雄英高校の超天才清楚系病弱美少女   作:サブ0119

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たくさんの人が見てくれて嬉しいです。
この回少し難産でした


第14話 笑っていてください

――でも、また会えたらいいじゃないか?

 

笑いながらそう言った少年の背中が、窓の向こうで少しずつ小さくなっていく。

 

それでも、別れ際に見せた笑顔だけは、なぜか鮮明に残っていた。

 

その姿を目で追っているうちに、景色が白く滲んでいく。

 

声も、姿も、ゆっくりと薄れて。

 

そして――。

 

ヒマリはゆっくりと目を開けると見慣れた白い天井が、ぼんやりと視界に映った。

 

「…………」

 

しばらくそのまま天井を眺める。

 

随分と昔のことを見ていた。

 

あの日、初めて通形ミリオと出会った時のことを。

 

ふと顔を横へ向けると、ベッド脇の椅子にはミリオの姿があった。

 

こちらを見ていた彼と、そのまま視線が重なる。

 

「おっ、起きたか」

 

ミリオがいつものように笑う。

 

ヒマリはその顔を見たまま、何も言わなかった。

 

「ヒマリ?」

 

「……本当に」

 

「ん?」

 

「いいえ。何でもありません」

 

ミリオは少し首を傾げたが、それ以上は聞いてこなかった。

 

ヒマリも話すつもりはない。

 

まさか、昔の彼が夢に出てきたなど。

 

そんなことを本人へ伝えて何になるというのか。

 

「それより、あなたはまだここにいたのですか?」

 

「ヒマリが起きるまではな」

 

「……そうですか」

 

ヒマリがそれ以上何も言わずにいると、ミリオはいつものように笑った。

 

ヒマリはその顔を一度だけ見て、布団へ視線を落とした。

 

夢の中でも。

 

目の前でも。

 

そこだけは、あまり変わっていない。

 

     ◇

 

高熱が引き、身体に残っていた重さもほとんどなくなった頃、ヒマリはサポート科の工房へ戻った。

 

作業台の前で車椅子を止め、ヒマリは展開した画面へ指を滑らせる。

 

倒れる前から手をつけていた調整や、途中になっていた設計を一つずつ確認していく。

 

以前のように睡眠を削るつもりはない。画面の端に表示された時刻を確かめ、区切りのいいところでファイルを閉じる。

 

「……よし」

 

ちょうどその時、工房の扉が開いた。

 

「ヒマリ、今いいか?」

 

聞き慣れた声に、ヒマリは画面から顔を上げる。

 

「構いませんよ」

 

「よかった」

 

ミリオがそう言いながら中へ入ってくる。

 

「それで、何の用です?」

 

「いや、特に用ってわけじゃないんだけどさ」

 

ヒマリの眉が僅かに動く。

 

「用もないのに来たのですか?」

 

「うん。近くまで来たからさ」

 

「暇人ですね」

 

「そうかもしれないな」

 

ミリオは笑って受け流すと、作業台の方へ目を向けた。

 

「何か手伝えることあるかな?」

 

「今のところはありませんね」

 

「そっか。じゃあ、邪魔しないようにしてるよ」

 

そう言って、ミリオは近くの椅子に腰を下ろす。

 

ヒマリは再び画面へ視線を戻した。

 

しばらく作業を続けていたが、やがて棚の上へ目を向ける。

 

「……ミリオ」

 

「ん?」

 

「そこの棚の、一番上にある黒いケースを取ってください」

 

ミリオは立ち上がり、ヒマリが示した棚へ向かう。

 

「これか?」

 

「ええ、それです」

 

ケースを取り出したミリオが、ヒマリの前の作業台へ置く。

 

「ありがとうございます」

 

ヒマリは留め具を外し、中に収められた部品を確認していく。

 

ミリオはその横から覗き込んだ。

 

「これ、何に使うんだ?」

 

「説明して理解できますか?」

 

「それは聞いてみないと分からないだろ?」

 

「なるほど。一理ありますね」

 

ヒマリは部品を持ち上げた。

 

