アカネイア大陸とユグドラル大陸
距離としてはかなり離れており、文化的な交流のない二つの大陸。
だが、二つの大陸には共通点がある事を知る者はあまり多くない。
神竜族の長ナーガ。
アカネイア大陸における竜族の限界を察し、大陸の次代の担い手たるヒトを守ろうとした偉大なるもの。
故にこそ、その名称そのものが神聖視されるものだ。
しかし、アカネイア大陸より離れた大陸において、その名を冠した魔道書がある。
それこそ古の悪しき帝国
ロプト帝国を倒す中心となった『十二聖戦士』のリーダーであった聖者ヘイムが使ったとされる『光の魔法ナーガ』だ。
それは神竜族のナーガが己の力を分け与えしもの。
それがどれだけ常軌を逸した事であり
また責任のあるものか、それをかの大陸の者達は知らない。
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十二聖戦士の直系。
その中で神器を使える者が現れる。
なる程、これ以上ない正統性を示すものと言えるだろう。
しかし、『力に対する責任』と言うものがあり、アカネイアに伝わる神器
即ち、パルティア・メリクル・グラディウス。には使いこなす為の高い実力が求められる。
此等三武器を神器と称する事もあり、ユグドラルにおける光魔法ナーガを始めとした十二聖戦士の持つそれぞれの武器。此等もまた神器と呼ばれる。
同じ神器でありながら、アカネイア大陸は使用者の力量を
ユグドラル大陸のそれは血により定められるものだった。
ユグドラル大陸における神器は正しく使用者に『神の如き力を与える』武器であり、仮にこの神器を戦いに持ち出したならば生半可な相手では一蹴される。
それくらいの破壊力を持つ。
しかも恐ろしい事にユグドラル大陸の主要都市には『神器の修復の出来る武器屋』があり、それこそ資金の尽きない限りは無双の如き活躍が出来てしまうのだ。
つまり神器継承者の有無は国家存亡に関わる重大な事項となる。
当然後継を定める際にもそれは充分加味される事となり、結果ユグドラル大陸には『血統』に対する執着が生まれた。
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どれだけ騎士として研鑽を積もうとも
直系となった継承者が家を継ぐ事に意欲的でなかろうと
その全ては些事に過ぎぬ。
血を絶やさぬこと
それがユグドラルにおける重要視される事なのだから。
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「…と私はそんな認識をしておりますが、如何に?」
「……ふむ、詳しい事は知らぬが
己の力を武器に与えたとなれば、あの者達の弱体化には説明がつこうな。」
オレルアンの村の外れでゲレタとフードの人物は会話をしていた。
字面だけを見れば穏当に思えるが
「それで?
貴様が我等にとって忌むべきアレの名を知っている。
それは我もメディウスも疑わぬ。
態々それを此方にも届く様に流したのは何故だ?」
「今の我々とあなた方
「…………ほう?」
少しは話の出来る相手らしい。
そう判断したのだろうか、フードの人物の纏う雰囲気が少しだけ和らぐ。
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「どうやら、お主はこの大陸とは異なる理の中で生きてきた様だ。」
この言葉に動揺せぬか
まぁ予想通りと言えばそうではある。
己の前に居る者は確かに敵対している者ではあろう。
…だが、敵と断じ殺すには余りにも異質だ。
「態々我等にしか意味の通じぬ言葉で我を呼び出した。
殺す気があったならば、こう言葉を交わす理由もない。
…異郷の者よ。
「守りたいものがあります。
されど、今のままでは何も変わりますまい。」
「守るものの為に剣を取り、我等を討ち倒す。
それで良いと思わぬか。」
「思いませんな。」
淡々と此方の問いに応する。
「此処オレルアンの教会などでも『人の世を守る戦い』などと我等と貴殿らの戦いを喧伝しております。
されど、この根底にあるものを解決せぬ限り堂々巡りとなりましょうよ。」
「嘗てアンリがメディウスを倒した時と同じ様に。」
「根底にあるもの、か。
面白い事を言うものよ。…であれば問わねばならぬな。
それは何だ?」
「憎悪と諦観、ではないかと。」
モーゼスの口元が愉快そうに歪んだ。
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ゲレタはタリスに滞在していた二年の間、考え続けた。
どうすれば、この戦いを終わらせられるのかと。
忘れがちではあるが、今でこそ人に対する最大の脅威となっているメディウス。
しかし旧き時代においてはナーガや神竜族と共に地竜族の長でありながら、人を滅ぼさんとする地竜族と戦う事を選び
結果人は守られた。
つまり、メディウスもナーガと同じく『この大陸は人の世となる』という点に賛同したのではなかろうか?
にも関わらず、今のメディウスやドルーア帝国を初めて建国した時のメディウスは人の世の象徴たるアカネイアを滅ぼしている。
今でこそ国家はアカネイアだけではないが、帝国建国当初国家として纏っていたのはアカネイアのみ。
つまりアカネイアを滅ぼす事は人の世を終わらせる事と同義と言えた筈だ。
理由は想像するまでもないが、となればやるべき事はたった一つ
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憎悪と諦観。
面白い事を言うものよ。
「話を聞こう。」
「ヒトに対する憎悪と諦観。
憎しみに狂いもしましょうし、人に対して期待する事を諦めもしましょうよ。」
「何故それを知っているのか、などと聞くのは今更よな。」
「更に忌々しくもあなた方を迫害し始めた。
この大陸の人とは竜族からあなた方へ変遷し、あなた方の中から力を手放した者であった筈なのに。」
「今の私は所詮亡国の王女の番でしかない。
然るべき時に、あなた方に伝わるやり方でお伝えします。」
その気概は買おう。
であればこそ、此方もそれなりのやり方で応じさせて貰うとしよう。
「理解の出来ぬものは纏めて我等は叩くとしよう。
…それでも尚、抗うというのであれば。」
恐らく面倒になろうと、それでも必死に足掻くのだろう。
嘗て我等が見た者達の様に
「それにしても、その覚悟は見事だった。
その懐のもの、振るう時が来る事を祈るとしよう。」
その言葉を残し、モーゼスは去っていった。
「やるしかねぇよな。
後世にまで禍根は残せん。」
確かに物語としては二度の戦乱を乗り越えた結果、大陸はマルスを中心とした新体制に移行した
という(ある意味では)綺麗な形で終われるのかも知れない。
が、大陸の民はその負担に耐えられない。
一度だ
一度だけで戦争は充分。
その為に準備をした。
用意もする。
汎ゆる手を講じよう。
ゲレタはオレルアンの地から南の空を睨みつけた。