水星の魔女 ~もう一輪の百合の花~   作:一般通過クルーゼさん

28 / 28
あと2話!これ入れて。


第27話

 刃を合わせたまま、エアリアルが噴射を変えた。

 

 正面にいた白い機体が、パンドラの左側へ流れる。私は左腕を引き、サーベルを滑らせながら母機の姿勢を戻した。その間へユーディキュームを向けたが、撃つ前にビットが割り込んでくる。

 

 ライフルの光が、青い防壁を打った。

 

 その向こうで、エアリアルは離れていった。

 

 追おうとして、私は推力を落とした。右上方の大型ドラグーンが、二基のビットに挟まれていた。

 

 一基が前から撃ち、もう一基が回避先へ回っている。大型端末を下へ逃がし、近くの小型端末を援護へ向けた。

 

 その小型端末にも、別のビットがついていた。

 

 砲口を返せば、撃たれる。

 

 私は母機のライフルを上げた。だが、そこへエアリアルが踏み込んでくる。光の刃を防盾で受け、押し流されないよう噴射を加えた瞬間、大型端末の表示が赤へ変わった。

 

 映像の隅で、装甲が弾けた。

 

 まだ接続は生きている。損傷した側の噴射を止め、反対側へ補正を加えた。端末を回転させながら、使える砲門を追ってくるビットへ向ける。

 

 撃つより早く、もう一基が側方へ入った。

 

 二射目が端末を貫いた。

 

 砲口が不自然な方向へ跳ね、接続表示が消える。大型ドラグーンが回転しながら遠ざかっていった。

 

 私はエアリアルの刃を押し返し、母機を下げた。

 

 一本、射線が消えた。

 

 その場所へ小型二基を送り、残る大型端末を回した。

 

     

 

 

 

 

 

 左側の小型端末を、二基まとめて退かせた。

 

 先行する一基から後方へ撃ち、追ってくるビットの進路をずらす。その間にもう一基を反転させ、側方から射線を通した。

 

 ビットが加速した。

 

 二つの光の間を抜け、先行していた端末へ距離を詰めてくる。私はその端末を上へ逃がし、もう一基から別の砲門を撃たせた。

 

 今度は、避け切られなかった。

 

 ビットの端を光が削る。噴射の向きが乱れ、傾いた機体へ追撃を重ねると、中央付近から破片が散った。

 

 推進の光が消える。

 

 私はその一基から照準を外し、次の相手へ端末を向けた。

 

 その瞬間、こちらの小型端末も光に貫かれた。

 

 別のビットだった。

 

 撃ち終えた端末が次の姿勢へ移る、その短い間を狙われていた。外装が開くように砕け、砲口を収めた部分が本体から離れる。

 

 残る一基を引いた。その側面にも光が触れた。

 

 推進器の一部が失われ、予定した軌道から外れていく。残る噴射口で姿勢を整え、母機へ戻す進路を与えたが、ビットはその背後を追わなかった。

 

 戻ろうとする先へ回り、砲口をこちらへ向けていた。

 

 私はユーディキュームを振った。

 

 間に合わない。

 

 光が走り、小型端末が弾けた。

 

 唇を噛んだ。

 

 向こうは、こちらの端末をただ追っているのではなかった。

 

 どの砲門から撃ち、次にどちらへ向くのか。援護へ入るために、どの端末が姿勢を変えるのか。母機から離れる時も、戻る時も、その先を押さえられていた。

 

 残る大型端末を回し、小型端末をその射線の近くへ寄せる。離していた配置を狭めると、エアリアルもそれに合わせて進路を変えた。

 

『もう、さっきみたいには撃てないね』

 

「……まだ、撃てますよ」

 

 ユーディキュームを構える。

 

 エアリアルへ放った光をビットが遮り、その外から別の一基がこちらを狙った。防盾を上げて一射を受けながら、大型端末に撃たせる。

 

 ビットが離れた。

 

 その背後へ小型端末を送ろうとしたが、また別の砲口が向いた。

 

 私は端末を引き戻した。

 

     

 

 

 

 四十三あった砲門が、減っていく。

 

 援護へ回せる端末が少なくなるほど、一基へ負担が集まった。撃たせれば、その後の向きを狙われる。退かせれば、その間に別の端末へ距離を詰められた。

 

