ちょっと提督が厳しく接しますが、なんとなく雪風レベルのブラックさを克服させるとある程度覚悟をしないといけません(妄想)。
雪風は数々の大戦を生き抜いた幸運艦。
だが、仲間がどんなに結果になろうとも笑顔を絶やさないでほぼ無傷で生き残ってから陰口で死神と呼ばれ始めた。
まだそれはいいほうで、失敗を私の責任にするときもあった。
お前だけ傷つかないのはおかしいと。
雪風はいつしか笑顔以外の顔ができなくなっていた。
辛い時は笑うといいのよと優しくしてくれた人を思い出そうとする。
だが誰だったか思い出せない。
前線を支えてほしいという事実上の左遷命令を聞いて、彼女はどちらかといえばマイナーな鎮守府に着任する。
報告によればその鎮守府は以前までは戦果が上がらなかった。
戦果が上がるようになったら、今度は艦娘からの改善嘆願書が後を絶たず、そこに所属する、重巡青葉の不正の証拠から、更迭。
新しく赴任した提督はわずか半年でその近辺の鎮守府では難しいとされている北方の海域を水雷戦隊のみで攻略した。
艦娘から異動願いや改善の嘆願書はほとんど見当たらない(あったとしても真面目過ぎてクソなことをしてほしいという第七駆逐隊ののろけた報告だったらしいが)
どうせ、私は激戦でこき使われて、沈むまで出撃させられる。
そして笑顔以外を忘れた私を不気味に思うのだ。
雪風は海の上を走る。
誰も見ていないのに、いつからか味も分からないものをおいしそうに食べる演技だけが身についている自分に内心反吐が出ると思った。
※ ※ ※
「幸運艦雪風、か。戦果はあるし、大破経験なし…………か」
提督は報告書に目を通す。
「いいことではありませんか?」 大淀が隣から書類を覗き込む。
提督は大淀から接近されて普段ならにやけている顔が、真剣なままだ。
「演習の成績はオールA、単独行動無し命令に忠実、戦艦を夜戦で撃滅」
「それの何の問題が?素晴らしい実力だと思いますけど」
「…………鎮守府内の他艦娘との不仲。常時笑顔から疾患の疑いあり」
それを言った提督は椅子にもたれかかり、大淀は気まずそうに眼をそらす。
「と、とにかく、まずはあってから判断しましょう」
「まったく、俺は精神科医じゃないが?」
提督は立ち上がり、海岸に向かって雪風を出迎える。
「でも、可愛い艦じゃありませんか」
大淀は言いながら、提督の背中を追いかける。
「報告の最後の一文がなければ素直に喜べるんだがな」
「どうするつもりですか?」
「うん?いつも通り、俺は変わらないぞ?」
「そ、そうですね」
「あ、なんどその、とかなんとかいって、艦娘を篭絡させる女たらしのくせにっていう顔は~」
「そ、そんな顔していません!」
「スカートの横からいつもパンツの紐見せてるくせに」
「!?」
スカートの左右を両腕で抑えた後、怒鳴る大淀に、提督は両耳を塞ぎながら雪風の元へ向かう。
※ ※ ※
「雪風です!しれぇよろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく」
「どんな任務も、雪風にお任せください!」
「はいはい。じゃあ、大淀部屋に案内して」
「わ、わかりました」
突然飄々どころかそっけなく雪風に接する提督に驚きながら大淀は笑顔で雪風を案内する。
「大淀さん!お疲れ様です!」
「え、えぇ」
ニコニコ。大淀と雪風が並んで歩く。
大淀は雪風の顔を見る。
ニコニコ。
(ひ、瞳が笑ってない――――)
大淀はこの艦娘の心を提督がどう開くのか、不安を覚えたのだった。
※ ※ ※
雪風はしれぃの部屋を訪れます。
「しれぇ、出撃準備いつでもいけます」
「しばらく部屋で待機。下がれ」
「はい!えっ?」
「聞こえなかったか?待機だ。下がれ」
「はい。わかりました!しれぇ!」
「あと、お前意味もなく笑うな。気持ち悪い」
雪風は無言で部屋を後にする。
大淀は提督の顔色をうかがう。
「きちぃ~」
彼はなんともいえない苦しそうな表情で胸を押さえていた。
「いいのですか?」大淀は心配して提督の背中をさする。
