からライフルを撃つ。
その光に進路を遮られ、ビットが離れた。
私はパンドラを前へ出した。
十一基がそれぞれ追い、追われていた。一対の撃ち合いへ別の端末が射線を通し、その端末をまた別のビットが追う。母機から離れたものほど大きく回り込み、近いものはパンドラへの攻撃を防ぐために向きを変えた。
どの一基も、同じ相手だけを追い続けてはいなかった。
その中で、エアリアルは僅かずつ後退していた。
小型端末の残量表示が変わった。
先ほどの補給から、既に何度も射撃している。追われながら姿勢を変えるため、推進にもエネルギーを使っていた。
戻さなければならない。
ユーディキュームを構え、エアリアルへ撃つ。右へ退いた機体の移動先へ大型端末を回すと、二基のビットが戻り、青い光を広げた。
そこへ、もう一射を重ねる。
防御を担うビットが動く前に、私はパンドラを押し出した。
エアリアルがサーベルを構える。左腕から刃を伸ばし、その手元へ振り向けると、光がぶつかった。
左腕へ衝撃が伝わる。機体を押し返される前に噴射を変え、刃を滑らせた。
エアリアルが剣先を返す。
私は防盾を傾けて受け、ユーディキュームを向けた。砲口を合わせ切る前にエアリアルが離れ、入れ替わりにビットが寄ってくる。
ライフルを撃って一方を追い払い、もう一方へ左腕の刃を振った。届かなくてもよかった。砲口を向けていられない位置へ動かせれば、その間に近づける。
エアリアルを追うと、母機を守るために、さらにビットが戻った。
その隙に、小型端末を二基、帰還させた。
左右から戻った端末が腰部へ収まり、補給の表示が点灯する。
『そこまでして、何がしたいの?』
「申し上げたとおりです」
エアリアルのサーベルが動いた。私は刃を合わせず、機体を下げる。頭上を光が通り、その脇からユーディキュームを向けると、エアリアルは後方へ噴射した。
「ただ勝ちたいのですよ。貴女に」
『こんなことをしても、君の機体の方が先に壊れるよ』
「それは、結果が決めることです」
補給を終えた二基を放った。エアリアルの左右へ送り、ビットがそちらを向いた隙に、次の二基を戻す。
攻撃を続け、母機を守らせる。十一基すべてを好きには動かせない位置へ、エアリアルを置く。
それでも、攻撃は届かなかった。
退く向きが正確だった。パンドラの踏み込みと、ドラグーンの射線。その両方から離れられる場所へ、エアリアルは移動していた。
私はライフルを上げた。最後まで砲口を追わせてから、撃たずに左腕の刃を振る。
エアリアルのサーベルが受けた。
光が散り、腕を押し返される。踏みとどまらず、機体を滑らせるように離した。その間に戻ってきたビットをライフルで牽制し、パンドラを下へ逃がす。
補給中の端末を抱えたまま、二本の光を外した。
エアリアルの剣先が、その向こうでこちらへ向き直っていた。
◇
息が浅くなっていた。
吸ったはずなのに足りない。唇を開くと、自分の呼吸が耳元で大きく聞こえた。額から流れた汗が目元へ入り、瞬きをする。その間も、端末の位置は意識の中にあった。
右の大型一基を上へ。小型二基を下へ分ける。
追われている端末を母機の近くへ寄せ、ユーディキュームでその背後を狙う。ビットが離れたところで、別の大型端末を背部へ戻した。
接続を確かめ、補給を始める。
頭の奥が痛んだ。それでも、口元が緩んだ。
追ってくるビットの向きも、こちらの射線を避けた先も分かる。別の場所では小型端末が狙われていて、その援護に大型端末を向けながら、母機はエアリアルへ踏み込めた。
考えたことを、次々と動きに変えていける。
まだ、その先があった。
私はもう一基の小型端末へ異なる進路を与えた。敵の砲口が追う。その反対側で大型端末を回し、複数の砲門から時間をずらして撃たせる。
避けられた。