 私は射撃の間隔を変えた。

 

 大型端末の中央から撃つと見せ、外側の砲門へ切り替える。ビットが避けた先へ小型端末を回し、さらに別の角度から光を通した。

 

 相手は進路を上へ変えた。

 

 その先を狙える大型端末が、右側にある。

 

 照準を与えようとした時、そちらにもビットが迫っていた。端末を動かしながら撃たせたが、相手は光条の外へ滑り、そのまま砲口を返してくる。

 

 大型端末の先端が弾けた。

 

 残る砲門を一斉に撃たせ、ビットを遠ざける。損傷した端末を母機へ寄せ、その後ろを小型端末で覆った。

 

 正面から、エアリアルが来た。

 

 ライフルを向ける。白い機体は光条を外しながら左へ流れ、その肩越しからビットが撃った。

 

 母機を捻ると、その一射が背後の小型端末へ届いた。

 

 表示が消えた。

 

 そこへ向けていた意識だけが、取り残される。

 

 私は息を吐き、次の入力を送った。

 

 見えている。

 

 次にどこから撃たれるのかも、どの端末が危ないのかも分かる。

 

 それでも、動かせるものが足りなかった。

 

 母機の周囲へ戻した端末は、迎撃に使わなければならない。外側へ出せるものを減らすほど、エアリアルへ向けられる射線も減った。向こうは、その薄くなった場所から入ってくる。

 

 私は損傷した大型端末を、再び前へ出した。

 

 残る砲門へ別々の射角を与え、まず一射を通す。ビットが外へ避けたところで、その進路へ二本目を置いた。

 

 相手が噴射を止める。

 

 姿勢を返してこちらを狙う、その位置へユーディキュームを向けた。

 

 引き金を引く。

 

 ビットの側面が砕けた。向きを変えようとした機体へ大型端末の射撃を重ねると、中央を光が抜け、推進の光が途切れた。

 

 だが、大型端末も逃れられなかった。

 

 反対側から来た一射が、その胴を貫いた。

 

 複数の砲門の表示が、まとめて消える。

 

 私は母機を加速させた。端末を失った空間へビットが入るより先に通り抜け、残る小型端末へ帰還を指示する。

 

 一基が、戻る途中で撃たれた。

 

 次の一基は回避できた。だが、姿勢を変えた先へ別のビットが待っていた。

 

 私はライフルを撃った。

 

 相手を退かせることはできたが、その間にエアリアルが近づいていた。振り下ろされる刃を防盾で受け、押し込まれる力に合わせて母機を流す。

 

 その先へ、細い光が走った。

 

 小型端末の接続が、また一つ消えた。

 

     

 

 

 

 生きている表示を数え直した。

 

 大型一基、小型三基。

 

 いずれにも損傷があった。小型の一基は噴射を変えるたびに軌道がずれ、大型端末もすべての砲門を使える状態ではない。

 

 それでも、まだ動いていた。

 

 四基を母機の近くへ寄せ、接続位置へ導く。ユーディキュームでエアリアルを牽制しながら、小型端末を一基ずつ収めていった。

 

 ビットが追ってきた。

 

 左腕の刃を振り、近づく一基を退かせる。その外から来た射撃を防盾で受けると、傷ついた表面から装甲片が剥がれた。

 

 母機を右へ動かし、戻ってくる大型端末のために進路を空ける。追撃へ回ろうとするビットをライフルで押さえ、その間に背部へ収めた。

 

 四基すべての補給が始まった。

 

『もう終わりだよ』

 

 エアリアルが、正面にいた。

 

 その周囲へ残る九基のビットが戻っている。傷ついたものもあったが、母機を守りながらこちらを囲むだけの数が残っていた。

 

 私は補給の表示を確かめ、それからパンドラの状態へ目を移した。

 

 左肩の装甲が失われ、防盾にも亀裂が広がっている。推進器の温度は上がり、機体を動かすたびに、先ほどまでとは違う補正が必要になっていた。

 

 呼吸は、まだ整わなかった。

 

 それでも、エアリアルの輪郭ははっきり見える。

 

「……そうですね」

 

 息を吸った。

 

「これで、最後にいたしましょう」

 

 四基へ、分離の指示を送った。

 

     

 

 

