「儂は戦わずとも良いのかの?」
「ソレがあれば戦えはしましょう。
ですが、あなたは戦うよりも彼女を探す事にこそ労力を費やしたい。
…そうではありませんか?」
「そう、じゃのぅ。」
男バヌトゥはこの軍の指揮を任されている人物の言葉に頷く
「そもこれはこの大陸の明日をかけた戦い。
心あらずの方を加える訳にはいかないのです。」
ゲレタは複雑な心境のバヌトゥを後方支援部隊に回した。
負けるつもりも毛頭無いが、仮に負けたとしてもその光景を後世に遺すべきなのだ。
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「敵の数はこれまでの比ではない!
みな気を引き締めよ!」
ジェイガンが
「負傷者は戦線の維持を意識しつつ後方に下がれ!」
「支援部隊は傷薬の数を確認して!
足らないなら直ぐに補充を!」
ハーディンとアンナが声を上げる。
「グルニア軍、ソシアルナイトを先頭に南下しています!」
シーダの報告が響いた。
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「あれは、シーダだな。」
「恐らく姫様かと。」
「では頃合いだな。
各艦に連絡。射撃を開始せよ。」
「何事だ!」
砦から出撃した弓兵隊と重騎士隊は混乱の中にあった。
ワーレンへ進軍していたところ、突如攻撃に晒されたのだ。
「敵は何処だ!」
「敵の姿は見えません。」
「シューター?
しかしどれだけの射程があると言うのか。」
姿が見えないのであれば、シューターによる長距離射撃の可能性が高い。
だが、シューターは防衛戦にこそ力を発揮する。
「まさかワーレンにシューターがあったのか?」
そう考えるのが普通。
「グルニア軍の後続の進軍が止まっておりますな。」
「うむ。此方の備蓄が尽きるまで撃ち続けよ。
敵の分断が出来るだけで王子達の助けとなろう。」
タリス王は満足そうに頷き、
「敵の用意した戦場ならばこそ、警戒は緩い。か
実に良い考え方をするものよな。」
そう心底楽しそうに笑った。
「天馬が見えましたね。
そろそろでしょうか。」
「モドッタ。」
「只今戻りました、母上。
現在後続は恐らくタリス勢からの射撃で足止めを受けております。
被害も確実に出ている様ですので、射撃が終わればあの方の想定通りになるかと。」
「奇襲はタイミングこそ肝要です。
監視の者はつけていますね?」
「勿論です。
動きがあれば直ぐに戻ってくるかと。」
集団の長と思しき女性は表情を引き締め
「もうすぐお目にかかれます。
必ずや私達は貴方のお力に。」
そう呟くのだった。
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グルニア騎士達は負傷しても現地での治療法を持たぬ。
故に負傷者は砦まで後退せねばならず、間断ない戦力の投入により反乱軍側の戦線を崩壊させる事をカナリスは企図していた。
本来ならば回復役を用意する事で可能な限り前線に兵を置く事としたかったが、カナリスの職権ではどうにもならなかった。
その為に軍量を増やし、可能な限り物資も備蓄している。
故に先行するソシアルナイトとホースメン。
増援こそ届いていたが、いつまで経っても弓兵と重騎士隊が到着しない。
「どうなっている!?
