ワーレン付近における激戦を勝利したマルス達。
疲弊した者達の回復や軍事物資の確保。
更にニーナがワーレンの会合衆と取り決めた『自治権に関する契約』
特に後者は疎かにしてはならぬ問題だ。
書面を用意し、信用出来る第三者の立ち会いのもとで締結せねばならぬもの。
仮にニーナがワーレンとの取り決めを遵守しようとしても、『喉元過ぎれば熱さを忘れる』ではないが
アカネイア再興が成り、集まってきた者の中にはこれに反対する者も出てくるだろう。
ニーナ側の事情はあるだろう。
しかし、ワーレン側がそれを考慮して押し黙るのであれば
それをアカネイア側が強要しようとするのなら
二度とワーレン側の信用は得られないだろう事は想像に難くない。
ワーレンは有力な交易港を持つ都市だ。
悪事千里を走る、とも言う。
悪い話程広まるのは早いもの。
しかもワーレンは商人の行き来する都市ともなれば尚更。
勿論、キチンと話をつけられたからとワーレン側もマルス達を急かす理由はない。
時に感情が恐ろしい事態を招くと
彼等は良く知っているのだから。
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「お初にお目にかかります。
私はエレミヤ。
改めましてこれまでの手厚い支援とあなた様の慈悲に感謝を」
「いや、俺も見返りを求めたのだ。
そう畏まる理由はない。
寧ろ、良く援軍にかけつけてくれた。」
ワーレン付近の戦後処理が一段落するとエレミヤは改めて恩人であるゲレタに頭を下げる。
ローローやクライネ、カタリナ達もまたエレミヤに倣う。
ゲレタとしては激戦が避けられないワーレン付近での戦闘。
ならばいっそそこでグルニアの機動戦力を可能な限り削ぐべきと考えた。
であるからこそ、タリスにシューターの概念を持ち込み可動式とし軍船に搭載出来る能力を持たせた。
更にベラウィの海賊などの襲撃に備え、タリスの防衛の要を弓兵とした。
何せガルダの海賊の根拠地を知らぬ以上、彼等を根絶するのは至難。
逆に海上の敵に対する練度向上の機会としたのだ。
勿論、此等についてタリス王や王の腹心達には話をつけている。
「お互いに利のある話。
ならば何故責める必要があろうか。」
王はゲレタの危惧する所を笑い飛ばした。
エレミヤとてゲレタからの援助が何らかの意図あっての事としても怒る事はない。
寧ろ善意からのものであり、見返りを求めない。などと言われた方が余程不気味に思うだろう。
エレミヤは元々教会に属する高位の司祭であった。
だが、困窮に喘ぐ者達を見ようともしない教会総本山のやり方に失望。
ローロー達孤児を何とか守り、育てようとした。
しかしながら、彼女が思う以上にそれは難しい事であり
次第に彼女の精神も追い詰められていく。
仮に彼女の子供達のうち誰か一人でも命を落としていればエレミヤは狂ったやも知れぬ。
そうならなかったのはゲレタが差し出した
それは彼女の子供達誰もが理解している。
だからこそ
「ゲレタ様。
私達は貴方に仕えたく思います。」
その道を選ぶのだ。
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教会の司祭であったエレミヤ。
故にある程度の戦略を立てる事は出来る。
既に彼女の子供達の中から数名、各地に送っていると言う。
ゲレタは自身の家臣一はカシムであると告げた上で、それでも構わないかエレミヤに問いかけた。
勿論、エレミヤや彼女の子供達にとって席次は関係ない。
ゲレタはエレミヤ達を受け入れる旨を告げ、マルスに報告した。
それに伴い、ゲレタ指揮下の後方支援部隊についてはジェイガンに指揮権を委譲する事となる。
「この歳になっても学ばねばなりませぬな。」
「何を言う、ジェイガン。
人生死ぬまで学ぶのだぞ?」
ジェイガンの言葉にゲレタは軽く笑いかけた。
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そんな中、マルスをとある人物が訪ねる。
マケドニアの騎士カチュア。
彼女は以前レフカンディにて主君ミネルバと共に戦場から離脱した一人。
なお、現状間違いなく敵であり、勿論軍の最高指揮官であるマルスに目通りなど叶うはずがない。
故にマルスの腹心であり、参謀役のゲレタと護衛のカシムが対応した。
「…つまり、マケドニアのミネルバ王女の妹君が囚われている。
それを我等に助けよ、と?」
「はい。」
「奇妙な事を仰られる。
確かに我等はグルニアと敵対しているし、この地でグルニアの大軍を打ち破りはした。
だが、それはマケドニアとて同じ事。…助ける理由がそれでもあると?」
「ミネルバ様は今のマケドニアが危ういと見ております。
マリア様を助けて頂ければ、ミネルバ様や私達は反ドルーアとして味方します。」
カチュアの言葉を聞いてゲレタはため息をつく
「マケドニアの騎士に帰属意識は無いのかね?