 

 

 母機を加速させた。

 

 大型ドラグーンを上へ、小型二基を左右へ送る。残る小型一基は、パンドラの下に留めた。

 

 ユーディキュームを撃つ。

 

 エアリアルの前へビットが寄り、防壁が広がる。その光へ向かって、私はパンドラを進めた。

 

 大型端末から、使える砲門を順に撃たせる。左右の小型端末も、母機を挟むように光を通した。

 

 ビットが散った。

 

 一基が大型端末を狙う。私は端末を退かせず、その相手へ砲口を向けた。

 

 先に中央から撃ち、相手が側方へ避けたところで、残していた砲門を撃たせる。ビットはさらに進路を変えながら、こちらへ砲口を残していた。

 

 光が交差した。

 

 大型ドラグーンの外装が弾けた。同時に、ビットも中央付近を撃ち抜かれ、姿勢を失う。

 

 大型端末の表示が消えた。

 

 私は左右の小型端末を、さらに前へ出した。二基を離し、エアリアルがどちらへ退いても射線が残るよう、砲口を向ける。

 

 エアリアルが下へ移動した。

 

 その先へ母機のライフルを合わせると、ビットが防御へ入った。私は撃ち、小型端末からも同じ場所へ射撃を重ねた。

 

 青い面が白く膨らむ。

 

 防御を担う一基が位置を変えようとした。その外へ光を通し、もう一基の小型端末を母機の側方へ回す。

 

 ビットが追った。

 

 私はそちらへユーディキュームの照準を移した。

 

 光が、防壁の端を抜けた。

 

 ビットの一部が砕け、推進の光が消える。その脇を、別の一基が抜けてきた。

 

 パンドラの左腕へ向かっていた。

 

 私は防盾を上げた。

 

 光が突き刺さった。

 

 今までとは違う衝撃が、左腕を跳ね上げた。複合兵装防盾の中央が裂け、刃を形成していた光も消える。割れた装甲と内部の部品が飛び散り、その下からパンドラ自身の前腕が露わになった。

 

 私は腕を引いた。

 

 まだ動く。

 

 左腕は残っている。

 

 ユーディキュームを構え直した瞬間、右側からビットが入った。

 

 砲口を向けるより、近かった。

 

 光がライフルの側面を貫いた。

 

 表示が赤へ変わる。私は出力を切り、右手を開いた。損傷した武器を離すと、次の瞬間、その内部から光が膨らんだ。

 

 ユーディキュームが、目の前で弾けた。

 

    

 

 

 

 

 爆発の光の中へ、パンドラを進ませた。

 

 左右の小型端末が、まだ撃っていた。その一基へビットが回り込む。私は端末を反転させ、逃がす代わりに相手へ砲口を向けた。

 

 一つ目の砲門から進路を塞ぎ、二つ目をその外へ向ける。相手が射線の間を抜けようとしたところで、最後の砲門を撃たせた。

 

 ビットの一射が、端末を貫いた。

 

 こちらの射撃も、その機体へ届いていた。

 

 ビットが傾き、推進の光が途切れる。

 

 もう一基の小型端末には、二方向から光が向かっていた。一射目を避けさせ、母機の近くへ引いたが、その動きに合わせて二射目が通る。

 

 表示が消えた。

 

 残ったのは、パンドラの下にいた一基だけだった。

 

 私はそれを、エアリアルの背後へ送った。

 

 同時に、左手を伸ばした。

 

 エアリアルがサーベルを振る。私は砕けた防盾の残骸ごと前腕を差し入れ、その刃の根元へ押しつけた。

 

 装甲が裂ける。

 

 左腕の警告が視界へ広がった。

 

 噴射を加えた。

 

 刃を受けた腕を押し出し、エアリアルが離れようとする向きへ機体を寄せる。足りない分を背部の推進器で補い、右腕を頭部へ向けた。

 

 エアリアルが後退した。

 

 その背後から、最後のドラグーンが撃った。

 

 直撃はしなかった。白い機体が姿勢を変え、光を外す。だが、その分だけ、こちらから離れる動きが止まった。

 

 私は右手を伸ばした。

 

 ビットの射撃が、脚部へ届いた。

 

