まだこれは今の提督が、着任してキス島攻略の具体的な作戦に踏み切る前のこと。
食堂で食事中の提督は、元気がない重巡洋艦の衣笠に声をかける。
衣笠は気にしないでと言ったが、後で執務室に来て青葉のことなんだけどと相談を持ち掛ける。
青葉は前任に入れられた独房部屋に引きこもり、食事も一応食べてはいる。
衣笠が心配していつも食事を運んでいるが、日に日に返事の声が小さくなり、ついには、返事する声もしなくなった。
提督は疑問に思う。
配属されている艦娘のことは全て把握しているつもりだった。
だが、前任の嫌がらせでそんな扱いを受けていることに一瞬怒りを覚える。
優しい衣笠はその感情を瞬時に察して、違うのよという。
「青葉のことを隠していたのは私の責任です。ごめんなさい」衣笠が言う。
提督も日々の執務に追われて独房の一つ一つまで回ることはしなかった。
自分の行動の甘さに後悔するも今は衣笠の話に耳を傾ける。
「前任は確かに優しくないし、叱ってばかりだった。それがだんだんと感情的になり、しまいには、青葉を独房に入れるようになった」
「原因は?」
「青葉の盗撮、盗聴、鎮守府内の艦娘のプライバシー侵害に加えて、旗艦にしても決まって独断専行して大破する」
「うーん」
「待って。それだけ聞くと、確かにあの子が悪いようにも聞こえる」
「青葉は本人の性能はともかく、数々の激戦を生き残ったんだろ?」
「えぇ。第六戦隊としての私も誇りに思ってる。それは今も変わらないわ」
「まぁ性能はかなり古い艦だから軽巡並みの装甲は致し方ないが……」
「きっと、青葉は艦としての記憶もあるけど、それ以上に艦娘のことを知りたい気持ちが強いの」
「終戦直前まで生き残っていたからか?」
「えぇ。激戦ばかりで、ほとんど大戦では他の子じゃなく私と古鷹たちと戦っていたし」
提督は立ち上がる。
「お叱りは私が受けます」
「過ぎたことを責めても仕方ない」
「でも私が悪いんです」
衣笠の方に提督は手を置く。
「まぁ青葉が回復したら、こき使ってやるから覚悟しろよ」
「はい!」衣笠が敬礼して提督を見送る。
どれだけの時間が経ったのか青葉はわからない。
コップ一杯の水を飲んでカメラで撮った画像を眺めるか、寝ること以外、ずっと体育座りでうつむいている。
自分はなぜ、こうも人に迷惑をかけるのか。
わからない。
そしていつまでも装甲は軽巡と大差なく、最新の装備はうまく扱えない。
燃費が低いと言っても戦果に焦って大破し、味方に損害を出すのだから結果的に資源を多く消費してしまう。
「青葉は悪い子」青葉は独り言をつぶやく。
独房の扉が突然開く。
衣笠が怒って開けたのだろうか。
見ると知らない男性が立っていた。
軍服だったので前任の提督かと思ったがよく見ると顔が違う。
「ちゃんと食堂で飯食え」
「司令官…………」
「いいからこんな殺風景な部屋から出ろ」
「青葉はいらないです」
「うるさい!」
「ひうっ」
「解体されたくなかったら食事をとれ。寝れては……なさそうだな。全く前任の野郎」
「立てないです」
「お腹が空いてか?」
青葉は頷く。
提督は青葉をひょいと持ち上げる。
赤子のように正面から抱きかかえる。
「へ?」
「じゃあ食堂にいくぞ~」
「あ、あの!もうちょっとマシな持ち上げ方を」
「衣笠!」
「はい!」
衣笠が提督の傍に寄ってくる。
「きぬがさ~」
青葉は恨めしそうな声を出すが本気じゃない。
衣笠もそのことが分かっているから、微笑んで提督に下ろされた青葉をおんぶして風呂に向かって青葉を風呂に入れる。
綺麗な体になった後、間宮さんからあったかいビーフシチューを食べて、パンを少しずつ食べて、お腹がいっぱいになる
提督は食事中、青葉の横隣、無言で座っていた。
「味はわかるか?」彼は頬杖をつきながら優しく微笑んでいた。
「はい」
提督は青葉を持ち上げて対面になるように抱きかかえて座りなおす。
青葉は抵抗をしようか迷ったが、あきらめた。
提督は青葉の頭をずっと撫でていた。
「あ、あの…………」
「あぁ、悪い。夕立にいつもやってたから、癖で」
提督はそういって、青葉の背中を撫でる。
青葉は食堂の面々から視線を感じる。
