「予想通りと言うべきか、役にも立たんな。」
「『大陸一の弓使い』と聞いていたので期待出来ると思ったのですが。」
「それはないでしょう。カシム
今のアカネイアで真に実力があると言えるのは今は亡きミロア最高司祭や『勇者』アストリアくらいのもの。
とは言え、ミロア殿は亡くなっていますしアストリア殿はドルーアに走ったと聞きますが。」
パレス内を占拠していたグルニアのボーゼン司祭率いるグルニア軍をマルス達は撃破。
此処にアカネイアの再興は成ったと言えよう。
尤も、アカネイア関係者で明確に功績を挙げた者は皆無であったが。
パレス付近の攻防戦の最中、アカネイア騎士ジョルジュが兵を率いてマルス達に合流したが
はっきり言って役立たずだった。
何せカシムの様に近接格闘が出来る訳でも
回避力がゲレタの様に高い訳でもない。
つまり、味方の後ろから弓を射るしかないのだが、タリス式シューターの射撃により混乱を極めていたグルニア軍。
その相手に時間をかける理由はなく、
「…随分と高価な置物だことで」
その癖態度だけは尊大。
パレス解放戦においても、行軍速度に合わせられず
先陣を切れる筈もないので武功を挙げられる訳もない。
アカネイアの聖騎士ミディアをはじめ、重騎士トムス、ミシェラン。弓兵トーマスに司祭ボアを解放したが、当然武器など持っている筈もなく
トムス、ミシェランは重騎士故に進軍に追いつけず、トーマスは疲労の為戦力とならず、聖騎士ミディアはそこまでの実力を持っていなかった。
仮にも元教会総本山の司祭であったエレミヤ。
だからこそ、アカネイアに対する幻想など抱きようもなく、アカネイアが滅んで二年も経つと言うのに何も変わらぬ姿に失望を深めた。
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「今のアカネイアに騎士はいないのでしょうね。」
ニーナの言葉にハーディンは言葉を選びながら
「いる、とは言えませんな。
であればこそ、育てねばなりません。」
パレスを解放したマルス達。
パレス解放の報せを受けた王国関係者や貴族等が次々とパレスに参集している。
が、ニーナに世界の広さを教えた者は側に居らず
頼る事も難しい。
とは言え、どうしようもなければ助けてくれるだろう。
そう思う程度には信用しているが
「地を清めるのも必要ですものね。」
ニーナの言葉にハーディンは神妙に頷いた。
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「何故この様な事に兵を使うのだ?」
ジョルジュは不満そうに問いかける。
「…さて、目立った武功を挙げておられぬ貴殿等に配慮して功績を挙げる場を用意したつもりですが?」
「これが武功になる筈もないでしょう!」
ゲレタの物言いにミディアも反論するが
「ではなにかね?
この無数の死体を放置したままで良いと?」
腐臭漂う地がアカネイアの象徴。
まぁそれも良いと思わなくもないが、一応アカネイアの面子もある程度立てねばならないのも事実。
「先の戦いで目覚ましい活躍を見せたならば、多少配慮もしようが
失礼を承知の上で言わせてもらおう。
半端な覚悟と力で何が守れるか?