 右脚の先が飛び、続いて左脚にも衝撃が走る。機体が傾きかけたが、姿勢を戻そうとはしなかった。その回転を残したまま、右腕を振り抜く。

 

 指先が、エアリアルの頭部へ触れた。

 

 アンテナを掴む。

 

 噴射を加えた瞬間、背後で何かが砕けた。バックパックの表示が失われ、座席へ身体が叩きつけられる。

 

 それでも、右手は離さなかった。

 

 エアリアルの頭部が僅かに引かれた。

 

 次の瞬間、白い破片が視界を横切った。

 

 折れたアンテナを、パンドラの指が握っていた。

 

     

 

 

 

 

 

 エアリアルが離れた。

 

 最後のドラグーンへビットが向かう。私は撃たせようとしたが、端末が姿勢を変えるより早く、光が中央を貫いた。

 

 接続表示が消えた。

 

 私は息を吐いた。

 

 操縦桿を動かしても、機体は思うように向きを変えなかった。脚部の損傷に加え、背部の推進器も失われている。残る噴射口で回転を抑えようとしたが、入力に対する応答が揃わなかった。

 

 正面へ戻ってきたエアリアルの頭部で、アンテナの片側が欠けていた。

 

『決闘なら、勝ってたかもね』

 

 私はその顔を見た。

 

 声を出そうとして、息だけが漏れた。笑いたかったのか、言い返したかったのか、自分でも分からなかった。

 

 残る六基のビットが、パンドラを囲んだ。

 

 一基が右側へ回り、砲口を向ける。腕を引こうとした、その付け根を光が通った。

 

 操縦桿へ込めた力とは関係なく、表示の中で右腕が離れる。折れたアンテナを握ったまま、右手が遠ざかっていった。

 

 続いて、左腕を撃たれた。

 

 サーベルで裂かれていた箇所から骨組みが断たれ、防盾の残骸ごと腕が離れる。衝撃が座席を揺らし、身体を固定するベルトが肩へ食い込んだ。

 

 損傷した脚部にも、別々の方向から光が入った。辛うじて繋がっていた装甲と骨組みが断たれ、残っていた脚が回転しながら流れていく。

 

 私は歯を食いしばった。

 

 胴体には、来なかった。

 

 四肢を失ったパンドラが、緩く回転していた。姿勢制御へ入力を送るたび、応答できない箇所が警告で示される。

 

 正面の映像を、エアリアルが横切った。その周囲に残るビットが、砲口をこちらへ向けている。

 

 十一基のドラグーンの表示は、すべて消えていた。

 

「……ここまで、ですか」

 

 自分の声が、ひどく掠れて聞こえた。

 

 頭の中に広げていた位置関係が、急に狭くなっていく。動かせる端末も、向けられる砲門も、もうなかった。

 

 操縦桿を握ったまま、座席へ背を預けた。

 

 息が整わない。

 

 それでも、エアリアルから目を離せなかった。

 

     

 

 

 

 

 

 その横を、太い光条が抜けた。

 

 エアリアルが噴射し、ビットが一斉に向きを変える。私は視線を動かし、新たに入ってきた機体を捉えた。

 

 長いライフル。その後端で広がる、四基の推進ユニット。

 

 キャリバーン。

 

『アイリスさん!』

 

 声が、コックピットへ飛び込んできた。

 

 新たな呼び出しの表示へ指を動かし、回線を開く。その間にキャリバーンがパンドラの前へ入り、ライフルをエアリアルへ向けた。ビットの射撃を避けながら、こちらとの間へ身を滑り込ませる。

 

『聞こえますか! アイリスさん!』

 

「……はい。聞こえて、おります」

 

 返事をすると、喉が痛んだ。息を整えようとしたが、胸が忙しく上下するばかりで、うまくいかなかった。

 

『怪我は!?』

 

「大丈夫です。機体の方は……ご覧のとおりですが」

 

 表示へ目を落とす。

 

 十一基のドラグーンは、すべて失われていた。ユーディキュームも、複合兵装防盾もない。腕も脚も切り離され、背部の推進器まで破壊されている。

 

 その一方で、コックピットを収めた胴体には、致命的な損傷がなかった。

 

 狙わなかったのだ。

 

 最後まで、私を殺さずに止められるだけの余裕が、向こうにはあった。

 

「……手加減されたうえで、これですか」

 