だが、追いつけなかったのではない。向こうが、こちらの狙いを読んで動いたのだ。
それが嬉しかった。
もう少し早く向けていれば。先に一射置き、回避する方向を絞っていれば。
試したいことが、間に合わないほど浮かんでくる。この身体を持て余さずに済む相手が、目の前にいた。
『苦しいんでしょ』
エリクトの声がした。
『もうやめたら?』
私は息を吐いた。喉が乾き、頭の奥では痛みが脈打っている。操縦桿を握る指にも力が入っていた。それでも、開いた口からは笑いに似た息が漏れた。
「……苦しいですよ」
大型端末が補給を終える。背部から放ち、そのままエアリアルの下方へ送った。追ってきたビットの前へ、小型端末から射線を通す。
「ですが、今、ようやく使えているのです」
『何を?』
「この身体を」
ビットが外へ避けた。その間にパンドラを前へ出し、ユーディキュームを撃つ。エアリアルの前へ二基が寄った。
「目も、手も、頭も。考えられるだけ考えて、動かせるだけ動かして……それでも、貴女には届かない」
防御へ照準を残したまま、小型端末を側方へ回す。別のビットがそちらを追った。
その進路を見ながら、私はまた笑った。
「こんなに、できることがあったのですね」
自分の身体について申し上げているのに、初めて触れる機械のようだった。
まだ動く。まだ追える。
その先を知りたくて、十一基へ次の指示を送った。
上方の大型端末を、追ってくるビットへ向けた。
相手は射撃を待たず、横へ移る。私は中央の砲門を撃たせず、外側の砲門からその進路へ光を置いた。さらに外へ膨らんだビットの先へ、小型端末を向ける。
相手が噴射を止めた。
慣性で流れながら姿勢を返し、こちらの小型端末へ撃つ。私はその端末を下げ、温存していた大型端末の砲門から光を通した。
ビットが二つの射線の間を抜ける。
その動きは、先ほどにも見た。
ユーディキュームを向け、引き金を引いた。
ビットが急激に進路を変えた。外装の端が光に触れ、細かな破片が散る。だが、止まらなかった。
傷ついた一基を別のビットが覆い、こちらへ射撃を返してくる。パンドラを捻って外すと、その向こうで二基が離れていった。
追いたかった。
だが、左側の小型端末が狙われていた。そちらを引き、母機のライフルでビットを追い払う。
その間に、エアリアルが動いた。
『いい加減しつこい!』
幼い声に、苛立ちが滲んだ。
『人の身のくせに!』
白い機体が急速に大きくなる。私は左腕を上げ、振り下ろされたサーベルを刃で受けた。機体ごと横へ流した、その先でビットの砲口が光る。
避け切れなかった一射が、左肩の装甲を削った。
衝撃が身体を揺らす。左腕を動かすと、表示された機体の輪郭も、そのとおりに動いた。
防盾も、刃も、まだ使える。
「ええ……人の身ですとも」
乱れた息の間から、声が出た。
「機械は遅く、身体には限りがある。それでも、まだ勝ちたいと思ってしまう」
『そのために、壊れるまで続けるつもり?』
「壊れたいわけではありませんよ」
小型端末を一基、エアリアルの下へ送る。ビットが追ったところで、別の端末をその背後へ回した。
「帰りたいところも、ございますので」
『だったら、帰ればいいじゃない。ほっといてよ!』
「ですが、まだ、試していないことがあります」
母機のライフルを撃つ。防御へ戻ったビットを正面へ縛り、その外へ大型端末を送った。
『迷惑だって言ってるでしょ!』
「ええ、伺いました!」
大型端末から二方向へ光を放つ。エアリアルがその間を抜けた。
「それでも、自分にないものを見れば欲しくなる! 届かない場所を見れば、手を伸ばしたくなる!」
『それで、僕らの邪魔をしてもいいの?』
「良いと、貴女に認めていただけるとは思っておりません!」
エアリアルの移動先へパンドラを向け、左腕の刃を伸ばした。