それとも、その程度なのか。貴殿等にとっての
そもそも他国人であるゲレタがこの様な事を主導せねばならないこと
それ自体を恥じねばならぬ筈
何人ものアカネイアの有力者らしき者達が此処を通った。
だが、その中で此方を手伝おうとする者は誰一人とていない。
寧ろ此方を蔑む様な視線を送る者ばかり
…まぁこれをワーレンではニーナ様もしていたし、これについてはニーナ様からの頼みを聞いただけなのだけどな。
それを態々伝える理由はない。
これに真面目に取り組んだか否か。
それで彼女からの印象が変わるのだが、さてどうなるやら
ゲレタは心底面倒そうになりながらも、務めは果たすべきと死体処理を続ける。
因みに手数が足りない為、近くの村落や町に声をかけ、人を募っている。
彼等は死体を手際良く片付けながら、グルニア騎士達の武器や鎧を剥ぎ取っていた。
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「戻ったぞ!」
グルニア騎士達の死体の片付けを終わらせた者達は
碌に働きもしなかった騎士共なんて、彼等にとってはどうでも良い事だ。
「で、これを鋳潰して農具等を使う様にだってさ。」
「それはありがてぇ事だな。
どうやら騎士共と違い、少しは俺達の事が分かる者らしい。」
武器が必要となるのは大きな町くらいのもの。
農村などに必要なのは、武器よりも農具。あってもせいぜい弓や斧くらい。
町においては
「鋳潰して武器を作れ、か。
となると薪が必要となる。人手を頼んで薪を用意しないとならんか。」
ただ
その資源を上手く活用し、経済を回す一助とせねばならぬ。
アカネイアという国家は再び息を吹き返した。
だが息を吹き返しただけで、未だ重傷人なのも事実。
アカネイア騎士や貴族達はアカネイアがこれで元通りになると思っている。
或いはドルーアとそれに与する者達を打倒すれば元に戻ると思っているのだろうか。
戻る訳がない。
壊れた物は直ったとしても、喪ったものを取り戻すのは難しい。
喪った命は戻る事なく
失った信用を取り戻すには余りにもアカネイア騎士や有力者は利己的に過ぎた。
いつか来たるべき時に備えて
そう言って耐えられるのは、耐えられる体力のある者達だけ。
荒れ果てた畑が
賊により滅ぼされた村が
たった一年程度で元に戻るとでも?
「さて、これでニーナの側近として相応しい者が居ないのが証明された訳だが
どうしたものかね。」
ニーナは民の生活がどれだけ不安定なものであるかを知った。
それを守る為にこそ、国や騎士はあるべきではないか、とも。
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「思った通り、シューターの影も形もないわね。」
パレスに最も近い町でアンナは聞き込みを行なっていた。
彼女はアリティア軍の後方支援部隊のまとめ役を任されている。
それ自体は光栄な事であり、面倒事も多いが得るものは多い。
一応ワーレンで大規模な補給を終わらせているが、ディール要塞攻略という予定外の行軍が入った事で些か物資に不安が出てきた。
「…元々此処で補給出来ない想定だったからこそ、ワーレンに立ち寄ったのだけどね。」
物資の少ないところで補給したとなれば、周囲から厳しい目で見られるのは避けられない。
それが正当な取り引きであったとしても貧困とは時に理性的な判断を失わせるものなのだ。
だからこそ可能な限り物資の購入については小口の取り引きとし、配慮せねばならない。
「せっかく平和になったとしても、行軍中のあれこれをとやかく言われては困る。
可能な限り瑕疵の無いように努めるべきだ。」
それは彼女も同意するところであり、此処には一応相場や備蓄の調査に来ている。
それ以外にも調べる事はあったが。
敵の陣を崩したシューター。
その出どころの調査。
これは支援部隊に属している行商人達が気にしている事であるが、知っているであろうゲレタに聞くのは難しい。
何せ後方支援部隊の指揮官はジェイガンであり、ゲレタは軍師としての立場となっている。
支援部隊のまとめ役であるアンナとて話の出来る相手ではなくなっていたのだ。
「はぁ、アカネイアの商人達がこっちに手を出してくるのは間違いないし、面倒ね。」
とは言え、後方支援部隊に入れるか否かの決定権はアンナにある訳ではなく、指揮官たるジェイガン。
そして腹の底の読めない
「安全靴についての生産は働き次第。
シューターとなると、どうすれば良いのかしらね。」
頼りになるのは間違いない。
しかし一方で油断ならない相手なのも事実。
