されど、勝つ為の準備は怠るべきではない。
行商人アンナはオレルアンの地を踏んでいた。
と言うのも、行商人仲間から話を聞いたからだ。
オレルアンにアカネイアのニーナ王女がおり、人を集めている
と
行商人の中にも色々いる。
アカネイアの体制が崩壊した。
それを好機と見る者も存在するのだ。
アンナには少しばかり理解出来ない⋯いや、したくない話だったが。
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事実なのはアカネイアという大陸秩序の要が崩壊した。
それにより、各地の治安も悪化し商いにも支障が出ていると言う事である。
⋯アンナも含めてアカネイアによる大陸秩序が好ましいとは思えぬまでも、秩序を回復し
今まで通り商売がしたい。
それは偽らざる本音であった。
まして言い方は悪いが、ニーナ王女の側周りがいない現状であれば、
やれ賄賂だ、付け届けだと言われる事もないだろう。
そう思い、アンナはオレルアンに来ていたのだ。
勿論、自身の立身出世も考えなかった訳では無いが
「まぁそんな所だな。」
アンナにとって一世一代の賭けとも言える話に対して、ゲレタと名乗る人物は軽く頷いただけである。
⋯まさか、此処でも必要なのだろうか?
そう思いはしたが
「金で得られるものは金で失う。
そんなあやふやな事を命綱となる組織を創るのに必要とは思わないが。」
つまらなそうにこちらを見つめる目に考えを改める。
アカネイア貴族や有力者のするそれではない。
此方を推し量っている視線だ。
アンナは内心の緊張を押し隠しながら、努めて冷静に話をする事とした。
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「相変わらず手が早いと言うか。」
「そう言うなって。そのお陰で俺達はオレルアンに来れた訳だしな。」
既にタリスにおいてその存在を汎く周知されている『ゲレタ式』
その核となるのが腰帯と安全靴。
何方もタリスにおいて持っていない者が居ない。そう言われる程の普及率と知名度を誇る。
特に女子供や年老いた者であっても賊に抵抗出来るところが受け入れられる大きな要因となっており、中でも『忠臣』カシムの年若い弟がガルダの海賊を撃退した事は民の間で語り草となっていた。
カシムの妹は身を守る術としてゲレタ式を修め、弟達も日々足技の鍛錬に勤しんでいる。
更に最近では『蹴球』なる遊びもタリスにおいて広まりつつあり、彼等革・鉄職人の仕事は減る事はないと言う。
特に革職人の親方はあまりの嬉しさにゲレタの妾として自身の娘を出すべきか。
真剣に考えた程だ。
更にタリスはその国力に見合わぬ強力な防衛力を有する様になり、木工職人も仕事が増えている。
その功労者たるゲレタの願いとあって、職人の中で聞かない者はいない。
ましてや、オレルアンという友邦へと向かうなれば尚更。
ゲレタは確かにレナを気に入ってはいない。
だが、それが彼女の安全を確保しない事には繋がらないし、繋げてはならぬ。
ゲレタはレナに対して『ゲレタ式』を教え、身を守る術を身につけるべきと告げ
彼女はエリスに任せる事とした。
何だかんだでマルス達の中で一番ゲレタの影響を受けているのがエリス。
当然『ゲレタ式』の有用性、それは彼女自身身をもって理解していた。
なお一部の者が文句を言ってきたが
「では何か?
無抵抗のままなぶり殺しにされろとでも言うのか?