「これが私の夢! 私の望み! 私の業!」
振り抜いた刃を、エアリアルのサーベルが受ける。光が散り、押し返された。私は踏みとどまらず、機体を滑らせるように離し、背後から来るビットへドラグーンの射撃を置いた。
『君が勝ちたいからって、僕らが付き合う理由なんてない!』
「でしょうね!」
息を吸った。胸が痛かった。声を張るための息さえ足りなかったが、笑いが込み上げてきた。
「貴女より強く! 貴女より先へ! 貴女より上へ!」
左右の小型端末を同時に動かす。一基を追ったビットへ、もう一基が射線を通した。敵が外へ避けたところへ、大型端末の複数の砲門を向ける。
一射目を上へ、二射目をその下へ。横へ抜けたところで、別の端末から光を通した。
「競い! 挑み! 励んで! 明日を目指す!」
『……それで、何になるの?』
「次に、できることが増えます!」
ユーディキュームを撃った。エアリアルが退く。
「帰って、確かめたいのです! 何が届き、何が足りなかったのか! 次には何を変えればよいのか!」
母機へ戻ろうとするビットの前へ、大型端末から一射を置く。その外側を抜けようとした一基には、小型端末を回した。
「一人では届かなかったところへ、父上と、皆さんと作った機体で届こうとしている! その先を、また考えたい!」
『そんな君の理由!』
エアリアルが、それまでの後退を止めた。
背部の推進器が光を強め、白い機体がこちらへ向き直る。周囲のビットも一斉に進路を変えた。ドラグーンを追っていたものが離れ、パンドラの左右へ回り込んでくる。
私は十一基へ異なる進路を与えた。
戻ろうとするビットへ射線を置き、外から来るものを追わせる。小型端末を一基、パンドラの下へ戻し、その背後から大型端末に撃たせた。
光の間を、エアリアルが抜けてきた。
その手にはサーベルがある。
私はユーディキュームの砲口を向けた。エアリアルが僅かに姿勢を傾ける。その回避先へ左腕の刃を伸ばし、パンドラを踏み込ませた。
「最高ですね!
振り抜いた刃を、エアリアルのサーベルが受け止めた。
衝撃が座席を揺らし、正面の映像を白い機体が埋める。押し返される力に合わせて噴射を変えながら、私は次の射線を探した。
その周囲で、計二十二基の端末がなおも互いを追い続けていた。
コズミック・シードの輸送船では、誰もが正面のモニターを見上げていた。
パンドラから送られる映像の隣に、母機と十一基のドラグーンの状態が並んでいる。その下を流れる操作記録を、主任技術者が無言で追っていた。
大型ドラグーンが急激に姿勢を変える。追っていたビットがその下へ潜り、別方向から小型ドラグーンが撃ち込んだ。相手が回避した先へパンドラのライフルが向く間にも、残る端末は別々の場所で動いている。
若い男性整備員が、手元の画面と正面の映像を見比べた。
「……あんな挙動、想定してましたっけ?」
誰も答えなかった。
主任は操作記録の一部を別画面へ出し、制御系統の表示を拡大した。暫く数値を確かめてから、隣の代表へ端末を差し出す。
「代表。こちらを」
「ん?」
代表が覗き込んだ。画面を切り替え、別の項目を開く。数値を確認してから、もう一度、最初の表示へ戻った。
「あれぇ?」
いつもの気の抜けた声だったが、その後が続かなかった。
セセリアは顔を向けた。
「何か、まずいんですか?」
「……アイリス、AI補正を最小まで落としていますね」
「それって?」
「端末の進路調整や、互いの接近を避けるための補正です。姿勢を保つ制御は残していますけれど、その上は、ほぼ全部……」
代表はもう一度、画面を見た。
「マニュアル操作ですね」
若い整備員が口を開きかけ、閉じた。推進系を担当する女性も横から操作記録を覗き込み、眉を寄せる。
「切ったんですか? あれを?」