アーマー隊とアーチャー隊はまだ到着しないのか!」
「撤退した部隊も戻りません。
これでは戦線を維持できませぬ!」
ソシアルナイト隊はアリティア・オレルアン騎士達に
ホースメンは手槍を持つドーガや弓兵であるゴードン。カシムへの対応で手一杯。
本来間接攻撃可能な弓兵はソシアルナイトやアーマーで叩くべきであり、ソシアルナイトは間接攻撃可能なホースメンやアーチャーである程度削るべきだった。
だが、予定が変わってしまい数で劣るはずの反乱軍と拮抗している始末。
予定通りに戦闘が出来るとは彼等も思っていなかったが、まさか反乱軍に裏をかかれるとは思ってもいなかったのだ。
ましてや数的優位を確信していたから、尚更
「そろそろ弾も尽きるか。」
「はっ、残り数発かと。」
タリス王は確認し、部下もそれを否定しない
タリス王国軍は此度の戦闘において、軍船に搭載した『移動式シューター』を試験的に運用していた。
本来固定砲台として機能するであろうシューター。
それを可動式とする事でタリスの守りを強化。
襲来するガルダ海賊に対して『配置を悟らせない』事が出来ていたのだ。
勿論、何処ぞの悪巧みが好きな者の発案であり、運用に際し
「恐れながらタリス王。
一度お力を借りたく存じます。」
と可動式シューターが実戦配備された際、願っていた。
受けた恩を返さぬ程にタリス王やタリスの者達は恩知らずではなく、オレルアンに着いてゲレタはタリスから来た職人達に王宛の書状を託し
今に至る。
「しかし、シーダをこう使うか。」
「王としても姫様の無事が確認出来てよろしかったのでは?」
水上戦力を持たぬグルニア軍では海上にいるタリス王国軍には手を出せず、仮に手を出そうとしても船に乗っているのは王国の水際防御を任されるタリスの弓使い達。
海上での戦闘は元より、船での移動に不慣れであろうグルニア軍に負ける理由はない。
唯一の懸念材料であったマケドニアの飛行兵部隊。
しかし、タリス王国の
「さて、マルス王子。
我等タリスが力になれるのは此処までとなろう。
シーダを頼むぞ。」
シューターの弾を打ち切ったタリス王国艦隊はタリスへと戻っていった。
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「兄上、あれは。」
「何も無策で敵の大軍とやり合うつもりはない。
タリス王に多少無茶を頼みはしたがな。」
洋上にタリス王国軍と思しき艦影あり。
その報告を受け、自身の目で確認したマルスは義兄の言葉に驚く。
「グルニアは此方を確実に仕留める為の軍勢を集めてきた。
…だがな?
オレルアンで時間をかけた俺が何もしなかった訳ではない。」
兄の淡々とした物言い。
そして上空のシーダからの合図を受け、マルスは決断した。
「戦線を押し上げる!」
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「謎の艦隊からの射撃、だとは。」
グルニア軍の指揮官カナリスは耳を疑う報告を受け、思わず自身の目で確かめた。
全くの予想外。
シューターと聞いた時、カナリスはワーレンがシューターを用意していたのだろうと思っていたが
「…まさか読まれていたのか。」
そうとしか思えない。
しかもご丁寧に射撃は重騎士隊と弓兵隊の進軍路とカナリスがいる孤島への橋が合流する地点。
恐らく
いや確実にソシアルナイト隊とホースメン隊と分断され、撃破されたのだろう。
「……敵を侮ったか。」
此方には大軍があり、相手はワーレンという死地にある。
覆し様のない盤面を作り出したつもりだったが、不意を突かれた形となり、此方の戦略は根底から覆った。
だが、相手も何時迄も射撃を続けられる筈がない。
弾が尽きれば、その時押し留められていた重騎士隊と弓兵隊が戦場になだれ込む。
であれば、勝機はある。
そうカナリスは思い直した。
「つまり、ニーナ様がアカネイアを再興された暁には。」
「そうです。
その時にはワーレンの自治都市としての立場を保証します。
勿論、多少納めて貰わねば困りますが。」
カナリスが苦心している頃、ワーレンの
彼女は今回の戦闘に参加しておらず、だが腐る事なく自分の出来る事を考えて此処に居る。
「……我等に何を求めますかな?」
「
売っておられないですが、あると聞きました。それを」
ニーナはアンナから噂話として聞いたのだ。
ワーレンには一般に売る事のない武器があるのだと
「…分かりました。
であれば、傭兵隊のシーザとラディに持たせてお力となりましょう。」