「ではまず、基礎理論から三時間ほど講義して差し上げましょう」

 

「三時間?」

 

「その後に構造設計を二時間」

 

「五時間になったな」

 

「さらに材料工学を――」

 

「いや、そこまではいいかな」

 

「おや、もう諦めるのですか?」

 

「もう五時間超えてるからなぁ」

 

「軟弱ですね」

 

「ヒマリの説明が長いんじゃないか?」

 

「私ほどの超天才から直接講義を受けられるのですよ。むしろ五時間程度で済むことに感謝していただきたいものです」

 

「そういうもの?」

 

「そういうものです」

 

ミリオは納得したような、していないような顔で頷く。

 

ヒマリはケースの中身を確認し終えると、蓋を閉じた。

 

「これはもう結構です。元の場所へ戻してください」

 

「はいよ」

 

ミリオはケースを持ち上げ、そのまま棚の上へ戻す。

 

「他に何かあるか?」

 

「まだ手伝うつもりですか?」

 

「せっかくだからな」

 

「では、そちらの工具箱をお願いします」

 

「これだな」

 

ミリオが工具箱を作業台へ置く。

 

「ありがとうございます」

 

「他にも必要なものがあったら言ってくれよ」

 

「ええ。その時は遠慮なく使わせていただきます」

 

「使うって言い方する?」

 

「何か問題でも?」

 

ミリオは苦笑し、ヒマリは何事もなかったように工具箱を開く。

 

必要な工具を一本取り出し、作業へ戻った。

 

しばらくの間、ヒマリは手元へ集中する。

 

ミリオも邪魔はせず、ヒマリが求めた時だけ工具を手渡す。

 

「ミリオ、細い方を」

 

「はいよ」

 

差し出された工具を受け取り、ヒマリはそのまま作業を続ける。

 

しばらくして調整を終えると、工具を置き、画面へ結果を入力した。

 

その横で、ミリオがふと思い出したように口を開く。

 

「そういえばさ、ヒマリ」

 

「何でしょう?」

 

「前に聞こうと思って忘れてたんだけど」

 

「あなたが物忘れをするのは珍しいことでもないでしょう」

 

「ひどいなぁ」

 

「事実です」

 

「そう?」

 

「ええ。それで?」

 

ミリオは少し考えてから続けた。

 

「インターンから帰ってきた時のことなんだけど」

 

ヒマリの指が、僅かに止まる。

 

「インターン?」

 

「ほら、俺が戻ってきた時、ヒマリが何か言おうとしてただろ?」

 

覚えている。

 

あの日、ヒマリは完成したばかりのヒーローコスチュームの改良案を眺めながら、ミリオが戻ってくるのを待っていた。

 

出来には、それなり以上の自信があった。

 

ミリオに見せれば、どんな反応をするだろうか。その時の顔を見るのを、ヒマリは楽しみにしていた。

 

けれど、帰ってきたミリオの顔を見た瞬間、その話はできなかった。

 

『実は――』

 

そこまで口にして。

 

「ヒマリ?」

 

「ああ……そのことですか」

 

「覚えてた?」

 

「当然でしょう。この私の記憶力を何だと思っているのです」

 

「じゃあ、何を言おうとしてたんだ?」

 

「大したことではありませんよ」

 

「そうなんだ?」

 

「ええ」

 

ヒマリは淡々と答えながら、別のファイルを開く。

 

「あの日のあなたは随分と疲れた顔をしていましたからね。少しは休んだらどうです、とでも言おうとしていたのでしょう」

 

ミリオが一瞬黙った。

 

「それ、ヒマリに言われるの?」

 

「今は私の話をしていません」

 

反射的に返した後、二人の間に僅かな間が空く。

 

先に吹き出したのはミリオだった。

 

「前にも同じこと言われた気がするな」

 

「気のせいです」

 

「そうかな?」

 

「そうです」

 

「じゃあ、そういうことにしておくよ」

 

ヒマリは画面へ視線を戻す。

 

本当のことを言えばいいだけだった。

 

あの日見せようとしていたのは、あなたのヒーローコスチュームの改良案でした、と。

 