「ええ。補正が入ると、今の動きに干渉するんでしょうね」
「干渉するような動きを止めるために、入れてるんですけど」
「……そうですね」
代表は正面の映像へ目を戻した。
小型ドラグーン二基が互いの背後へ射撃を通していた。追ってきたビットがそれぞれ離れると、その間へ大型端末が入り、複数の砲門から別々の方向へ光を放つ。
エアリアルが退き、そこへパンドラが踏み込んだ。
「相手もそうですけど、代表代理も相当おかしな動きしてますね」
若い整備員が呟いた。
「なんで端末同士が、別々にドッグファイトしてるんですか?」
「……分からん」
主任の返事は短かった。
「右の端末を避けさせながら、左は二基で挟んでますよね。その間に母機で斬り合って、背中には別の端末を戻してるんですけど」
「見えている」
「僕も見えてはいるんですけど」
そこで言葉が止まった。
ベテランの男性が、映像の一角を指した。
「今のは、補正が入れば止まるな」
「ええ。あの間隔では通しません」
「通さないようにしたんですからね」
主任の言葉に、代表は小さく頷いた。
その隣で、年配の女性技術者が操縦者の状態表示を開いた。数値を確かめるにつれ、眉間の皺が深くなっていく。
セセリアは、その顔とモニターを見比べた。
「……あんなに戦えて、嬉しいんじゃないんですか?」
代表がこちらを向いた。
「自分たちで作った機体でしょ。あのエアリアル相手に、あそこまでできてるんだから」
「ええ。それは、もちろん」
頷いてから、代表はモニターへ顔を戻した。
「ただ……パイロットが規格外すぎましたね。分かっては、いましたけど」
主任が手元の端末を下ろした。
「これを基準にして、制御系を評価するわけにはいきませんね」
「ええ。多分、取れるデータ、大体が外れ値です」
セセリアは目を細めた。
「……機体がいいのか、アイリスがおかしいのか、分かんないってことですか?」
「機体が指示どおりに動いていることは分かります。ただ、その指示を出せることが前提になると……」
代表は言葉を切った。
若い整備員が、画面を見たまま続ける。
「他の人が同じように使えるかって聞かれたら、無理です。補助機能を増やしても、今の代表代理には邪魔になるんでしょうし」
「もう、切られてるものね」
推進系の女性が呟いた。
主任は操作記録を保存し、それから再び映像を見上げた。
「まず、本人に何をしていたのか聞く必要があります」
「説明、できますかね」
若い整備員の問いに、代表も主任も答えなかった。
セセリアはモニターへ視線を戻し、自分の端末を開いた。
輸送船のコンソールから呼び出しを送った。
画面に表示されたアイリスの名前を見ながら待つ。機体からの映像も状態の送信も続いていたが、通話は繋がらなかった。
セセリアはもう一度、呼び出した。
その間にも、パンドラは動いていた。ライフルを撃ち、刃を振り、エアリアルが退いた先へドラグーンを送る。戻った端末を補給し、終わればすぐに飛ばしていた。
回線は開かれなかった。
「……アイリス?」
届いていない名前を、小さく呼んだ。端末に触れて呼び出しを重ねようとしたところで、指が止まる。
ああ。
これは、あれだ。
研究中のアイリスへ声をかけた時、返事がないことがあった。少し強く呼べばようやく顔を上げるが、こちらを見ながらも、指先は端末の画面を探している。
試したいことができたのだと、その顔を見れば分かった。
今も同じなのだろう。
画面の中で、大型ドラグーンが別々の砲門から光を放った。エアリアルのビットが避け、その先へ別の端末が向かう。パンドラは、その間を詰めるように前へ出た。
「あーもう!悪い癖出てる!」
セセリアはアイリスへの呼び出しを止めた。