 笑おうとして、息が漏れた。

 

「完敗、ですかね。腕や脚の一本くらいは、持っていけると思っていたのですが」

 

 私は座席へ背を預けた。

 

 エアリアルの頭部で、折れたアンテナの基部が見えた。あそこまで近づき、残ったものをすべて使って、ようやく掴めたものだった。

 

 悔しかった。

 

 砲口を向ける順序も、端末を動かす位置も、違うものがあったはずだ。考え始めれば、まだいくつも浮かんでくる。

 

 けれど、動かせる機体はもうなかった。

 

 キャリバーンが姿勢を変えた。

 

 その背中を見て、私はようやく、スレッタさんを待たせていたことを思い出した。

 

「……お待たせ、いたしました」

 

 白い機体の向こうから、エリクトの声が届いた。

 

『スレッタ』

 

『エリクト!もうやめて!』

 

 スレッタさんの声は、はっきりしていた。

 

 試験の時、苦痛を堪えていた呼吸を覚えている。今も、平気なはずはない。それでも彼女はエアリアルを見つめ、自分の言葉で呼びかけていた。

 

 私は操縦桿から、指を離した。

 

 ここからは、主人公に任せましょうか。

 

 私が応援していた、水星の魔女に。

 

 目の前のキャリバーンが、推進の光を強める。

 

 私はその背中を、見送った。

 

     

 

 

 

 

 

 エアリアルのビットが左右へ開き、キャリバーンの進路へ光を通した。

 

 スレッタさんは機体を傾け、ライフル後端の推進ユニットを振る。長い武器に引かれるように白い機体が弧を描き、交差する射線の間を抜けていった。

 

 その先へ、エアリアルが踏み込んだ。

 

 振り抜かれるサーベルを、キャリバーンが抜いた刃で受ける。二機は弾かれるように離れたが、姿勢を戻すまでの時間さえ、次の攻撃に使っていた。

 

 ビットがキャリバーンの背後へ回る。

 

 スレッタさんは振り返らずに噴射を変え、その射線から機体を外した。ライフルをエアリアルへ向けながら、左手のサーベルで接近を拒む。エアリアルは光条を避け、その刃の外へ回り込んだ。

 

 また、光がぶつかった。

 

 記憶にある、激しい攻防だった。

 

 ただ、そこへ至るまでに私が壊したものは、映像の中にも残っている。

 

 エアリアルの頭部ではアンテナが欠け、その周囲を飛ぶビットも、十一基は揃っていなかった。遠くには、推進の光を失ったガンドノードが流れている。

 

 私の存在は、少しはスレッタさんの負担を減らせたのでしょうか。

 

 ライフル後端の推進器が光る。キャリバーンは機体を横倒しにしたまま加速し、上下から迫るビットの射線を外した。その動きに合わせてエアリアルも向きを変え、二機はクワイエット・ゼロの外壁に沿って遠ざかっていく。

 

 結果を確かめるには、まだ早かった。

 

 私はその戦いを、四肢を失ったパンドラの中から見ていた。

 

     

 

 

 

 

 

 随分な特等席だった。

 

 残った噴射口で機体の回転を抑え、外部映像を広く取る。自分が動かすものがなくなった分、二機の挙動を細かく見ることができた。

 

 キャリバーンがビットの射撃を避ける。

 

 機体の向きと、実際に進む方向が一致していない。ライフルの推力で身体を引き、母機の噴射で姿勢を返す。その途中でエアリアルへ砲口を向け、撃ち終えるより先に次の回避へ入っていた。

 

 エアリアルも、追いかけるだけではない。

 

 母機を動かすのと同時にビットを散らし、キャリバーンが抜けられる場所を狭めていく。だが、スレッタさんは残された隙間へ機体を通した。開いた推進ユニットが向きを変え、追ってきた光を置き去りにする。

 

 先ほどまで、私はその中にいた。

 

 それでも今、二機を見ていると、自分の戦いとの差が分かった。

 

 同じように動かそうとしても、パンドラではどこかで反応が遅れる。間に合うよう先に入力すれば、その先の変化へ応じる余裕を失う。

 

 スレッタさんは、それを次々と繋いでいた。

 

