一ヶ月以内に戦果報告をすればいいため、一日の業務はほとんど休みにした。
俺について回る妖精さんたちのお蔭である程度の資源回復はなんとかなりそうだ。
大淀は俺が仕事の書類をほとんどをごみ箱に捨てた時は引きつった笑いをしていたが致し方ない。
できることだけ少しづつ。
療養で身をもって知った教訓である。
強い他の鎮守府との演習をこなしながら、後は自由に過ごしてもらう。
俺は仕事をほとんどやらなかった。
というか、無駄な業務というと語弊があるが、ほとんどの業務が上層部に媚びへつらう仕事だ。
着任して数週間で結果を出せば期待と責任、やらなければ職務怠慢、ノルマギリギリでも向上心がないと怒られる。
つまり、新人のうちはどういう態度で仕事に臨もうと上司に怒られるのが関の山だ。
だったら演習に全神経を集中してもらい、装備の手入れと健康的な生活で俺への信頼を得る。
それが最初の任務だ。
要はできるだけ楽をさせて、俺も楽したい。
毎朝5時に起床させられ、間宮のメシ(病院食に近い)を食った後、俺はのんびりスローライフ系のフリゲをして、その後、釣りをする。
釣りは別に好きじゃないが、暇な時間をのんびり過ごすのにいい。
鎮守府正面海域でしか釣りができないのが残念だしほとんど釣れないだろう。
釣り糸を垂らしながら、ぼんやりと海を眺めていると、後ろから抱き着かれる。
俺が清潔でいてほしいという建前で女の子の匂い(俺の偏見)がするお風呂製品のにおいを漂わせ、座っている俺の顔を覗き込むように夕立が笑顔を向ける。
やっぱり女の子は笑顔だな。
「釣れるっぽい?」
「いんや」
「楽しいっぽい?」
「いんや?」
「むぅうう」
俺は頬を膨らませて子供みたいに怒る夕立を見て微笑む。
「日向ぼっこでもするか?」
「なんだかおじいちゃんっぽい」
「ゲームや漫画、映画もしこたま買ってきただろ」
「全部飽きちゃった」
「まだ一週間だぞ」
「体がなまるっぽい」
「走ってこい」
「夕立は犬じゃないっぽい……提督さん」
「んー?」
「夕立と一緒じゃ嫌なの?」
「いんや」
「提督さんはなんで提督さんになったの?」
「うーん、面白そうだったから」
「それだけ?」
「それだけ」
「そっか」
あぐらをかいている俺の前に夕立が座り、顎に彼女の後頭部があたる。
シャンプーだけではない、なんだかいい匂いがする。
夕立が俺の顔を見上げる。
「えへへ」
俺も微笑む。
「頭撫でてほしいっぽい!」
「いいのか?」
「うん!」
「そうか」
優しく撫でる。
「なんか慣れてるっぽい?」
「昔ウサギ飼っていてな」
「ウサギさん……絵本でしか見たことないっぽい」
「まぁもう全部亡くなったけど、いい思い出だよ」
「そっか……ねぇ」
「ん?」
「提督さんは私たちを見捨てないっぽい?」
「んー、まぁ身の丈にあった生活ができればそれでいいよ」
「身の丈?」
「そう、普通の生活」
「普通……普通」
「まぁ何も考えず、自分がなんかよさそうだと思った生活だよ」
「夕立は……提督と」
「俺と?」
「一緒にいられればいいっぽい」
「そうか」
なでなで。
夕立が俺と向かい合うようにして俺に抱き着く。
「いなくならないでほしいっぽい」
俺は少し震える彼女の背中を撫でた。
何も釣れなくても、いつか海はきれいになるはずだから。
※ ※ ※ 黒い髪であどけない表情の駆逐艦艦娘。
第六駆逐隊の長女、暁。
高い索敵能力と、探照灯といういわゆる囮用の明かりを用いて闘うことを得意とした艦娘である。
本人はレディと自称するが、夜のトイレに行けないことや、ぷんすかといって怒る様が一部提督で人気である。
初対面で呼び出した時に一番の暁からの要望は、もっと女の子として扱って欲しいというもの(もちろん戦闘面で活躍したい、遠征ばっかりは嫌というのもあるが)。
傷だらけ、埃だらけで囮をかってでている彼女ではあるが、おしゃれなモノへの欲求は抑えられず、お金も満足に支払われない現状に嫌気がさしているようだ。
お金に関しての価値観は、まぁ小難しい経済は抜きにして、店のモノはお金を払わないと手に入らないことは最低限理解しているらしい。
まぁ暁だけ、特別扱いすると、他の艦のわがままの口実になるから、大金ははたけない。
彼女の被弾率もすさまじく、シャンプーやせっけんを支給した時はたいそう喜んでいたと夕立が暇つぶしに話していたが、なにより嬉しそうだったのは、初めて甘味を食べた時の反応だ。
最初に彼女らが食べた甘味はお汁粉だ。
豆類の甘味は缶詰加工され保存がきくものも多く、国内での生産が全くできないわけでもない。それに具は基本的にもちだけでいいし、初めて食べる甘味としてはちょうどいいだろう。
暁に対しての思考を巡らせながら執務を片付けていると、ドアがノックされる。
返事すると、暁が入ってきた。
「どうした?」
暁はもじもじしている。
じっと待っていると、意を決して、彼女は言った。
「司令官、お給料もらってもいいかしら」
「艦娘は基本的に備品だから給料は払えない」
「うぐっ」
「なんだ、欲しいものでもあるのか?」
「甘味」
「ん?」
「だから甘味をもっと食べたいの!」
「間宮には言ったのか?」
「まず司令官の許可と予算を貰わないことにはどうにもならないって」
「あぁ~まぁそうだな。どんな甘味がいいんだ?」
「わからない。とにかくたくさんの甘味がいいの!」
「太るんじゃないか?」
「太るの?」
「まぁ食べ過ぎはお腹にも良くないしな」
「そうなんだ…………じゃあいいわ、ごめんなさい司令官、わがまま言って」
「まぁそれを言えるぐらいの関係にはなってよかったよ」
「失礼します」
パタンとドアが閉じられ、俺は椅子にもたれかかる。
妖精さんがふよふよと俺の頭上をまわる。
「お前たちも欲しいのか?」
「飴玉あきたでち。新しい甘味を要求するでち!」
「なのです!」
俺は溜息を押し殺す。
「ん~まぁいいか。砂糖はまだ手に入るがただ他の小麦粉とかの粉はロシアとウクライナだよりだが、ほとんど手に入らない。チョコレートなんて最初に深海棲艦に資源のあるアフリカが狙われて一口サイズで一万円だし」
俺はしばらく考えて有休をとり、街を散策し、目当ての店を見つけ店主のおばあさんに交渉した。
数日後。
駄菓子屋のお菓子とラムネが大量に手に入り、暁は目を輝かせていた。
「こんなにいいの?」
「大丈夫だ、辛い時期を乗り越える甘味でこれ以上の安価なものはない。安心して食え」
「やったー!」
「ただし、一日三個、食べたら必ず歯を磨け」
「はい!」
海軍式の敬礼をする暁に俺は苦笑いしながら、他の駆逐艦と一緒に駄菓子のあたりに一喜一憂する様をみて、まだまだ日本は捨てたもんじゃないなと思った。
ここまで読んでくださりありがとうございました。