「そうか、漸くニーナ様がお戻りになるのか。」
「らしいぜ。
まぁもう少しの我慢だろうさ。」
「情報、感謝する。」
パレス近くの町の寂れた酒場。
その一番奥の席にいた男は店を出た。
「…凄いもんだな、アカネイア騎士ってのは。
これだけ民が苦しんでいても気にもしねぇ。
挙句テメェは何一つ行動しないときた。」
痩せた少年はそう呟き、金を払い酒場を後にする。
酒場には何も言わぬ店主や客が残された。
「此処に居ましたか、ジュルメ。」
「あ?ケネスか。どうした?」
酒場を出た少年は別の少年から声をかけられる。
「
闇夜に乗じ、予定通り動けと。」
「漸くか。」
それだけ言葉を交わすと二人は町を後にした。
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「…つまり、私やシーダ殿は敵との交戦をする必要はない。
そう仰られるのか?」
「敵の居場所を確認し、それを地上の味方に伝える。
充分貢献出来ると思うが?」
ミネルバはゲレタの言葉に言い返せない。
「勘違いして貰っては困る。
我等は未だ敵方に比べ数に劣るのだ。これまで此方が敵方に対して上手く立ち回れているのは我々が確たる拠点を持たぬからに他ならない。
だが、アカネイア解放は避けて通れぬ道。
当然敵もそれ相応の備えをしていると考えるのは当然だろう。」
「であればこそ、敵がアーチャー部隊を用意している可能性を何故排除されるのか?」
「その辺は別途対策している。
態々味方を傷付ける理由はない。」
「…しかし。」
「
納得しないミネルバに対して、もうこれ以上の問答は悪影響になる。
シーダはそう判断し、敢えてゲレタをそう呼び確認した。
「策を全て披露したとして、納得するかどうかは別問題。
そして、そこまで悠長に出来る程に俺には時間がない。
シーダ、任せるぞ。勿論危険と判断すれば離脱しても構わんよ。」
「はい。」
ゲレタはそう伝えるとその場を離れた。
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「シーダ殿、本当にあの人物は」
ミネルバはゲレタが苦手だった。
それは同じマケドニアのマチスも同じであり、寧ろその様な人物を重用している事に不安すら覚えている。
確かにマルス王子の姉であるエリス王女の伴侶と聞くが、前線における働きが見える訳でも
さりとてマリアやマチスの妹レナの様に後方での回復役をしている訳でもない。
にも関わらず、この軍の中で信頼されている様に見えた。
勿論、新参である自分に見えるものはたかが知れているだろうが彼女の不安を解決するものはなかった。
とは言え、元々ミネルバのこれまでの行状を良く思っていない者は彼女が思うよりも多く
マルスとしては事情を打ち明けて貰えばもう少し話せる。そう考えていたが、流石に軍の最高指揮官が降将(扱い上はそうなっている)にこれ以上気を遣えば軍の規律が正せぬところもある。
これに関してはハーディンは中立を貫き、ジェイガンは身動きが取れない。
現在のマルス達は多国籍軍の様相を呈しており、それを強固に結びつけるのは軍律ではなく信用。
故にそれが揺らぎかけている現状では如何な老練なジェイガンとて適切な対応が出来ているとは言えない。
マチスやミネルバがゲレタに不信を抱く理由
それは
「マリアにも戦えというつもりなのか?」
そういう事であった。
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夜間行軍は危険を伴う。
特に土地勘の無い者が迂闊に動こうものならば
しかもマルス達は数々の戦いに勝利はしたものの、数においては未だ劣勢。
常道ならば、夜が明けての進軍になる。
パレスを防衛するグルニア軍はそう判断し、最低限の者を残し来たるべき激戦に備え休息を取る。
「まぁ山中で生きてきた俺達にとって、これくらい何とも無い訳だがな。」
それを好機と捉える者がいるのだが。
「全部重要な部分は壊しておいた。
これで奴等は役に立たないものを飾っておくだけだ。」
「流石ですな、ジュルメ。
では我等は次の務めがありますから。」
「随分面白い事を考える事だ。」
二つの影は北へと姿を消した。
「何もしねぇ騎士サマと
遠くから俺達を助け、戦いの為の準備をする
どっちがマシか何て考えるまでもねぇな。」
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「シューターが」
ミネルバは目を疑った。
何せ眼下のパレス前にあるシューターは明らかにその機能を失っている。
パレス前のシューターのみならず、近くにあるシューター二基。
その全てがその役割を果たせない状況に陥っている。
少なくともミネルバにはそうとしか見えない。
何せシューターの近くに敵兵が集まっている。
本来上空警戒せねばならない筈の弓兵ですら
「お前さんの息子達は良くやってくれたな、助かるぞエレミヤ。」
「ありがたいお言葉です。
何れ直接褒めて頂けると。」
「勿論だ。」
上空からの合図にゲレタとエレミヤは言葉を交わす。
「マルス、少し陣を離れる。
ジェイガン、ハーディン殿お任せして良いだろうか?」
