雄英高校の超天才清楚系病弱美少女   作:サブ0119

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ストックが切れてしまったので不定期になります。


16話 文化祭

 

文化祭を翌日に控えたサポート科の工房では、朝から慌ただしく作業が続いていた。

 

工具の音があちこちで響き、作業台の上には展示用の装置や部品が並んでいる。完成した機材を運び出す生徒もいれば、最後の調整に追われている生徒もいた。

 

そんな中、ヒマリは作業台の前で、展開したモニターを眺めている。

 

画面に表示されているのは、文化祭で展示する装置の動作確認結果だ。

 

「……ふむ。問題ありませんね」

 

最後の項目まで確認すると、ヒマリは満足そうに頷いた。

 

「これで私の担当分は完了です」

 

「明星、終わったのか?」

 

背後から声をかけてきたのは、パワーローダーだった。

 

「ふふん。何をおっしゃいますか」

 

ヒマリは得意げに胸を張る。

 

「この私が手がけた装置ですよ。予定通り、それも余裕を持って完成させるのは当然でしょう」

 

「そうか。なら、あとは展示前の確認だけだな」

 

「ええ。いつでも動かせる状態にしてあります」

 

パワーローダーは作業台の装置に目を向け、確認用の画面を覗き込んだ。

 

「……問題なさそうだな」

 

「当然です」

 

「ただ、明日は展示の方もあるんだからな。無茶するなよ」

 

「おやおや。先生までそのようなことを」

 

ヒマリは呆れたように眉を上げた。

 

「私は自分の体調くらい把握していますよ」

 

「そう言いながら、今日も工房で寝てただろ」

 

「……それとこれとは別の話です」

 

「どこが別なんだ」

 

「天才の高度な演算には、適切な休息が必要なのです」

 

「だったら最初から休息を取れ」

 

「…………」

 

ヒマリは何事もなかったようにモニターへ視線を戻した。

 

「とにかく、今日はもう作業を増やすなよ」

 

「分かっています」

 

「本当だな?」

 

「先生は少々心配性ですね」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

それだけ言い残し、パワーローダーは別の生徒の方へ向かっていった。

 

ヒマリはその背中を見送り、改めて画面を確認する。

 

「さて……」

 

ヒマリはモニターを閉じかけ、ふと手を止めた。

 

一週間ほど前、廊下で出会った小さな女の子の顔が頭に浮かぶ。

 

白に近い髪と、額から伸びた小さな角。

 

初めはミリオのそばから離れようとしなかったものの、車椅子の機能を見せてからは、随分と興味を持ってくれたようだった。

 

『また、見せてね』

 

別れ際の言葉を思い出し、ヒマリは口元を緩める。

 

「……ふふ」

 

あの子には、まだ見せていない機能もある。

 

もちろん、すべてを見せるわけにはいかないが、簡単な機能であれば問題ないだろう。

 

「それにしても……」

 

ヒマリは小さく呟いた。

 

エリちゃんはあの日、文化祭の日もヒマリがいるのかを尋ねてきた。

 

あの様子なら、文化祭にも興味を持っているのだろう。

 

もっとも、文化祭をどの程度知っているのかは分からない。

 

「……まあ、退屈することはないでしょうね」

 

ヒマリは再び画面を開き、文化祭の案内資料へ目を通し始めた。

 

◇

 

昼過ぎになると、工房の外はいっそう賑やかになっていた。

 

展示用の看板を運ぶ生徒たちが廊下を行き交い、時折、準備の進み具合を確認する声が聞こえてくる。

 

ヒマリも工房を出て、出展場所へ向かった。

 

その途中、廊下の掲示板に貼られた文化祭の案内が目に入る。

 

各クラスの催しや展示について書かれた紙の中に、ひときわ目につくものがあった。

 

「……一年A組はライブですか」

 

以前から何か準備しているとは聞いていたが、どうやら本格的なものになるらしい。

 

廊下の向こうでは、一年A組の生徒たちが慌ただしく行き交っている。その中には、緑谷くんの姿もあった。

 

ヒマリはその姿を横目で見送る。

 

「随分と気合が入っていますね」

 

雄英の文化祭は、毎年多くの生徒がそれぞれの催しに力を入れている。

 

サポート科の展示も例外ではないが、今年の一年A組は特に注目を集めそうだ。

 

「……エリちゃんも、こういうものは好きなのでしょうか」

 