 人が操縦していると知っていても、その手順を思い描くことが難しい。ガンダム同士の戦いは、私の知る機体の動きから、さらに先へ進んでいた。

 

「……悔しいですね」

 

 キャリバーンが射線を抜け、エアリアルへ迫る。その動きを追ううちに、私は膝に置いていた手を持ち上げていた。

 

 いつかは、やがていつかは、と。

 

 飛び交う光へ、手を伸ばす。

 

 指先が触れたのは、コックピットの冷たい表示面だった。その向こうで二機の刃がぶつかり、離れていく。私は手を下ろせず、次の動きを待っていた。

 

 パンドラの反応を、もう少し速くできれば。端末を失ったあの瞬間、別の一基を先に動かしていれば。

 

 考えるたびに、試したいことが増えていく。

 

 負けたばかりなのに、もう一度、あの中へ戻りたかった。

 

 頭の奥には痛みが残り、伸ばした指も僅かに震えていた。それさえ、次にはどこまで耐えられるのかと考えかけて、私は小さく笑った。

 

 向上心という甘い毒が、戦いを終えた思考へ染み渡っていく。

 

 私はまだ、飛び交う光から目を離せずにいた。

 

 その時、視界の端で通信表示が点滅していることに気づいた。

 

 セセリアだった。

 

 私は手を引き、慌てて回線を開いた。

 

     

 

 

 

 

 

『……やっと出た』

 

 声を聞いた途端、背筋が伸びた。

 

「セセリア。申し訳ありません、少々――」

 

『怪我は?』

 

 言葉を遮られた。

 

「ありません。身体の方は、無事です」

 

『本当に?』

 

「はい。頭痛と、疲労はございますが……出血などは、しておりません」

 

 通信の向こうで、長く息を吐く音がした。

 

 私は口を閉じたまま待った。

 

『何回、呼んだと思ってんの』

 

「……申し訳ありません」

 

『回線、開かないし。機体はどんどん壊れるし。最後、手も足もなくなってるし』

 

 言葉の間に、小さく息を吸う音が挟まる。

 

『そっちの映像しか見えないんだから。アンタがどうなってるか、分かんなかったんだけど』

 

 私は自分の胸元を見下ろした。

 

 固定具は締まったままで、スーツにも損傷はない。身体を揺さぶられた痛みはあったが、指も、腕も、自分のものは動いていた。

 

 セセリアには、それが見えていなかった。

 

「……ご心配を、おかけしました」

 

 

 

 正面の映像で、キャリバーンが大きく旋回した。思わず視線を向けると、セセリアが言った。

 

『まだ、そっち見てる?』

 

「……はい」

 

『でしょうね。水星ちゃん、着いたもんね』

 

 私は僅かに顔を上げた。

 

「スレッタさんへ、ご連絡くださったのですか」

 

『そうだよ。アンタ、いつまでたっても呼ばないんだもん』

 

 記憶を辿ろうとして、やめた。

 

 呼ばなければならなかった。

 

 端末を戻し、補給する時間まで作りながら、そのための連絡をしていなかった。

 

「……ありがとうございます」

 

『お礼はいいから。もう、帰れる?』

 

 機体の状態を呼び出した。

 

 主推進器は失われている。だが、胴体に残った姿勢制御用の噴射口は、いくつか生きていた。推進剤の残量と輸送船までの距離を確かめ、帰投に使える組み合わせを選ぶ。

 

「時間はかかりますが、自力で戻れます。残ったスラスターが使えますので」

 

『じゃあ、戻ってきて』

 

「はい。こちらの戦闘を、もう少しだけ――」

 

『アイリス』

 

 名前を呼ばれ、私は口を閉じた。

 

 セセリアは、すぐには続けなかった。その沈黙の間に、私は膝へ戻した自分の手を見た。

 

 まだ、僅かに震えていた。

 

『……早く帰ってきて』

 

 先ほどより、小さな声だった。

 

 私は正面の映像へ目を戻した。

 

 キャリバーンとエアリアルは、なおも戦っている。追いたい動きも、確かめたいこともあった。

 

 けれど、その映像から視線を外し、帰投経路を表示した。

 

「はい。帰ります」

 

『話、いっぱいあるからね』

 

「承知しております」

 

『分かってないと思うけど』

 

「ちゃんと伺いますから」

 