「それは、構いませんが。」
兄がどうやら仕込みをしていると半ば確信したマルスは頷く。
「敵は遠距離攻撃手段を失い混乱している。
その混乱が収まる前に、追撃をかけるのさ。
カシム。」
「はっ」
「エレミヤ、クライネを借りるぞ。
此方の事はマルスと上手くやってくれ。」
「分かりました。お任せを」
ゲレタはカシムとクライネを連れ陣を離れた。
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「やぁ、
「合わねぇな、俺にはよ。
ゲレタの旦那が来たって事は、やるんだな?」
ゲレタは寂れた酒場に入るなり、その主に親しげに声をかけ
主もまたゲレタの言葉に肩をすくめる。
「準備は?」
「後は組み上げるだけだ。
人手は此処にいる者達。」
「アカネイアからの
最後に意趣返ししてから、堂々とタリスへ向かおうか。」
ゲレタの言葉に皆首を傾げた。
「傭兵とは言え、オグマ殿やナバール殿には遠く及ばないな。」
数人いた敵方の傭兵をあっさり片付けたカシムは事もなげに言い捨てる。
町の者達が戦々恐々とカシムを見ていたが、カシムにとってさしたる関心はない。
「…凄い。」
クライネはその妙技…いや最早絶技とも思えるカシムの技に目を奪われる。
そんな二人の近くを木材を抱えた男達が通り去り、
「カシム、クライネ。
行くぞ。」
ゲレタもその後を追いかける。
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「懐かしいですね、これは。
親方もお久しぶりです。」
「おお、カシムさんか。
もう少し待ってな。」
酒場の主人…いや、タリスの木工職人はそう言いながらも手早くそれを組み上げる。
「しかし番号を書いておく事で組み上げが此処まで楽になるのか。」
「私の生国の過去に倣いました。」
かの天下人豊臣秀吉。
彼の立身出世のエピソードのひとつ『
それに着想を受けた奇策
「さぁ出来たぜ。
知っての通り、耐久性は然程ねぇが使用には問題ねえ。」
タリス式シューターによる戦場の撹乱だった。
「カシム、まさか使えないとは言わさねぇぞ?」
「まさか。お任せを」
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「何事だ!」
グルニア軍の部隊指揮官は突如起きた轟音と衝撃に状況を確認するべく声を張り上げた。
「て、敵からの攻撃かと。」
「馬鹿な、奴等は今日この地に辿り着いたのだぞ。
シューターなど用意出来る筈が」
彼の混乱を他所にシューターによる攻撃は続く。
しかも忌々しい事に規則的な攻撃ではなく、明らかにタイミングをずらしてのもの。
その上兵の密集している場所ばかり狙ってくる。
「…上空の竜騎士と天馬騎士か。」
アレが如何なる手段かは理解出来ないものの、此方の場所を伝えているのだ。
だが最早戦場全体に混乱は蔓延。
統制を完全に取り戻すのは難しかった。
マケドニアの天馬騎士を遠ざけた結果、対抗策はない。
「…おのれ。」
こうなるとシューター全基が使えないのは敵の仕業であるのは間違いなく、しかしどうやったのかは不明。
「皆、攻めるぞ!」
マルスの号令により、マルス達は混乱するグルニア軍へ攻撃を開始する。
実のところ急造品であるタリス式シューター。
耐久性も問題だったが、弾数にも問題を抱えていた。
だが、それで良いのだ。
相手は何れ悟るだろう。
上空の竜騎士と天馬騎士は何らかの役割を果たしていると
そしてこうも思うだろう。
上空に居る以上、また攻撃があると。
何せ相手は此方を視認出来ないのだ。
さて、その上で彼等は
此方の攻撃が終わった事を
恐怖と焦りは判断を狂わせ
集団は時にその混乱を助長する。
戦場を疑心という霧で覆い、恐怖で相手の連係を崩す
グルニアよ
これが異邦の者の戦い方だ。
シーダには此方のシューターが片付いても敵の上空を抑える様に命じている。ミネルバ王女にもそれを伝えた。
これで仕込みは終わり。
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「じゃあ片付けて俺達はタリスへ渡れば良いんだな?」
「一応オレルアンまでのグルニア軍は粗方片付けたとは思いますが、くれぐれもお気をつけて。」
シューターの解体作業を見守る親方とゲレタ。
「では、
私はマルス達の所へ行きますので。」
「またな、あんちゃん。」
ゲレタを見送った親方は事前の打ち合わせ通り、その木材全てを鍛冶職人の所に持ち込み
その後人を引き連れて町を後にした。
鍛冶職人は燃料としてその木材を瞬く間に消費する。
これで証拠隠滅も完了。
パレス城門を守るは竜人族のショーゼン。
本来シューターが配置されていたが、役立たずとなった為にショーゼンがブレスで灰にし、その代わり果たしていた。
とは言え、竜人族との戦いは初めてであり、比較的攻撃力に秀でるオグマやハーディンが挑みかかるも負傷。
結果膠着状態となっていた。
が
「さて、お邪魔するとしようか。」
ゲレタはショーゼンの首元に禍々しい雰囲気を纏う斧を振り下ろし、その頸を刎ねた。
「…考えたくはなかったが、予想通り。か」
かくてパレス付近のグルニア軍は一掃された。