新しい司令官にも私は全力でぶつかる。
それが駆逐艦としての使命なのだから。
上司につくし、健康を維持し、できるだけ子供を産み、国に税金を納める。
困っている人がいたらお助けし、できるだけ多くの人を敵の脅威から守る。
それが朝潮型駆逐艦ネームシップ、この朝潮の生きる意味なのだ!
最初に着任した司令にはつきっきりで仕事をサポートをする。
どんな任務でも引き受けます!
趣味?贅沢?そんなものこの私には必要ありません!
何か言いたげな司令官をじっと待つこの私。
あぁなんて忠実な部下なのだろう。
だが今の司令官は前任以上に――――。
はうっと赤面する私に霞はまたあのクズをことを考えていると言う。
「霞、上官をクズ呼ばわりはするなとあれほど――――」
「はいはい」
「はいは一回です!」
「うっ」
「丸一日正座したいのですか?」
「朝潮姉さん、それパワハラだから」
「パワ……外国語でごまかそうとしても無駄です!」
「あらあら、いつも朝潮は真面目ねぇ」
妹の荒潮が困ったように言う。
「当然です!朝潮型、いえ駆逐艦というのは本来————」
「また始まった。姉さんはくどい」
妹の霰が床に座って漫画を読みながら呟く。
部屋がノックされる。
この部屋は私と霞と荒潮と霰の四人部屋だ。
二段ベッド二つが左右両サイドに設置されている。
前任よりも朝潮のことを今度の司令官は褒めてくれるのです!
「入っていいか?」
「な、なによクーーーじゃなくてあんた」
霞は私に睨まれると語尾をなおす。
よろしい。
「うーん、まぁ見回りだ。久しぶりの休日だからな」
司令官がガチャリとドアを開ける。
私は、司令官の前で敬礼する。
彼は私の頭を撫でる。
「よしよし」
「はふぅ~」
「犬……」
霰が何か言っているが気にしない。
「司令官、ご用命を!」
「うーん、遠征も出撃もたくさんやったからな。疲労回復に努めてくれ」
「流石です司令官!」
「ははは。朝潮ハグしてもいい?」
「ハグ……ですか?」
「そうだ。ハグ、つまり抱擁にはストレスを七割も軽減させる効果があるんだ」
「なんと!では、どうぞ!」
「うん」
ぎゅー。
彼は私を抱きしめる。
十分に抱きしめた後、私の頭を撫でる。
「ふにゃあああん」
「朝潮、ちゃんと清潔にして偉いぞ~」
「はい!清潔な身なりは対人関係を円滑にし、病気のリスクも激減しますと教えてくださったので!」
「そうだ。それに朝潮は女の体しているから、いい香りをしていた方がなにかと都合がいいんだ」
「そうなのですか?」
「そうだぞ~。自分の魅力を最大限に引き出す努力をするのは生物の本能だ。女性が美しくなれば、一緒にいる男は気分よく働けるからな。だからといって、容姿で人を判断するのは良くないぞ?客観的に見て不潔とかなら指摘すればいいし。まぁそれも間柄によるがな」
「なるほど!」
「今度、一緒に外出してお洋服買ってあげよう」
「いえ、そういうわけには、艤装で十分ですので」
「同じ衣服よりも違う服の方が気分転換になるし、公私をしっかり分けて季節に合わせた服装をするのも人間にいや人間の見た目をした君たちにも重要なことなんだ」
「はい!それならばこの朝潮、司令官を護衛し季節に合わせた衣服で気分転換します!」
うんうんと頷いて彼は私を抱き上げる。
「し、司令官?」
私は借りてきた猫のようにびよんとのびる。
「朝潮は軽いなぁちゃんと三食食べているか?」
「食べていますが――――」
「うん?」
「は、恥ずかしいので下ろしていただけないでしょうか?」
司令官の首に自分の両腕を回し、落ちないよう彼の腹に足を絡める。
「そうかそうか、恥ずかしいか」
彼は私の背中を片手でさすり、もう片方の手で頭を撫でる。
こころなしか、司令官の笑みがなんというか純粋なほほえみから―――。
「放しなさいよ!あんた!」
「霞~」
司令官はそういって私を下ろして、かがんで霞を追いかける。
生活水準は上がり、任務の成功率は劇的に上がった。
けど荒潮がいうには―――。
「下心ありありねぇ~」
というらしい。
それでも私は妹たちを大切にする司令官に朝潮はいつまでも尽くす覚悟です!
