俺は男と結婚したくないのになんで公爵令嬢で聖女なんだよ!   作:本郷カキツバタ

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第四話 帳簿をご覧ください

 最初の荷物が届いた日、俺は品が入った箱を見て満足した。

 

 三週間前に買った二点とは別に、今日は四点。

 残りは、まだ六点ある。

 

 侍女が手提げ、財布、小箱、書類入れを並べた。

 俺は納品の明細と照らし合わせ、仕上がりを確かめる。

 

 いい。店で見た品と変わらない。

 ただ、俺に手提げは四つも要らない。

 

「そちらは、まだ開けていらっしゃいませんね」

 

 侍女が示した封書を開く。

 工房からの便りだった。

 

 仕事場へ職人を一人迎えた、とある。

 さらに、新しい客からの注文も増えているらしい。

 

 俺は読み終えた手紙を、明細の隣に置いた。

 

 扉が鳴る。俺は返事をした。

 

「姉上、届いたのですね」

 

 テオが入ってきた。

 書類入れを見るなり、そちらへ寄ってくる。

 

「こちら、拝見しても?」

 

「ええ。どうぞ」

 

 テオは留め具を開き、紙を一束入れた。

 収まりを確かめてから、もう一方の仕切りも見ている。

 

 そうじゃない。

 今日は品物より、金額を見てほしい。

 

「テオ。今回、随分使ってしまったと思わない?」

 

 テオへ明細を差し出す。

 

「必要な物だけなら、こんなに買わなかったのだけれど」

 

 テオは額を見て、工房の便りにも目を通した。

 それから、俺に向かって真面目に頷いた。

 

「姉上、いい投資をされましたね」

 

「……何ですって?」

 

 声だけは、令嬢のものを保った。

 頭の中では、はあ? と言っていた。

 

「父上の知人からも、この工房について問い合わせが来ています」

 

「お父様のところへ?」

 

「姉上が大量に注文した工房があると、知り合いの商人から聞いたそうです」

 

 俺は明細を引き寄せた。

 そこには十二点分の品名が並んでいる。

 

 買った数だけじゃなく、要らなかったことも伝えてくれ。

 財布を三つ買って、財布の中身のほうが減ったんだぞ。

 

「この書類入れ、家でも使えそうです。姉上が次にお尋ねになる時、僕もご一緒してよろしいでしょうか」

 

「……そうね。都合が合えば」

 

「もっと大きなものも頼めますか?」

 

「……型から作ることになると思うわ。入れる物に合わせて、相談してみてください」

 

 テオは自分の紙束を見直した。

 

「でしたら、この束を持っていきます」

 

 俺は頷きかけて、明細へ目を戻した。

 

 客が一人増えたところで、何を頷いているんだ……。

 

◇

 

「セレスティア。新しいお品を、見せていただける?」

 

 次は母が入ってきた。

 すでに、俺が渡した茶色の手提げを持っている。

 

「今日も、お使いになるのですね」

 

「ええ。今日いらしている私の古い友人が、これを作った工房をお知りになりたいのですって」

 

 母は新しく届いた手提げを取り、今のものと並べた。

 テオが持っている書類入れにも目を留める。

 

「あら。それも同じ工房?」

 

「はい。大きさを変えて注文したいと思いまして」

 

「では、こちらも持っていきましょう」

 

 手提げに財布、小箱まで、侍女が盆に載せていく。

 テオも書類入れを持って母についていった。

 

 明細だけが、俺の手に残った。

 

 客間から呼ばれて後を追うと、母の友人は財布を開いていた。

 使い込んだ自分の財布と比べ、口がどこまで開くか確かめている。

 

「この形でしたら、中が見やすいわね。同じものを頼めるかしら」

 

「素材が揃えば、お願いできると思います」

 

「では、工房の名前と場所を教えていただける?」

 

「ええ。エルム革工房です」

 

 店の場所を伝えると、母の友人は手元の紙に書き留めた。

 母がその紙を覗き込む。

 

「次はご一緒しましょうか。私も、ほかのお品を見てみたいわ」

 

「ぜひ。あなたの手提げも気になっていたのよ」

 

 母から茶を勧められ、俺は向かいに座った。

 今度は二人で手提げの色を選び始めたので、自分の買った分を数えてみる。

 

 灰青、深緑、黒。

 どれかを使っている間、残りの二つはしまっておく。

 

 それを言い出す間もなく、母の友人が小箱を示した。

 

「こちらも、もう一度見せていただいてよろしい?」

 

「どうぞ」

 

 買いすぎた品を見せているのに、誰も買いすぎた話をしてくれない。

 

 お茶の席を終え、侍女と品物を戻した。

 小箱だけは、母の友人が帰るまで客間に置いておく。

 

 自室には、空いた箱が待っていた。

 

 待て。俺の無駄遣い、どこ行った? 使うあてのなかった物まで、先に使われてるんだが?

 

◇

 

 午後、レストが訪ねてきた。

 

 給仕が済んで二人きりになると、俺は何を話そうか考えるより先に聞いていた。

 

「……なあ、俺の買い物の話、もしかして王宮まで行ってる?」

 

「工房のことかな?」

 

「……工房のこと」

 

「母上が聞いている。次の茶会で、君に詳しく尋ねたいそうだ」

 

「金額を?」

 

「品物を。母上も頼みたいと」

 

 ……王家まで、客になった。天を仰ぎたくなる。

 

 俺は菓子を一つ取った。

 何か食わないと、同じ質問をもう一回しそうだ。

 

「随分買ったんだぞ」

 

「そう聞いた」

 

「必要だったわけでもない」

 

「それは、普段の君と違うね」

 

 レストは俺の顔を見た。

 

「何かあったの?」

 

「買いすぎた」

 

「その話は、今聞いた」

 

 返事が雑すぎた。

 菓子を飲み込んでから、言い直す。

 

「……たまには、そういう買い方をしたくなったんだよ」

 

「そうか」

 

 レストはそれ以上尋ねず、甘い菓子の皿へ目を向けた。

 

「食っていいぞ。俺は、もうこれでいい」

 

「では、遠慮なく」

 

 相変わらず、菓子を取る手が速い。

 

 俺は菓子を食い終わってから、口を開いた。

 

「今日は、何か褒めるのはやめてくれ」

 

 レストが手を止めた。

 

「……まだ、何も褒めていないが」

 

「これから褒めそうだったからな」

 

 レストが笑った。

 俺も、自分の言い方に笑いかける。

 

 十二点買った金遣いより、あの工房を選んだことのほうが先に王宮へ届いたらしい。

 

「セレスティア。次に街へ行く予定は?」

 

「まだ決めてない」

 

「もし都合が合えば、母上の注文も――」

 

「増やすな」

 

 言ってから、付け足した。

 

「……悪い。頼む物が決まったら、聞く」

 

「急いではいないよ」

 

 レストは答えて、皿を俺のほうへ寄せた。

 

「もう一つ食べるか?」

 

「甘くないほうがいい」

 

「こちらだ」

 

 受け取って食う。

 菓子は手提げ四つより、はるかに使い道が確かだった。

 

◇

 

 レストを見送ってから、侍女に翌日の予定を確かめた。

 

「明日の午前中でしたら、お時間がございます。アルフレッド様も、市場へいらっしゃりたいそうで」

 

 それなら、ちょうどいい。

 

「では、一緒に出かけましょう。手配をお願いね」

 

 今度は、品物を見る目なんか関係ない。

 公爵令嬢らしい距離のほうを崩してやる。

 

 金を使っても駄目なら、次だ。

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