「下手な優しさはかえって、あいつの傷を押し広げるだからな」
「なるほど」
しばらく提督の態度が冷たくなったが大淀から個別に艦娘に説明がなされ、曙が雪風の面倒を見ることになった。
「曙さん!」
「雪風」
「出撃はまだですか?」
「まだよ。遠征も今日はないわ」
「暇です!」
「部屋でアニメと漫画をみていなさい」
「飽きました!雪風は戦艦も沈められます。曙さんと違って!」
曙はぴくぴくと顔を引きつらせる。
「そ、そう。クソ提督はあんたが意味もなく笑うのをやめれば出撃させるみたいよ」
「これは生まれつき、こういう顔です!」
んなわけないでしょっと曙はぐっと言うのを堪える。
「あと、もうちょっとあんた他の艦と仲良くしなさいよ」
「いえ、いずれ沈む艦を雪風が覚えて馴れ合う必要はないです!」
「んなっ――――」
曙は怒鳴ろうとする。
潮が口を押える。
漣が溜息をつく。
朧がちょっと不機嫌そうに雪風を睨む。
「群れても意味なんてありません!雪風さえいれば戦局は覆ります!」
曙が潮に息をさせろと合図する。
潮は謝罪し、曙を解放する。
潮も実は怒っていた。
だが、提督に言われ、根気強く接することを求めらている。
「雪風はしれぇにお仕事貰ってきます!」
去っていく雪風を見て、第七駆逐隊はそれぞれ目を合わせる。
「提督もつらい役回りですなぁ」
漣がいうのを他の三人も頷くのであった。
※ ※ ※
私は笑顔をするのを少しずつではあるが、辞めるようになった。
最初は毎朝鏡の前で笑うように口を動かすのをやめた。
次に食事時、次に、話すとき。
笑顔に意味がないとわかりめんどくさくなったのだ。
仕事ももらえず、美味しそうに食べる演技をしてもしれぇは態度を崩さない。
ある日に泣きそうになりながらなにか叫んで我慢できずに泣く間宮を提督は抱きしめていた。
後から、それは食事で砂糖と塩を間違えたものを食べても変わらず美味しそうに食べる私を間宮が提督にあまりにも可哀そうだと意見していたと知った。
つまり、その時点で雪風の演技は全てばれていたのだ。
意味もなく食堂に入る。
電気がついている。
雪風が着任した最初の頃を思い出す。
あの頃は―――。
みんながいた。
自然に笑えていた。
なんで今は――――。
雪風は暗い顔でうつむく。
唇を横に伸ばし、笑顔を作ろうとする。
だがそれもうまくいかない。
雪風は――――。
「よう」
「しれぇ」
「どうだ。やっと素直になれたか?」
「わかり、ません」
「おいで」
初対面の頃から違う微笑みと優しい声に雪風は素直に提督の膝の上に座る。
雪風の頭を後ろから撫でる。
その優しさに雪風は考える。
「今、何考えてる?」
「しれぇはなんで雪風が心から笑ってないってわかったですか?」
「うーん。まぁなんとなく」
「胸のここがじんじん痛くて辛いです」
「うん」
「敵を倒しても倒しても、味方は――――」
「言うな」
「守れませんでした。救えませんでした。それを考えると息ができなくて」
「雪風、人は生まれたらまず最初に泣くんだ」
雪風は黙って聞く。
「泣いて息を吸うんだ。生きるために。お前も息を吸うんだ」
「雪風は」
「ただの女の子でも兵器でも、幸運でもない」
「じゃあ、なんですか」
「雪風は雪風だ。それはお前が考えろ」
「わかりません」
「うん」
「わからないことばかりです」
「うん」
「知ったらその分失った時傷つくと思って」
「そうだな」
「怖かったんです」
提督は何もいわず雪風と向きあって雪風を強く抱きしめる。
「ごめん」
提督が涙を流して、そういうのを見て、久しく忘れていた感覚が瞳の中にやどる。
響き渡る雪風の声を見て、大淀と間宮は安心したように微笑むのだった。
あとで青葉からその様子の映像を受け取った以前の鎮守府から感謝の手紙が届く。
「雪風、出撃します!」
「おう!行ってこい!」
「行ってきます。しれぇ!」
今日も暁の水平線に勝利をもたらすと彼女たちは信じている。
「しれぇ!」
帰投後、雪風は提督の頬にキスをする。
「女神のキスです!」
お疲れさまでした。