『最初から、そうしてよ』

 

 ようやく聞こえた、いつもの調子だった。

 

 私は小さく息を吐き、機体へ入力を送った。

 

     

 

 

 

 

 残ったスラスターを、一つずつ短く噴かした。

 

 四肢を失ったパンドラが、ゆっくり向きを変える。噴射の偏りを確かめ、回転を抑えながら輸送船の方角へ合わせた。

 

 正面の映像から、二機が外れていく。

 

 私は最後に一度だけ、その姿を別の画面へ映した。

 

 キャリバーンがビットの間を抜け、エアリアルへ近づいていた。

 

「……お願いいたします。スレッタさん」

 

 それから映像を脇へ送り、輸送船を正面に置いた。

 

 移動に使える噴射口を選び、出力を与える。僅かな振動が座席へ伝わり、船までの距離が少しずつ減り始めた。

 

『動いた?』

 

「はい。そちらへ向かっております」

 

『ん。こっちからも見えた』

 

 セセリアとの回線は、開いたままにした。

 

 もう一度だけスラスターを噴かし、私はパンドラを輸送船へ向けて進ませた。




スパコディと言っておけば多少のことはなんとかなる。

それはそれとして非パーメット機体で、エアリアルに勝てるわけないだろ。いい加減にしろ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話(作者:ぱんそうこう)(原作:Muv-Luv)

知らないロボ世界に転生した。▼どうやら美少女×ロボ作品らしく、パイロットは右を見ても左を見ても女の子ばかり。▼ついでに俺も女の子になっちまったが、人型ロボに乗れる代償だと思えば軽いもの。▼いざ、鉄の軋みでファンファーレを鳴らせ。▼この手の銃は祝福のクラッカーだ。▼さあ、自由な空へ飛び立とう。あの日憧れたワタリガラスのように。▼さあ、自由に大地を駆け巡ろう。あ…


総合評価:4881/評価:8.68/連載:16話/更新日時:2026年10月31日(土) 22:00 小説情報

境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー(作者:女にだって二言はないぜ?)(原作:鋼の錬金術師)

エドの双子の妹でアルの姉である主人公。▼幼い頃父、ヴァン・ホーエンハイムに連れられ兄弟と別れた少女が、約十年ぶりにエドとアルと再会する話。▼※旧アニメではなく原作をベースにして書いております。▼ オリジナル解釈、原作改変等多々ありますのでなんでも許せる方のみどうぞ。


総合評価:1892/評価:8.33/連載:13話/更新日時:2026年09月27日(日) 19:41 小説情報

TS憑依ゼンゼ(作者:TS好き)(原作:葬送のフリーレン)

幼少期のゼンゼに憑依した。▼とりあえず、死なないように頑張ろう。


総合評価:1931/評価:8.02/連載:15話/更新日時:2026年08月22日(土) 20:13 小説情報

腐った連邦軍高官の娘にTS転生して、ケネス大佐の首席補佐官をやる話(作者:TSペルペト)(原作:ガンダム)

マフティーの粛清対象になりそうな腐った連邦軍高官の娘に生まれた主人公が、父親の無茶振りや特権階級の政治的横槍、体制の仕組みの深さに悩まされながらも、地球圏に少しでもマシな未来を描こうとする話です。▼なお、主人公はガンダム作品についてほとんど知らない模様。▼備考:地球連邦の組織体系や法制度などについて言及がありますが、なるべく原作設定を調べながら書いているもの…


総合評価:6448/評価:8.74/連載:9話/更新日時:2026年09月19日(土) 18:47 小説情報

有効打なんてねぇよ 効かねえよ(作者:QAAM_M1911)(原作:インフィニット・ストラトス)

防御力こそが正義▼有効打 ねぇよ▼相手の弾を全部跳ね返してしまいました〜!▼旧題:「ゲシュパンとTP装甲だ、便利なものだろう?」▼インフィニット・ストラトスの世界に転生した男。▼ガンダムが好きだった彼はこう思ってしまった。▼「フォビドゥン最強じゃね?」と。▼ラファールを改造しながら自分のフォビドゥンを作り上げていくお話。▼……物足りなくなったので他の要素を次…


総合評価:5099/評価:8.06/連載:17話/更新日時:2026年10月31日(土) 22:27 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>