音楽についてどの程度知っているのか。

 

賑やかな場所は平気なのか。

 

そもそも、文化祭という催し自体をどんなものだと思っているのか。

 

考え始めたところで、ヒマリは自分の思考に気づいた。

 

「…………」

 

別に、そこまで考える必要はない。

 

明日、エリちゃんがどこを回るのかも決まっていないのだ。

 

「……我ながら、少々気が早いですね」

 

そう呟き、車椅子を進めようとしたところで、

 

「ヒマリ!」

 

聞き慣れた声が響く。

 

振り返ると、廊下の向こうからミリオが歩いてきていた。

 

「おや、ミリオ」

 

「こんなところにいたのか」

 

「ええ。出展場所の確認へ向かうところです」

 

「そっか。準備の方は順調そうだね」

 

「もちろんです。私が担当しているのですから」

 

「ハハハ、そうだね」

 

ミリオは笑いながらヒマリの隣に並び、歩き出した。

 

「ところで、あなたは何をしていたのです?」

 

「俺? ちょっと校内を見て回ってたんだ」

 

「文化祭の準備ですか?」

 

「そんなところだよ。みんな忙しそうだったなぁ」

 

「明日が本番ですからね」

 

ヒマリは廊下の先へ視線を向ける。

 

「それにしても、今年は一年A組が随分と目立っていますね」

 

「ああ、ライブをやるんだってね」

 

「ええ。相当な準備をしているようですよ」

 

「楽しみだな」

 

ミリオは笑う。

 

「エリちゃんにも見せてあげたいんだよな〜」

 

その名前を聞き、ヒマリは顔を上げた。

 

「……エリちゃんですか」

 

「うん。明日は色々見て回るつもりなんだ」

 

「そうなのですね」

 

「せっかくの文化祭だからさ。エリちゃんにも楽しんでもらえたらいいなって」

 

ヒマリは小さく頷いた。

 

「ええ。そうですね」

 

ミリオは掲示板の案内を眺めながら続ける。

 

「それでさ、ヒマリ」

 

「何でしょう?」

 

「明日、俺たちと一緒に回らない?」

 

「…………」

 

ヒマリの車椅子が停止した。

 

「ヒマリ?」

 

「……一緒に、ですか?」

 

「うん。俺とエリちゃんと、三人で」

 

ミリオはいつものように笑っていた。

 

「この前、エリちゃんと楽しそうに話してただろ? だったら一緒に回った方が、もっと楽しいと思ってさ」

 

「…………」

 

ヒマリは返事をしなかった。

 

いや、正確には、返事が少し遅れた。

 

明日の文化祭。

 

エリちゃん。

 

ミリオ。

 

三人で一緒に回る。

 

その光景が頭に浮かび、ヒマリは思わず口元を緩めた。

 

「……なるほど」

 

どうにか平静を装いながら、口を開く。

 

「あなたの提案は理解しました」

 

「うん」

 

「しかし、ミリオ。少々確認したいことがあります」

 

「何だい?」

 

「私のような超天才を同行させるとなれば、当然ながら、その恩恵は計り知れないものになりますよ?」

 

「そうだね」

 

「…………」

 

あっさりと肯定され、ヒマリは言葉を止めた。

 

「……もう少し考えてから答えてもよろしいのですよ?」

 

「いや、ヒマリが一緒なら心強いと思うよ」

 

ミリオは不思議そうに首を傾げた。

 

「それに、俺もヒマリと一緒に回りたいしね」

 

「…………!」

 

ヒマリは反射的に緩んだ口元を閉じた。

 

ミリオはそんな様子に気づいたのか、少し顔を覗き込む。

 

「どうした?」

 

「……何でもありません」

 

ヒマリは顔を背けたまま答える。

 

「あなたは本当に……」

 

「俺?」

 

「……いいえ。こちらの話です」

 

小さく息を整え、改めてミリオへ向き直る。

 

「仕方ありませんね」

 

ヒマリはいつものように胸を張った。

 

「そこまでおっしゃるのであれば、この私が特別に同行して差し上げましょう」

 

「おっ、いいのか?」

 

「ええ」

 

「そりゃよかった!」

 

ミリオが嬉しそうに笑う。

 

その顔を見たヒマリは、一瞬だけ視線を落とした。

 

「……まったく」

 

「ん?」

 

「あなたは少々、無防備に喜びすぎではありませんか?」

 

「嬉しいんだから仕方ないだろ?」

 