それはそれとして、そのマリア王女を助けるとなれば勿論ミネルバ王女や騎士カチュア。貴女方も味方していただけるのだろうな。」
「…それは。」
「我が主君、マルス様に伝える。
暫し待たれよ。」
カチュアを部屋に残し、ゲレタはカシムを伴い部屋を出る。
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「さて、どう見た。」
「本人は真剣なのでしょう。
ですが、説得するには弱いかと。」
特にオレルアン勢の説得が難航するのは目に見えていた。
オレルアンを攻めたのはやむを得ないとしよう。
だが、レフカンディでの戦線離脱は余りにも彼等にとって受け入れがたいものだった。
事情はあったのだろう。
しかし、その結果残された天馬騎士と竜騎士は逃げる事も退く事すら出来なかったのだ。
何せマケドニア王女率いる部隊が離脱したのだ。
他の者達が砦で治療を受ける為に後退したいと考えても、そう見る者がどれだけ居るだろうか。
やりたい事をしたくなるのは当然だ。
だが、その為には通さねばならぬものもある。
敵として戦い、降伏するのであれば受け入れようもあろう。
本人が如何に崇高な理念を抱えていたとしても、それを周囲が理解しなければ意味はない。
それが人というものではないか?
「やれやれ、マルスは受けそうだがハーディン殿やその配下の説得には骨が折れるだろうな。」
納得させずとも人を動かす事は確かに出来る。
マルスはこの軍の指揮官であり、それに従うのは当たり前のこと。
だが、だからこそ不満を溜め込まれては困るのだ。
一瞬の躊躇い。判断ミス
それだけで容易く人が死ぬのが戦場なのだから。
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最終的にマルスは騎士カチュアの願いを聞く事とした。
これに対してはハーディンも
「マルス王子。それがこの軍の指揮官としての判断ならば我々は従おう。」
と苦言を呈した。
何せ行軍ルートを変えると言うことは少なからず兵站に負担をかける事である。
その兵站の問題を解決する為にワーレンまで来たと言うのに、行軍予定のないディール要塞に立ち寄るのだ。
勿論、敵の拠点である以上交戦は避けられない。
更に要塞付近まで騎士カチュアは先導するが、マリア王女の解放に彼女はおろかミネルバ王女や他の二人も協力出来ぬと言うのだ。
オレルアン勢についてはゲレタが懇切丁寧に説得する事で何とか収める事となったが
何せ罠の可能性も捨てきれないのだ。
味方であるグルニア軍はともかく、マケドニアの天馬騎士や竜騎士さえも見捨てたミネルバ達。
ハーディンやその配下の騎士が彼女達を信用出来る筈もなかった。
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「守ると口では立派な事を言う割には何も出来ていませんね。」
行軍中、エレミヤは不快そうに口にした。
それはエレミヤのみならず、彼女の子供達やカシムも共通するところだ。
守ると言うのは言うほどに簡単ではない。
それをエレミヤ達やカシムや嫌という程に理解しているのだ。
まぁやりたいと言うのであれば、好きにすると良いだろう。
エレミヤにとって大切なのは命の恩人であるゲレタの力になること
別にマケドニアの騎士や姫がどうなろうとさして気にする話ではないのだから。
「それにしても、見事な足技ですねカシム。」
ゲレタに恩を受け、支えるのであれば畏まったものは不要。
故にカシムはエレミヤや彼女の子供達にどう呼ばれたとしても気にしない。
「機会があれば、安全靴を作って貰いましょう。
クライネは勿論、エレミヤ達も出来て損はないでしょうから。」
如何に理想を語ろうと、それを己の力で実現出来ぬこと
それがどれだけ辛いのか知っているから。
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「兄上、すみません。」
「謝るな。
弱音を吐きたくなる気持ちは理解出来る。
だが、味方であるハーディン殿や後方支援部隊のアンナの意見を退けてまでマケドニアのマリア王女を助けようとしているんだ。
手伝いはするし、支えもしよう。だが、この選択が間違いではなかった。