「鈍感」
霰の独り言は漫画のことだろうか。
暖かな陽射が窓から射した。
※ ※ ※
私はすぐに傷跡は完治し、周辺海域の哨戒ではぐれ戦艦を多数撃滅する日々が続いた。
燃料も少しずつ溜まってきているので心配はいらないと彼は言う。
季節はあの過去の大戦が事実上終わった夏。
艦としての私が沈んだ夏。
蝉が鳴き始め、向日葵が咲く季節だ。
サブスク?というものも飽きてしまい、私は食事と出撃以外では部屋に引きこもりがちになる。
もちろん運動もしようとは考えているのだが――――。
このままではいけないと思い、私は執務室を訪問する。
提督が本を読んでいた。
「失礼します、提督」
「おう。どうした」
「なにかお手伝いできることはありませんか?」
「うーん、ないな」
「そうですか」
「そうしょげるな」彼は本を机の上に置いて、私を見つめる。
「大和」
「はい」
「一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょうか!」
声を弾ませる私に提督は難しそうな顔で机上で手を組み、こう言った。
「白ワンピースを着てくれないか」
「はい?」
「白のワンピースを着てくれ―――」
「いえ、聞き取れてはいるんです、ただ意味が―――」
「俺が見たいんだ!」
「えぇ」
「明石に言えばすぐに作ってくれるはずだ。すでに手はずは整っている」
「いいのでしょうか」
「いいんだ。絶対に似合う」
「任務は―――」
「すでに一週間分終えてある。緊急時は霞と大淀が対応する」
彼の有無を言わさぬ視線にたじろぐ。
「わかりました」
「ホントカ!」
「すぐにご用意しますので」
「あ、あと間宮につくってもらったサンドイッチを一緒に食べよう。大和からすれば全然足りないかもしれないが」
私は頬を膨らませて抗議する。
「大食い女じゃありません!ただ補給の時、特別食事が必要なだけです!」
「わかった。悪かった」
「では準備してきますね」
私は気持ちを切り替え、微笑む。
そうしてお昼。
白のワンピースに着替えた私は明石に渡された白の日傘をさす。
開いた手には間宮さんからサンドイッチの入ったバスケットと水筒を持って提督の隣を歩く。
提督はクーラーボックスにラムネを入れて持ってきてくれた。
提督は軍服ではなく、私服だった。
なかなか現代ファッションに疎い私から見てもおしゃれに着こなしている。
入道雲がゆっくりと流れ、夏の日差しがアスファルトの地面をじりじりと焼く。
私は艦娘だから汗はほとんどかかないが、提督は少し暑そうだったので私の日傘の下に入れる。
向日葵畑が見える。
きれいな海が見える。
砂浜が見える。
ちょうどよい見晴らしの良いスポットにちょうどベンチがある。
提督に言うと明石に作らせたのだとか。
私は見た映画の感想を提督と共有しながら楽しい時間を過ごし普通のサンドイッチと紅茶が何倍もおいしかった。
ひとしきり会話を楽しんだ後、彼は鎮守府へと戻る。
私は彼を呼び止める。
そしてまるで挨拶するかのような晴れやかな気持ちで言った。
「提督!私、生きてて良かったです―――――」
蝉の声にかき消されないように私の声も届いて、提督も俺もだーと叫んだ。
そんな夏の日。
いいねぇ。