オレルアンにおけるゲレタの活躍は必然的にマルスやエリスの評価も上げる事となり、未だ解放されていないアリティアに対しても好意的になるには過ぎたもの。とすら言えるものだった。
国家に永遠の友人なし
とは言うものの、信用の差は大きなものとなる。
仮に敵対するとしても、内政が充実している国家を相手にするのはかなりの危険が伴う訳で
それだけでも相手が躊躇するに足る理由となろう。
アリティアと同盟国でありながら、アリティアを裏切ったグラ。
ドルーアという強大な存在と比べ、アカネイアは滅び
ドルーアに与するはマケドニア、グルニアという軍事的に強力な国家。それに対するはアリティアのみと言う状況であり
また奇策を用いればアリティアに勝てる。
そう国王ジオルが見なしたからこそ、ドルーアに与する事を選んだ訳だ。
----
アカネイア大陸史によると、人類最後の国家はアカネイアであり
メディウス率いるドルーアにより一度アカネイアは滅亡するも、アカネイア王家唯一の生き残りアルテミス王女は辛うじて難を逃れ、開拓民の集まりに迎えられる事となる。
アルテミスの生存を知ったドルーアは開拓民側を攻め、開拓民側は多大な犠牲を出しながらも王女を守り抜く。
一方ドルーアに滅ぼされた旧アカネイアにおいて、ドルーアの注意が逸れた事もあってかカルタス率いる反乱軍が密かに組織され、アカネイア解放の為の戦いを始めた。
旧アカネイアとアルテミスを匿う開拓民。
その二つの戦線を図らずとも持つ事となったドルーア。しかし、開拓民側にもカルタスにも決め手がなく、事態は膠着状態に陥ったかに思えた。
白き賢者
或いは大賢者ガトー。
かの人物は開拓民のなかの一人の青年に何を見たのか、それは定かではない。
確かなのは青年アンリに試練を与え、その試練を乗り越えた彼にかの者はメディウスを倒せる武器を授けたと言う。
その武器を受けたアンリは見事ドルーアに乗り込み、メディウスを打ち倒す。
メディウスを喪ったドルーアは崩壊し、アカネイアは反乱軍…もとい解放軍のリーダーカルタスと王女アルテミスにより再建される事となった。
多大な犠牲を出しながらアルテミスを守った。
そして
時期が多少前後するが、この時期にオレルアンやグルニア。マケドニアも成立し、アカネイアを中心とした大陸秩序が完成を見る事となる。
だが、如何なる英雄だろうと死は平等に訪れる。
とある事情から妻を持たなかったアリティアのアンリ王。
彼は自身の死期を悟ったのか、後継に最も信を置く弟マルセレスとし、メディウスを討ち果たした武器
ファルシオンを継承させた。
これにより、アリティアは安泰
とはならなかったが
----
前述した通り、アリティアは開拓民の集まりであった。
確かにアンリはメディウスを討ち果たすという比類なき功績を挙げたのは事実。
故にアンリを国王とし、アリティア王国を建国する。
それに異を唱える者は現れなかった。
尤も居たとしても口に出せる筈もなかっただろうが。
アンリの息であれば何の問題もない。
しかしマルセレスは活躍したと言っても、彼以外にも功臣はいただろう。
言ってしまえば親族故に後継と定められた。
そう見ない者ばかりだろうか?
これが何代にもわたる国家なれば、王家の血筋として認識されていた事だろう。
恐らくアンリが妻を持たぬ事に不満を持った者や不安を感じた者もいたのではないだろうか?
にも関わらず、アンリは最後まで己の血を残す事はなかった。
それに対して最も意見出来た筈の
しかし、それは果たされる事なくマルセレスが王位を継いだ。
となれば、心ひとつに纏まる筈もなし。
アンリが没した後、アリティアから一部地域がグラ王国として独立。
奇妙な事だが、アカネイアはグラ王国に対して兵を出す事なく放置。
結果大陸秩序にグラ王国も組み込まれた。
さて、グラはアリティアから独立した国家。
これを念頭に置くと、アリティアに対するグラの裏切りと
それまでのアリティアとグラの同盟。
別の意味が見えてこないだろうか?
まぁそれで裏切りが正当化される訳でもなし。
怨恨ってのは中々に厄介なもの。
割り切りの上手いジェイガンやモロドフですらグラに対して複雑な顔をするくらいだ。
勿論、若い騎士達やマルスもそうだ。
エリスは俺の影響からか、割り切っているらしい。……正直複雑だ。
----
立場や視点が違えば見えるものや感じるものも変わる。
価値観とは千差万別。
別に裏切りを否定するつもりはない。
だが、事実として裏切りが忌避される
信じたく者の為に行動するのだろう?