そう皆に思わせる様に努めろ。」
冷たい言い方になるが、こればかりは堪えて貰わねば困る。
確かに立ち位置として俺はマルスを支えるべきだろう。
だが、この軍は各組織の協力により成り立っているのもまた事実。
正直な話
自分達で解決出来ない問題をこっちに投げるな。
と思ってはいるが、それを表に出せば面倒な事になる。確実に
故にハーディン殿やオレルアン勢にアンナ達後方支援部隊の説得をせねばならなくなった訳だ。
特に後方支援部隊の指揮権をジェイガンに委譲したばかりだと言うのに、困ったものだ。
後方支援部隊にも自衛の手段は用意させている。
だがそれはあくまでも自衛、つまり時間稼ぎ程度のものでしかなくマケドニアの誇る竜騎士や天馬騎士相手となると難しいのが実情。
仮にミネルバ王女やパオラ達が意図しなくとも、マケドニアの哨戒網に引っかかり防備の薄い後方支援部隊が狙われる可能性はゼロではない。
幾らミネルバ王女が此方に降って弁明したとしても信用されないだろう。
組織とは人と人との繋がりが肝要。
今回の行軍でマルスに対する不信感が芽生えた。或いは強まった者もいるだろう。
ある意味一番やられたくない方法だ。
マルスの善性につけ入る様なやり口は。
確かに実利もある。
ミネルバ王女と言っているが、正確には王妹。
つまりミシェイル王の権威を落とす為に手を入れるのが一番効果的な立場ではあるのだ。
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予想通りと言うべきか、ディール要塞攻略戦においてミネルバ王女側からの支援は一切なかった。
強いて言えば、ミネルバ王女が頑なに此方との交戦を避けた事くらいか。
しかし、その結果マケドニアの竜騎士や天馬騎士が此方に倒されていると言うのにどういう心境だったのやら。
まだ兵を助ける為、妹を助ける為に降伏するのならば理解も得られやすかろうに
若過ぎたのか、或いは兵の感情を察せられる程に兵を率いた事がないのか?
どちらにせよ面倒なこと。
こちとら、無任所だったのに今となっては多くの人命を預かる身となって割とメンタル的には厳しいところがあると言うのに、
ある意味では羨ましく、だからとてそうなりたくはない。
逃れられぬ責務と言うものは確かに存在するのだから。
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原作において、ニーナはアカネイアを
ミネルバはマケドニアを
それぞれ捨てている。(一応体裁としてマルスに任せる形とはしたが)
元々彼女達はやりたくなかったのだろう。
原作ニーナは論外だが、原作ミネルバはどう考えてもトップに立つには難しい。
人心を掴めない訳では無いが、そこに冷徹さや非情さはない。
仮に原作の様にミネルバがトップに立つとなれば、その配下の三名
パオラ、カチュア、エストがミネルバを支えながら下の事も気にせねばならない。
そこまでやって、それでも受け入れられるかはギリギリ。
エストがアベルと恋仲になったとしても、二人で仲良くマケドニアで店を営めば良かった。
…まぁそれはマケドニア側の
アベルからすれば騎士団を退団したとしてもアリティアに対する忠義は残っていた(?)のだろう。
…恐らくは
だからこそアリティアに居る事で何時でも駆けつけられる様にしたかったのではなかろうか?
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まぁそんな確定していない
問題は唯でさえミネルバ王女に対する好感度がマイナス方面に振り切りつつあったオレルアン騎士団の面々とどう話をつけるか、か。
悪い予想と言うものは当たるらしく、此方も警戒していた為に被害は未然に防げはしたが後方支援部隊に対する竜騎士の攻撃が行われそうになった。
との報告も受けている。
「…理解出来ぬ者は集めて叩く、か。
忌々しくなる程に効果的だよ、こんちくしょうが。」
ディール要塞攻略戦を勝利し、囚われていたマケドニアのマリア王女を救出し
ミネルバ王女も投降した。
マルス達は問題を抱えながら、それでもアカネイア解放の為に兵を進める。
もう戻れる道はないのだから。
更新予定については活動報告にて