古参の駆逐艦で初期艦で選ばれる5隻はこの変人提督の鎮守府に奇跡的に揃っていた。
電もそのうちの一人。
彼女の性格は臆病で優しい。
献身的だが、仕事はよく言えば丁寧、悪く言えば遅いしミスはところどころ言い回しが子供っぽい。
艦としての性能は第二改装が実装されず、これといった強みがない。
かといって燃費がいいわけでもない。
「できれば戦いたくないのです」
だとか、
「沈んだ敵もできれば助けたいのです」などと、好戦的な艦が聞けば怒鳴りそうな意見を持っている。
秘書は毎日変えている。
気分よく毎日違う美少女に出会いたいのと、特定の艦娘との関係に依存しないで誰もが一定の仕事をまわせるようにするためである。
第六駆逐隊の響は合理的な判断と寂しくならないようにほどのほどの任務。
雷は出撃もするけど雑務でも何でも頼ってくれたら嬉しいという。
暁は大人っぽい扱いをすれば大体いい。
だが、電はどう接すればいいか少し提督は考える。
まぁ自然体で接するかと提督はかるく考え、執務を片付けていく。
今日の秘書は電。
電は黙々と仕事しているが、はたから見たら女の子が塗り絵を描いているような愛らしい仕事姿である。
仕事がひと段落すると彼女は提督にお茶を淹れる。
ちょっと味が薄いが、まぁいいかとズズズと温かいお茶を飲む。
「電、ちょっといいか?」
「はい」
「まぁここじゃなんだから、縁側に行こう」
妖精さんたちが作った縁側に温かいお茶を飲みながらお日様の温かさを感じながら庭の植物を見る。
「あの」
「あぁ悪い。あたたかくてついな」
「なのです」
「電」
「はい?」
「出撃するのは嫌か?」
電はうつむいて考える。
彼女もお茶を飲み、湯呑に茶柱が立つ。
「電は……誰かを傷つくのも、傷つけるのも嫌なのです」
「俺も嫌だよ」
「電は臆病です」
「慎重ともいえる」
「電は、誰かを救いたい、守りたいのです。いけないことでしょうか?」
「味方も敵もか?」
「はいなのです」
「うーん、俺が知っている限り、深海棲艦が一方的に侵略したのが偏向報道とはいえ世間の認識だから、敵を助けるのはなぁ~」
湯呑を置いて、提督はぼぅっと空を見る。
「それでも、傷つくのは誰だっていやなはずなのです」
「天龍が重巡の自爆を受けていることも考えると、敵は味方が死ぬことを楽しんでいるのかもしれない」
「私は…………」
「まぁいいたいことはわかる」
「考えが甘いのでしょうか」
「まぁそういって、否定するのは簡単だ」
「そう、ですね。司令官さんはどう思うのですか?」
「前の提督はどう思っていたんだ?」
「優しく受け入れるか、厳しく突き放すかのどちらかなのです」
「電」
「はい」
「殺すことより、殺さずに無力化することの方がはるかに難しいことはわかるな?」
「はいなのです。できればそうしたいとみんな思っています」
「だから、お前は、まず敵の艦載機や魚雷を打ち落とせるようにしろ」
「私は対空性能は……」
「それができなければ、ただの愚痴だ。夢や希望というのならある程度の努力は必要だ」
「そうすれば、誰も傷つかないで戦争を終わらせられる……」
「まぁ、電ができて、ここ艦娘の全て、そして鎮守府全体がその技術を習得すれば確実に被害は激減し、敵も無力化できる」
「はい」
「いいか、電。誰だって不公平や理不尽を受ければ、誰かを傷つけようと感情的になる。程度に差はあれど」
「そうですね」
「だが、目の前になにもなくて独房に入れられれば戦争はおろか喧嘩すらできず、目の前に銃があれば、人がそれを撃てばほぼ確実に人は死ぬ」
「銃が悪いのでしょうか?」