なら、その行動に対する評価は甘んじて受けて欲しいものだ。
出来るなら、それで問題を起こさないで欲しいけどね。
マケドニアの騎士マチス。
彼は妹レナの説得により、此方につく事を選んだ。
…本来祖国を敵に回すと言うのは茨の道。
それこそ、マケドニア貴族である二人の親が死んだとしてもおかしくない。
…果たしてその辺りを考えているのか、疑問ではあるが。
それを抜きにしても、実力がない。
実力が無いのはまだ許せても、戦意が無いのは非常に宜しくなかった。
祖国解放に燃えるアリティア勢
アリティア勢を助けんと気勢を上げるタリス、オレルアン勢
その士気の高さについていけない者達。
はっきり言って構っている程に俺に余裕はない。
何せアリティアを取り戻したとしても、民心を戻すのは容易ではないのだから。
先んじてモロドフがアリティアに入り、マルスやエリスの無事を喧伝。
アリティア王家に対する心象の悪化を可能な限り防ぐ事としている。
その為にタリス王へある程度の支援をお願いした。
「ゲレタ殿には国を盛り立てて貰っている。
反対する者はおらぬぞ。」
信用と働きに対する対価として快く引き受けてくれたものだ。
後方支援部隊の編成や人選。
更に行軍するにあたり必要な物資を用意せねばならぬ。
確かにオレルアン公やオレルアンの官吏達には協力して貰っている。
だからこそ、必要以上にオレルアンへ負担をかけるのは慎まねばならない。
例えアカネイアを再興しようと
ドルーアを倒したとしても、世界は続くのだから。
情報統制や規制はしていない。
寧ろこれである程度の把握も出来るというものだ。
情報を制する者は世界を制する
とは言ったものだが、そこまでではなくとも相手をある程度測る事や操る事も出来るもの
だからこそ、古来より調略や流言などが頻繁に行われるのだから。
----
マケドニアは予想通り動かない、か。
オレルアンの奪還やニーナ王女による反ドルーア勢力の決起。
これらは紛れもなくマケドニアの失点だ。
であるならば、失態を濯ぐ意味でも戦力の展開が早い意味でもマケドニアが適任なのだが、前線指揮官であるミネルバと国王ミシェイルの意思統一がなされていない。
故にマケドニアは戦力を結集して当たることは無いだろう。
本来飛兵である竜騎士や天馬騎士は戦場の便利役として活躍出来る存在。
しかし、自由自在に空を駆けられるからこそ、そこに信頼関係が築けていなければどうにもならぬ。
「足並みが揃う事はないな。」
勿論、敵である以上揃えさせるつもりなど毛頭無いが。
----
オレルアンより発したマルス達アリティア騎士団を中心としたアリティア軍は一路アカネイアを目指す。
アカネイア王国
大陸秩序の要にして、象徴。
教会などは民に対し
「ヒトの世を守る為にドルーアは討ち果たさねばならない。」
と宣っていたものだ。
勿論、秘された歴史を知るゲレタからすれば教会は潜在的敵でしかない。
アカネイア王国の再興はせねばならぬ。
だが、それはこれまでのやり方を是とするものでは決して無いし、そうしたいと言うのであればゲレタは全面的な協力をするつもりは無かった。
「池の底に汚泥がある。
その汚泥を処理せず、幾ら水を入れ替えた所で入れ替えた水も汚れるだけ。」
人は正直な生き物だ。
綺麗な
ゴミ一つない所にゴミを捨てるのは躊躇いながら
汚れた場所を更に汚すのは躊躇わぬもの。
それはゲレタとこの大陸に生きるヒトに共通するところなのだ。
オレルアンで辻説法していた教会の者や
オレルアン公やニーナ。果てはマルスにまで声高に吠える者達
その姿を忘れるつもりはない。
----
ニーナにとって、ゲレタとは不思議な人物だった。
オレルアンで反ドルーア勢力を結成した。
ニーナは急いで動いた方が良いのではないか?と思ったのだが
「機を見ねばなりませぬ。
此度の戦いは時間をかけねばどうにもなりません。
アカネイアを再興したとしても、大敵を倒さねば戦いはまた起きます。確実に
現状で語るならば、ドルーアに与したマケドニア、グルニアにグラも降さねばならぬのです。
そして彼等とてまさか他国に派遣した部隊が
「ですが、それでは」
「ニーナ様が何をお隠しになっておられるのか?
仰らないのであれば問いませぬ。
されど、人死が出ておるのです。退くに退けぬ状況となりつつあるのですよ、状況は。」
ゲレタは言った。
国や王族、指揮官は時に民や兵を死地に追いやる事がある。
だからこそ、逃れられない
逃げてはならぬ事があるのだと
それから逃げるのであれば、全てを捨てるべきであると。
「私はエリスの伴侶であり、アリティア解放に全力を尽くします。
その結果どれだけの者の人生を狂わせたとしても、です。」
それは
異邦の者でありながら、ゲレタの奮闘と献身を疑うものはいない。
ゲレタは図らずとも背負うものを得た。
恐らく今までの生の中で最も重いものを。
だからこそ、己の持つ全てを賭け、投じ守らねばならぬのだ。
言葉だけでも行動だけでも出来ぬ。
そのゲレタの壮絶な覚悟をニーナは確かに見て取った。
なおゲレタから
「ニーナ様も何かを育てては如何でしょうか?」
そう言われて戸惑うニーナの姿があったとか何とか