雄英高校の超天才清楚系病弱美少女   作:サブ0119

5 / 5
第5話 ミリオとヒマリ

昼休み。

 

サポート科の教室では、あちこちで弁当の蓋が開き、午前の授業を終えた生徒たちの話し声が飛び交っていた。

 

その中で、明星ヒマリは自分の机に昼食を広げている。

 

今日はゼリー飲料一本――ではない。

 

小さめのサンドイッチとスープ。それから、念のためのゼリー飲料。

 

昨日の昼食について波動ねじれに散々言われた結果である。

 

「……まったく。私ほど自己管理の行き届いた人間を捕まえて、食事がどうこうと」

 

ぶつぶつ言いながら、サンドイッチを一口。

 

もちろん、誰かに言われたから用意したわけではない。

 

断じてない。

 

超天才清楚系病弱美少女たるもの、己の体調管理まで完璧であって当然。

 

ただそれだけである。

 

「明星ー」

 

教室の入口から声が飛んできた。

 

ヒマリが顔を上げる。

 

「ん?」

 

「通形先輩、来てるぞ」

 

その一言で、ヒマリの動きがぴたりと止まる。

 

「…………」

 

手に持っていたサンドイッチを弁当箱へ戻し、口元をナプキンで拭く。そのまま白い髪を指先で軽く整えてから、何事もなかったような顔で車椅子を反転させた。

 

「そうですか。では、お待たせするわけにもいきませんね」

 

車輪を滑らせ、教室の入口へ向かう。

 

そこには、ヒーロー科の制服姿の通形ミリオが立っていた。

 

「やあ、ヒマリ!」

 

「ごきげんよう、通形さん」

 

「昼飯中だった?」

 

「ええ。ちょうど食べていたところです」

 

「だったら後でもいいぞ?」

 

「構いませんよ」

 

間を置かずに答える。

 

「それで、私に何か?」

 

「この前頼んでたやつなんだけど――」

 

ミリオが手にしていたケースを持ち上げる。

 

それを見た瞬間、ヒマリの視線が変わる。

 

「……なるほど」

 

「ちょっと気になるところがあってさ」

 

「分かりました。見てみましょう」

 

「今から?」

 

「ええ」

 

「でも、昼飯は?」

 

「後で食べます」

 

「冷めない?」

 

「…………」

 

ヒマリが止まる。

 

ミリオの視線は机の上へ向いていた。

 

食べかけのサンドイッチ。まだ湯気の残るスープ。そしてゼリー飲料。

 

「先に食べた方がいいんじゃないか?」

 

「……通形さん」

 

「ん?」

 

「五分だけ待ちなさい」

 

「もちろん!」

 

ヒマリは無言で机へ戻ると、先ほどより少しだけ速いペースでサンドイッチを食べ始めた。

 

ミリオは入口近くで待っている。

 

一口。

 

もう一口。

 

ヒマリがちらりとミリオを見る。

 

目が合うと、ミリオが笑った。

 

「ゆっくりでいいぞ!」

 

「見ないでください!」

 

「えっ?」

 

「食事中の美少女を凝視するものではありません!」

 

「ご、ごめん?」

 

ミリオが慌てて後ろを向く。

 

ヒマリは小さく息を吐いた。

 

「まったく……」

 

そう言いながら、もう一口。

 

頬が少し熱いのは、きっと気のせいだ。

 

*

 

昼食を終えたヒマリは、ミリオとともにサポート科の開発工房へ移動する。

 

ミリオが持ってきたケースを机の上に置き、中から専用のヒーローコスチュームを取り出した。

 

彼の“個性”――『透過』。

 

身体をあらゆる物質からすり抜けさせる強力な個性だが、衣服まで一緒に透過できるわけではない。

 

その問題を解決するため、ミリオのコスチュームには本人の毛髪を特殊加工した繊維が使用されている。

 

そして現在、その調整に携わっている一人が明星ヒマリだった。

 

「それで? どこが気になるのです?」

 

ヒマリがケースを覗き込む。

 

「右肩の辺りかな。昨日の訓練で、ちょっと引っかかる感じがあったんだ」

 

「右肩……」

 

ヒマリはコスチュームを手に取り、縫製部分へ目を走らせる。

 

数秒も経たないうちに口を開いた。

 

「なるほど」

 

「もう分かった?」

 

「誰に聞いているのです?」

 

ヒマリの口元が得意げに上がる。

 

「この私――雄英が誇る超天才清楚系病弱美少女技術者、明星ヒマリにかかれば、この程度の不具合を見つけることなど朝飯前です」

 

「今、昼飯食べた後だけどね」

 

「そういう意味ではありません!」

 

ミリオが声を上げて笑う。

 

「ハハハ! ごめんごめん!」

 

「まったく……あなたという人は」

 

呆れた口調とは裏腹に、ヒマリの表情はどこか楽しそうだった。

 

「では、詳しく見てみましょうか」

 

車椅子のアームレストへ指を伸ばし、スイッチを押すと、収納されていた薄型モニターとキーボードが展開される。

 