「…………」

 

「ヒマリ?」

 

「……何でもありません!」

 

ミリオは首を傾げたが、それ以上は追及しない。

 

「もっとも、私にも展示の担当がありますので、時間の調整は必要ですが」

 

「そっか。じゃあ、ヒマリの都合に合わせようか」

 

「ふふん。ご安心を。この程度の予定調整、私にかかれば造作もありません」

 

ヒマリは話題を変えるように口を開く。

 

「それで、明日の予定はどの程度決まっているのです?」

 

「ああ、まだ細かくは決めてないんだ」

 

「おや」

 

「エリちゃんが見たいものを見て回れたらいいかなって」

 

「なるほど」

 

ヒマリは少し考え込んだ。

 

「では、まず一年A組のライブは外せませんね」

 

「うん。俺もそう思ってたよ」

 

「それから、各クラスの催しも確認しておく必要があります。展示の内容によっては、エリちゃんが楽しめるものもあるでしょう」

 

「そうだね」

 

「加えて、移動経路や混雑状況も考慮しなければなりません」

 

ミリオが笑う。

 

「もう計画を立て始めてるのか?」

 

「当然でしょう」

 

ヒマリは得意げに顎を上げた。

 

「せっかく三人で回るのですから、時間を無駄にするわけにはいきません」

 

「ハハハ、頼もしいなぁ」

 

「ふふん。もっと褒めても構いませんよ」

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「ええ。任せなさい」

 

ヒマリは満足そうに頷いた。

 

しかし、ミリオはそこで一つ付け加える。

 

「あ、でもさ」

 

「何でしょう?」

 

「予定はあんまり詰めすぎない方がいいと思うよ」

 

「……ほう?」

 

「エリちゃんが途中で気になるものを見つけるかもしれないしね」

 

…確かに、それは考慮すべき点だ。

 

事前にすべての催しを決めてしまえば、当日になって興味を持ったものを見に行く余裕がなくなる。

 

「……なるほど。一理ありますね」

 

「だろ?」

 

「では、主要な催しだけを優先し、それ以外は状況に応じて変更できるようにしましょう」

 

「うん。それならいいと思うよ」

 

「ふふん。柔軟な計画変更も、優秀な設計者には欠かせない能力ですからね」

 

「さすがヒマリ」

 

「当然です」

 

そう答えた後、ヒマリはふと思い出した。

 

「そういえば、ミリオ」

 

「ん?」

 

「エリちゃんは、以前お見せした車椅子のことをまだ気にしているのでしょうか?」

 

「ああ、そうそう」

 

ミリオは笑って頷いた。

 

「ヒマリと別れた後も、あの椅子の話をしてたよ」

 

「……そうなんですか?」

 

「うん。浮いたのがすごかったって」

 

ヒマリは思わず口元を緩める。

 

「ふふん。やはり、あの程度の機能でも子供には十分な驚きがあるようですね」

 

「エリちゃん、楽しそうだったよ」

 

「それは何よりです」

 

「ヒマリのことも、また会いたそうにしてたしね」

 

「…………」

 

ヒマリは一度、目を瞬いた。

 

「……そうですか」

 

「うん」

 

「でしたら、明日も何か見せて差し上げましょう」

 

「いいのか?」

 

「ええ。ただし、安全に動かせる機能に限りますよ」

 

「そりゃそうだね」

 

「子供の興味を引く程度であれば、そう難しいことでもありません」

 

言いながら、ヒマリは少し考える。

 

簡単な画面表示なら、エリにも操作できるかもしれない。

 

もっとも、明日は文化祭そのものを楽しんでもらうのが先だろう。

 

車椅子の機能については、時間がある時にでも見せればいい。

 

「……まあ、そのあたりは明日の様子を見て決めましょう」

 

「そうだね」

 

ミリオが頷いたところで、ヒマリは時計へ目を向けた。

 

「おっと。そろそろ展示場所の確認へ行かなければ」

 

「ああ、そうだったね」

 

「まったく。あなたと話していると、つい時間を忘れてしまいます」

 

「ハハハ、ごめんごめん」

 

「別に謝る必要はありませんよ」

 

ヒマリは車椅子を止め、ミリオを見上げた。

 

「では、私はこれで」

 

「うん。また明日な、ヒマリ」

 

「ええ」

 

ミリオは少し歩きかけてから振り返った。

 

「あ、ヒマリ」

 

