アリティアのエリス?
⋯マジかよ。
え、それじゃ何か?騎士もどきや赤い猪、魔王にも怯えにゃならんのか。
それは勘弁したい。
⋯でもなぁ、助けた手前見殺しにするのも目覚めが悪い。
かと言って彼女をドルーアとかに引き渡すのも気が引ける。
いや、別にアカネイアが好きと言う事はまっっっったく無い。
寧ろ仮に神様転生とやらでチートで『何処かひとつの国を滅ぼせる』と言われたら筆頭候補だ。
因みに次点はグルニア。
「私は貴方に助けられました。
どうなっても、どうされても文句は言いません。」
いやいや、流石にんな事言われてドルーアとかグラに引き渡せる訳ないやんか。
しかも身体震えてるやん。
「流石にドルーアとかグラに引き渡すのはナイナイ。
んな事するならそもそも助けないって。」
「⋯⋯良いのですか?
私はドルーアから追われるでしょう。そうすれば一緒にいる貴方も」
「⋯ゲレタだ。
まぁ仮にそうなったら
一緒に死ぬさ」
「⋯そう、ですか。
でしたらよろしくお願いします、ゲレタさん。」
「王族にさんをつけられる程の者ではないんだけどなぁ。
こちらこそよろしくお願いしますよエリス様。」
「様は止めて欲しいのですが。」
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それから紆余曲折あり、何とか草原の国オレルアンに辿り着いた。
エリスの名前を出してもオレルアン公に会えないと思ったが、そうでもないらしい。
⋯此方としては好都合だが
「アリティアのエリス王女か。
生きておられたのだな。」
「⋯はい、アリティアから母リーザにより逃がされ
危うい所をこの者。ゲレタに救われこうして公の所へ。」
「うむ。ゲレタとやら見事である。
その働き騎士のそれに劣る事はあるまい。」
「ありがたき御言葉。」
公の言葉に短く応えるゲレタ。
本来声を発する事自体非礼にあたる行為でもあるが、流石にこれを無言で通すのはゲレタの価値観的に受け入れられなかったのである。
「して、これからどうされる?
此処で留まられるのもひとつではあろうが。」
「公のご厚意に感謝します。
ですが、弟マルスがタリスに逃されている筈。タリスへ行こうかと」
「もしやサムスーフを越えられるおつもりか?
それは流石に危険では。
ハーディン、兵を出せぬものか。」
「いえ、このゲレタに腹案があるとの事で
暫くオレルアンでの滞在をお願い出来ればと。」
「相分かった。
だが力が必要なれば声をかけて欲しい。」
公は無理強いする事なく、エリスの意思を尊重した。
勿論、必要とされれば手を貸す事を確約したが。
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「ゲレタ殿と言われたか。
本当に我等の助力は必要ないのだろうか?」
オレルアン公の弟であり、オレルアン騎士団を纏めるハーディンはゲレタにそう問いを向ける。
疑いたくはないが、或いはサムスーフに巣食う山賊集団の脅威度を甘く見ているのではないか?