会合衆のまとめ役はニーナの願いを受け、備蓄していたアーマーキラーと温存していた傭兵隊を出す事に決めた。
ニーナからの話が魅力的な事もあった。
しかし、それと同じくらいにグルニアの大軍と渡り合えるマルス達
賭けるに値すると判断したのだから。
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タリスによるシューターからの援護射撃が終わり、漸く足止めされていた重騎士、弓兵隊が南下を始める。
既に全部隊が出撃出来る状況にあり、負傷した者以外は即座に反攻へと転じるべく動いた。
マルス達はワーレン前から戦線を押し上げ、山間部に布陣した。
本来もう少し進軍したかったのだが、ゲレタがそれを止めたのだ。
マルスは兄がどうやらまだ仕込んでいるのだな。
そう半ば確信し、その進言を受け入れる。
ジェイガンやオグマ、ハーディン達もタリス王国軍を動かしたゲレタなれば何か考えがあると少しの間だが、身体を休める事とした。
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「母上、どうやら動きがあった様です。」
監視役の者が戻り口を開く。
女性
エレミヤは力強く頷き
「みな聞きなさい。
私達は知っての通り一年以上、あの方に助けられてきました。
飢えに苦しむこと無く明日を生きてこれたのです。
今日、この時こそその恩に報いる時。」
皆真剣に頷く
「ローロー。貴方は兄弟達と共に前面を
クライネとカタリナは支援。私はローローと共に前線にて魔法を振るいます。
死んではなりませんよ。私達は会ってお礼をせねばならぬのですから。」
その集団は動き出し、グルニアの重騎士・弓兵隊と砦との間に割って入った。
唯でさえ予期せぬ遠距離射撃で疲弊していたグルニア軍。
漸く体勢を立て直したと思えば、敵の増援。
しかも砦と分断されたのだ。
その動揺は常の比ではなく、
「ゆくぞ!」
南からはアーマーキラーを装備した反乱軍が突撃をかけた。
南北から挟撃された形となったグルニア軍。
彼等に出来る事は抵抗しかなかったのである。
激戦は終わった。
グルニアの砦群は尽く陥落し、グルニア軍の指揮官カナリスは討ち取られ、備蓄していた物資はワーレンへ持ち込まれた。
戦いは終わったが、まだ戦士達にはやらねばならぬ事がある。
マルスは後方支援部隊や援軍として駆けつけたエレミヤ率いる者達にも声をかけ
戦場跡の死体処理を行なったのだ。
言うまでもなく、死体は放置し続ける事で腐る。
それは土壌汚染を引き起こす要因にもなるだろう。
そして、血の匂いと
所謂獣害を防ぐ一手だった。
勿論疲労の濃い者などは休ませていたが、これは基本的に全員参加させている。
…それはニーナであっても例外ではない。
「思い出しますな、あの時の事を」
「おや、ハーディン殿何か?」
死体処理をしながら、ハーディンはゲレタに話しかける。
「貴殿はあの時、エリス殿を守る事としながらも、いざとなれば戦う事を否定しなかった。」
「指揮する者にも色々おりましょう。
ハーディン殿の様に兵と共に戦う者。或いは公の様に後ろで支える者。
どちらが欠けても上手くはいきませぬ。どちらもせよ、とは申しませんしすべきでは無い。
ですが、理解はせねばなりますまい。」
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文治派と武断派の対立
それは豊臣政権下における福島正則、加藤清正と五奉行筆頭石田三成の様に時に組織をも破壊せしめるものとなりうる。
パレスを解放すれば間違いなくアカネイア再興の旗の下、アカネイア貴族や有力者などが集って来るだろう。
その際、ニーナが何も知らぬでは良いように操られるだけで終わるのは目に見えていた。
神輿は綺麗なまま
そして軽い方が担ぐ側にとって都合が良いのだから。
ニーナの意思の名の下に我欲を満たさんとする不届き者も出てこよう。
それを止めようとする者もいるだろう。
それを裁定するニーナ。彼女に明確な判断基準がなければ、『人を見て』判断するしかなくなる。
この場合の人を見るとは真偽を見抜く意味ではなく、ニーナにとって近しいか否かになろうが。
それでは佞臣の蔓延る組織となり、恐らくアカネイアは長く保たない。
だからこそ、ニーナにも現実を見てもらわねばならぬのだ。
窓から見える景色が世界の全て、などと思われては困る。
後に合流するであろうジョルジュやミディア。
彼等が本当の意味でニーナを支えられる。
ゲレタにはとてもではないが、そう思えないのだから。