間宮さんも鳳翔さんも夕立も第六駆逐隊も朝潮もみんな…………。
「は、恥ずかしいからやめてください」
青葉はさすられて、ゲップする。
青葉は口元に手を当てて赤面する。
これじゃあ、まるで赤ちゃん扱いだ。
「久しぶりのまともな食事だからな。仕方ない。こんな姿見られたくなかっただろ?」
「はい」
「見られたくないものを見られるのは誰だって辛い。わかるだろ?」
「はい。ですから」
「嫌だ」
「んぇ?」
「なんかすごいふわふわで幸せな気持ちになるからこのままで」
「あぅううう」
「あとものすごく」
「?」
「いや、女性らしい香りだなと思って」
「ひぇ!?」
「まぁ何もしないけど」
「うぅ~」
涙目でしばらく撫でられると、青葉は赤ちゃんのように眠ってしまった。
それから丸一日眠り、考えるのがめんどくさくなって食堂で食事をとり、また眠るだけの日々が続いた。
一週間ほどその日々が終わるとすっかり体調は良くなった。
青葉は提督に呼ばれる。
「体調はどうだ?」
「はい、ばっちりです!」
「そうかそうか。体温、睡眠時間などもろもろ簡単に衣笠から見せてもらったけど嘘はついてないようだ」
「ご心配をおかけしました!提督!これで――――」
「うんうん」
「これで青葉を心置きなく解体できますね!」
「うん?」
青葉ははつらつとした声でまくしたてる。
「青葉は悪いことをしたのですが、後味と気分が悪いから食事と睡眠を与えたのでしょう!」
提督は考えて納得する。
なるほど、こういうところか、と。
「青葉、悪いが」
「いやあ退役後は何しよっかな~お金はないけどどこか遠い島に左遷でもいいですよ」
「却下」
「そんなそんなもう青葉は、提督の悪評を広めたりは」
「前任が辞めたのは君の告発が原因だな?」
「はい!ですのでもう用済みですし」
「却下」
「そんな、そんな、ためらわずとも青葉の代わりはいくらでも―――」
「駄目だ」
「あ、青葉よりも衣笠の体の方が女らしいといいますか」
「駄目だ」
「青葉は、仕事もできませんし出撃ではすぐに大破しますよ?こんなダメな私なんて」
「駄目だ」
「どうしてですか!」
青葉は怒る。
「ようやく怒ったな」
提督は青葉の前に立つ。
「司令官!」
「青葉」
「なんでですか!さっさと解体してよ!」
「嫌だ」
「この偽善者!独善者!独裁者!青二才!このっこのっ」
青葉が提督の胸を叩く。
大淀が心配そうに見る
「バカ、変態!、死ね!死んじゃえ!クソ提督!クズ!ふぬけ!」
「気は済んだか?」
はぁはぁと息をあげる青葉。
提督は自身の胸に青葉の顔をあてる。
「青葉」
青葉はなんの涙かもわからない涙を流しながら提督の顔を見る。
「お前が一人ぼっちになるからダメだ」
「青葉は悪い子です」
「そうだな」
「生きている価値がないです」
「そんなの誰にもわからないだろ?」
「私はダメな子です」
「そうだな」
「青葉は人の気持ちが理解できません」
「理解できなくても信頼を得る方が大事だし、俺は何度でも気持ちを丁寧に教えるぞ?」
「他のみんなに迷惑が」
「そんなの、誰も気にしてないって考えすぎだ。それより青葉、お前さ」
「ふぇ?」
「正直言っていい?」
「なんですか。引き留めようとしても―――」
「クッソ声可愛いよな」
大淀がずっこける。
「はへ?」
「声可愛すぎて無理だわ」
「な、なんですかそれ」
「体もいいかんじに抱き心地いいし」
「なにを、いって」
「だから俺がお前を嫌いになるまで、お前はこの鎮守府に配属な」
「ふ、ふざけないで―――」
「本気だぞ?」
そういってぎゅぅっと抱きしめる彼のぬくもりに青葉は戸惑う。
「普通は、優秀だからとか、そんなことないっていうもんじゃないですか?」
青葉は抱きしめ返して問う。
「でもお前の性格がアレなのは変わらないだろ?それに別に性能も低いのは事実だし」
青葉の頭を撫でながらそのまま静かな時間が流れる。
青葉は思う。
きっと今提督の顔はにやけているのだろう。
変な提督だなとおもったが、同時に――――。
この人を知りたい――――。
青葉はそう思う。
大淀に説教される提督を見て、青葉は心の底から笑うのだった。
青葉を攻略するならこんな感じになりそうだなと思った。