ガンドノードを引き受け、スレッタの進む道を開く。そのために先行したはずだった。今は、その道を開いた本人が、いつまでも目の前の相手から離れようとしていない。
呼び出し先を切り替えた。
「水星ちゃん!」
すぐに返事があった。
『は、はい!』
「今すぐ出撃して!」
『えっ、えぇっ!? でも、まだアイリスさんが……』
セセリアは正面のモニターを見た。
大型ドラグーンがビットを追って旋回し、その下を別の二基が交差していた。パンドラ自身もエアリアルへ向かい、振り抜いた刃を受け止められている。
「アイリス、多分、夢中になって忘れてる!」
『えぇええっ!?』
「こっちから呼んでも、回線開かないの。ガンドノードは減ってるし、エアリアルも今、あの子しか見てない!」
スレッタが息を呑んだ。
「行くなら今だよ。このまま待ってたら、いつになるか分かんないから!」
『……分かりました。出ます!』
返ってきた声は、先ほどよりはっきりしていた。
「お願い、水星ちゃん」
『はい!』
出撃を告げる声が、回線の向こうで重なった。
セセリアは接続を残したまま、モニターへ視線を戻した。
アイリスからの応答は、まだなかった。
キャリバーンのコックピットで、スレッタは正面を向いた。
パンドラの位置表示の近くに、エアリアルがいた。その周囲を、小さな識別表示が入り交じりながら動いている。
アイリスが、引き受けてくれていた。
エリクトも、そのビットたちも。
スレッタは操縦桿を握り直した。
パーメットスコアを維持する身体には、既に痛みがあった。呼吸を整え、機体の固定が解除されたことを確かめる。
『進路、クリア。キャリバーン、発進どうぞ』
「はい」
前方に、宇宙が開けていた。
機体を進ませると、バリアブルロッドライフルの後端で四基の推進ユニットが光を強めた。
「スレッタ・マーキュリー、キャリバーン。出ます!」
白い機体が船を離れた。
スレッタは二機の戦う空間へ進路を取り、推力を上げた。
キャリバーンの識別表示が船を離れたことを確かめ、セセリアは端末を少し下ろした。
隣では、代表が操作記録を見直していた。映像を確かめ、手元へ目を落とす。何か言いかけては口を閉じ、またモニターを見上げている。
セセリアはその横顔を見た。
「親子ですね〜」
代表が顔を向けた。
「あそこまで夢中になってるの見たら、心配してたあたし、バカみたいじゃないですか」
「いやぁ、申し訳ない」
代表は素直に頭を下げた。それからモニターへ目を向け、困った顔で付け加える。
「ただ、僕も、あそこまでするとは思っていなかったんですよ」
「呼んでも振り向かなくなるところです」
代表は口を閉じた。
整備班の誰も、助け舟を出さなかった。
セセリアは小さく息を吐き、パンドラへ目を戻した。
楽しそうで、腹が立つ。
声は聞こえない。顔も見えない。それでも、新しい動きを試しては相手を追う機体を見ていると、どんな顔をしているのか想像がついてしまう。
その一方で、損傷表示が増えるたび、目がそちらへ向いた。端末の一基が射線を抜けるまで、息を止めている自分にも気づいていた。
「帰ってきたら、話をしないといけませんね」
代表が静かに言った。
「機体の話、先に始めないでくださいよ」
「……はい」
「お父様のお話も、聞きますからね」
代表はセセリアを見た。その向こうで、年配の女性技術者が頷いている。
一度だけそちらへ目を向けてから、代表はもう一度頭を下げた。
「はい。帰ってきてからにしましょう」
セセリアは正面へ向き直った。
キャリバーンの識別表示が、二機へ近づいていく。手元には、応答のない呼び出しの記録が残っていた。
帰ってきたら、これも見せてやろう。
セセリアは画面を閉じず、パンドラを見上げた。
ファンネル同士の戦いは理解もできませんし、なんなら表現もできません。
ヒトノゴウッ!!