「あなたのために、この私が直々に診断して差し上げます」

 

「よろしく頼むよ、ヒマリ!」

 

「ふふん。任せなさい」

 

高速の打鍵音が、昼休みの工房に響き始める。

 

モニターには次々と数値やグラフが表示されていった。

 

ヒマリは測定データと過去の訓練記録を照合しながら、問題箇所を絞り込んでいく。

 

やがて指が止まる。

 

「やはり予想通りですね」

 

「何か分かった?」

 

「右肩部分に負荷が集中しています。透過解除直後の動きが原因ですね」

 

「ああ、そこか。確かに少し引っかかる感じはあったかな」

 

「でしょうね」

 

端末を操作すると、モニターへ人体モデルが表示される。

 

「現在の構造でも実戦使用に問題はありません。しかし、あなたの場合は透過と解除を短時間で何度も繰り返します。その際、この部分へ負荷が集中する」

 

「なるほど」

 

「加えて、復帰直後に腕を大きく振る動作が多い。ですから――」

 

画面上の構造が切り替わる。

 

「この部分の編み方を変更します」

 

「それで変わるのか?」

 

「変わります」

 

ヒマリは迷いなく答えた。

 

「可動域を維持したまま負荷を分散できます。耐久性も今より上がるでしょう」

 

「へえ……」

 

ミリオがモニターを覗き込むため、自然とヒマリの隣へ寄る。

 

「…………」

 

ヒマリの指が止まった。

 

当のミリオは気づかず、画面を見ている。

 

「ここが変わるんだな?」

 

「……ええ」

 

「でも、見た目はほとんど変わらないんだね」

 

「当然です。性能を上げるたびに外見まで変えていては、完成度の低さを宣伝しているようなものですから」

 

「なるほどなぁ」

 

ミリオがさらに顔を近づけると、ヒマリの耳に吐息がかかる。

 

「…………通形さん」

 

「ん?」

 

「近いです」

 

「あ、ごめん」

 

ミリオが少し身体を離す。

 

「これくらい?」

 

「……ええ。それで結構です」

 

ヒマリは何事もなかったようにモニターへ視線を戻した。

 

数秒後。

 

「ヒマリ」

 

「今度は何です?」

 

「やっぱり顔赤いぞ? 体調悪いんじゃないか?」

 

「違います! これは室温の問題です!」

 

「室温?」

 

「そうです!」

 

ミリオが工房の空調へ目を向ける。

 

「そんなに暑いかな?」

 

「私にとっては暑いのです!」

 

「じゃあ、空調下げる?」

 

「下げなくて結構です!」

 

「でも、無理してるなら――」

 

「通形さん」

 

ヒマリが振り返る。

 

「これ以上この件について追及した場合、あなたのスーツの調整優先順位を最下位まで落とします」

 

「それは困るな」

 

「ならば黙っていなさい」

 

「分かったよ」

 

ミリオは口を閉じた。

 

十秒ほど経つ。

 

「……ヒマリ」

 

「今度は何です!?」

 

「水飲まなくて大丈夫か?」

 

「…………」

 

ヒマリは机の端に置かれた水筒へ目を向ける。

 

「それは必要ですね」

 

「はい」

 

「……ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

ヒマリは水を一口飲んだ。

 

ミリオはまた何も言わず待っている。

 

横目でその様子を見たヒマリは、何か言いかけてやめ、作業へ戻った。

 

それからしばらくして、モニター上に完了を示す表示が出る。

 

「ひとまず終わりました」

 

「おっ」

 

ミリオが立ち上がる。

 

「必要なデータは取れました。加工そのものは放課後に行います」

 

「了解!」

 

「次の実戦訓練で使用したら、必ずデータを送ってください」

 

「もちろん」

 

「できれば使用直後に。それと、損傷があった場合は、先ほど言った通り早めに持ってくること」

 

「了解」

 

「それから――」

 

ヒマリが口を閉じる。

 

「それから?」

 

少し間を置いてから、ヒマリは続けた。

 

「……無茶はほどほどに」

 

ミリオが瞬きをする。

 

「ヒマリに言われるとは思わなかったなぁ」

 

「どういう意味です?」

 

「ヒマリも結構無茶するだろ?」

 

「私はすべて計算の上で行っています」

 

「昨日、昼飯をゼリーだけで済ませたのも?」

 

「その話を持ち出さないでください!」

 

「ハハハ! ごめんごめん!」

 

「まったく……」

 

ヒマリは呆れたように息を吐く。それでもミリオから視線は逸らさなかった。

 

「とにかく、私が調整しているのです。雑な使い方をされては困ります」

 

「うん」

 

「私の作品には、それに相応しい扱いというものがありますからね」

 

「分かってるよ」

 

ミリオがケースを持ち上げ、いつもの明るい表情で笑う。

 

「大事に使うよ」

 

「…………」

 

「ヒマリが作ってくれたものだからな」

 

ヒマリの口がわずかに開いたまま止まる。

 