そう思っての事
「ハーディン殿のご厚意に感謝します。
なれど、アカネイアを滅ぼしたドルーア。それに従うマケドニアやグルニアの動きも定かでない以上、兵を迂闊に動かすのは反発もありましょう。
一応策はありますし、エリス様にもご納得頂いております。
勿論、何れお力を借りる事にもなるやも知れませぬが。」
「うむ、その時は必ずや。」
ハーディンは守るべき存在であるエリスと従者たるゲレタ。
この二人の間に確かな信頼関係を見て取り、ならばと引き下がる事とした。
オレルアン城近くの宿を取ったエリスとゲレタ。
「さて、これで仕込みの大半は終わりとなります。
エリス様。足の具合はいかがでしょうか?」
何せこれから山越えをしなければならない。
しかも悪名高いサムシアンの巣食うサムスーフを、だ。
勝算はあるが、それとて絶対ではない。
いざとなれば二人で逃げる事もあり得るだろう。
故にエリスの体調は万全なものとしなければならない。
「大丈夫。貴方がいますから。」
微笑むエリスの言葉にゲレタは
「⋯参ったなぁ。」
と照れるのだった。
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「ほう、なる程。
それで私の隊商と共に、ですかな?」
「ええ、お代は払いますので宜しければ。」
「⋯⋯ふむ。」
隊商を率いる男はゲレタとその護衛しているであろう少女に目を向ける。
「分かりました。
本来ならお断りするところですが、困っておられるのであれば私なりに力となりましょう。」
そしてにこやかに笑った。
男はオレルアンに最近露店を構えだした人物だ。
彼が取り扱うのはサムスーフを越えた港町ガルダの品々。
オレルアン〜ガルダの輸送経路は陸路にならざるを得ず、その障害となっているのがサムスーフ山とそこに巣食うサムシアンと呼ばれる山賊集団。
男はその困難を乗り越えてガルダとの交易路を確保した。
⋯⋯少なくとも周囲からはそう見られていたし、男もそう見せていた。
真実は異なり、男はサムシアンと取り引きをしている。
サムスーフに入る
その対価として
丁度今回は隊商と見せかけ、サムシアンに物資を奪わせるもの
⋯であれば、護衛されている娘がいなくなろうと誰も気にしないだろう。
不幸な犠牲が出ただけなのだから。
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隊商は翌日予定通りサムスーフに入る。
予定通りならば、明日の夕刻に襲撃される予定だ。
全て上手くいっていれば周りも怪しく思うだろうが、こうやって失敗を演出しておけばまさか組んでいるとは思うまい。
明らかに良い奴隷となるであろうエリスをちらりと見つつ
もう少ししたら、アカネイアにでも行くか。
この娘なら高く売れるだろうし、アカネイアでは奴隷売買もあるからな。
そう思いを巡らせていた。
それは最早男にとって確定された未来。
そう思っていた。
「でもゲレタ。良かったのかしら
オレルアン公のご厚意を受けなくて」
「ハーディン殿からも言われておりましたな。
しかし、問題ありますまい。」
その会話を聞くまでは
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待て
今、この二人は何と言った?
オレルアン公?ハーディン殿?
それは公の弟のハーディン様の事か?
ありえない
そんな事があり得る筈がない。
彼の感情はそれを即座に否定した。
だが、彼の理性はそうではない。
明らかに高貴な身分を思わせる言動。旅慣れているとは思える態度。
従者を従えている事実。
その全てが二人の会話に一定以上の真実味があると告げている。
唯のホラ話であれば良いだろう
だが、
だが仮に事実だとすればどうなるだろうか?
この隊商に二人が加わっている事を誰も見ていない事はない。
寧ろ今回失敗させるからこそ、敢えて衆目を集めたところすらある。
白を切るのは難しくない。
だが、それで信用を失い風評を下げられたとあっては困る。
まだオレルアンでもう少し稼がねばならないのだから
確認したいところだが、それでは怪しまれよう。
故に男はサムシアンに使者を送った。
今回の襲撃は見合わせて欲しい、と。
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「やっぱりやましい所があったな。」
ゲレタは隊商からひとり慌てて外れた人物を確認すると内心でホッとした。
話を聞く限りでは、この隊商のリーダーはあまり周囲からよく思われていないらしかった。
不思議な事にこの隊商以外でガルダと定期的に行き来する者はおらず、それがあるからこそこの隊商は許されている部分があるとも。
「まぁそうするだろうとは思ったが、対価はアンタが思う以上に高くつくぞ。」
奪う事になれている。
暴力に酔っている者は己の思う通りにいかない事を許さない。
「往路は何とかなるだろうな。
が、果たして」
それは自分の関知するところではない。
ゲレタは涼しい顔をして、エリスの側に戻った。
「助かりました。
これは御礼です。」
「これはこれは。
旅のご無事を祈っておりますよ。」
ガルダの港で二人は隊商と別れた。
二人は船を出して貰うように頼み込んでいるらしいが
「⋯⋯ちっ。」
男からすればどうでも良い事だった。
「なっ、お前達何を」
「テメェが約束を破った。
だから俺等も決まりに従う理由はねぇよ。」
男と隊商は二度とオレルアンに戻る事はなかったが
エリスとゲレタには何の関係の無い話だ。