常に人を貼り付けられる程、戦力に余裕はないのだが。」
とゲレタは返している。
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「失礼とは思うが、ゲレタ殿の戦い方。
危険ではないだろうか?」
それはオレルアン城をマケドニアから取り戻した直後の話。
言いにくそうにハーディンはゲレタに話を向ける。
ゲレタはハーディンの様子から、ハーディン麾下の騎士の中に自分の戦い方について危惧している者がいる事を察した。
「傍目危険とは思いますが、それは戦場にあって当然かと。
一応剣も使えなくはありませぬが不得手でして。」
ゲレタの言葉にオグマやバーツ達は笑いを噛み殺す。
ゲレタの言う所の不得手
それは戦力にならない。ではなく、敢えて戦力としたくないだけである事を知っているからこそだった。
ゲーム的に言えば、素早さこそカンストしていないが幸運はカンスト。
数値にして
速さ15幸運20と言った所だろうか。
しかも武器を持っていない事で武器の重さは当然無く、非常に鬱陶しい所謂『回避盾』と言われる部類に入るのがゲレタだ。
その上油断すれば歩兵なら急所を
騎兵ならば騎馬の脚を痛打する事に躊躇いがない。
なお手間取るとベルトによる顔面攻撃も追加される模様。
幸い、その様な場面はオレルアンにおいて無かった為にハーディンやその騎士達はゲレタの異質極まる戦闘法について知る事は無かった。
何せゲレタには怖い護衛がついており、ゲレタが攻撃を回避して体勢が崩れた所に矢が射られる。
確実に相手を仕留める凶悪なコンボであった。
カシムとしては主君に危険な真似をさせたくはなかったが、
「そっちの方が効率が良い。」
と言われては否やはない。
主君に近づく敵を全て撃ち倒せば良いだけなのだから。
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とは言え、これから共に戦う仲間だ。
ゲレタとて、己のやり方が合理的であっても万人から受け入れられる方法で無いのも理解はしている。
⋯それでもなお、せねばならぬ理由があるだけだ。
故にゲレタは模擬戦をするのを拒否するつもりはない。
足手まといと見られては、自分に信を置くマルスやエリスに対する悪い風聞にも繋がりかねない。
そこで急遽、ゲレタと騎士ビラクによる模擬戦が行なわれる事となった。
やり辛いっ
剣を振るうビラクは内心焦る己の心を抑えようとしていた。
何せ攻撃が当たらないのだ。
焦りもしよう。
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独特な雰囲気がその場を支配していた。
ゲレタは積極的に攻撃するつもりはないらしく、ただビラクの剣を避けるばかり
⋯しかし、時に思わせぶりな強い踏み込みや攻撃の素振りを見せるから迂闊にビラクも隙を晒せない。
それは大陸において主たる戦い方ではなく、寧ろ一部の傭兵が好んで使う戦法にハーディンには思えた。
力ではなく、技や速さによる戦い。
それはまだ経験の豊富とは言えぬビラクにとって未知のものであり、
神経を削るかの様な戦いであった。
痺れを切らしたビラクは力を込めて剣を振り下ろす。
模擬戦用の剣故に切れ味は無いに等しい。
だが、その重量とビラクの膂力から繰り出される一撃は決して侮れる威力ではなかった。
⋯当たるならば
ゲレタは間合いを切り
つまりビラクの攻撃範囲から距離を取り、攻撃を空振らせ
「⋯しっ!」
振り下ろされた剣に己の蹴りを合わせた。
鈍い音と共にビラクは得物を失い、模擬戦は終わりを告げる。
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「あいも変わらず奇をてらった戦い方だ。」
観戦していたオグマは感心した様な感想を口にする。
オグマ達、タリス勢やジェイガン達アリティア騎士。
彼等はゲレタとの模擬戦において、何よりもゲレタの脚に注意を払う。
急所狙いの一撃を貰えば、マトモに動けないばかりか
思考すら定まらないのだから。
まぁそれにばかり注意を向けると何を仕掛けてくるか分からない。
そんな怖さがゲレタにはあったが
これによりジェイガンなどはモロドフと真剣にアリティア騎士団の装備の変更を議論した程。
まぁ、騎馬に跨る以上それは難しいとの結論に至ったが。
「騎士を見ると上半身に対して下半身の守りが薄い。
おおかた騎馬に跨る為の措置なのだろうが、ならそこが狙い目になるよな?」
ゲレタは己が弱者であると認識している。
であればこそ、相手の弱点を狙うべきと考えていた。
弱者の抗い方。
そうであるが故にタリスで『ゲレタ式』は受け入れられたのだ。
なお、ゲレタの忠臣たるカシム。
彼は勿論ゲレタの薫陶を受けた人物であり、
「カシム相手に接近戦は無謀。」
そう言わしめる程の実力を持つに至っている。
何せ弓使いは懐に入られれば弱い。
更に弓の弦が切れても役に立てぬ。
であれば、ゲレタの唯一無二の臣を自称するカシム。
「
そんな弱音を吐きたくはありませんので。」
との事
まぁカシムの妹弟がゲレタの教えを学んでいる事も決して無関係ではあるまいが。
余談となるがオレルアンに来た職人達。
彼等も勿論
なおゲレタの履く安全靴は
故にカシムやエリス。職人達のそれと一線を画す威力がある。
因みにゲレタはニーナにも叶うならばゲレタ式を教えようと考えてもいたりする。