「……そう、ですか」

 

先ほどまでの勢いが、嘘のように消えていた。

 

その時、昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴る。

 

「あ、もうこんな時間か」

 

ミリオが時計を見る。

 

「じゃあ、俺は戻るよ」

 

「ええ」

 

「今日はありがとう、ヒマリ」

 

「……ええ」

 

ミリオが工房の出口へ向かう。

 

「また放課後な!」

 

「…………」

 

返事がないことに気づいたミリオが振り返った。

 

「ヒマリ?」

 

「えっ」

 

ヒマリの肩がわずかに跳ねる。

 

「どうした?」

 

「な、何でもありません!」

 

「そう?」

 

「そうです! 予鈴はもう鳴ったのですよ。さっさと教室へ戻りなさい!」

 

「分かったよ。じゃあまた放課後!」

 

「ええ、また放課後」

 

今度こそミリオが工房から出ていき、扉が閉まる。

 

足音が遠ざかっていく。

 

ヒマリはしばらく扉を見つめていた。

 

やがて正面へ向き直る。

 

モニターには、ミリオのコスチュームの設計データが残ったままだ。

 

「……まったく。本当に、困った人ですね」

 

頬へ手を当てる。

 

まだ少し熱い。

 

「私の演算をここまで乱すとは……」

 

そこまで言って、口を閉じた。

 

画面には、先ほど完成したばかりの調整案が表示されている。

 

ヒマリは数秒それを眺めてから、端末を閉じた。

 

「……続きは放課後ですね」

 

車椅子を出口へ向ける。

 

少し進んだところで、もう一度だけ振り返った。

 

「大事に使う、ですか」

 

誰もいない工房で、小さく笑う。

 

「当然でしょう。誰が作ったと思っているのです」

 

白い車椅子が工房を出ていき、扉が静かに閉じた。




感想お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ミレニアム首席技術者ノルムーなのだ!!!(作者:モコマリ)(原作:ブルーアーカイブ)

「ミレニアム首席技術者!ノルムーなのだ!!」▼火急の案件を終え久しぶりの帰宅、次の日はようやく推しの実装日!!さぁさっさと寝よう…と思っていたら・。▼これはノルムー(見た目だけ)転生してしまった一般男性?が、キヴォトスでおもしろおかしくトラブルに巻き込み巻き込まれて行く…そんなストーリー


総合評価:3723/評価:8.23/連載:12話/更新日時:2026年09月15日(火) 17:30 小説情報

地獄の氷叢さん家(作者:M.T.)(原作:僕のヒーローアカデミア)

地獄の轟くん家以上に地獄の氷叢分家の女の子がヒーローを目指すお話。▼燈矢くんや外典くんを見て、氷叢の血が濃くなりすぎた末路が気になって執筆した作品です。▼※注意▼・女主です。▼・お話の都合上、青山くんが出てきません。すまんな。▼・他作品のクロスオーバーをやり出す可能性があります。▼・オリ主の必殺技や一部設定のみ、以下のキャラの要素があります。▼ ・クザン(O…


総合評価:2158/評価:7.81/連載:78話/更新日時:2026年10月22日(木) 18:16 小説情報

個性図書館によるヒーローアカデミア(作者:ヨガマスター)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒロアカを見ながらLibrary of ruinaをやってたら死んだっぽい。▼そしたらなんかヒロアカの世界に転生した。▼しかも個性図書館。▼……どうしよ?▼ヒロアカ世界で図書館の機能を使えるように拡大解釈と強化が施されてるのでそこで無理になった人は素直に見るのをやめましょう。▼あと作者は割とヒロアカのにわかだから設定に矛盾があったらごめん▼ちなみに個性図書館…


総合評価:3271/評価:7.97/連載:33話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:03 小説情報

個性、海賊。ヒーロー向きじゃないって?これ以上ない英雄の個性だろ!(作者:紡縁永遠)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事の始まりは中国、軽慶市。『発光する赤児が産まれた』というニュースだった。▼ 以降各地で「超常」は発見され、いつしか「超常」は「日常」に、「架空(ゆめ)」は「現実」となった。世界総人口の約八割が何らかの「特異体質」である現在、個性を悪用する敵(ヴィラン)により混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が、脚光を浴びていた。そう、「ヒーロー」と呼ば…


総合評価:1073/評価:6.44/連載:10話/更新日時:2026年09月21日(月) 00:00 小説情報

ワールドトリガー世界にブルーアーカイブ周年人権キャラをぶち込んでみた(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(原作:ワールドトリガー)

タイトルの通り!ブルアカのキャラクターであるホシノ、ミカ、ヒナ、ケイの4人でボーダーの1部隊を作って回してみようって話です。▼ワートリの時系列だと原作開始1年前のB級ランク戦にぶち込もうかと思います。▼アンチ・ヘイトにはならないように頑張ります!▼ワ民力をくれ!


総合評価:3185/評価:8.76/連載:19話/更新日時:2026年10月23日(金) 16:27 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>