だが、都合を一方的に押し付ける者達に比べれば付き合いやすい人物なのも確か。
だからこそ
「…心配ね。」
時に強引なやり方を厭わないアカネイアの商人。
勿論側近で護衛を兼ねるカシムやエレミヤの実力を疑う訳では無いが
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楽な仕事だと思った。
確かに『竜殺し』を成し得たという
おおかたアリティア王女の伴侶として箔をつける為に流した噂に過ぎないのだろう。
「ま、目立ったのがアンタの不運だった訳だ。
恨むなら、立場を弁えなかった自分の振る舞いを恨むんだな。」
パレス近くの村を訪れていたゲレタとカシム。
とあるアカネイア貴族からの依頼を受け、村の視察をゲレタは引き受けカシムはその護衛を務めている。
本来アカネイアの事に関わるべきでは無いのだが、想像以上にアカネイア王国という組織が壊れている為に已む無くこうなった。
ドルーアとの戦闘において、アカネイアの主力や王国に忠誠を誓う忠臣達はあの世に旅立っている。
言い方は宜しく無いが、今残っている者達は言うなれば『アカネイアの残滓』
その能力や忠誠などには疑問符をつけてはならぬ者が非常に多い。
…いや、正確に言えば『能力はないが忠誠心はある』者と『忠誠心は期待出来ないが能力はある』者が多数を占める。
故にマルス達もパレスを解放して動けなくなったのだ。
後方が安定しているからこそ、これまでマルス達は順調に戦ってこれた。
ニーナは様々な事を教えてくれたゲレタにアカネイア騎士を任せ、死体処理を任せた。
ところが
「満足な働きとは言えなかった。」
本来ゲレタはアカネイアにとって部外者。
にも関わらず、ミディアやジョルジュ。ジョルジュの部下達はやる気を出す事はなかった。
これで二人を信用し、重用するのは難しい。
ボアは色々心配しているのか口を出してくるが、ニーナからすればもう少し考えて欲しいと思ってしまう。
トムス、ミシェラン、トーマスは己の無力さを恥じ
それぞれ鍛錬に打ち込んでいる。
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アカネイア商人や商人の願いを聞き届けたアカネイア貴族からすれば、これは警告だ。
アカネイアで大きな顔をするなという。
本来誰も成し得なかったアカネイア再興を果たしたマルス達に対して恩を感じ、協力するならばともかく
全力で足を引っ張るなど恩知らずにも程がある行為。
だが、それがアカネイアにおける普通なのだ。
彼等は目の前に広がる薔薇色の未来に目を奪われており、彼等自身がどう見られているのか?
そこについて失念していたのだ。
アカネイアが滅んでから二年経っている。
にも関わらず、再興の為の動きは無いに等しい。
ニーナが
その時点で期待値が察せられよう。
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「もう少し弁えとけば長生き出来ただろうに。」
「アカネイア式の弁えろは『自分達に盲従しろ』と同じだろう?
生憎そこまで余裕がある訳でも、暇でもないんでな。」
「…そうかい。
それがアンタの最期の言葉だ。」
ナイフを持ち、ゲレタに襲いかかる襲撃者。
仮にナバール辺りが居たのならば
「…死にたがりか。」
と呆れる事だろう。
勿論
「が、は」
タリス特製の安全靴(ゲレタ専用)により、腹を蹴り飛ばされ
倒れた所を急所への蹴りで意識を刈り取られるだけだったが。
「カシム、エレミヤと共に徹底的に吐かせろ。」
「はっ」
基本的に穏やかなやり方を良しとするゲレタ。
だが、それは別にゲレタが穏健な人物という事を意味しない。
嘗てゲレタはエリスと共にタリスへ向かう為、オレルアンの隊商をあっさり生け贄とした事がある。
ゲレタにとって己の内面すらも目的を達成する為に利用する手段の一つに過ぎない。
「手段を選べる程に此方には余裕はない。
ある程度までは許容するが、過ぎた事を目論むならば容赦はせんよ。」
ゲレタは可能な限り己を出さない。
常に相手を映す鏡たろうとする。
その偏狭とも言える人柄故にモロドフはゲレタを信用し、己の役目を託したのだ。
敵意には敵意
戸惑いや迷いには導き
前に進もうとする者は助け
闇の中に何も見えぬ
…いや、唯一見えるものがある。
自分自身
ゲレタを通し、己を見る。
故にゲレタは後世こう呼ばれるのだ
『暗黒宰相』
と
次回更新は未定となります。
来週の経過如何で更新が遅くなる事もありますが、御了承下さい。
感想返しについても来週以降適時行いたいと思います。