何も悪いことではない。

 

そう分かっているのに、今のミリオを前にすると、どうしてもその一言が出てこなかった。

 

保存されたデータの中には、あの日完成させた設計案が今も残っている。

 

「ミリオ」

 

「ん?」

 

「ぼんやりしていないで、それをこちらへ」

 

「これか?」

 

「ええ」

 

部品を受け取り、作業を再開する。

 

ミリオは何も変わらず隣に立っていた。

 

少しすると、ヒマリが手元を見たまま口を開く。

 

「ところで」

 

「うん?」

 

「あなた、最近の訓練はどうなのです?」

 

「ああ。やれることをやってるよ」

 

答えは明るかった。

 

それ以上でも、それ以下でもない。

 

ヒマリは一度だけミリオを見る。

 

「そうですか」

 

「うん」

 

「でしたら、結構です」

 

「それだけ?」

 

「何か問題でも?」

 

「いや。もっと色々聞かれるのかと思ってたよ」

 

工具を置き、部品へ手を伸ばす。

 

「今、あなたがやるべきことをやっているのであれば、私から口を挟む理由はありません」

 

ミリオは少しだけ目を丸くした後、笑った。

 

「ヒマリらしいな」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 

「褒めたつもりだよ」

 

「……あなたはそういうところだけは、昔から本当に変わりませんね」

 

「昔から?」

 

ヒマリの手が止まる。

 

今朝見た夢が、ふと脳裏に蘇る。

 

中学一年の頃、傷だらけになりながらも最後まで笑っていたミリオの姿が、鮮明に浮かんだ。

 

――それでその人が笑ってくれたら、俺は嬉しいけどな。

 

「ヒマリ?」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「ミリオ」

 

ヒマリはゆっくり顔を上げた。

 

「一つ、お願いがあります」

 

「お願い?」

 

「ええ」

 

「珍しいな」

 

「失礼ですね。私だって人にお願いくらいしますよ」

 

「何だ?」

 

ヒマリは少しだけ黙った。

 

「……笑ってみてください」

 

ミリオが瞬きをした。

 

「俺が?」

 

「他に誰がいるのです」

 

「急だなぁ」

 

「そうでしょうか」

 

「うん。ちょっとだけ」

 

ミリオは困ったように笑った。

 

その顔を見て、ヒマリは僅かに眉を寄せる。

 

「何ですか、その笑い方は」

 

「いや、ヒマリからそんなお願いをされると思わなかったからさ」

 

「不満ですか?」

 

「まさか」

 

ミリオは首を横へ振る。

 

「分かったよ」

 

あまりにもあっさりした返事だった。

 

今度はヒマリが目を瞬く。

 

「……それだけですか?」

 

「うん?」

 

「もう少し理由を聞くなり、何なりあるでしょう」

 

「聞いた方がいい?」

 

「…………」

 

「ヒマリ?」

 

「いいえ」

 

ヒマリは顔を背けた。

 

「聞かなくて結構です」

 

ミリオは少しだけ首を傾げ、それからいつものように笑った。

 

「こんな感じ?」

 

ヒマリはその顔をじっと見る。

 

夢の中で見た笑顔と、目の前のそれが一瞬だけ重なった。

 

「……ええ」

 

「これでいい?」

 

「はい。十分です」

 

少しして、ヒマリは机の端を指した。

 

「それと、そちらの工具をお願いします」

 

「はいよ」

 

ミリオが差し出した工具を受け取る。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「では、もうしばらく付き合ってもらいますよ」

 

「了解」

 

「ふふん。光栄に思いなさい。この私の作業をこれほど間近で見学できる機会など、そうあるものでは――」

 

「うん。ヒマリが天才なのは知ってるよ」

 

ヒマリの言葉が止まった。

 

「…………」

 

ミリオが不思議そうに首を傾げる。

 

「どうした?」

 

「……最後まで言わせなさい!」

 

工房にミリオの笑い声が響く。

 

ヒマリは不満そうに眉を寄せながら、次の設計図を開いた。





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