「何でしょう?」

 

「明日、楽しみにしてるよ」

 

「…………」

 

ヒマリは一瞬言葉を詰まらせたものの、すぐにいつもの笑みを浮かべた。

 

「ふふん。期待していなさい」

 

「うん!」

 

ミリオが手を振り、廊下の向こうへ歩いていく。

 

ヒマリはその背中を見送り、ようやく車椅子を進めた。

 

「……本当に」

 

誰に聞かせるでもなく呟く。

 

「あなたという人は……」

 

続きを口にすることはなかった。

 

◇

 

夕方。

 

展示場所の確認を終えたヒマリは、再び工房へ戻っていた。

 

昼間の騒がしさも少し落ち着き、作業を終えた生徒たちが片付けを始めている。

 

ヒマリも自分の作業台へ戻ると、文化祭の資料を開いた。

 

「さて……」

 

モニターに校内の案内図が表示される。

 

それぞれの展示場所と催しの予定を確認し、移動に必要な時間を大まかに見積もっていく。

 

最初に確認したのは、一年A組のライブだった。

 

「ここは確定として……」

 

予定に印をつけ、次の項目へ目を移す。

 

展示。

 

体験型の催し。

 

各クラスが用意している企画。

 

気になるものを一つずつ確認していくうちに、画面にはいくつもの候補が並び始めた。

 

「……ふむ」

 

ヒマリは指を止めた。

 

少々、多すぎる。

 

すべてを回ろうとすれば、相応の時間が必要になるだろう。

 

それに、

 

『エリちゃんが途中で気になるものを見つけるかもしれないしね』

 

「……確かに、その通りですね」

 

ヒマリは候補をいくつか外し、予定の間隔を空けていく。

 

「……よし」

 

必要な予定だけを残し、画面を切り替える。

 

続いて確認したのは、校内の休憩場所だった。

 

文化祭当日は、普段よりも多くの人が行き交う。

 

移動に時間がかかることも考えられるし、途中で休みたくなることもあるだろう。

 

ヒマリは案内図にいくつか印をつけていく。

 

「このあたりなら、移動距離も短く済みますね」

 

候補を比較し、必要な情報をまとめる。

 

一通り確認し終えたところで、ヒマリは画面を眺めた。

 

「……ふふん」

 

悪くない。

 

むしろ、なかなか良い計画ではないだろうか。

 

ミリオが言うように、当日の変更にも対応できる。

 

これならエリも、気になるものを見つけた時に遠慮なく立ち寄れるはずだ。

 

「我ながら完璧ですね」

 

満足そうに頷き、保存しようとしたところで、画面の端に表示された時刻が目に入った。

 

「……おや」

 

思っていたよりも時間が経っている。

 

ヒマリは少しだけ眉を上げた。

 

「……いけませんね」

 

パワーローダー先生から、今日は余計な作業を増やすなと言われたばかりだ。

 

もっとも、これは文化祭を円滑に回るための計画であって、工房の作業とは別の話なのだが。

 

「…………」

 

そこまで考えて、ヒマリは画面を閉じる。

 

言い訳を考える必要はない。

 

明日の準備は、すでに十分できているのだから。

 

展開していたキーボードを収納し、車椅子の背もたれへ身体を預ける。

 

ふと、昼間の会話が思い出された。

 

『俺もヒマリと一緒に回りたいしね』

 

「…………」

 

ヒマリは片手で口元を覆った。

 

「……まったく」

 

誰もいないことを確かめるように、周囲へ視線を向ける。

 

幸い、近くに人はいなかった。

 

「……ああいうことを、何のためらいもなく……」

 

小さく呟いてから、ヒマリは首を振る。

 

ミリオにとっては、ごく普通の誘いなのだろう。

 

昔からそうだった。

 

誰に対しても自然に声をかけ、何の気負いもなく笑う。

 

そして、こちらがどれほど振り回されているのかも知らずに、また笑うのだ。

 

「……困った人ですね」

 

そう言いながらも、その声に不満はなかった。

 

ヒマリは車椅子を動かし、工房の出口へ向かう。

 

明日は文化祭。

 

エリちゃんと、ミリオと。

 

三人で校内を回る約束をした。

 

「……さて」

 

扉の前で一度だけ立ち止まり、ヒマリは得意げに微笑んだ。

 

「明日は、なかなか忙しくなりそうですね」

 

そう呟いて、工房を後にした。

 





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