「そうじゃない。目的がすぐさま死に直結する手段が目の前にあることが良くないんだ。今は世界の大国が地球を破壊できる核兵器や、重火器を日本ですら使用していた。
まぁ簡単に言えば、ルールを守れば何をしてもいいんだ」
「人を殴ってもいいんでしょうか?」
「それはルールを守ればボクシング、市街地でやれば犯罪だ。なんでも適材適所、適量が全てということだ」
「このことは電にだけ言っているのですか?」
「いや、俺の仕事ぶりからだいたいみんな察してる」
「そうなのですか」
「別に手を汚せというわけじゃないが、ただじっと口を開けているだけで平和とごはんが手に入るほど世間は甘くない。まずは防空射撃演習を頑張れ」
「はいなのです。司令官さん」
「おう」
「電は、いっぱい、いっぱい、味方を助けるのです」
提督は微笑んで電の頭を撫でる。
とてててと、防空射撃演習に向かう彼女を見送った後、電話の受話器を取る。
「あぁ、防空射撃演習ですが、もっと厳しめに――――」
訓練を終えた電が後に、敵艦載機を主砲一発で一機を撃滅する凄まじい練度の駆逐艦として恐れられるのだが、またそれは別の話。
電は汗を流して牛乳を飲んだ後、自分の考えを否定せず、現実的な方法を示し、温かく見守る提督を見つめる。
そして朗らかな笑みをうかべるのだった。
提督は考える。
「確実に電は大人の姿になったらいい感じの美人になるな」
そう考えていた。
むっつりだった。
だが、それを電が知るのはもう少し後になる。
おまけ。
曙は気づかないうちに、心に提督が占める割合が多くなっていることに気づく。
最初はほんの愚痴や、仕事のミスを指摘してやろうという気になった。
だが、だんだんと居心地がよくなり、お茶を出せ、お菓子よこせと言うようになった。
「はい、お茶!」
「おう。曙、ちゃんと前を見てくれな」
両手で湯呑を抱えて赤面しながらそっぽを向いている曙からお茶を受け取る。
「クソ提督!」
「ん~?」
提督はしゃがんで曙と視線を合わせる。
「作戦成功したわ!褒めなさい!」
「おぉ~そうか、偉いぞぉ~」
「ふふん、そうでしょ!」
ナデナデ。
「触るな!クソ提督、も、もう!」
ナデナデ。
「だから、なんで触るのかな!」
なでなでなでなで。
「~~~~っ」
不機嫌そうに腕を組み、そっぽを向いているが、手を振り払おうとしない。
曙を抱き上げる。
無言で見つめる。
そして下ろす。
「ふんっ!」
と言って、曙は部屋を後にするが、退室時に見えないようにそっと手を振る。
部屋の物陰から潮が提督のことをじぃ~と見つめる。
提督が振り返ると、潮は申し訳なさそうに、体を縮ませる。
「もう、もうやめてください」
「潮~」
提督は威嚇する熊のポーズで追いかける。
潮は逃げるがその表情は嬉しそうだ。
「ひゃあああ」
「待てぇえ」
逃げ去った後、また物陰からじぃーーーと見つめる。
提督が手を振ると、潮も手を振り替えす。
「ケッ」漣がその一連のやり取りを見て、不機嫌そうに言う。
「まぁまぁ」朧が漣をなだめる。
日常である。
大淀はご飯を食べていた。
明石が隣に座る。
明らかに不機嫌そうだ。
「大淀…………?顔が怖いよ?」
「あぁ?あぁ~」大淀は噛んでいたご飯をごくりと飲み込む。
「はい、すいません」
「何かあったの?」
「いえ、別に。調子に乗った提督の処遇について憲兵から何も言われませんし、大規模の作戦でうちはまだ無理と言い張ったりしていただけですが?」
「そ、そう」
もぐもぐもぐもぐ。
「大淀ってさ……提督のこと嫌い?」
ちらりと明石を見て、大淀は鼻で笑う。
「上層部より好きですし彼と私はた・だ・の、仕事上の付き合いですよ?」
「な、なんかごめん」
ありふれた日常である。